最低価格保証/解説

最低価格保証を掲げる前に|宿泊予約サイトの同等性条件と景品表示法

自社サイトを最も安くする最低価格保証には、宿泊予約サイトとの契約に置かれる同等性条件と、景品表示法の有利誤認表示という別々の関門があります。公正取引委員会が認定した確約計画3件と消費者庁の考え方から、確認の順序を整理します。

宿泊予約サイトより自分のサイトを安くして、そこに「最低価格保証」と書く。自社予約を増やす施策として最初に挙がる方法ですが、実行する前に通る関門が二つあります。一つは契約です。宿泊予約サイトとの契約に価格の同等性を求める条項があると、自分のサイトだけを安くする行為が契約上できない場合があります。もう一つは表示です。「最低価格」と書いた時点で、その言葉が景品表示法の規制対象になります。

この二つは、通す順番も、確認する相手も違います。契約は取引先である宿泊予約サイトとのあいだの問題で、表示は宿泊者に対する問題です。片方だけを確認して進めると、価格を下げられたのに表示の根拠が無い、あるいは表示は用意したのに契約で価格を下げられない、という行き止まりに入ります。この記事は、公正取引委員会が令和元年から令和4年にかけて認定した確約計画3件と、消費者庁が公表している表示の考え方だけを根拠に、確認の順序を整理します。宿泊予約サイト各社の現在の契約条項、手数料の水準、最低価格保証を掲げたときの予約数への影響については、公表されている資料で確認できなかったため扱いません。

宿泊予約サイトの契約にある「同等性条件」

宿泊予約サイトが宿泊施設の運営者と結ぶ契約には、掲載する宿泊料金や部屋数を、ほかの販売経路と同等またはそれより有利にすることを求める条項が置かれることがあります。公正取引委員会はこの条項を「同等性条件」と呼んでいます。

公正取引委員会が公表した3件の発表から、条件の書きぶりを読み取れます。楽天株式会社については、「楽天トラベル」に宿泊施設を掲載する運営業者との契約において、「当該ウェブサイトに当該運営業者が掲載する部屋の最低数の条件を定めるとともに、宿泊料金及び部屋数については、他の販売経路と同等又は他の販売経路よりも有利なものとする条件を定めている」行為が違反被疑行為とされました。Booking.com B.V. とエクスペディア・ロッジング・パートナー・サービシーズ・サールについても、宿泊料金および部屋数について、ほかの販売経路と同等またはそれより有利なものとする条件が挙げられています。

ここで重要なのが、後者の2件では条件の一部が対象から外されている点です。発表には、自社ウェブサイト等の販売経路と同等または当該販売経路より有利なものとする条件を「宿泊料金のナロー同等性条件」と呼び、違反被疑行為から除くと書かれています。つまり、ほかの宿泊予約サイトに対する同等性と、自分のウェブサイトに対する同等性は、別のものとして扱われています。最低価格保証は自分のウェブサイトを最も安くする施策ですから、効いてくるのは後者のナロー同等性条件のほうです。

契約している宿泊予約サイトの宿泊料金と部屋数を基準に、ほかの宿泊予約サイトまでを対象にするワイド同等性条件と、自社ウェブサイトだけを対象にする宿泊料金のナロー同等性条件の範囲を比べた図
同じ「同等性条件」でも、及ぶ販売経路の範囲が違います。自社ウェブサイトを安くできるかどうかを分けるのは、右側のナロー同等性条件です。 出典:公正取引委員会「Booking.com B.V.から申請があった確約計画の認定等について」ほか(確認日 2026-09-09)

3件はいずれも、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項〔拘束条件付取引〕)の規定に違反する疑いがあるものとして取り上げられ、確約手続で処理されました。

発表日 事業者 違反被疑行為として挙げられた条件
令和元年10月25日 楽天株式会社 掲載する部屋の最低数の条件と、宿泊料金・部屋数を他の販売経路と同等または有利にする条件
令和4年3月16日 Booking.com B.V. 宿泊料金・部屋数を他の販売経路と同等または有利にする条件(宿泊料金のナロー同等性条件を除く)
令和4年6月2日 エクスペディア・ロッジング・パートナー・サービシーズ・サール Expediaサイトに掲載する宿泊料金・部屋数を他の販売経路と同等または有利にする条件(宿泊料金のナロー同等性条件を除く)
公正取引委員会の報道発表「Booking.com B.V.から申請があった確約計画の認定等について」のページのファーストビュー
引用キャプチャ 宿泊料金及び部屋数を他の販売経路と同等または有利にする条件が違反被疑行為として挙げられ、宿泊料金のナロー同等性条件が除かれていることが示されている公式ページです。 出典:Booking.com B.V.から申請があった確約計画の認定等について(公正取引委員会 令和4年3月16日)(確認日 2026-09-09/表示のファーストビュー)

