民泊が全国にどれだけあり、どれだけ泊まられているかを調べると、たいていは観光庁が民泊制度ポータルサイトで公表している「住宅宿泊事業法の施行状況」というページに行き着きます。件数も実績もここに載っているので、一見すると探しものはすぐ終わります。ところが、この1ページの中に性質の違う数字が同居していて、そのまま引き写すと意味の違うものを並べてしまいます。
先に結論を三つ書きます。届出件数と届出住宅数は別の数字です。前者は制度が始まってからの累計で、後者は事業廃止を差し引いて残っているものです。次に、宿泊実績には宿泊日数・宿泊者数・延べ宿泊者数という三つの単位があり、それぞれ数えているものが違います。そして三つ目に、あわせて示される「届出住宅あたり」の値は、届出住宅の数ではなく報告のあった件数で割った値です。
この記事では、民泊の数字が制度ごとにどこへ分かれているか、届出の件数をどう読み分けるか、宿泊実績がどうやって作られているか、三つの単位が何を表しているか、都道府県別に見るとどこが偏っているか、そしてこれらを自分の物件の判断へどこまで持ち込めるかを、公表資料の表記にそって整理します。ページに書かれていない項目は、推測で埋めずに記載がないと書きます。
民泊の数字は、制度ごとに別のところが公表している
「民泊」と呼ばれている営業には制度がいくつかあり、統計もそれぞれ別のところが出しています。だからこそ、件数を語るときは、どの制度の数字なのかを先に決めなければいけません。
住宅宿泊事業法にもとづく民泊、いわゆる民泊新法の届出住宅は、観光庁が民泊制度ポータルサイトで公表しています。届出件数、届出住宅数、住宅宿泊管理業と住宅宿泊仲介業の登録件数、そして宿泊実績が、同じページにまとまっています。この記事で扱うのは主にこの資料です。
国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業、いわゆる特区民泊は、内閣府の地方創生推進事務局が所管しています。制度を説明するページには「国家戦略特区 特区民泊の実績」という資料が置かれていますが、認定件数や居室数といった数値はページの本文には出てこず、別のPDF資料にまとめられています。確認した時点での更新表記は令和8年7月9日でした。制度そのものの説明は観光庁のポータルサイトにもありますが、そちらにも件数の掲載はありません。制度の中身は特区民泊とは何かで扱っています。
旅館業法の簡易宿所営業として運営しているものは、また別です。施設数は厚生労働省の衛生行政報告例に含まれ、旅館・ホテル営業の施設数・客室数とあわせて、都道府県・指定都市・中核市別の表として政府統計の総合窓口で公開されています。住宅宿泊事業と簡易宿所の制度上の違いは簡易宿所と民泊の違いにまとめました。
つまり、「日本の民泊は何件」という問いに、ひとつの資料で答えることはできません。三つの制度の数字は、集計している主体も、集計の単位も、更新の間隔も違うためです。足し合わせた数を示したい場合は、それぞれの出典と基準日を並べて書いてください。
届出件数と届出住宅数は、同じものではない
住宅宿泊事業法の施行状況のページには、令和8年7月15日時点として次の値が並んでいます。
| 項目 | 公表されている件数 |
|---|---|
| 住宅宿泊事業の届出件数 | 65,837件 |
| うち事業廃止 | 23,767件 |
| 届出住宅数 | 42,070件 |
| 住宅宿泊管理業の登録件数 | 4,529件 |
| 住宅宿泊仲介業の登録件数 | 66件 |
いちばん上の届出件数は、制度が始まってからの累計です。そこから事業廃止を引いたものが、いま届出が残っている住宅の数にあたります。
この二つは、記事や資料の中でしばしば同じ「民泊の件数」として扱われます。けれども、累計のほうを「いま営業している民泊の数」として引用すると、すでにやめたものまで数に入れることになります。逆に、届出住宅数だけを見ていると、参入と撤退がどれだけ動いているかが見えません。片方だけを取り出さず、二つ並べて書くのがいちばん誤解が少なくなります。
