民泊にカメラを付けるかどうかを考えるとき、2つの別々の話が混ざりがちです。1つは宿泊者名簿のために本人確認をするカメラ、もう1つは防犯目的で設置するカメラです。根拠になる法律も、求められることも違います。
本人確認のカメラには、満たすべき条件が具体的に決まっています。防犯カメラのほうは、法令で義務づけられてはいませんが、設置するなら個人情報保護法の枠組みに入ります。
この記事では、この2つを分けて整理します。設備全般の考え方は民泊に必要な設備にまとめています。
本人確認のカメラには条件がある
住宅宿泊事業者は、宿泊者名簿の正確な記載を確保するための措置として、宿泊行為の開始までに、宿泊者それぞれについて本人確認を行う必要があります。
その方法について観光庁は、対面または対面と同等の手段として、次のいずれも満たすICT(情報通信技術)を活用した方法等により行われる必要があるとしています。
A:宿泊者の顔および旅券が画像により鮮明に確認できること。 B:当該画像が住宅宿泊事業者や住宅宿泊管理業者の営業所等、届出住宅内または届出住宅の近傍から発信されていることが確認できること。
方法の例としては、届出住宅等に備え付けたテレビ電話やタブレット端末等による方法が考えられる、と示されています。
Bの条件が効いてきます。宿泊者が自分のスマートフォンから任意の場所で送ってくる画像では、この条件を満たしません。発信元が届出住宅内か、その近傍か、事業者の営業所等であることが確認できる必要があります。非対面で運営するつもりなら、この要件を満たす機器を届出住宅に置くことになります。
本人確認でやること
カメラを用意しただけでは終わりません。観光庁は、住宅宿泊事業者等が次の内容に従って本人確認を行う必要があるとしています。
宿泊者に対し、宿泊者名簿への正確な記載を働きかけること。日本国内に住所を有しない外国人宿泊者に関しては、宿泊者名簿の国籍および旅券番号欄への記載を徹底し、旅券の呈示を求めるとともに、旅券の写しを宿泊者名簿とともに保存すること。なお、旅券の写しの保存により、その宿泊者に関する宿泊者名簿の氏名、国籍および旅券番号の欄への記載を代替することもできます。
営業者の求めにもかかわらず宿泊者が旅券の呈示を拒否する場合は、当該措置が国の指導によるものであることを説明して呈示を求め、さらに拒否する場合には、当該宿泊者は旅券不携帯の可能性があるものとして、最寄りの警察署に連絡する等適切な対応を行うこと。
警察官からその職務上宿泊者名簿の閲覧請求があった場合には、捜査関係事項照会書の交付の有無にかかわらず、当該職務の目的に必要な範囲で協力すること。この閲覧請求に応じた個人情報の提供は、捜査関係事項照会書の交付を受けない場合であっても、個人情報の保護に関する法律にもとづく適正な措置であり、本人の同意を得る必要はないものと解される、とされています。
宿泊者名簿には宿泊者全員を記載する必要があり、代表者のみの記載は認められません。宿泊契約(宿泊グループ)ごとに宿泊者が分かるように記載します。
長期の滞在にも注意が要ります。観光庁は、長期滞在者には定期的な清掃等の際に、チェックイン時に本人確認を行っていない者が届出住宅に宿泊するようなことがないよう、不審な者が滞在していないか、滞在者が所在不明になっていないか等について確認するよう求めています。特に宿泊契約が7日以上の場合には、定期的な面会等により確認を行う必要があります。
つまり、非対面で運営していても、長い滞在では顔を合わせる場面が出てきます。カメラだけで完結する前提の設計にはなっていません。
防犯カメラは法令上の義務ではない
一方、防犯目的のカメラを設置する義務は定められていません。設置するかどうかは事業者の判断です。
ただし、設置すれば個人情報保護法の枠組みに入ります。個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者がカメラにより特定の個人を識別することができる画像を取得する場合、個人情報を取り扱うことになるため、利用目的をできる限り特定し、当該利用目的の範囲内でカメラ画像を利用しなければならないとしています。
利用目的の通知・公表については、緩和があります。個人情報保護委員会は、カメラの設置状況等から利用目的が防犯目的であることが明らかである場合には、「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」に当たり、利用目的の通知・公表は不要と考えられるとしています。
