民泊の始め方/解説

民泊初心者が最初に知っておきたい仕組みと開業の基礎知識

民泊は法令上の言葉ではありません。住宅宿泊事業法が位置づける3種類の事業者、家主居住型と家主不在型で変わる義務、届出先と監督の関係を、初心者がつまずきやすい点とあわせて基礎から解説します。

民泊について調べ始めると、「民泊新法」「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「特区民泊」といった言葉が次々に出てきます。これらは似た文脈で使われますが、指しているものはまったく別です。仕組みを理解する近道は、制度の登場人物を先に覚えることです。誰が届け出て、誰が登録を受け、誰が監督するのかが分かると、調べた情報を正しい場所に置けるようになります。

そもそも「民泊」には法令上の明確な定義がありません。観光庁は、住宅の全部または一部を活用して旅行者等に宿泊サービスを提供することを指して一般に「民泊」と呼ぶ、と説明しています。法律の条文に「民泊」という制度があるわけではないため、「民泊の資格」や「民泊の免許」を探しても見つからないのは当然です。

この記事では、民泊新法と呼ばれる住宅宿泊事業法がどんな法律かから始めて、位置づけられている事業者の役割、家主が居るか居ないかで変わる義務、そして初心者が取り違えやすい点を整理します。開業手続きの順序そのものは民泊の始め方で扱っているため、ここでは仕組みの理解に絞ります。

「民泊新法」と呼ばれる理由と、できた背景

「民泊新法」は通称です。正式な名称は住宅宿泊事業法で、観光庁は平成29年法律第65号として示しています。比較の対象になる旅館業法は昭和23年法律第138号、特区民泊の根拠となる国家戦略特区法は平成25年法律第107号です。新法と呼ばれるのは、宿泊を扱う法律のなかで最も新しく加わったからです。

できた背景も公表されています。観光庁は、いわゆる民泊について、感染症まん延防止等の公衆衛生の確保や地域住民等とのトラブル防止に留意したルールづくりはもとより、旅館業法の許可が必要な旅館業に該当するにもかかわらず無許可で実施されているものもあることから、その対応の必要性が生じていたと説明しています。あわせて、近年急増する訪日外国人観光客の多様な宿泊ニーズへの対応や、少子高齢化社会を背景に増加している空き家の有効活用といった地域活性化の観点から、民泊への期待が高まっていたとも述べています。

これらの課題を踏まえ、一定のルールの下で健全な民泊サービスの普及を図るため、平成29年6月に住宅宿泊事業法が成立しました。観光庁は、この法律を、急速に増加するいわゆる民泊について安全面・衛生面の確保がなされていないこと、騒音やゴミ出しなどによる近隣トラブルが社会問題となっていること、観光旅客の宿泊ニーズが多様化していることなどに対応するため、一定のルールを定めて健全な民泊サービスの普及を図るものとして新たに制定された法律だとしています。

何が変わったかは、選択肢の増え方に表れています。平成30年6月の施行以降、日本国内でいわゆる民泊を行う場合には、旅館業法の許可を得る、国家戦略特区法(特区民泊)の認定を得る、住宅宿泊事業法の届出を行う、といった方法から選択することになりました。それまでの許可か認定かという枠組みに、届出という三つ目の道が加わった形です。

ただし、届出は無条件に営業を認めるものではありません。人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないことが事業の定義に組み込まれており、住宅としての設備要件と居住要件を満たす必要があります。新しく作られたのは「緩い制度」ではなく、「住宅を使う場合のルール」なのだと理解しておくと、他の制度との違いが整理しやすくなります。

住宅宿泊事業法が位置づける3種類の事業者

住宅宿泊事業法は、平成29年6月に成立した法律です。観光庁は、制度の一体的かつ円滑な執行を確保するため、この法律に「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」という3つのプレーヤーが位置づけられ、それぞれに役割や義務等が決められていると説明しています。

住宅宿泊事業者は、住宅宿泊事業法第3条第1項の届出をして住宅宿泊事業を営む者です。物件を持ち、宿泊者を泊める当事者にあたります。住宅宿泊管理業者は、同法第22条第1項の登録を受けて住宅宿泊管理業を営む者で、事業者に代わって現場の措置を行います。住宅宿泊仲介業者は、同法第46条第1項の登録を受けて住宅宿泊仲介業を営む者で、宿泊者と事業者をつなぐ役割を担います。

ここで押さえておきたいのは、届出と登録が違う手続きだということです。住宅宿泊事業者になるのは届出、管理業者と仲介業者になるのは登録です。これから民泊を始めようとする個人や法人が行うのは、原則として届出のほうです。

住宅宿泊事業を中心に、住宅宿泊事業者・住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者の役割と手続きを結んだ関係図
届出をするのは事業者、登録を受けるのは管理業者と仲介業者です。監督する行政機関もそれぞれ異なります。 出典:観光庁 民泊制度ポータルサイト「minpaku」住宅宿泊事業法とは(確認日 2026-08-20)

誰に届け出て、誰が監督するのか

手続きの相手も、事業者の種類ごとに違います。住宅宿泊事業を行おうとする者は、都道府県知事等への届出が必要とされています。この「等」には、都道府県知事に代わって届出の受理・監督・条例制定事務を処理する、保健所設置市の長(政令市、中核市等)や特別区の長(東京23区)が含まれます。

