「民泊に必要な設備」を調べると、家具や家電の一覧が出てきます。しかし開業できるかどうかを決めるのは、そちらではありません。法令が求めている設備を満たしていなければ、どれだけ内装を整えても届け出られません。
必要な設備は3つの層に分かれます。住宅であるための設備、宿泊者の安全を確保するための設備、そして消防法令にもとづく設備です。層ごとに根拠も、判断する窓口も違います。
この記事では、この3層をそれぞれ整理し、最後に法令で求められていないものをどう考えるかを扱います。「家具・家電は何を置けばいいか」「備品の一覧が欲しい」という探し方をしている場合も、この記事が対象です。費用の内訳は民泊の初期費用にまとめています。
第1層:住宅であるための4つの設備
いちばん基本の要件です。観光庁は、住宅宿泊事業を実施することができる「住宅」は台所、浴室、便所、洗面設備が備えられた施設でなければならない、としています。届出を行う住宅には、この4つの設備が設けられている必要があります。
基準は、思われているより緩やかです。観光庁は、これらの設備は必ずしも独立しているものである必要はなく、一つの設備に複数の機能があるユニットバス等も認められるとしています。また、一般的に求められる機能を有していれば足りるとされ、例として浴室については浴槽が無くてもシャワーがあれば足り、便所については和式・洋式は問わないと示されています。
一方で、外せない条件もあります。これらの設備は届出住宅に設けられている必要があり、届出の対象に含まれていない近隣の公衆浴場等を浴室等として代替することはできません。
設置場所には幅があります。必ずしも1棟の建物内に設けられている必要はなく、同一の敷地内の建物について一体的に使用する権限があり、各建物に設けられた設備がそれぞれ使用可能な状態であれば、複数棟の建物を一の「住宅」として届け出ることが可能とされています。
なお、台所を洗面設備とみなしてよいかという問いに対して、観光庁は洗面設備としての機能を有しているかで判断するとしています。兼用できるかどうかは、機能で決まります。
面積は設備を含めずに数える
設備と並んで効いてくるのが居室の面積です。観光庁は、宿泊者の衛生の確保を図るため、各居室の床面積を宿泊者1人当たり3.3平方メートル以上確保する必要があるとしています。
数え方に注意が要ります。居室の床面積は宿泊者が占有する部分の面積を指し、宿泊者の占有ではない台所、浴室、便所、洗面所、廊下は含みません。押入れ、床の間も含みません。算定は内寸面積で行い、旅館業法に基づく簡易宿所の取扱いと同様に算定するとされています。
つまり、間取り図の専有面積から定員を計算すると、実際より多く見積もることになります。設備の面積を差し引いた実質の広さで数えてください。
第2層:安全を確保するための設備
観光庁は、宿泊者の安全の確保を図るため、届出住宅に次の措置を講じる必要があるとしています。非常用照明器具の設置、避難経路の表示、そして火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置の3つです。
重要なのは、これらがすべての物件に一律で求められるわけではないことです。観光庁は、届出住宅の建て方や規模等に応じた安全措置の適用について表を示しています。区分は、一戸建ての住宅・長屋と、共同住宅・寄宿舎に分かれ、それぞれ「家主同居で宿泊室の床面積が50平方メートル以下」かどうかで適用が変わります。
家主同居で宿泊室の床面積が50平方メートル以下の場合、非常用照明器具と防火の区画等は適用なし(特段の措置不要)とされ、その他の安全措置が適用ありとなります。それ以外の場合は、非常用照明器具と防火の区画等が適用ありです。防火の区画等については、複数のグループが複数の宿泊室に宿泊する場合のみ、という条件が付いています。
ここでいう家主同居とは、届出住宅に住宅宿泊事業者が居住しており、不在とならない場合を指します。観光庁は、ここでは届出住宅に居住していることが必要であり、委託が必要な場合の不在とは異なると注意しています。委託義務の判定とは別の基準です。委託の条件は家主居住型と家主不在型の違いで扱っています。
避難経路の表示にも注意点があります。観光庁は、市町村の火災予防条例により規制される地域もあることから、当該条例の規制内容を確認し、規定された事項を表示に盛り込む必要がある、としています。
第3層:消防法令にもとづく設備
3つ目の層は、判断する窓口が変わります。観光庁は、消防法令に基づき設備や防火管理体制等に関する規制を受ける場合や、市町村の火災予防条例に基づき防火対象物使用開始届出書の提出が必要となる場合があるとしたうえで、当該規制の適用の有無等について、届出の前に建物の所在地を管轄する消防署等に確認する必要があるとしています。
総務省消防庁は、民泊における消防法令上の取扱いについて資料を公開しています。小規模な建物で民泊サービスを実施しようとする方が自分で消防用設備を設置した際に作成する報告書として、消火器と特定小規模施設用自動火災報知設備の試験結果報告書の様式が用意されています。自ら設置することが想定されている設備がこの2つだということです。
観光庁は、消防用設備等や防火管理体制に不備がある場合のリスクとして、火災が発生しても火災警報が鳴らない、消火器がない、避難口がわからない等により初期消火や避難が遅れる危険性が高いこと、消防署から行政指導を受けたり行政処分の対象となる場合があることを挙げています。
