観光庁は2026年9月10日、韓国・木浦市で「第40回日韓観光振興協議会」を開催したとトピックスで公表しました。日韓の観光当局が出席し、二国間の観光交流拡大等について意見交換を行ったうえで、二国間の観光交流の持続的成長及びバランスの取れた発展に向けて確認文書に署名した、と書かれています。あわせて、両国観光当局間の協力体制をより強固にし、実質的な成果を導き出すための「協力覚書(Memorandum of Cooperation)」については、署名に向けて協議を進めることで一致した、と説明されています。
この二つは別のものです。確認文書は当日署名され、協力覚書はまだ署名されていません。見出しだけを追うと「日韓が覚書を結んだ」と読めてしまいますが、発表本文はそう書いていません。この記事では、署名されたものと、これから協議されるものを分けたうえで、開催概要・確認文書の5項目・出席者・次回開催という、発表に載っている範囲を表記のまま整理します。
先に断っておきます。この発表に民泊や住宅宿泊事業への言及はありません。届出や許可の手続きが変わるという内容でもありません。それでも取り上げるのは、韓国が届出住宅に泊まった外国人の国籍別で第2位にあたるためです。その根拠は後半で公的資料から確かめます。
開催概要は日時・場所・出席者として示されています
発表の「記」以下に並んでいるのは、開催日、場所、出席者、内容の4項目です。開催日は令和8年9月10日(木)、場所はホテル現代バイラハン木浦(韓国・木浦市)と書かれています。同じ日には「日韓観光ビジネスフォーラム」も開かれ、日韓の観光事業者等が二国間の観光交流拡大等について意見交換を行った、と説明されています。
| 項目 | 発表の表記 |
|---|---|
| 会議の名称 | 第40回日韓観光振興協議会 |
| 開催日 | 令和8年9月10日(木) |
| 場所 | ホテル現代バイラハン木浦(韓国・木浦市) |
| 同日開催 | 日韓観光ビジネスフォーラム |
| 次回 | 2027年に日本で開催することが決定 |
会議の所要時間、議事の進行、参加した事業者の名前は、この発表には出てきません。フォーラムについても「日韓の観光事業者等」とあるだけで、業種や社数の内訳は書かれていません。ページの下部には協議会の様子、確認文書署名式、記念品交換、記念撮影、ビジネスフォーラムの様子、交流会の様子という写真の見出しが並び、確認文書そのものは別添のPDFとして置かれています。
署名した確認文書と、これから協議する協力覚書は別のもの
発表は二つの結果を並べて書いています。ひとつは協力覚書についてで、両国観光当局間の協力体制をより強固にし、実質的な成果を導き出すためのものだと目的が示されたうえで、その署名に向けて協議を進めることで一致した、とされています。一致したのは協議を進めることであって、覚書そのものはまだ署名されていません。いつ署名されるのか、どんな条項が入るのかは、この発表からは分かりません。
もうひとつが確認文書です。観光交流の持続的成長及びバランスの取れた発展に向けた課題について意見交換した上で、確認文書に署名した、と書かれており、内容も5項目として本文に列挙されています。つまり、いま読める中身があるのは確認文書のほうで、協力覚書は名前と目的だけが示されている状態です。
この区別は、後から資料を探すときにも効きます。協力覚書の内容を待っている人が確認文書の5項目を覚書の条項と取り違えると、まだ合意されていない話を前提にしてしまいます。発表の表現をそのまま引くなら、確認文書は「署名しました」、協力覚書は「署名に向けて協議を進めることで一致しました」です。引用するときは、この二つの述語を入れ替えないでおくのが安全です。
確認文書に並ぶ5つの項目
確認文書に含まれるとされている内容は、次の5項目です。番号と表記は発表のまま転記しています。
| 番号 | 発表に書かれている項目 |
|---|---|
| [1] | 日韓観光交流の持続的成長と均衡発展 |
| [2] | 域外観光客誘致の協力強化 |
| [3] | 広域連携観光促進と地方観光の活性化 |
| [4] | 日韓の観光資源を活用した未来世代の交流活性化 |
| [5] | AIを基盤とした観光産業の高度化と異業種との融合促進 |
5項目はいずれも方向性を示す見出しで、期限、数値目標、実施主体、予算の記載はありません。たとえば[3]の広域連携観光促進と地方観光の活性化は、地方で宿を営む側にとって関心の高い言葉ですが、対象の地域も、実際に行われる事業の名前も、ここには書かれていません。[5]のAIを基盤とした観光産業の高度化と異業種との融合促進も同じで、どの分野で何を行うのかは示されていません。
[2]の域外観光客誘致の協力強化は、日韓の外から来る旅行者を両国で協力して呼び込む、という趣旨の見出しです。ただし、どの市場を指すのかは本文に書かれていません。見出しの言葉は、そこから取り組みの中身を推測するためのものではなく、両国が同じ表現で合意した範囲を示すものだと考えておくのが妥当です。中身は、個々の事業が公表された段階で読むことになります。
40年続いてきた実務チャネルと、次回の開催地
発表によると、日韓の観光当局は、1986年の初開催以来、過去40年間にわたり日韓観光振興協議会が両国の観光協力における重要な実務チャネルとして厚い信頼関係を維持してきたことを高く評価した、とされています。開催の頻度についても、観光振興の分野における協力を推進するため、原則として毎年協議会を開催しています、という注記が付いています。
