立地選びでは、需要を考える前に、その場所で営業できるかを確かめる必要があります。宿泊需要が見込める地域であっても、制度と条例によって営業できない、あるいは営業できる時期が限られることがあるためです。順序を逆にすると、需要の分析に時間をかけたあとで、その地域では計画が成り立たないと分かります。
そのうえで需要をどう見るかですが、ここでは、「この地域は儲かる」といった判断を示しません。地域ごとの収益性を示す公的な統計を確認できなかったためです。示せるのは、公表されている数字が何を表しているのか、そこから何が読めて何が読めないのかまでです。
この記事では、制度と条例による立地の制約、公表されている届出状況の読み方、そして立地を比べるときの観点を整理します。物件そのものの判定基準は民泊物件の選び方で扱っています。
用途地域で、選べる制度が決まる
立地の話は、駅からの距離より先に用途地域から始まります。用途地域は市町村の都市計画で定められ、その土地に建てられる建物の用途を決めます。民泊で効いてくるのは、住居専用地域かどうかという一点です。
観光庁は3つの制度を比較して、住居専用地域での営業について次のように示しています。旅館業法(簡易宿所)では不可、国家戦略特区法(特区民泊)では可能(認定を行う自治体ごとに制限している場合あり)、住宅宿泊事業法では可能(条例により制限されている場合あり)です。
この違いは、探す地域の範囲を最初に決めます。年間を通して営業したい、つまり旅館業法の許可で進みたいのであれば、住居専用地域は候補から外れます。住宅宿泊事業法の届出で進むのであれば住居専用地域も選べますが、年間提供日数は180日以内になります。
特区民泊は、国家戦略特区の区域として指定された地域でのみ取り組まれています。観光庁は東京都大田区をはじめとして、大阪府や大阪市などを例に挙げています。制度そのものが使える地域が限られるため、立地の選択肢としては最初から範囲が決まっています。
用途地域そのものは、このサイトでは判定できません。土地ごとに市町村が定めるもので、同じ町名の中でも通りを挟んで変わります。候補地の用途地域は、市町村の都市計画課か、自治体が公開している都市計画図で確認してください。
用途地域を先に確かめる利点は、それ以上検討する意味があるかが一度で決まることです。住居専用地域なら旅館業法の許可は取れないため、年間180日を超えて営業したい計画はその時点で成り立ちません。逆に住居専用地域でなければ、届出と許可の両方が選択肢に残ります。どちらで進むかの比較は簡易宿所と民泊の違いにまとめています。
条例による制限を先に調べる
住宅宿泊事業法で進む場合、立地に関する最大の変数は条例です。都道府県等は、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するために必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、区域を定めて住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができます。
つまり、同じ制度でも自治体によって営業できる期間が違うことがあります。年間提供日数の上限が180日であっても、条例でさらに短い期間しか営業できない地域では、収入の上限がそのぶん下がります。立地を比べるなら、この制限の有無は賃料や駅からの距離より先に見るべき項目です。
調べ方は公表されています。観光庁は民泊制度ポータルサイトに「各自治体の情報・窓口案内」を用意し、条例制定状況の一覧や、各自治体の主な条例内容をまとめた資料、都道府県別に整理された担当部署と連絡先の一覧を掲載しています。候補地が複数あるなら、ここで横並びに確認できます。
公表されている届出状況から読めること
観光庁は住宅宿泊事業法にもとづく届出と登録の状況を公表しています。令和8年7月15日時点で、住宅宿泊事業の届出件数は65,837件、うち事業廃止件数が23,767件、届出住宅数は42,070件です。あわせて、住宅宿泊管理業の登録件数は4,529件と示されています。
比較の材料として、平成30年6月15日時点における住宅宿泊事業の届出件数は2,210件と記載されています。住宅宿泊事業法の施行時点と現在を並べると、届出の累計が大きく増えていることが分かります。
このページには都道府県等ごとの届出の状況も掲載されており、地域別の届出状況を一覧やマップの形で確認できます。候補地にどれだけの届出住宅があるかは、ここで調べられます。
数字から読めないこと
一方で、この統計から読み取ってはいけないことがあります。
届出が多い地域は儲かる、とは読めません。届出件数は供給の側の数字であり、宿泊者がどれだけいるか、稼働がどの程度かを示すものではありません。届出が多い地域は競合も多い、という読み方も同じ理由で断定できません。
廃止の理由も読めません。届出件数の累計に対して事業廃止件数が相当数にのぼっていますが、廃止の理由は公表されていません。採算が合わなかったのか、物件を売却したのか、制度を旅館業法へ切り替えたのかは区別できません。「廃止が多い=その地域は難しい」と結論づけることはできません。
将来の需要も読めません。過去の届出状況は、これからの宿泊需要を保証するものではありません。地域ごとの収益性を示す公的な統計を確認できなかったため、この記事では地域の優劣を示しません。
数字の意味も取り違えないでください。届出件数は届出の累計であり、事業廃止件数を差し引いたものが、現に届出住宅として残っている数になります。地域別に比べるときも、累計と現在の数のどちらを見ているのかを確かめてから比較してください。
数字は、候補地の状況を把握する材料として使ってください。判断の根拠にできるのは、自分で確かめられる範囲に限られます。
立地を比べるときに確かめられること
推測を避けたうえで、それでも比較できる項目はあります。いずれも自分で確認できるものです。
制度と条例の制約は確認できます。住居専用地域かどうか、条例で実施期間が制限されているかどうかは、自治体に問い合わせれば分かります。ここで営業できる日数の上限が決まります。
物件の条件も確認できます。同じ地域でも、設備要件と居住要件を満たす物件が見つかるかどうかは物件次第です。管理規約で禁止されている建物が多い地域では、選択肢が狭まります。
運営の実現性も確認できます。自分がその物件に通える距離か、宿泊者がいる間に在宅できるか、委託するなら委託先が対応している地域か。人を宿泊させる間に不在等となる場合は住宅宿泊管理業者への委託が義務になるため、委託先が見つかる地域かどうかは実務上の制約になります。住宅宿泊管理業者の登録件数は公表されていますが、どの地域に対応しているかは各社に確認する必要があります。
近隣への対応のしやすさも見ておきます。住宅宿泊事業者は、届出住宅の周辺地域の住民からの苦情および問合せについて、適切かつ迅速に対応しなければなりません。現地に赴く必要が生じたときに動ける距離かどうかは、立地の条件の一つです。
立地を決める順序
まず制度を決め、次に候補地の条例を調べ、そこで営業できる日数を確定させます。そのうえで物件を探し、運営の実現性を確かめます。需要の見込みは最後に置き、確認できた事実と、仮定に過ぎない部分を分けて記録してください。
需要の予測は誰にもできません。できるのは、営業できる日数の上限、確保できる定員、発生する固定費といった確定できる数字を先に押さえ、そのうえでどれだけ稼働すれば成り立つかを計算することです。その計算の仕方は民泊のランニングコストと民泊経営の始め方で扱っています。
物件の探し方は民泊物件の探し方、地域の統計をさらに追う場合は民泊・旅行データのカテゴリで扱う予定です。条例と届出状況は更新されるため、実際の数値は観光庁のページと自治体の窓口で確認してください。
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