「作動中」の掲示が要る場合
通知・公表が不要でも、別の措置が残ります。個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者は偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならないため、カメラの設置状況等から、カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能といえない場合には、容易に認識可能とするための措置を講じなければならないとしています。
具体例として、防犯カメラが作動中であることを入口や、カメラの設置場所等に掲示する等の措置を講じることが考えられる、と示されています。
さらに踏み込んだ記述もあります。外観上カメラであることが明らかである等、カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能であったとしても、掲示等の措置を講じることによりより容易に認識可能とすることが望ましいと考えられる、とされています。
民泊に当てはめると、見えるところに付けたから掲示は不要、とは考えないほうが安全だということです。掲示は宿泊者との無用な争いを避ける材料にもなります。
顔の特徴データを使う機器を選ぶ場合は、要求が増えます。個人情報保護委員会は、顔識別機能付きカメラシステムにより特定の個人を識別することができるカメラ画像やそこから得られた顔特徴データを取り扱う場合も、利用目的をできる限り特定し、その範囲内で利用しなければならないとしたうえで、従来型防犯カメラの留意点に加えて留意すべき点があるとしています。小規模な民泊で顔識別機能まで必要になる場面は多くありません。機能を増やすほど、守る決まりも増えます。
目的を変えて使わない
もう1つ、実務で起きやすい論点があります。防犯目的で取得した画像を、あとから別の目的に使うことです。
個人情報保護委員会は、防犯目的のために取得したカメラ画像やそこから得られた顔特徴データをマーケティング等の商業目的に利用する場合について、講ずる必要のある措置を示しています。目的を変えるなら、そのための手続きが必要になるという整理です。
民泊で言えば、防犯のために付けたカメラの映像を、宿泊者の行動分析や広告のために使う、といった転用は同じ問題になります。設置のときに決めた利用目的の範囲から出ないでください。
置いてはいけない場所を先に決める
法令の話とは別に、置く場所の判断があります。この点について公的な資料で確認できたのは、上に挙げた個人情報保護法の枠組みまでです。民泊の室内でどこに設置してよいかを具体的に定めた基準は確認できませんでした。
そのうえで、記事として言えることは限られます。個人情報保護委員会が求めているのは、利用目的の特定、その範囲内での利用、そして本人が撮影されていることを容易に認識できる状態にすることです。この3つを満たせない場所には、置けないということになります。
宿泊者が「撮影されていることを認識できる」状態を作れるかどうかが判断の軸になります。判断に迷う場所には置かないのが、争いを避ける現実的な線引きです。
決める順序
カメラまわりは、次の順に決めると混乱しません。
まず本人確認の方法を決めます。対面で行うのか、ICTで行うのか。ICTなら、顔と旅券が鮮明に確認でき、画像が届出住宅内または近傍から発信されていると確認できる機器が要ります。ここは義務なので、防犯カメラより先に決まります。
次に、防犯カメラを付けるかを決めます。義務ではないため、付けない選択もあります。付けるなら利用目的を特定し、作動中である旨を掲示します。
最後に、目的の範囲を書き留めておきます。あとから別の用途に使いたくなったときに、手続きが必要だと気づけるようにするためです。
宿泊者名簿の作成・保存の義務そのものは住宅宿泊事業者とは、非対面での運営に関わる委託の条件は家主居住型と家主不在型の違いで扱っています。
次に読むもの
設備全体の考え方は民泊に必要な設備、届出後に続く業務は住宅宿泊事業者とはにあります。
カメラの設置場所やプライバシーの扱いは、自治体の条例や、建物の管理規約で別の制約がかかることがあります。この記事は観光庁と個人情報保護委員会が公表しているページの内容を整理したものです。個別の判断に迷う場合は、届出先の自治体と、個人情報保護委員会の相談窓口に確認してください。
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