客室単価(ADR)は、販売した客室1室1泊あたりで平均していくら受け取ったかを表す数値です。自分の価格が高いのか低いのかを確かめたくて、全国平均や地域平均を探した人が多いと思います。先に結論を書きます。確認できた範囲では、国が公表している宿泊の統計に「客室単価」という表章項目は見当たりませんでした。
見当たらないのは、探し方が悪いからではありません。宿泊の量を数える統計と、価格の動きを測る統計が別々に作られていて、その間に「1室1泊あたりいくら」を埋める統計が置かれていないためです。だから、他人が公表した平均を借りてくるのではなく、自分の帳簿から自分で作ることになります。
この記事では、どの公表ページに何が載っていて何が載っていないかを実際に突き合わせ、価格に近い統計として使われる三つが何を測っているかを分け、そのうえで自分の物件で数えるときに先に決めておく項目を並べます。金額の相場は出てきません。出典を示せないためです。
宿泊の量を数える統計に、単価の欄は無い
観光庁の宿泊旅行統計調査は、全国の宿泊施設を対象に毎月行われている統計です。政府統計の総合窓口に収録されている第8表は「年、月(12区分)、施設所在地(47区分及び運輸局等)、宿泊施設タイプ(6区分)別客室稼働率」という名前で、表章項目は客室稼働率だけです。稼働の高さは分かりますが、その部屋がいくらで売れたかは分かりません。
同じ調査で分かることとして案内されているのは、延べ宿泊者数、実宿泊者数、客室稼働率、国籍別の延べ宿泊者数です。いずれも人数と割合で、金額の項目は含まれていません。調査そのものの読み方は宿泊旅行統計調査の見方で整理しています。
住宅宿泊事業の届出住宅については、観光庁が民泊制度ポータルサイトで施行状況を公表しています。こちらに載るのは届出住宅数、延べ宿泊者数、宿泊日数、宿泊者数といった件数と人数で、宿泊料や売上の欄はありません。つまり、量を数える統計を二つ並べても、単価は出てきません。
価格に近い統計は三つあるが、どれも金額ではない
単価が無いなら価格の統計を見よう、と考えると三つに行き当たります。総務省統計局の消費者物価指数、日本銀行の企業向けサービス価格指数、観光庁の旅行・観光消費動向調査です。ただし三つとも、そのまま自分の客室単価と比べられる形にはなっていません。
消費者物価指数は、政府統計の総合窓口で見ると表章項目が指数と前年同月比などで構成されています。指数は基準時からどれだけ動いたかを表すもので、1泊あたりいくらという金額ではありません。加えて、この指数は2025年基準への改定が行われ、総務省は2026年(令和8年)7月分(全国)を2025年基準として公表しています。基準が変われば品目とウエイトも見直されるため、改定をまたいだ長期の比較には注意が要ります。
企業向けサービス価格指数は、日本銀行が公表しているものです。日本銀行は、この指数について「企業間で取引されるサービスを対象とし、原則、サービスの提供者(生産者)段階における価格(生産者価格)を調査している」と説明し、個人向けサービスは対象外としつつ、企業が同様に需要するサービスは調査対象に含めるとしています。宿泊にかかる価格を含む場合でも、それは企業が取引した価格であって、個人の旅行者に売った価格とは前提が違います。基準時は2020年です。
旅行・観光消費動向調査は、旅行者の側から集めた統計です。調査事項として、回答者の属性、旅行の有無、旅行に行った回数や時期、消費内訳などが挙げられています。ここには金額が出てきますが、単位は旅行者の支出であって、施設の客室1室1泊ではありません。1人で泊まったのか4人で泊まったのかによって、同じ客室でも旅行者側の金額は変わります。
| 統計 | 作成 | 確認した公表 |
|---|---|---|
| 消費者物価指数(全国) | 総務省統計局 | 2025年基準、2026年(令和8年)7月分。令和8年8月21日公表 |
| 企業向けサービス価格指数 | 日本銀行 | 基準時は2020年。2026年7月分は2026年8月26日公表 |
| 旅行・観光消費動向調査 | 観光庁 | 2026年4-6月期の第1次速報を掲載 |
上の表は、各公表ページに書かれていた表記から、対象と公表の時点だけを転記したものです(確認日 2026-09-03)。指数の水準や増減率は転記していません。この記事の目的は、どれを見れば単価が分かるかではなく、どれを見ても単価は分からないと確かめることだからです。
それでも三つの統計が役に立つ場面
使えないと書きましたが、捨てる必要はありません。向きが違うだけで、答えられる問いがそれぞれにあります。
価格指数は、水準ではなく方向を教えてくれます。自分の物件の単価が前年より下がったとき、市場全体が下がっているのか、自分の物件だけが下がっているのかを切り分ける材料になります。ただし、指数が動いた理由までは公表資料に書かれていないため、原因を補って読まないでください。
旅行者側の消費内訳は、価格を決める前提を考える材料になります。1回の旅行にいくら使う人が来ているのかは、部屋の設定価格そのものではありませんが、価格帯を大きく外していないかを見直すきっかけにはなります。
いずれの場合も、統計の値を自分の物件の目標値に置き換えないでください。全国や地域の集計は、営業できる日数、部屋の広さ、定員、予約経路の違いをならしたものです。売上の見積もりを組み立てる考え方は民泊の売上予測の立て方で扱っています。
分子に何を入れるかで、単価は変わる
