民泊を始めるときに最初に決めるのは、物件でも備品でもなく、どの法律にもとづいて営業するかです。観光庁は、日本国内でいわゆる民泊を行う場合、旅館業法の許可を得る、国家戦略特区法(特区民泊)の認定を得る、住宅宿泊事業法の届出を行う、といった方法から選択することになると説明しています。この選択が決まらないと、必要な手続きも、満たすべき設備の条件も、営業できる日数も決まりません。
前提として、「民泊」という言葉に法令上の明確な定義はありません。観光庁は、住宅の全部または一部を活用して旅行者等に宿泊サービスを提供することを指して一般に「民泊」と呼ぶ、と説明しています。民泊という単一の制度があるわけではなく、宿泊サービスを提供するための複数の制度のうち、住宅を使うものをまとめてそう呼んでいる、という関係です。ここを取り違えると、「民泊の許可」という存在しない手続きを探すことになります。
この記事では、制度の選び方、物件と設備の条件、届出の前に確かめること、運営を始めるまでの順序を、観光庁の民泊制度ポータルサイトの記載にもとづいて整理します。開業費用の相場や収益の見込みは扱いません。条件によって大きく変わるうえ、確認できる出典がないためです。
民泊を始めるまでの5つの段階
進め方には順序があります。前の段階で決まったことが、次の段階でやるべきことを決めるためです。制度を選ばないまま物件を契約したり、設備を買い揃えてから届出の条件に気づいたりすると、費用がそのまま無駄になります。
段階は次の5つに分けられます。まず、どの制度で営業するかを決めます。次に、候補の物件がその制度で使えるかを確かめます。続いて、消防と近隣に関する条件を確かめます。そのうえで届出または許可の手続きを行い、最後に設備を整えて運営を始めます。
このうち、初心者がつまずきやすいのは2番目と3番目です。物件そのものは気に入っていても、賃貸借契約や管理規約、条例によって民泊に使えないことがあります。これは物件を借りたあとでは取り返しがつきません。
最初に決めるのは「どの制度で営業するか」
観光庁は3つの制度を比較して示しています。許認可の方式、営業日数の制限、床面積の基準が制度ごとに違います。
旅館業法(簡易宿所営業)は許可制で、営業日数の制限がありません。ただし住居専用地域での営業はできず、最低延床面積は33㎡とされています(宿泊者数10人未満の場合は3.3㎡/人)。特区民泊は認定制で、2泊3日以上の滞在が条件となり、原則25㎡以上/室が求められます。国家戦略特区の区域として指定された地域でのみ取り組まれており、東京都大田区や大阪府、大阪市などが例として挙げられています。住宅宿泊事業法は届出制で、年間提供日数の上限が180日以内、床面積は3.3㎡/人です。
選ぶ基準は、物件がどこにあるか、年間どれだけ営業したいか、そして手続きにどれだけ時間と費用をかけられるかです。年間を通して営業したいなら旅館業法の許可が必要になりますし、住宅として使いながら空いた期間だけ貸すなら住宅宿泊事業法の届出が現実的な選択肢になります。なお、旅館業法にもとづく許可の種別のうち、住宅宿泊事業の届出をせずに民泊サービスを行う場合には、簡易宿所営業で許可を取得するのが一般的だと観光庁は説明しています。
住宅宿泊事業法で始める場合に満たす条件
届出制であることから住宅宿泊事業法を選ぶ人は多いのですが、届出をすれば何でもできるわけではありません。対象となる「住宅」には条件があります。
設備要件として、台所、浴室、便所、洗面設備が備えられている必要があります。加えて居住要件として、現に人の生活の本拠として使用されている家屋、入居者の募集が行われている家屋、随時その所有者・賃借人・転借人の居住の用に供されている家屋、のいずれかに当たることが求められます。この居住要件があるため、宿泊専用に空けておく建物は住宅宿泊事業の対象になりません。
年間提供日数の数え方も決められています。1年間は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午まで、1日は正午から翌日の正午までとして数え、届出住宅ごとに算定します。暦年でも年度でもない区切りなので、営業計画を立てるときは注意が必要です。
届出の前に確認しておくこと
観光庁は、届出の前に確認しておくべき事項を挙げています。ここを飛ばして進めると、届出そのものができません。
賃借人や転借人が届出をする場合は、賃貸人や転貸人が住宅宿泊事業を目的とした転貸を承諾しているかを確認します。マンションで営もうとする場合は、管理規約で住宅宿泊事業が禁止されていないかを確認します。規約で禁止されていない場合でも、管理組合に禁止の方針がないかを確かめる必要があるとされています。また、届出住宅を管轄する消防に相談し、消防法令適合通知書を入手します。
このほか、都道府県等は生活環境の悪化を防止するために必要があるときは、条例で区域を定めて住宅宿泊事業を実施する期間を制限できます。届出住宅が所在する自治体に、条例で定めたルールがあるかどうかを確認しておく必要があります。
届出をしてから運営を始めるまで
住宅宿泊事業の届出は、原則として民泊制度運営システムを利用して行うこととされています。住宅宿泊事業届出書に必要事項を記入し、住宅が居住要件を満たしていることを証明するための書類(入居者の募集の広告等)や住宅の図面などを添えて、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等に届け出ます。
届出が済むと、事業者としての業務が始まります。居室の床面積を宿泊者1人当たり3.3㎡以上確保すること、清掃と換気を行うこと、非常用照明器具を設けて避難経路を表示すること、外国語で設備の使用方法や災害時の通報連絡先を案内すること、宿泊者名簿を作成して備え付けること、騒音やごみに関して配慮すべき事項を説明すること、近隣からの苦情に適切かつ迅速に対応することなどが求められます。届出住宅ごとに見やすい場所へ標識を掲げる義務もあります。
設備を整えるのはこの段階です。必要な設備は制度と物件の条件から決まるため、届出の条件を確かめる前に買い揃える理由はありません。
進め方を間違えやすい点
制度は物件ごとに選ぶものです。複数の物件を持つ場合、すべてを同じ制度でそろえる必要はありません。届出をする単位についても、台所、浴室、便所、洗面設備が設けられている単位が最小単位になると示されています。
年間提供日数は届出住宅ごとに数えます。事業者単位ではないため、物件を増やせば全体の営業日数は増やせますが、1つの届出住宅について180日を超えることはできません。
旅館業法の適用範囲は住宅宿泊事業だけで判断できません。住宅を使って有償で繰り返し宿泊所として提供することは基本的に旅館業にあたるため、届出も許可もない状態で宿泊料を受け取ることはできません。判断に迷う場合は、最寄りの保健所へ問い合わせるよう案内されています。
次に読むもの
制度の全体像をつかんだら、次は自分の条件に合わせて具体化していきます。用語や仕組みからもう一度整理したい場合は民泊初心者が最初に知っておきたい仕組みと開業の基礎知識を、収支や物件の判断材料から考えたい場合は民泊経営の始め方を読んでください。個人として届け出る場合の手続きは個人で民泊を始める方法にまとめています。
なお、この記事に書いた条件は制度の枠組みであり、実際に営業できるかどうかは物件の所在地と自治体の条例によって変わります。最終的な判断は、物件を管轄する都道府県等の窓口と保健所、消防に確認してください。開業の工程をさらに細かく追う場合は民泊開業の流れのページも用意しています。
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