「民泊をするのに旅館業法は関係あるのか」という問いへの答えは、基本的に関係あります、です。観光庁は、住宅を利用する場合であっても有償で繰り返し宿泊所として提供する民泊サービスを行うことは基本的に旅館業にあたるため、旅館業法に基づく許可を得ることが必要となる、としています。
住宅宿泊事業法の届出という別の道があるのは、旅館業法の適用があることを前提に、一定の条件のもとで届出で足りるようにしたからです。届出も許可も認定もしないという選択肢は、そもそも旅館業に当たらない場合に限られます。
そこで実務上まず必要なのは、自分の計画が旅館業に当たるかどうかの判定です。この記事では、旅館業の定義、貸室業との分かれ目、宿泊料とみなされるもの、そして旅館業法が適用されないとされているケースを整理します。許可を取ると決めたあとの手続きは民泊の許可の取り方で扱っています。
旅館業とは何を指すか
厚生労働省は、旅館業を「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義しており、「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」としています。
この定義は2つの要素でできています。宿泊料を受けること、そして寝具を使用して施設を利用させること。どちらかが欠ければ旅館業ではありません。無償で友人を泊める行為が旅館業にならないのは、宿泊料を受けていないからです。厚生労働省も、宿泊料を徴収しない場合は旅館業法の適用は受けないとしています。
観光庁は同じ定義を示したうえで、この旅館業を経営する場合は旅館業法に基づく営業許可を得なければならないとしています。
貸室業・貸家業との分かれ目
部屋を貸す点だけを見れば、賃貸も民泊も似ています。分かれ目は2つ示されています。
厚生労働省は、旅館業は「人を宿泊させる」ことであり、生活の本拠を置くような場合、例えばアパートや間借り部屋などは貸室業・貸家業であって旅館業には含まれない、としています。
観光庁は、旅館業がアパート等の貸室業と違う点として、施設の管理・経営形態を総体的にみて宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること、施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないこと、の2点を挙げています。
つまり判定は、契約の名前ではなく実態で行われます。賃貸借契約という形にしても、利用者がそこに生活の本拠を持たず、衛生上の維持管理責任が貸す側にあると見られるなら、旅館業に当たり得ます。短期の「マンスリー」のような形態を検討している場合は、この2点に照らして考えてください。
「宿泊料」の範囲は名目で決まらない
宿泊料を受けなければ旅館業ではない、という理屈から、名目を変えれば避けられるのではないかと考える人がいます。ここは明確に否定されています。
厚生労働省は、宿泊料は名目のいかんを問わず実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるものは含まれるとしたうえで、例として休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費を挙げています。清掃費として受け取っても、実質が部屋の使用料なら宿泊料です。
研修施設についても踏み込んだ説明があります。宿泊施設付きの研修施設等が研修費を徴収している場合も、例えば当該施設で宿泊しないものも含め研修費は同じとするなど、当該研修費の中に宿泊料相当のものが含まれないことが明白でない限り、研修費には宿泊料が含まれると推定される、とされています。
一方で、含まれないものも示されています。食費やテレビ使用料など、必ずしも宿泊に付随しないサービスの対価は宿泊料には含まれないとされています。
旅館業法が適用されないケース
住宅を使って宿泊サービスの提供を行う場合でも、旅館業法の適用とならないケースがあると観光庁は示しています。ただし、いずれも条件が細かく定められた例外です。
1つはイベント民泊です。多数の集客が見込まれるイベントの開催時に宿泊施設が不足する地域において、その不足を解消する手段として、本来は宿泊施設ではない施設での旅行者の宿泊を可能とするもので、自治体の要請に基づき自宅等を提供する場合とされています。
