自社予約とは、宿泊者の募集と予約の受付を、仲介する事業者に委託せず、自分の経路で行う形を指します。観光庁の民泊制度ポータルサイトは、よくあるご質問で「仲介業者を通さずに事業者が自ら予約を受け付けてもいいのですか?」という問いに「可能です。」と答えています。制度の側から見れば、自社予約は例外的な運用ではありません。
一方で、経路を自分の側に寄せると、これまで仲介事業者の側にあった手続きや表示が、そのまま消えるわけではありません。この記事では、募集の経路によって何が変わり、何が変わらないのかを、住宅宿泊事業法と消費者庁の資料で確認できる範囲だけで整理します。手数料の水準や「自社予約の比率」といった金額・比率は、公的に確認できる集計を見つけられなかったため扱いません。
自社予約とは、募集と予約の受付を自分の側で行うこと
住宅宿泊事業法は、宿泊者の募集を「他人に委託する場合」の相手を定めています。裏を返すと、委託せずに自分で募集し、自分で予約を受け付ける形が制度の中に置かれています。これが自社予約と呼ばれている状態です。自社サイトの予約フォーム、電話、メール、対面での受付など、受け方の種類は問われていません。
比べる相手は、住宅宿泊仲介業者です。観光庁は住宅宿泊仲介業を「旅行業法第6条の4第1項に規定する旅行業者以外の者が、報酬を得て、住宅宿泊仲介業務を行う事業」と説明しています。その住宅宿泊仲介業務は2つの行為から成り、宿泊者のために宿泊のサービスの提供を受けることについて代理して契約を締結し、媒介をし、または取次ぎをする行為と、住宅宿泊事業者のために宿泊者への宿泊のサービスの提供について代理して契約を締結し、または媒介をする行為が挙げられています。
つまり、仲介事業者は宿泊者と住宅宿泊事業者のあいだに立ち、契約の成立を代理・媒介・取次ぎという形で担っています。自社予約では、この位置に立つ第三者がいません。宿泊者からの申込みは、住宅宿泊事業者へ直接届きます。誰が申込みを受け、誰が条件を示すのかが変わる、というのが自社予約のいちばん大きな違いです。
自ら募集するときに、住宅宿泊仲介業の登録は要るか
自社予約を検討して最初に気になるのが、自分で予約を受けると仲介業の登録が必要になるのか、という点です。観光庁のよくあるご質問には、住宅宿泊事業者自身が仲介行為を行う場合の登録について問いがあり、「住宅宿泊事業者自身の届出住宅を仲介する場合は仲介業者の登録は不要です。他人の届出住宅を仲介する場合、仲介行為の宣伝を行い、報酬を得ている場合には住宅宿泊仲介業者としての登録が必要になります。」と示されています。
判断の分かれ目は、自分の届出住宅か、他人の届出住宅か、そして報酬を得て仲介しているかどうかです。自分の物件の予約を自分のサイトで受けるだけなら、この線を越えません。複数の運営者から物件を預かって掲載し、その仲介で報酬を受け取る形になると、位置づけが変わります。近隣の宿の予約もまとめて受ける、といった広げ方をする前に、この区別に戻ってください。
| 募集と予約受付の形 | 登録・委託先の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 自らの届出住宅について、自分で募集し予約を受ける | 仲介業者の登録は不要 | 観光庁「よくあるご質問」 |
| 募集を他人へ委託する | 委託先は住宅宿泊仲介業者または旅行業者 | 住宅宿泊事業法第12条 |
| 他人の届出住宅を仲介し、宣伝を行い報酬を得る | 住宅宿泊仲介業者としての登録が必要 | 観光庁「よくあるご質問」 |
| 登録を受けていない者へ委託した | 業務改善命令等の対象。50万円以下の罰金 | 住宅宿泊事業法第75条 |
募集を人に頼むなら、委託できる相手が決まっている
自社予約に切り替えるといっても、集客の一部を誰かに頼むことはあります。ここで効いてくるのが住宅宿泊事業法第12条です。観光庁は、届出住宅の仲介を他人に委託する場合について「住宅宿泊仲介業者又は旅行業者に委託しなければならない」と示しています。委託先は、登録を受けた事業者に限られます。
