民泊を事業として始めるとき、売上を左右するのは価格でも写真でもなく、選んだ制度が営業できる日数の上限を決めていることです。住宅宿泊事業法の届出で始める場合、人を宿泊させる日数は1年間で180日を超えられません。旅館業法の許可であれば日数の制限はありません。同じ物件、同じ料金でも、制度の選択だけで年間の売上の天井が変わります。
経営の設計は、この天井を確かめるところから始まります。物件を先に契約してしまうと、その物件で使える制度が限られ、結果として収入の上限まで決まってしまいます。順序としては、営業したい規模を決め、それを満たせる制度を選び、その制度で使える物件を探す、という並びになります。
この記事では、制度が収入に与える制約、物件を選ぶときに確かめる経営上の条件、宿泊者を集める経路の作り方、運営を自分で行うか委託するかの判断を扱います。利回りや月の売上の相場は書きません。立地、部屋数、季節、料金設定で大きく変わるうえ、確認できる出典がないためです。手続きそのものの順序は民泊の始め方にまとめています。
民泊経営を組み立てる4つの要素
経営として見ると、決めることは4つに整理できます。制度、物件、販路、運営体制です。
制度は営業日数と設備の条件を決めます。物件は立地と部屋数を通じて需要と単価を決めます。販路は宿泊者がどこから来るかを決め、手数料の負担も決めます。運営体制は、清掃や連絡といった手間を誰が負担するかを決め、そのまま費用になります。
この4つは独立していません。家主が不在になる運営を選べば住宅宿泊管理業者への委託が必要になり、運営体制が費用を押し上げます。部屋数の多い物件を選んだ場合も同様です。物件だけ、販路だけを検討しても、経営の形は決まりません。
宿泊料から手元に残るまでに何が引かれるか
宿泊者が支払う金額が、そのまま事業者の収入になるわけではありません。間に入る事業者への支払いと、運営にかかる費用が引かれます。
まず、宿泊サービス提供契約の締結の代理または媒介を他人に委託するときは、登録を受けた住宅宿泊仲介業者または旅行業者に委託しなければならないと定められています。仲介を通す以上、その手数料が宿泊料から引かれます。次に、家主不在型など一定の場合には住宅宿泊管理業者への委託が義務づけられ、その費用がかかります。そのうえで、清掃、リネン、消耗品、光熱費、通信費といった運営の費用が残ります。
ここで重要なのは、手数料や委託費の水準を推測で見積もらないことです。仲介業者や管理業者の料金は各社が公表している条件で決まります。事業計画を立てる段階では、実際に使う予定の事業者の公表条件を確認し、その数字で計算してください。
物件を選ぶときに確かめる経営上の条件
物件の良し悪しは、需要と制約の両面から見ます。需要の側は立地と部屋の使い方で決まりますが、制約の側は制度と契約で決まっており、こちらは事前に確認できます。
住宅宿泊事業法で始める場合、対象となる住宅は台所、浴室、便所、洗面設備が備えられていることが必要です。加えて、現に人の生活の本拠として使用されている、入居者の募集が行われている、随時その所有者・賃借人・転借人の居住の用に供されている、のいずれかに当たる必要があります。宿泊専用に空けておく建物は、この居住要件を満たしません。
契約と規約の確認も欠かせません。賃借人や転借人が届出をする場合は、賃貸人や転貸人が住宅宿泊事業を目的とした転貸を承諾しているかを確かめます。マンションでは管理規約で住宅宿泊事業が禁止されていないかを確かめ、規約に定めがない場合は管理組合に禁止の意思がないかを確認します。さらに、都道府県等は条例で区域を定めて実施期間を制限できるため、所在地の自治体のルールも確認が必要です。
収容できる人数にも基準があります。居室の床面積は宿泊者1人当たり3.3㎡以上を確保することとされており、部屋の広さがそのまま定員の上限、つまり1泊あたりの売上の上限につながります。
届出の状況から見える市場の動き