ここからは自分の物件の話です。客室単価は、期間中に受け取った客室の売上を、販売した客室の延べ数で割った値として扱われます。ただし、公的な定義を確認できなかったため、この記事では計算式を正解として示しません。代わりに、分子と分母に何を入れるかを自分で決め、それを書き残す作業として扱います。
分子で迷うのは、客室料金以外の項目です。清掃費を別に受け取っているなら、それを客室の売上に含めるかどうかで数値が変わります。予約サイトに支払う手数料を差し引いた後の入金額を使うのか、ゲストが支払った総額を使うのかでも変わります。宿泊税や消費税を含めるかどうかも同じです。どれが正しいという答えは無く、決めて固定することが答えになります。
決め方の目安は、その数値を何に使うかです。値付けが妥当かを見たいなら、ゲストが支払う金額に近い側で数えるほうが実態に合います。手元に残る額を見たいなら、手数料を引いた後で数えるほうが合います。両方見たいなら、二つの系列を別々に持ち、混ぜないことです。
民泊では分母のほうがぶれやすい
分母は「販売した客室の延べ数」ですが、民泊では数え方が割れやすい要素が並びます。まず、住宅宿泊事業は、住宅宿泊事業法の概要で「人を宿泊させる日数が180日を超えないもの」と説明されている事業です。年間提供日数の上限が180日と定められているため、そもそも売れる日に上限があります。日数の数え方は民泊の180日の数え方で扱っています。
次に、清掃や点検、自分で使った日など、販売しなかった日をどう扱うかです。分母に入れれば単価は変わりませんが、稼働率のほうが下がります。分母から外せば稼働率は上がります。単価と稼働率のどちらを見るかで、外したくなる方向が変わるため、先に決めておかないと都合のよい数え方に寄っていきます。
一棟貸しでは、建物全体を1客室と数えるか、居室ごとに数えるかで分母が何倍にも変わります。同じ売上でも、数え方を変えるだけで単価は大きく動きます。複数の予約サイトに同じ部屋を出している場合も、在庫を重ねて数えないよう注意が要ります。
決めたことを表にして残す
決めた内容は、頭の中ではなく表に残してください。翌月に同じ数え方を再現できるかどうかが、この数値を続けて使えるかどうかを決めます。
| 決める項目 | 含めた場合に起きること | 外した場合に起きること |
|---|---|---|
| 清掃費 | 単価は高く出る。値付けの実感に近づく | 単価は低く出る。客室料金だけの比較になる |
| 予約サイトの手数料 | 差し引かなければ単価は高く出る | 差し引くと手元に残る額に近づく |
| 税 | 税込で数えると単価は高く出る | 税抜で数えると経路の違いを受けにくい |
| 販売しなかった日 | 分母に入れると稼働率が下がる | 外すと稼働率が上がる |
この表は金額ではなく、決めたときに数値がどちらへ動くかを整理したものです。どの行も、正しい選択肢は物件と目的によって変わります。決めた内容と、決めた日を一緒に残しておくと、あとから数値が動いた理由を追えます。
単価だけを追わない
単価を上げれば売上が増えるとは限りません。価格を上げた結果として販売できた客室が減れば、掛け合わせた総額は減ることがあります。逆に、価格を下げて埋めても、清掃や消耗品の費用は泊まった分だけ増えます。
だから、単価は稼働率と一緒に見ます。どちらか一方だけを目標にすると、もう一方を犠牲にしても達成できてしまうためです。費用まで含めた組み立ては民泊の収支計画の立て方に、投資として見るときの分母と分子の置き方は民泊の利回りの計算にあります。
社内や関係者に共有するときは、単価の数値だけを抜き出さないでください。期間、分子の定義、分母の定義の三つを一緒に書きます。この三つが欠けた数値は、受け取った側が別の定義で読み、比べられない数字として使われます。
統計を引用するときに壊れやすい点
外部の統計を資料に載せる場合は、統計名、対象期間、公表の段階、確認日を残してください。宿泊旅行統計調査のように速報と確定値が置き換わるものや、消費者物価指数のように基準改定が入るものでは、同じ名前の数値が後から別の値になります。
とくに基準改定は見落とされます。消費者物価指数は2025年基準への改定が行われており、改定の前後で品目とウエイトの構成が同じとは限りません。長期のグラフを作るときは、改定をまたいでいることを図の中に書いてください。離れた場所に注記を置くと、転記されるうちに落ちます。
企業向けサービス価格指数も同様で、基準時は2020年です。基準時が違う指数を並べて「どちらも上がっている」と語ると、比較の土台が食い違います。指数は水準ではなく変化を表すものだ、という前提を毎回書き添えるほうが安全です。
この記事で確認できなかったこと
全国や地域の客室単価の平均値は、確認できませんでした。宿泊の量を数える統計にも、価格指数にも、旅行者側の消費調査にも、施設の客室1室1泊あたりの金額として使える表章項目が無かったためです。他のページで見かける「民泊の平均単価」は、出所と数え方を確かめてから使ってください。
住宅宿泊事業の届出住宅に限った売上や宿泊料の集計も、確認できませんでした。観光庁が公表している施行状況は件数と人数の集計で、金額の項目を含んでいません。
したがって、この記事に相場は書いていません。書けるのは、どの統計に何が載っているか、そして自分の物件で数えるときに何を先に決めるか、の二つです。数値を早く出すことより、翌月も同じ条件で数え直せる形にすることを優先してください。
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