管理業と仲介業の登録件数も、同じページにあります。住宅宿泊管理業者は、家主不在型の届出住宅で管理業務の委託先になる事業者です。委託が必要になる条件は住宅宿泊事業者とは何かで説明しています。委託先を探す立場からすると、登録件数は選択肢の広さの目安になりますが、地域ごとの分布はこのページには記載がありません。
宿泊実績は、2か月ごとの定期報告を集計したもの
同じページの後半に、宿泊実績が載っています。ここが件数の話と混ざりやすいところです。
観光庁はこの集計について、住宅宿泊事業法第14条にもとづく住宅宿泊事業者からの定期報告をとりまとめたものだと説明しています。住宅宿泊事業者は、届出住宅の宿泊日数などを2か月ごとに都道府県知事等へ報告することになっており、その報告を集めたものが公表されています。宿泊施設へ調査票を配って回収する宿泊旅行統計調査とは、作られ方がまったく違います。
確認した時点で公表されていたのは、令和8年4月1日から令和8年5月31日までの実績です。集計の前提として、届出住宅数41,207、報告件数34,902、報告率84.7%と記されています。
ここで、ページの上のほうにある届出住宅数42,070件と、宿泊実績の欄にある41,207が一致しないことに気づきます。上の数値には令和8年7月15日時点という基準日が添えられていますが、宿泊実績の側の届出住宅数がいつ時点のものかは、このページに明記されていません。対象期間が4月から5月であることを踏まえると別の時点の数と読めますが、断定できる記載がないので、ここでは二つを同じものとして扱わないという扱いにとどめます。
報告率84.7%という数字も、そのまま覚えておいてください。報告のなかった住宅の分は、以下の実績にいっさい含まれていません。実績の集計が全数調査ではないことを示す、いちばん重要な注記です。
更新の間隔にも注意が要ります。報告そのものが2か月ごとなので、公表される実績も2か月ぶんが一括で出てきます。先月の稼働がどうだったかを知りたいという用途には向きません。
「届出住宅あたり」の値は、報告のあった件数で割っている
宿泊実績には、合計だけでなく「届出住宅あたりでみると」という形の値が添えられています。宿泊日数なら17.9日、宿泊者数なら18.0人、延べ宿泊者数なら50.0人泊です。この「あたり」の分母が何かを確かめておくと、数字の意味が変わります。
宿泊日数の合計624,088日を報告件数34,902で割ると17.9になり、公表されている値と一致します。宿泊者数626,765人も、延べ宿泊者数1,745,359人泊も同じで、報告件数で割ると公表されている18.0人と50.0人泊になります。届出住宅数のほうで割った場合は、どれも別の値になります。
つまり「届出住宅あたり」は、報告を出した住宅の平均です。全国の届出住宅を平均した値ではありません。報告を出していない住宅がまったく稼働していなかったとすれば、全届出住宅で平均した実際の水準はこれより低くなります。逆に、報告漏れが稼働している住宅で起きているなら差は小さくなります。どちらなのかは公表資料からは分かりません。
この割り算は、公表値どうしを突き合わせて確かめたものです。ページに計算式が書かれているわけではないので、資料へ引用するときは「報告のあった件数あたり」と書き添えると、読んだ相手が同じ確認をやり直せます。
宿泊日数・宿泊者数・延べ宿泊者数は、別のものを数えている
三つの単位を並べると、それぞれが答えている問いの違いがはっきりします。
| 単位 | 全国の合計 | 前年同期比 | 届出住宅あたり |
|---|---|---|---|
| 宿泊日数 | 624,088日 | 138.6% | 17.9日 |
| 宿泊者数 | 626,765人 | 130.1% | 18.0人 |
| 延べ宿泊者数 | 1,745,359人泊 | 133.0% | 50.0人泊 |
宿泊日数は、その住宅に人を宿泊させた日数です。何人が泊まっていても、1日は1日として数えます。住宅宿泊事業では人を宿泊させる日数に上限が置かれており、その上限は年間提供日数180日として制度の説明に明記されています。宿泊日数は、この上限と同じ数え方の系列にある値です。数え方の細かい部分は民泊の180日をどう数えるかで扱っています。