何がどこまで必要かは、建物の使い方と規模で変わります。設備を買う前に消防署へ相談してください。判断するのは消防部局です。
備品は「置くと義務が付いてくる」ものがある
家具や家電そのものを義務づける規定はありません。ただし、置くことで維持管理の義務が生じる備品があります。
観光庁は、届出住宅に循環式浴槽(追い炊き機能付き風呂・24時間風呂など)や加湿器を備え付けている場合は、レジオネラ症を予防するため、宿泊者が入れ替わるごとに浴槽の湯は抜き、加湿器の水は交換し、汚れやぬめりが生じないよう定期的に洗浄等を行うなど、取扱説明書に従って維持管理する必要があるとしています。
寝具にも決まりがあります。観光庁は、寝具のシーツ、カバー等直接人に接触するものについては、宿泊者が入れ替わるごとに洗濯したものと取り替える必要があるとしています。予備のリネンを持たないと、連泊のあいだの入れ替えが回りません。数を決めるときは、この要件から逆算してください。
設備や備品全般については、清潔に保ち、ダニやカビ等が発生しないよう除湿を心がけ、定期的に清掃、換気等を行う必要があるとされています。
つまり備品選びは、好みの問題であると同時に運営の手間を決める選択です。追い炊き機能付きの風呂を残すか外すかで、清掃のたびにやることが変わります。
家具・家電の一覧は載せません
この記事に、テレビや冷蔵庫といった家具・家電の一覧は載せていません。そうした一覧を裏づける公的な資料を確認できなかったためです。
何を置けば宿泊者に選ばれるかは、物件の広さ、想定する滞在日数、周辺の施設で変わります。一般的な一覧を載せると、確認した事実のように読まれます。当サイトは確認できない項目を書かない方針のため、ここは空欄のままにしています。
代わりに、法令から必要になることが確実な備えは挙げられます。外国人観光旅客である宿泊者の快適性および利便性の確保として、観光庁は次の3つを求めています。外国語を用いて届出住宅の設備の使用方法に関する案内をすること、外国語を用いて移動のための交通手段に関する情報を提供すること、外国語を用いて火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内をすることです。
設備を置くなら、その使い方を外国語で案内できる状態にしておく必要がある、ということです。操作が複雑な機器ほど、案内の手間が増えます。
Wi-Fiは義務ではないが、義務と結びつく
「民泊にWi-Fiは必要か」という問いへの答えは、法令上の義務ではありません。設置を求める規定は確認できませんでした。
ただし、置くかどうかで別の義務の果たし方が変わります。事業者は、外国人観光旅客である宿泊者に対し、外国語を用いて移動のための交通手段に関する情報を提供し、火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先を案内する必要があります。この案内を紙で備え付けるか、端末で見られるようにするかは事業者の判断ですが、後者を選ぶなら通信環境が前提になります。
周辺地域への悪影響の防止についても同様です。騒音の防止、ごみの処理、火災の防止のために配慮すべき事項の説明は、書面の備付けその他の適切な方法によることとされ、観光庁は、必要な事項が記載された書面を居室に備え付けるほか、タブレット端末での表示等により宿泊者が滞在中に必要に応じて確認できるようにするためのものだと説明しています。必ずしも対面による説明が求められるものではない、ともされています。
つまりWi-Fiは、それ自体は任意でも、案内や説明を端末で行う運用を選んだ時点で必要になる設備です。紙で完結させるなら不要という判断もあり得ます。どちらで運用するかを先に決めてください。
なお、通信速度や機器の選び方を裏づける公的な資料は確認できませんでした。そのため、この記事に推奨する回線や機種は書いていません。
あわせて、届出住宅ごとに、見やすい場所に標識を掲げなければなりません。これは委託していても事業者に残る義務です。
揃える順序
設備は、次の順に確かめると無駄が出ません。
4つの設備があるかを見ます。無ければ工事が要り、費用と工期が加わります。居室の面積を内寸で測り、設備を除いた広さから定員を出します。ここで想定の人数に届かなければ、計画そのものを見直すことになります。
建て方と規模から、安全措置の適用を確かめます。家主同居で宿泊室が50平方メートル以下かどうかで、非常用照明器具の要否が変わります。消防署に相談します。ここが決まらないと、必要な消防用設備が決まりません。
そのうえで、備品を決めます。循環式浴槽や加湿器を置くなら、清掃のたびの作業が増えることを織り込みます。リネンは入れ替えの回数から必要枚数を出します。
家具や家電の見た目を決めるのは、いちばん最後で構いません。上の層が満たせなければ、そもそも営業できないためです。
次に読むもの
物件の条件を判定順に確かめる場合は民泊物件の選び方、費用の出方は民泊の初期費用、届出後に続く業務の全体像は住宅宿泊事業者とはにあります。
安全措置の適用と消防用設備の要否は、建物の実態に応じて行政庁と消防部局が判断します。この記事は観光庁と総務省消防庁が公表しているページの内容を整理したものです。設備を購入したり工事を発注したりする前に、届出先の自治体と管轄の消防署へ確認してください。
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