2つ目は、移住希望者に対し売買または賃貸を目的とする空き家物件への短期居住です。適用されないためには、空き家物件の利活用事業が空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく計画に位置付けられ、当該事業を行う地方公共団体が空き家物件を登録しているなど、地方公共団体において対象施設が特定されていること、対象施設を購入または賃借する者が真に購入する意思または長期賃借する意思を有していることを地方公共団体において確認できること、これらの措置により実態として反復継続して不特定多数の者が利用することのないことが担保されていることが確認できること、の全てが講じられている必要があるとされています。
3つ目は、地方公共団体から依頼を受けた地域協議会等が宿泊者から宿泊料に相当する対価を受けず、体験学習に係る指導の対価のみを受ける場合です。地域協議会等が体験学習を伴う教育旅行等における宿泊体験サービスを提供する農家等に支払う経費は宿泊料に該当しないため、旅館業法の適用外となるとされています。
いずれも、自分の判断で「これに当たる」と決められる性質のものではありません。観光庁は、旅館業法が適用されるか否かは最寄りの保健所へ問い合わせるよう案内しています。
旅館業に当たる場合に選べる道
旅館業に当たると分かったら、次は制度の選択です。観光庁は、平成30年6月の住宅宿泊事業法の施行以降、日本国内でいわゆる民泊を行う場合には、旅館業法の許可を得る、国家戦略特区法(特区民泊)の認定を得る、住宅宿泊事業法の届出を行う、などの方法から選択することとなる、としています。
この3つが並んだ背景も説明されています。旅館業法の許可が必要な旅館業に該当するにもかかわらず無許可で実施されているものもあることから対応の必要性が生じ、一定のルールの下で健全な民泊サービスの普及を図るため、平成29年6月に住宅宿泊事業法が成立した、とされています。
制度ごとの条件の違いは民泊に必要な許可とは、簡易宿所と届出民泊の運営条件の対比は簡易宿所と民泊の違いで扱っています。
許可を受けたあとに続くこと
旅館業法の許可で営業する場合、許可が下りて終わりではありません。厚生労働省は、旅館業を経営する者は都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては市長または区長)の許可を受ける必要があり、許可は旅館業法施行令で定める構造設備基準に従っていなければならないとしています。運営についても、都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従う必要があるとされています。
営業が始まったあとは、施設が衛生基準に従って運営されているかどうかについて報告を求められ、立ち入り検査を受けることがあります。この業務は環境衛生監視員が行うとされています。構造設備基準または衛生基準に反するときは、改善命令、許可の取消または営業の停止を命ずることができるとされています。
事業者側の義務も定められています。旅館業者は、特定感染症の患者等や違法行為または風紀を乱す行為をするおそれのある者、営業者に対してカスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った者、宿泊施設に余裕がないとき等を除き、宿泊を拒むことはできないとされています。あわせて、宿泊者名簿を備えておかなければなりません。宿泊者名簿は、所定の省令に基づき電磁的記録による保存ができるとされています。
誰を泊めるかを自由に選べる前提で計画していると、想定と食い違います。旅館業法には住宅宿泊事業法にない宿泊拒否の制限があります。
判定の順序
整理すると、次の順で確かめるのが確実です。
宿泊料を受けるか。名目ではなく実質で考えます。寝具を使用して施設を利用させるか。利用者がそこに生活の本拠を持つか。持たないなら旅館業側に寄ります。衛生上の維持管理責任が自分にあると見られるか。そして、適用されないとされているケースの条件を実際に満たすか。
判定に迷う要素が1つでも残るなら、保健所に相談してください。無許可・無届出のまま営業した場合の扱いは民泊は無許可で営業できるかで扱っています。
次に読むもの
許可で進むと決めた場合の申請先と基準は民泊の許可の取り方、3つの制度のどれが必要かの判断は民泊に必要な許可とはにあります。
旅館業法の適用に関する運用は通知で示されている部分があり、地域の実情によって判断が分かれることがあります。この記事は公表資料の内容を整理したものです。実際の判定は施設の所在地を管轄する保健所が行うため、着手の前に必ず確認してください。
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