確約計画の認定は、違反があったという判断ではありません

3件はどれも「確約計画の認定」です。ここを取り違えると、記事にも社内の説明にも誤りが入ります。公正取引委員会の「確約手続に関する対応方針」には、「公正取引委員会が、確約計画の認定をすることは、申請者の違反被疑行為について独占禁止法の規定に違反すると判断するものではない」と書かれています。公表にあたっても、独占禁止法の規定に違反することを認定したものではないことを付記するとされています。

したがって、「同等性条件は違法と判断された」とは言えません。言えるのは、公正取引委員会が違反の疑いがあるとして取り上げ、事業者が申請した確約計画が認定された、という事実までです。認定された計画には、当該行為を取りやめること、今後3年間は同様の行為を行わないことを意思決定機関で決議すること、宿泊施設の運営業者と従業員へ通知し周知徹底すること、独占禁止法の遵守についての行動指針を作成し研修と監査を実施すること、公正取引委員会へ履行状況を報告することが含まれています。

令和元年10月25日の楽天株式会社、令和4年3月16日のBooking.com B.V.、令和4年6月2日のエクスペディアについて、確約計画の認定日と違反被疑行為として挙げられた条件を並べたタイムライン
3件の認定日と、それぞれの発表で違反被疑行為として挙げられた条件です。いずれも確約計画の認定であり、独占禁止法の規定に違反すると判断したものではありません。 出典:公正取引委員会の各発表(確認日 2026-09-09)

Booking.com B.V. の発表には、さらに続きがあります。宿泊料金のナロー同等性条件について今後の対応を示す項目が置かれ、その運用によっては独占禁止法上の問題が生じる場合もあり得るとして、宿泊予約サイトの運営業者間の競争に与える影響を注視していくとともに、独占禁止法上の問題が認められる場合には厳正に対処するとされています。

読み取れることは二つです。第一に、ナロー同等性条件は確約手続の対象になっておらず、契約に残っている可能性があります。第二に、公正取引委員会はそれを問題が無いものとして片付けたわけではなく、注視の対象として明示しています。自分の契約書にどう書かれているかは、この発表からは分かりません。手元の契約書と、宿泊予約サイトが示している条件そのものを読んでください。読んで分からない条項は、締結先へ問い合わせて回答を文書で残します。

表示の関門:「最低価格」は取引条件の表示です

契約の側で自分のサイトを安くできると確認できたとして、そこに「最低価格保証」と書くかどうかは別の判断です。価格は取引条件そのものですから、その表示は景品表示法の規制を受けます。

消費者庁は、有利誤認表示を「商品・サービスの価格その他取引条件についての不当表示」と説明し、実際のものより著しく有利であると一般消費者に誤認させる表示と、競争業者のものより著しく有利であると誤認させる表示の二つを挙げています。「ほかのどこよりも安い」という趣旨の表示は、まさに後者にあたります。表示した以上、それが事実であることを示せなければなりません。

根拠の求められ方も公表されています。消費者庁長官は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、資料が提出されない場合、当該表示は措置命令との関係では不当表示とみなされ、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定されるとされています。「安いつもりだった」は根拠になりません。いつ、どの経路の、どの条件の価格と比べたのかを、後から出せる形で残しておく必要があります。

他社の価格と比べるなら、いつの価格かが問われます

最低価格保証は、比較する相手があって初めて成り立つ表示です。他社の販売価格を比較の対照にする場合について、消費者庁は「消費者が同一の商品について代替的に購入し得る事業者の最近時の販売価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、不当表示に該当するおそれがあります」としています。さらに市価を比較対照価格とする二重価格表示については、「競争関係にある相当数の事業者の実際の販売価格を正確に調査することなく表示する場合には、不当表示に該当するおそれがあります」と明記されています。

宿泊料金は日ごと、残室数ごとに動きます。数か月前に一度調べた価格を根拠に「最安」と書き続ける形は、ここでいう最近時の販売価格とはいえない価格を使っている状態に近づきます。掲げるなら、いつの時点の価格を、どの範囲の事業者について調べたのかを、記録として残す運用まで含めて設計してください。調べる範囲と頻度を決められないなら、その表示は掲げないほうが安全です。