一方、住宅宿泊管理業を営もうとする者は国土交通大臣の登録が必要で、住宅宿泊仲介業を営もうとする者は観光庁長官の登録が必要とされています。監督についても、住宅宿泊事業者は都道府県知事等が、住宅宿泊管理業者は国土交通大臣が、住宅宿泊仲介業者は観光庁長官が実施すると整理されています。

窓口が分かれているため、「どこに聞けばよいか分からない」という状態になりがちです。自分が何になろうとしているのかを先に決めれば、問い合わせ先は自動的に決まります。

家主居住型と家主不在型で義務が変わる

初心者にとって最も影響が大きい分かれ道が、家主居住型か家主不在型かです。観光庁は次のように整理しています。

家主居住型の場合は、住宅宿泊事業者に対して、住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置が義務づけられます。具体的には、衛生確保措置、宿泊者に対する騒音防止のための説明、近隣からの苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付け、標識の掲示などです。

家主不在型の場合は、これらの措置を住宅宿泊管理業者に委託することが義務づけられます。ただし標識の掲示は除かれており、これは事業者自身が行います。委託が必要になる場面はもう一つあり、一の届出住宅の居室の数が5を超える場合も委託の対象です。なお、日常生活を営むうえで通常行われる行為に要する時間の範囲内の不在は、ここでいう不在から除かれるとされています。

この違いは費用に直結します。家主不在型を選ぶ時点で、管理業者への委託費が固定的な費用として発生することが決まるためです。

人を宿泊させる間に不在となるかどうかで、事業者自身が措置を行う場合と管理業者への委託が義務になる場合に分かれる分岐図
居室の数が5を超える場合も委託の対象です。日常生活を営む上で通常行われる行為に要する時間の範囲内の不在は除かれます。 出典:観光庁 民泊制度ポータルサイト「minpaku」住宅宿泊事業法とは(確認日 2026-08-20)

「住宅」であっても宿泊施設としての義務は生じる

住宅宿泊事業は住宅を使う事業ですが、宿泊者を泊める以上、住まいのままではいられません。住宅宿泊事業者には、宿泊者名簿を本人確認のうえ作成し、作成の日から三年間保存すること、宿泊者の氏名、住所、職業および宿泊日を記載することが求められます。宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときは、その国籍および旅券番号の記載も必要です。

さらに、届出住宅ごとに見やすい場所へ標識を掲げる義務があり、届出住宅ごとに、毎年2月、4月、6月、8月、10月および12月の15日までに、それぞれの月の前2月分の宿泊日数、宿泊者数、延べ宿泊者数、国籍別の宿泊者数の内訳を都道府県知事等へ報告する義務もあります。この定期報告は電子システムを利用して行うことができるとされています。

「届出さえ済ませればあとは自由」ではなく、営業を続ける限り記録と報告が続く、という点が住宅の賃貸との大きな違いです。

初心者が取り違えやすい点

「民泊は180日まで」は制度を限定した話です。年間提供日数の上限が180日とされているのは住宅宿泊事業法の届出で営業する場合であり、旅館業法の許可であれば営業日数の制限はありません。特区民泊は2泊3日以上の滞在が条件とされ、年間営業日数の上限は設けられていません。

届出をしないという選択肢はありません。住宅を使って有償で繰り返し宿泊所として提供することは基本的に旅館業にあたるため、住宅宿泊事業の届出をせずに行う場合は旅館業法の許可が必要です。観光庁は、その場合には簡易宿所営業で許可を取得するのが一般的だと説明しています。

「民泊」と「旅館業」は排他的ではありません。住宅宿泊事業法第3条第1項の届出をした者は、旅館業法第3条第1項の規定にかかわらず住宅宿泊事業を営むことができる、という関係で整理されています。どちらか一方が正しいのではなく、選んだ制度に応じた手続きが必要になる、というだけです。

制度上正しい理解と、よくある誤解を左右に並べたOK・NGの比較図
左は観光庁の説明に沿った理解、右は問い合わせの前につまずきやすい思い込みです。制度ごとに条件が違う点が共通の原因です。 出典:観光庁 民泊制度ポータルサイト「minpaku」はじめに「民泊」とは(確認日 2026-08-20)

覚えておきたい言葉の整理

届出住宅は、届出をして住宅宿泊事業を営む対象となっている住宅を指します。日数の算定も、標識の掲示も、定期報告も、この届出住宅ごとに行います。

住宅宿泊事業は、旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて届出住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が180日を超えないもの、と定義されています。日数の上限は、事業の定義そのものに組み込まれています。

特区民泊は、国家戦略特別区域法にもとづく旅館業法の特例で、正式には国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業といいます。東京都大田区をはじめ、大阪府や大阪市など、国家戦略特区の区域として指定された地域で取り組まれています。

理解できたら次に進むこと

登場人物と義務の分かれ方が分かれば、あとは自分の条件に当てはめるだけです。手続きの順序を追うなら民泊の始め方、事業として採算を考えるなら民泊経営の始め方、個人として届け出る場合の具体的な準備は個人で民泊を始める方法へ進んでください。制度そのものをさらに詳しく追う場合は民泊新法旅館業法のページも用意しています。

なお、ここで整理したのは制度の枠組みです。条例による制限や運用は自治体ごとに異なるため、実際の可否は物件を管轄する都道府県等の窓口に確認してください。

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