登録を受けていない者へ委託した場合の扱いも公表されています。業務改善命令等の対象になるとともに、50万円以下の罰金とされています(法第75条)。この不利益は委託した側にも及ぶ形で説明されているため、「集客を代行します」「掲載を代わりにやります」と持ちかけられたときは、相手の登録の有無を先に確認します。民泊制度ポータルサイトには、登録を受けた住宅宿泊仲介業者の一覧が掲載されています。
なお、清掃や鍵の受け渡しといった管理の委託は、この募集の委託とは別の話です。管理業務をどこまで外へ出すかは民泊の運営代行で扱っています。募集を誰に頼むかと、管理を誰に頼むかを、同じ契約の中で混ぜないでください。
仲介事業者に定められている業務は、自社予約では前提にならない
住宅宿泊仲介業者には、観光庁の資料で業務が並べられています。宿泊者と締結する契約について住宅宿泊仲介業約款を定め、その実施前に観光庁長官へ届け出ること。宿泊者および住宅宿泊仲介業務に関する料金を定めて公示すること。宿泊者の判断に影響を及ぼす重要なものについて故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為をしないこと。法令に違反する行為をあっせんし、便宜を供与しないこと。宿泊者に対し、住宅宿泊仲介契約の内容について書面を交付して説明すること。営業所または事務所ごとに標識を掲げること。そして観光庁への報告です。
大切なのは、これらが住宅宿泊仲介業者に向けた定めだという点です。自社予約に切り替えたからといって、同じ義務が住宅宿泊事業者へそのまま移ってくるわけではありません。移ってこないからこそ注意が要ります。仲介経由では、約款や料金の公示という形で宿泊者に示されていた条件が、制度としては用意されない状態になります。予約の条件を宿泊者へどう示すかは、自分の予約ページの作り方の問題になります。
自社サイトで申込みを受けるときに確認する表示
自分のサイトやメールで申込みを受ける形は、消費者庁が説明している通信販売の定義に近づきます。消費者庁は通信販売を「販売業者又は役務提供事業者が『郵便等』によって売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品、権利の販売又は役務の提供」と説明しています。インターネットで広告し、インターネットで申込みを受ける取引が、この形にあたります。
同時に、適用されない場合も示されています。営業のためもしくは営業として締結するもの、海外にいる人に対する販売または役務提供、国や地方公共団体が行うもの、他の法令で消費者保護が可能と認められるものなどです。自分の取引がどちらに入るかは、事業の形によって変わります。「宿泊だから当然かかる」「宿泊だから関係ない」と決めつけず、消費者庁の説明にある区分で確認してください。判断がつかない場合は、消費者庁の窓口や専門家に確認します。
当てはまる場合、広告に表示する事項が定められています。消費者庁が挙げているものには、販売価格(役務の対価)と送料、代金の支払時期と方法、役務の提供時期、申込み期間に関する定め、契約の申込みの撤回または解除に関する事項、事業者の氏名・住所・電話番号、電子情報処理組織を利用する場合の代表者または責任者の氏名、販売価格以外の負担金などがあります。返品に関する特約の内容は省略できない必須表示事項とされています。
| 消費者庁が挙げている表示事項 | 予約ページで見る箇所(この記事での整理) |
|---|---|
| 販売価格(役務の対価)及び送料 | 宿泊料金の表示と、そこに含まれない費用の有無 |
| 代金の支払時期、方法 | 前払いか現地払いか、使える決済手段 |
| 役務の提供時期 | 宿泊日と、いつから利用できるか |
| 申込み期間に関する定め | 期間を区切って受け付ける場合の期限 |
| 契約申込みの撤回又は解除に関する事項 | キャンセルの可否・期限・費用の定め |
| 事業者の氏名、住所、電話番号 | 予約ページから辿れる場所に置いているか |
| 販売価格以外の負担金 | 清掃費や寝具の追加など、別建てにしている費用 |