観光庁は住宅宿泊事業法にもとづく届出の状況を公表しています。令和8年7月15日時点で、届出件数は65,837件、事業廃止件数は23,767件、届出住宅数は42,070件です。
この3つの数字の関係は、経営を考えるうえで示唆的です。届け出た件数の累計に対して、廃止された件数が相当数にのぼっており、現に届出住宅として残っているのは差し引いた数になります。始めることと続けることは別だという事実が、公表値にそのまま表れています。
ただし、この数字から個々の物件の収益性は読み取れません。廃止の理由は公表されていないため、採算が合わなかったのか、物件を売却したのか、制度を旅館業法へ切り替えたのかは区別できません。市場の規模感を把握する材料として使い、収益の見込みを推測する根拠には使わないでください。
開業前に見積もっておく項目
事業計画で埋めるべき欄は、金額を調べる前に洗い出しておきます。項目が漏れていると、あとから出てきた費用がそのまま赤字になります。
収入の側では、1泊あたりの料金、定員、営業できる日数、想定する稼働の考え方を置きます。営業できる日数は制度で決まり、住宅宿泊事業法なら180日が上限です。費用の側では、物件の取得または賃借にかかるもの、家具・家電・寝具などの初期の備品、消防設備に関するもの、届出の準備にかかるもの、そして毎月発生する清掃・リネン・光熱費・通信費・仲介手数料・管理委託費が並びます。
金額は、必ず自分の物件と契約先の条件から埋めてください。他の施設の事例やまとめ記事の平均値を当てはめると、立地も部屋数も違う数字で計画を立てることになります。
宿泊者を集める経路を決める
集客の経路は大きく分けて、仲介業者を通す方法と、自社の予約窓口を持つ方法があります。仲介を通す場合は、登録を受けた住宅宿泊仲介業者または旅行業者に委託する必要があります。観光庁は登録業者のリストを公表しているため、委託先が登録されているかを確認できます。
自社の窓口を持つ場合は手数料の負担が変わりますが、宿泊者を集める作業を自分で担うことになります。どちらか一方に決める必要はなく、両方を併用するのが一般的な形です。判断の材料は、手数料の水準と、集客にかけられる手間の量です。集客の考え方は民泊集客、直接予約の設計は自社予約のカテゴリで扱います。
運営を自分で行うか、委託するか
住宅宿泊事業者は、衛生の確保、安全の確保、外国人観光旅客への案内、宿泊者名簿の備付け、周辺地域への悪影響の防止、苦情への対応といった措置をとる必要があります。そして、一の届出住宅の居室の数が5を超える場合、または人を宿泊させる間に不在等となる場合には、これらの措置を住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません。
つまり、委託するかどうかは好みの問題ではなく、運営の形によっては義務になります。自分で運営するつもりなら、宿泊者がいる間に届出住宅にいられる体制を組めるかどうかが分かれ目です。日常生活を営むうえで通常行われる行為に要する時間の範囲内の不在は除かれるとされていますが、線引きは自治体の運用にも関わるため、窓口に確認してください。
始める前に決めておくこと
経営として民泊を始めるなら、物件を探す前に「年間どれだけ営業するのか」を決めてください。そこから制度が決まり、制度から物件の条件と運営体制が決まり、最後に費用と収入の見積もりが埋まります。逆順で進めると、決まった制約に計画の側を合わせ続けることになります。
副業として時間の制約がある場合は副業で民泊を始めるには、制度や用語の理解から固めたい場合は民泊初心者が最初に知っておきたい仕組みを参照してください。収支の組み立て方は民泊の収支計画、物件の見極めは民泊の物件選びでも扱います。制度の適用や条例の有無は、最終的に物件を管轄する自治体の窓口で確認してください。
このメディアの運営元について
myHotelsメディアは、民泊予約システムを提供する myHotels が運営しています。 記事は自社サービスの利用を前提にせずに書いており、料金や条件は下のページで確認できます。