宿泊者数は人の数で、延べ宿泊者数は人数に泊数を掛けたものです。だから延べ宿泊者数を宿泊者数で割ると、一人あたり何泊したかが出ます。この値は都道府県別に示されていて、東京都が3.9泊で最も多く、次いで京都府が3.0泊と公表されています。それ以外の都道府県の一人当たり宿泊日数は記載がありません。
三つの前年同期比が揃っていないところも読みどころです。宿泊日数が138.6%で最も高く、宿泊者数は130.1%にとどまります。日数の伸びが人数の伸びを上回っているということは、同じ人数でもより長く貸し出された、あるいは1回あたりの滞在が伸びたという方向を示しますが、公表資料はその理由まで説明していません。
なお、延べ宿泊者数という単位は宿泊旅行統計調査でも使われます。単位が同じなので比べたくなりますが、対象となる施設の範囲も集計の方法も違うため、割合を出したり差を取ったりはできません。国籍の内訳をどこまで見られるかは国籍別の訪日客数はどの統計で見るかにまとめてあります。
都道府県別に見ると、全国の値は東京都を強く映している
同じ実績が、都道府県別にも公表されています。上位3都道府県は次のとおりです。
| 都道府県 | 宿泊日数 | 宿泊者数 | 延べ宿泊者数 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 362,082日 | 249,939人 | 976,859人泊 |
| 北海道 | 33,094日 | 37,591人 | 95,646人泊 |
| 京都府 | 32,218日 | 29,851人 | 88,969人泊 |
東京都と2位以下の差は、順位の差というより桁の差です。この形をしている以上、全国の合計から作った平均は、東京都の状況をほぼそのまま反映します。地方で運営している人が「届出住宅あたり17.9日」を自分の物件の目安として受け取ると、実態と離れる可能性が高くなります。
宿泊日数と宿泊者数で、順位のつき方が少し違うことにも触れておきます。北海道は宿泊者数では東京都に次ぎますが、京都府との差は宿泊日数のほうが小さくなっています。人の数と日数のどちらで見るかによって、地域の並びは変わります。立地を選ぶときに何を見るかは民泊の立地の選び方で扱っています。
なお、都道府県より細かい市区町村別の実績は、このページには記載がありません。自分の営業する区や市の水準を知りたい場合は、届出先の自治体が独自に公表している資料を探すことになります。
この数字を自分の物件へ持ち込むときの境界
最後に、使える場面と使えない場面を分けます。
使えないのは、公表値から自分の売上を導くことです。届出住宅あたりの宿泊日数も延べ宿泊者数も、全国を集めて報告のあった件数で割った値であり、部屋の広さも定員も地域も価格帯もばらばらなものを一緒にしています。売上の見積もりは、営業できる日数と定員の上限、そして自分の予約実績から組み立てるものです。手順は民泊の売上予測はどう立てるにあります。
使えるのは三つあります。一つ目は、制度全体がどちらへ動いているかの確認です。届出件数と事業廃止の両方を並べて追えば、参入と撤退のどちらが強いのかを、自分の感覚ではなく公表値で確かめられます。二つ目は、事業計画や融資の説明資料へ市場の背景を書くときの根拠です。前年同期比のように公表されている値をそのまま引き、対象期間と報告率を添えれば、読んだ相手が同じページで裏を取れます。三つ目は、比較の相手を選ぶときの目安です。全国平均ではなく、自分の地域が上位に入っているのか、それとも記載がない規模なのかを先に確かめると、そもそも全国値と比べるべきかどうかが判断できます。
引用するときに必ず書き添えたいのは、基準日と対象期間、そして報告率です。件数は令和8年7月15日時点、実績は令和8年4月1日から5月31日まで、報告率は84.7%。この三つが揃っていれば、数か月後に自分で見返したときも、更新されたのか誤りなのかを区別できます。
このページは2か月ごとに更新されます。次に同じ数字を使うときは、記憶や手元のメモではなく、必ず出典のページを開き直してください。
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