民泊の開業費用について、最初にお伝えしておくことがあります。このページでは「相場はいくら」という数字を示しません。物件を買うのか借りるのか、改修が要るのか要らないのか、どの制度で営業するのか、備品をどこまで揃えるのかで金額の桁が変わるうえ、全国の開業費用を集計した公的な統計を確認できなかったためです。
代わりに扱うのは、費用の項目を漏れなく洗い出す方法と、区分ごとの内訳、金額を左右する要因、そして公表されている数字で確かめられる部分です。見積もりで最も危険なのは、金額を外すことではなく、項目そのものを忘れることです。忘れた項目は交渉も比較もできず、そのまま計画外の支出になります。
支払いの時期で整理したい場合は民泊の初期費用はいくらかかるを、揃えるものそのものの一覧は民泊開業で必要な準備を参照してください。
費用は5つの区分で洗い出す
開業費用は、性質の違う5つに分けると漏れが出にくくなります。物件にかかるもの、建物と設備にかかるもの、備品にかかるもの、手続きにかかるもの、開業準備の運転資金です。
物件にかかるものは、購入なら取得の代金と諸費用、賃借なら敷金・礼金・仲介手数料・前家賃が入ります。建物と設備にかかるものは、住宅の要件を満たすための工事と、宿泊者の安全のための設備です。住宅宿泊事業者には、非常用照明器具を設けること、避難経路を表示することが求められるため、これらは開業前の支出になります。旅館業法の許可で進む場合は、使用する施設の構造設備が基準を満たす必要があり、工事の範囲が変わります。
備品にかかるものは、寝具、家具、家電、調理器具、消耗品です。手続きにかかるものは、添付書類の取得費用と、制度によっては申請手数料です。運転資金は、開業してから入金があるまでの間に出ていく費用で、光熱費や通信費、委託費が含まれます。
金額が変わる理由は制度と物件にある
同じ設備を揃えても、条件が違えば総額は変わります。変動の要因は主に4つです。
1つ目は制度の選択です。住宅宿泊事業法の届出で進むか、旅館業法の許可で進むかで、必要な構造設備が変わります。観光庁は、旅館業法の許可の取得にあたっては使用する施設の構造設備が基準を満たす必要があると説明しています。
2つ目は物件の状態です。台所、浴室、便所、洗面設備がすでに揃っているかどうかで、工事の有無が決まります。これらの設備は、必ずしも独立している必要はなくユニットバス等も認められ、浴室は浴槽が無くてもシャワーがあれば足りるとされています。既存の設備をそのまま使えるかどうかは、この基準に照らして判断します。
3つ目は運営の形です。人を宿泊させる間に不在等となる場合、または一の届出住宅の居室の数が5を超える場合は、住宅宿泊管理業者への委託が義務になります。委託費は開業後の固定的な費用として、開業前の資金計画にも影響します。
4つ目は消防の判断です。必要な消防用設備は建物の使い方と規模で変わり、判断は消防部局が行います。設備の追加が必要になれば、その工事費と工期が加わります。
公表されている数字で確かめられる部分
費用の全体像は物件次第ですが、書類の取得にかかる費用は公表されています。届出の添付書類には住宅の登記事項証明書が含まれるため、この手数料は事前に確かめられます。
法務省は、登記事項証明書(謄抄本)の手数料について、令和7年4月1日からの区分として、書面請求は600円、オンライン請求で送付を選ぶ場合は520円、オンライン請求で窓口交付を選ぶ場合は490円としています。請求の方法によって金額が変わるため、複数通が必要なら差が積み上がります。
このほかの書類、たとえば破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村長の証明書などは、手数料が自治体の条例で定められています。金額は自治体ごとに異なるため、ここでは示しません。旅館業法の許可の申請手数料も同様に条例で定められています。窓口で確認してください。
なお、官公署が証明する書類は届出日前3月以内に発行されたものに限られ、写し等は認められません。取り直しになれば同じ手数料がもう一度かかります。取得の時期は費用にも効いてきます。
支出が経費になるか資産になるかで扱いが変わる
見積もりを立てるときに混同しやすいのが、支払った金額と、その年の必要経費になる金額は同じではないという点です。
国税庁は、事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は一般的には時の経過等によってその価値が減っていくとし、これらを減価償却資産として扱うとしています。そのうえで、使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のものは、その取得に要した金額の全額を業務の用に供した年分の必要経費とするとしています。
