旅館業法の許可を検討するのは、たいてい年間180日の上限では足りないと分かったときです。住宅宿泊事業法の届出では人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えられないのに対し、旅館業法の許可には営業日数の制限がありません。厚生労働省も、住宅宿泊事業について年間180日以内の実施制限があり、それを超える場合は旅館業法に基づく許可が必要としています。
ただし、許可には届出とは違う条件がつきます。立地が制限され、施設の構造設備が基準を満たす必要があり、判断するのは行政庁です。書類を揃えれば進む届出と、施設そのものを審査される許可では、準備の性質が変わります。
この記事では、許可のうち民泊で選ばれることの多い簡易宿所営業を中心に、申請先、求められる基準、届出との違い、そして簡易宿所の許可を得たあとに続く監督までを整理します。「簡易宿所の許可を取るには何が要るか」という形で探している場合も、この記事が対象です。どの手続きが必要かの判断は民泊に必要な許可とはで扱っています。
民泊で選ばれるのは簡易宿所営業
厚生労働省は、旅館業の営業の種別を3つに分けています。旅館・ホテル営業は、施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業および下宿営業以外のものです。簡易宿所営業は、宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業です。下宿営業は、施設を設け、1月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業です。
このうち民泊で使われるのは簡易宿所営業です。観光庁は、旅館業法に基づく許可にはいくつかの種別があるが、住宅宿泊事業の届出をせずに民泊サービスを行う場合には、簡易宿所営業で許可を取得するのが一般的だと説明しています。ペンションやユースホステルなども簡易宿所営業に当たるとされています。
規模の目安として、厚生労働省が公表している旅館業の営業許可施設数があります。令和6年3月末で営業許可施設数は9万3,475施設であり、うち旅館・ホテル営業数は5万1,038施設、簡易宿所数は4万1,909施設とされています。簡易宿所は旅館・ホテル営業に迫る施設数がある区分です。
申請先は保健所
許可を出すのは、都道府県知事(保健所設置市の市長または特別区の区長)です。厚生労働省は、営業者は許可が必要であり、構造設備基準に適合し、衛生基準を遵守する必要があるとしています。
実際の申請窓口について、観光庁は、許可を得るためには民泊サービスを行う予定の施設(住宅)の所在する都道府県(保健所を設置する市、特別区を含む)の保健所に申請する必要があるとしています。厚生労働省も、申請手続きの詳細については各都道府県等の保健所に直接確認するよう案内しています。
住宅宿泊事業の届出とは窓口が違う点に注意してください。届出は都道府県知事等(保健所設置市の長、特別区の長を含む)へ、原則として民泊制度運営システムを利用して行います。許可は保健所への申請です。どちらで進むかを決めないまま相談に行くと、話が噛み合いません。
求められるのは施設の基準
許可で最も重いのが、施設に関する基準です。観光庁は、許可の取得にあたっては使用する施設の構造設備が基準を満たす必要があるとしています。厚生労働省も、構造設備基準に適合し、衛生基準を遵守する必要があるとしています。
観光庁が示す3つの制度の比較では、旅館業法(簡易宿所)について、最低延床面積は33㎡(ただし宿泊者数10人未満の場合は3.3㎡/人)、玄関帳場の設置義務(構造基準)はなし、衛生措置は換気、採光、照明、防湿、清潔等の措置とされています。
なお、基準は緩和された経緯があります。観光庁は、平成28年4月に簡易宿所の許可基準(最低床面積の基準)が緩和され、従来よりも容易に簡易宿所営業の許可を取得できるようになったとしています。
具体的な基準は自治体の条例にも関わります。厚生労働省は、営業にあたって寝具の交換や浴室の清掃など適切な衛生管理が必要であり、具体的な衛生管理の基準は各自治体の条例で定められているとしています。同じ簡易宿所営業でも、求められる内容は地域によって差があります。
立地の制約は届出より強い