「安さ第1位」のような順位の表示になると、求められるものはさらに具体的になります。消費者庁は、第三者の主観的な評価を指標とするNo.1表示の根拠となる調査について、比較する商品の適切な選定、調査対象者の適切な選定、公平な調査方法の実施、表示内容と調査結果の適切な対応が必要だとしています。順位の形にするかどうかは、読者が同じ順位を再現できるかどうかで判断してください。並べ替えの基準になった公表値と、その出典と確認日を同じ画面に示せないなら、順位にはしません。

民泊で自ら募集する場合の位置づけ

住宅宿泊事業として届出をしている場合も、自分で予約を受け付けること自体は制度の中に置かれています。観光庁の民泊制度ポータルサイトのよくあるご質問には、仲介業者を通さずに事業者が自ら予約を受け付けてもよいかという問いに「可能です。」と答えがあります。また、住宅宿泊事業者自身が自らの届出住宅を仲介する場合は、仲介業者の登録は不要とされています。

つまり、自分のサイトで予約を受け、そこで価格を決めること自体に、住宅宿泊事業法の側から追加の制限がかかるわけではありません。制限がかかるとすれば、それは宿泊予約サイトとの契約の側からです。自社予約そのものの法令上の位置づけと、自分のサイトで申込みを受けるときに必要になる表示については、自社予約とはで整理しています。

価格を下げる余地がどれだけあるかを見積もる場合は、単価と稼働の関係から入ります。客室単価の読み方は民泊の客室単価、売上の枠の出し方は民泊の売上予測で扱っています。値引きの幅を先に決めてから根拠を探すのではなく、枠を出してから幅を決めてください。

掲げる前に確認する六つの項目

ここまでの内容を、確認する順序に並べ替えます。上から順に見て、どれか一つでも埋まらないなら、その時点で最低価格保証は掲げません。

契約の同等性条項の有無、その条項が及ぶ範囲、最安の根拠を残せるか、比較する他社価格が最近時のものか、保証の条件を同じ画面に示したか、差額の返金手順を実行できるかという六つの確認項目を並べたチェックリスト
契約の2項目を先に、表示の4項目を後に確認します。契約で価格を下げられない場合、表示の準備は先へ進みません。 出典:公正取引委員会の各確約計画の認定、消費者庁「表示規制の概要」「二重価格表示」(確認日 2026-09-09)

表示に添える条件は、目立たない場所へ小さく置かないでください。同一の日程か、同一の部屋タイプか、税やサービス料を含む総額での比較か、他社の会員限定価格や期間限定の割引を含むのか。これらは保証の中身そのものです。強調した言葉と、条件を書いた部分の読み取りやすさが釣り合っていなければ、実際のものより著しく有利であると誤認させる表示に近づきます。

確認する項目 何を見るか 根拠として参照するもの
契約に同等性の条項があるか 宿泊料金・部屋数について、他の販売経路と同等または有利にする定め 締結している契約書
その条項が及ぶ範囲 ほかの宿泊予約サイトまでか、自社ウェブサイトまでか 契約書。範囲の呼び分けは公正取引委員会の発表
最安であることの根拠 比較した相手・時点・条件を後から提出できるか 消費者庁「表示規制の概要」
比較した他社価格の新しさ 最近時の販売価格といえるか、調査の範囲は十分か 消費者庁「二重価格表示」
保証の条件の示し方 日程・部屋タイプ・総額の範囲・除外を同じ画面で読めるか 消費者庁「表示規制の概要」
差額を返す手順 申出の受付から確認、返金までを実行できるか 自社で定める運用手順

この記事で確認できなかったこと

宿泊予約サイト各社が現在どのような条項を契約に置いているかについて、公表されている資料で確認できませんでした。確約計画の認定は3件それぞれの発表時点のものであり、その後の契約内容を示すものではありません。自分の契約がどうなっているかは、手元の契約書で確認してください。

宿泊予約サイトに支払う手数料の水準、最低価格保証を掲げた場合の予約数や単価の変化、自社予約の比率についても、公的に確認できる集計を見つけられませんでした。そのため、この記事には金額と比率を書いていません。自社予約のほうが手取りが多いという説明はよく見かけますが、その差を裏づける集計を確認できていないため、当サイトでは数値として扱いません。

最低価格保証という表示そのものについて、宿泊分野に固有の指針が公表されているかどうかも確認できませんでした。この記事で挙げたのは、価格表示一般に対する景品表示法上の考え方です。実際の表示について判断に迷う場合は、消費者庁や所管の窓口、専門家に確認してください。ここは「問題が無いことが確認できた」ではなく「確認できなかった」ものとして扱っています。

このメディアの運営元について

myHotelsメディアは、民泊予約システムを提供する myHotels が運営しています。 記事は自社サービスの利用を前提にせずに書いており、料金や条件は下のページで確認できます。

サービスの内容を見る オーナー登録に進む