取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、その全部または一部を一括して3年間で必要経費に算入する一括償却資産の扱いが示されています。また、一定の要件を満たす青色申告者が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得した場合の特例もあり、その事業年度における取得価額の合計額300万円を限度として、全額を必要経費に算入できるとされています。特例には適用期限が定められているため、適用の可否は国税庁のページで最新の内容を確認してください。
備品を1点ずつ買うか、まとめて買うかで扱いが分かれることがあります。見積もりの段階で、金額だけでなく1点あたりの価格も控えておくと、あとで整理しやすくなります。
区分ごとの内訳と、見落とされやすい2つの費用
5つの区分を、実際に見積書が分かれる単位まで割ると次のようになります。物件は取得代金または敷金・礼金・仲介手数料・前家賃。建物と設備は内装工事、水回りの改修、消防用設備。備品は寝具、家具、家電、調理器具、消耗品。手続きは添付書類の取得費用と、制度によっては申請手数料。運転資金は光熱費、通信費、委託費です。
このうち見落とされやすいのが、消防と仕組みにかかる費用です。どちらも見積書を取る相手が最初は分からず、金額の欄が空いたまま計画が進みがちです。
消防にかかる費用は、必要な設備が建物の使い方と規模で変わるため、事前に自分で確定できません。判断は消防部局が行い、観光庁は事業者が誤った判断をした場合は消防法違反になる可能性があるとして、事前相談を勧めています。家主居住型で宿泊室の床面積が50㎡以下であれば消防法令上は住宅として取り扱われ、住宅用火災警報器の設置が必要になる場合もあるとされていますが、50㎡を超える場合は旅館、ホテル等と同様の防火対策が必要になります。工事が発生するかどうかで金額の桁が変わるため、相談は早いほど計画が安定します。
仕組みにかかる費用は、届出と運営を回すための手段です。住宅宿泊事業の届出は原則として民泊制度運営システムを利用して行い、定期報告も同じシステムで行えます。加えて、宿泊者名簿を本人確認のうえ作成して三年間保存する手段、非対面で本人確認を行うなら自ら用意する機器、予約を受け付ける経路が必要になります。観光庁は、宿泊者所有のスマートフォン等による本人確認について、適切な代替措置をあらかじめ用意せずに行うことは認められないとしています。
家具と備品の数量は、間取りではなく定員から決まります。居室の床面積は宿泊者1人当たり3.3㎡以上を確保することとされているため、泊められる人数の上限が先に決まり、寝具や食器の必要数はそこから逆算できます。先に人数を出しておくと、買いすぎも買い足しも減ります。
義務から逆算すると見落としが減る
費用の項目は、思いつきで並べるより、住宅宿泊事業者に求められる措置から逆算したほうが漏れません。措置ごとに、必要な物や仕組みが対応しているためです。
宿泊者の衛生の確保からは、清掃と換気の手段、そして清掃を外注するならその費用が出てきます。安全の確保からは、非常用照明器具と避難経路の表示物が出てきます。外国人観光旅客への対応からは、設備の使用方法、移動のための交通手段、災害時の通報連絡先を外国語で案内する資料の作成費が出てきます。宿泊者名簿の備付けからは、本人確認の手段と、作成の日から三年間保存するための保管方法が出てきます。周辺地域への悪影響の防止からは、騒音やごみに関して配慮すべき事項を説明する書面が出てきます。標識の掲示からは、届出住宅ごとの標識の作成費が出てきます。
これらは1点あたりの金額は大きくありませんが、項目数がまとまると無視できません。しかも、いずれも営業開始の時点で揃っている必要があります。あとから足す前提で計画すると、開業日を動かすことになります。
見積もりの立て方
順序としては、項目を先に並べ、金額はあとから埋めます。5つの区分で項目を書き出し、そのうち自分の物件で発生しないものを消し、残った項目に見積もりを取ります。金額の欄が埋まらない項目は空欄のままにして、確認できていないことが分かる形で残してください。埋めてしまうと、根拠のない数字が計画に混ざります。
見積もりを取る先は、工事は施工業者、備品は販売店、委託費は住宅宿泊管理業者、仲介手数料は住宅宿泊仲介業者です。いずれも各社が条件を公表しているか、問い合わせれば提示されます。他の施設の事例や、まとめ記事の平均値を当てはめないでください。立地も部屋数も違う数字で計画を立てることになります。
費用を時期で並べ直したい場合は民泊の初期費用はいくらかかる、収支の組み立て方は民泊経営の始め方を参照してください。手数料と税の扱いは改定されることがあるため、実際の金額は法務局と国税庁、所轄の税務署で確認してください。
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