許可を選ぶ場合、立地の制約が先に効いてきます。観光庁の比較では、住居専用地域での営業について、旅館業法(簡易宿所)は不可とされています。住宅宿泊事業法では可能(条例により制限されている場合あり)とされているのと対照的です。
つまり、年間を通して営業したいという理由で許可を選ぶと、選べる物件の範囲が狭まります。物件を先に決めてから許可を検討すると、その物件では取れないと分かることがあります。営業したい日数と立地は、同時に検討してください。
営業を始めたあとの義務も違う
許可で営業する場合、旅館業法にもとづく義務が課されます。厚生労働省は、営業者について宿泊者名簿の備置が義務づけられているとしたうえで、特定感染症患者等や違法行為をするおそれのある者を除き、原則として宿泊を拒否できないとしています。
宿泊拒否の制限は、住宅宿泊事業法にはない旅館業法の規定です。誰を泊めるかを自分で選べる前提で計画していると、想定と異なります。あわせて、衛生管理の基準を継続して守る必要があります。
許可は取ったあとも監督される
届出との違いは、手続きの入口だけではありません。許可は、営業が始まったあとも行政庁の監督が続きます。
厚生労働省は、旅館業の施設が衛生基準に従って運営されているかどうかについて、都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては市長または区長)は報告を求め、立ち入り検査をすることができるとしています。この業務は環境衛生監視員が行うとされています。
基準に反した場合の措置も定められています。都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては市長または区長)は、構造設備基準または衛生基準に反するときは、改善命令、許可の取消または営業の停止を命ずることができるとされています。
つまり、許可は一度取れば安泰という性質のものではありません。構造設備を基準に適合させ続けること、条例で定められた衛生基準を守り続けることが、営業を続ける条件です。開業時の工事費だけでなく、維持のための手間と費用を織り込んでおく必要があります。
宿泊者名簿についても補足があります。厚生労働省は、宿泊者名簿は所定の省令に基づき電磁的記録による保存ができるとしています。紙で保管しなければならないという制約はありません。
申請の前に確かめること
許可で進むと決めたら、申請の前に次を確かめてください。いずれも問い合わせれば分かります。
物件が住居専用地域にないこと。ここが満たせなければ、他の条件を検討する意味がありません。構造設備が基準を満たすか、満たすために何が必要か。工事が必要なら費用と工期が加わります。判断は保健所が行うため、図面を持って事前に相談してください。自治体の条例で定められた衛生管理の基準。地域ごとに異なるため、営業を始めたあとに続く負担として確認しておきます。消防への相談。必要な消防用設備は建物の使い方と規模で変わり、判断は消防部局が行います。
観光庁は、旅館業法が適用されるか否かは最寄りの保健所へ問い合わせるよう案内しています。イベント開催時に自治体の要請に基づき自宅等を提供する場合など、旅館業法の適用とならないケースも示されていますが、条件は細かく定められています。自己判断せず、相談してください。
許可は施設を審査される手続きです。書類が揃っているかではなく、施設が基準に適合しているかが問われます。図面の段階で相談を始めれば、工事のやり直しを避けられます。
許可と届出のどちらで進むか
判断の軸は営業日数です。年間180日以内で足りるなら、住宅宿泊事業法の届出のほうが立地の制約は緩く、手続きも書類中心で進みます。180日を超えて営業したいなら許可を検討することになりますが、立地と構造設備の条件を満たせるかが前提になります。
どちらの制度でも、消防への相談は必要です。制度の違いは、消防に行くかどうかではなく、主たる申請先と施設に求められる基準に現れます。
開業までの工程は民泊開業の流れ、制度選択から始める場合は民泊の始め方、届出で進む場合の手順は民泊開業の手順一覧で扱っています。
構造設備の基準と衛生管理の基準は自治体の条例で定められている部分があり、運用も地域によって異なります。実際の申請の前に、必ず物件を管轄する保健所に確認してください。
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