次回については、2027年に日本で開催することが決定した、と書かれています。開催地の都市名と日程は、この発表には記載がありません。日本での開催なら受け入れ側の地域に人の動きが生まれる、という見方はできますが、どこで開かれるかが分からない以上、それを当て込んだ準備の話にはなりません。開催地が公表された時点で、あらためて確かめることになります。
出席したのは両国の観光当局と政府観光機関です
出席者として名前が挙がっているのは、日本側が観光庁と日本政府観光局、韓国側が文化体育観光部と韓国観光公社です。氏名と役職も発表に記載されています。
| 側 | 機関 | 発表に記載された出席者 |
|---|---|---|
| 日本側 | 観光庁 | 笹路 健 国際観光部長 |
| 日本側 | 日本政府観光局 | 久保 麻紀子 理事 他 |
| 韓国側 | 文化体育観光部 | カン・ジョンウォン 観光政策室長 |
| 韓国側 | 韓国観光公社 | チョン・ソクイン 国際観光本部長 他 |
いずれの側にも末尾に「他」と付いており、ここに挙がっていない出席者がいたことが分かります。人数の記載はありません。並んでいる4機関は、いずれも政府またはその関係機関です。民間の宿泊事業者が協議会そのものに出席したという記載はありません。事業者が関わったのは同日の日韓観光ビジネスフォーラムのほうだと、本文からは読めます。
韓国は、届出住宅に泊まった外国人の第2位です
ここからは発表そのものを離れ、韓国からの旅行者が民泊にとってどの程度の存在なのかを、公的資料で確かめます。この節の数値はいずれも観光庁と日本政府観光局の公表値で、今回の協議会の発表に載っているものではありません。
観光庁が民泊制度ポータルサイトで公表している住宅宿泊事業法の施行状況によると、令和8年4月1日から令和8年5月31日までを対象期間とする宿泊実績で、全国における宿泊者数の合計は626,765人でした。その内訳は、日本国籍を有する者が235,591人(37.6%)、外国人が391,174人(62.4%)です。そして外国人宿泊者を国籍別でみると、第1位が米国、第2位が韓国、第3位が台湾、第4位が中国、第5位がオーストラリアであった、と書かれています。届出住宅に泊まる人の6割以上が外国人で、その上位に韓国が入っている、という構図です。
同じ資料には、この集計が届出住宅からの定期報告にもとづくもので、報告件数は34,902、報告率は84.7%だったと示されています。届出住宅数は5月31日時点で41,207です。報告率が100%ではないため、この数値は届出住宅すべての実績ではありません。集計の対象期間と報告率をあわせて引くのが前提になります。読み方は民泊の統計と民泊の宿泊者数にまとめています。
入国の側も見ておきます。日本政府観光局が2026年8月19日に公表した訪日外客数(2026年7月推計値)では、7月の訪日外客数は3,442,100人で、前年同月比0.1%増となり、7月として過去最高を記録したとされています。同じ発表では、韓国を含む17市場が7月として過去最高を記録したことも示されています。ただし訪日外客数は入国した人の数であり、宿泊の統計とは数える対象も単位も違います。二つを割り算して1人あたりの泊数を出すような使い方はできません。この違いは国籍別の訪日客数の見方と訪日外国人数の推移で詳しく扱っています。
この発表に記載がないこと
読みたくなる項目のうち、この発表からは埋まらないものを、推測で補わずに並べます。
- 協力覚書の条項。目的だけが示され、内容の記載はありません
- 協力覚書の署名時期と、協議の開始・完了の見通し。記載はありません
- 確認文書の5項目それぞれの期限、数値目標、実施主体、予算。記載はありません
- 次回開催の都市名と日程。日本で開催することだけが決まったと書かれています
- 出席者の人数。日韓とも末尾が「他」で、内訳はありません
- 日韓観光ビジネスフォーラムに参加した事業者の名前と業種、社数
- 民泊・住宅宿泊事業との関係。今回の発表に言及はありません
書かれていない項目が多いのは、これが協議会の開催結果を伝えるトピックスだからです。合意の中身は、確認文書の別添と、今後公表される個々の事業の側にあります。
民泊を運営する側からの受け止め方
この発表から持ち帰れることは、多くはありません。それでも次の3点は押さえておけます。
ひとつめは、いま署名されたのは確認文書であって協力覚書ではない、という事実です。人に説明するときや、記事を引用するときに、この二つを取り違えると、まだ存在しない合意を前提にすることになります。発表の述語をそのまま使うのが確実です。
ふたつめは、5項目がいずれも方向性の見出しにとどまっている、という点です。地方観光の活性化やAIを基盤とした産業の高度化は、宿の運営に関わりそうな言葉ですが、対象も手段も書かれていません。自分の施設が関係する事業があるかどうかは、公募や補助の情報が実際に出た段階で、その要領を読んで判断することになります。見出しの言葉から支援を期待して準備を始める段階ではありません。
みっつめは、それでも韓国からの旅行者は、届出住宅の宿泊者として実際に上位にいる、という点です。国籍別の第2位という位置づけは、観光庁の施行状況で確かめられます。制度の話が動くかどうかとは別に、いま自分の施設に泊まっている人の構成を、公表値で定期的に確かめておくことには意味があります。外国語での案内をどこまで用意するかは民泊のチェックイン案内に、届出住宅の宿泊実績の読み方は民泊の統計に整理しています。制度の適用や解釈について判断が必要な場合は、この記事ではなく、届出先の都道府県知事等の窓口に直接確認してください。
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