右の列は、左の事項を自分の予約ページで確認するための整理であり、法令の文言ではありません。あわせて、著しく事実に相違する表示や、実際のものより著しく優良もしくは有利であると誤認させる表示は禁止されています。承諾していない人への電子メール広告も原則として禁止で、承諾や請求があった場合は最後の送信日から3年間その記録を保存することとされています。代金の全部または一部を前払いで受け取る場合は、申込みの承諾の有無、受領した金額、受領年月日、提供時期などを記載した書面の交付が求められます。
予約の経路が変わっても変わらない義務
住宅宿泊事業者としての業務は、予約をどこから受けても同じです。観光庁は事業者の業務として、各居室の床面積を宿泊者1人当たり3.3平方メートル以上確保するとともに定期的な清掃・換気その他の必要な措置を行うこと、非常用照明器具の設置や避難経路の表示など火災その他の災害が発生した場合に宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置を講じること、外国語を用いて設備の使用方法・交通手段の情報・災害時の通報連絡先を案内すること、宿泊者名簿を備え付けること、騒音防止・ごみ処理・火災防止その他の生活環境への悪影響の防止に関する事項を宿泊者へ説明すること、周辺地域の住民からの苦情や問い合わせに適切かつ迅速に対応することを挙げています。
宿泊者名簿については、氏名、住所、職業および宿泊日を記載し、3年間保存することが示されています。ここで見落としやすいのが、予約時に受け取る情報と名簿は同じではないという点です。自社予約に切り替えると、これまで仲介事業者の画面に並んでいた予約情報が自分の手元のフォームへ移りますが、名簿として求められる記載事項が自動的に揃うわけではありません。記載と保存の詳細は民泊の宿泊者名簿、到着時の確認は民泊の本人確認で扱っています。
届出をした事業者に何が課されているのかを先に押さえたい場合は、住宅宿泊事業者とはから確認してください。自社予約は集客の話に見えますが、実務では名簿と本人確認の手順が予約経路から独立して回るかどうかが、続けられるかどうかを分けます。
自社予約を始める前に決める順番
確認する順番を決めておくと、判断がぶれません。第一に、募集を他人へ委託するかどうかです。委託するなら、相手が登録を受けた住宅宿泊仲介業者または旅行業者かを確かめます。委託しないなら、自らの届出住宅の仲介に登録は要りません。第二に、申込みをインターネットや電話で受けるかどうかです。受けるなら、消費者庁が示す通信販売の区分に当てはまるかを確認し、当てはまるなら広告の表示事項を自分のページで満たします。
第三に、代金を前払いで受け取るかどうかです。受け取るなら、承諾の有無などを記載した書面の交付が関わります。第四に、本人確認と宿泊者名簿の手順が、予約経路とは別に成り立っているかどうかです。ここまでを決めてから、予約フォームの項目や料金の見せ方といった設計に入ると、後から作り直す範囲が小さくなります。
この順番は、どれも「自分が何をする側になるか」を決める問いです。仲介経由では相手が担っていた部分が、自社予約では自分の設計対象になります。増えるのは手数料の話ではなく、決めることの数だと考えてください。
この記事で確認できなかったこと
自社予約の比率、仲介事業者に支払う手数料の水準、自社予約に切り替えたときの収支の変化について、公的に確認できる集計を見つけられませんでした。そのため、金額や比率は書いていません。各社の手数料は公表されている条件を1件ずつ確認する必要があり、条件も改定されるため、この記事では扱わずに別のテーマとして整理します。
また、住宅宿泊事業者が自ら募集する場合に特有の表示義務や約款の定めがあるかどうかについて、観光庁の資料には該当する記載を確認できませんでした。仲介業者に向けた業務の定めはありますが、それが事業者側へ移るという説明は見当たりません。ここは「無いことが確認できた」ではなく「確認できなかった」ものとして扱い、実際の運用は届出先の自治体や所管の窓口へ確認してください。
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