開業資金でよくある読み違いは、開業までの支出だけを数えてしまうことです。民泊は営業を開始してから入金が始まるため、開業日を迎えた時点で手元が空だと、最初の入金までに出ていく費用を払えません。必要な資金は「開業までの支出」と「最初の入金までの運転資金」の合計になります。
必要額そのものは、このページでは示しません。物件と工事の範囲で桁が変わり、全国の開業資金を集計した公的な統計を確認できなかったためです。扱うのは、必要額の組み立て方と、自己資金と借入の配分を考えるときの材料、公表されている公的な融資制度の条件、そして事業計画書に何を書くかです。
費用の項目そのものは民泊の開業費用はいくら、支払いの時期は民泊の初期費用はいくらかかるで扱っています。
必要な資金は3つを積み上げて出す
用意すべき金額は、性質の違う3つを足したものです。
1つ目は開業までの支出です。物件、工事と設備、備品、手続きの費用がここに入ります。2つ目は最初の入金までの運転資金です。営業を始めても、宿泊料が手元に届くまでには間があります。その間も光熱費、通信費、委託費は出ていきます。委託が必要な場合、管理受託契約は届出より前に結ぶことになるため、開業前から費用が発生することもあります。
3つ目は想定外への備えです。消防への相談の結果として設備の追加が必要になる、書類の有効期間が切れて取り直しになる、といった事態は起こり得ます。金額を見積もれないからこそ、枠として持っておく性質のものです。
この3つを分けて持つと、資金が足りるかどうかの判断が具体的になります。総額だけで見ていると、どこを削れば足りるのかも分かりません。
収入の上限が制度で決まっている点を織り込む
返済を伴う資金計画では、収入の側にも制約があることを前提にします。住宅宿泊事業法の届出で営業する場合、人を宿泊させる日数は1年間で180日を超えられません。1年間は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までとして、届出住宅ごとに算定します。
つまり、稼働を上げれば収入が伸びるという関係には上限があります。営業日数の制限がない旅館業法の許可で進むのであればこの上限はありませんが、その場合は立地が制限され、構造設備の基準を満たす必要があるため、開業までの支出が増える方向に働きます。どちらの制度を選ぶかは、資金計画の前提そのものです。
固定的な費用も織り込みます。人を宿泊させる間に不在等となる場合、または一の届出住宅の居室の数が5を超える場合は住宅宿泊管理業者への委託が義務になり、その費用は稼働にかかわらず発生します。返済額を決めるときは、稼働が想定を下回った月にも出ていく費用がいくらあるかを先に確かめてください。
公的な融資制度の公表条件
自己資金だけで足りない場合、公的な融資制度が選択肢になります。ここでは条件が公表されているものを1つ紹介します。特定の制度を勧めるものではなく、条件を確かめる例として挙げます。
日本政策金融公庫は「新規開業・スタートアップ支援資金」について、次の内容を公表しています。利用できるのは、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方です。資金の使いみちは、新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金とされています。融資限度額は7,200万円です。返済期間は、設備資金が20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金が10年以内(うち据置期間5年以内)とされています。担保・保証人については、希望を聞きながら相談する形が示されています。
これは制度の枠組みであって、申し込めば利用できるという意味ではありません。利用にあたっては事業計画の策定と遂行能力が求められると示されており、審査があります。利率も条件によって分かれます。実際の可否と条件は、必ず公庫の窓口で確認してください。民間の金融機関にも創業向けの制度がありますが、条件は各社が定めるため、ここでは比較しません。
自己資金と借入の配分を考える材料
配分に正解の比率はありません。ただ、判断の材料になる事実はいくつかあります。
支出の一部は、その年の必要経費にならないという点はその一つです。国税庁は、建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は時の経過等によって価値が減っていくとして減価償却資産に位置づけ、使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のものは全額を業務の用に供した年分の必要経費とするとしています。取得価額が10万円以上20万円未満のものは、一括して3年間で必要経費に算入する扱いが示されています。手元から出る金額と、申告上の経費は一致しません。
収入が始まる時期と返済が始まる時期の関係も材料になります。据置期間が設けられている制度では、その間の返済負担が変わります。開業から安定するまでの期間をどう見込むかは、稼働の想定に依存するため、ここでは日数を示しません。自分の物件について、営業できる日数の上限と、想定する稼働を置いて計算してください。
事業計画で根拠を示せる部分と、示せない部分
融資を検討する場合、事業計画の提出を求められます。ここで役に立つのは、制度から導ける数字と、見積もりでしか出せない数字を分けて示すことです。分けておけば、どこが仮定でどこが確定なのかが 読み手に伝わり、質問にも答えやすくなります。
制度から導けるものは3つあります。1つ目は営業できる日数の上限です。住宅宿泊事業法の届出であれば1年間で180日を超えられず、届出住宅ごとに算定されます。2つ目は泊められる人数の上限です。居室の床面積は宿泊者1人当たり3.3㎡以上を確保することとされているため、間取りが決まれば定員の上限が決まります。3つ目は固定的に発生する費用の有無です。人を宿泊させる間に不在等となる場合や、一の届出住宅の居室の数が5を超える場合は委託が義務になるため、その費用が計画に必ず入ります。
見積もりでしか出せないものは、工事費、備品費、委託費や仲介手数料の水準、そして稼働の想定です。このうち工事費と備品費と委託費は、施工業者、販売店、住宅宿泊管理業者から見積もりを取れば確定できます。稼働の想定だけは確定できないため、仮定であることを明示したうえで、稼働が想定を下回った場合にどうなるかもあわせて示すのが誠実です。
計画のなかで最も危ういのは、稼働の想定を高く置いて返済額を組むことです。営業日数に上限がある以上、稼働の想定が外れたときに日数で取り返すことはできません。
事業計画書に何を書くか
融資や補助の申請では、事業計画書の提出を求められます。書式は提出先によって違いますが、民泊の場合に書く内容は共通しています。上で分けた「制度から導ける数字」と「見積もりや仮定になる数字」を、そのまま章立てにすると組み立てやすくなります。
事業の概要では、どの制度で営業するかを最初に書きます。住宅宿泊事業法の届出なのか、旅館業法の許可なのかで、営業できる日数も必要な手続きも変わるためです。あわせて、届出先の都道府県等、物件の所在地、建物の種別(一戸建ての住宅・長屋・共同住宅・寄宿舎の別)を記載します。
売上の計画では、営業できる日数の上限、定員、宿泊単価の順に示します。営業日数は届出で年間180日以内、定員は居室の床面積から宿泊者1人当たり3.3㎡以上を確保できる人数として、いずれも根拠を添えられます。そのうえで稼働の想定を置き、仮定であることを明記します。
費用の計画では、開業までの支出と、開業後に続く費用を分けます。開業後の費用は、稼働にかかわらず発生するものと、宿泊ごとに発生するものに分けておくと、稼働が想定を下回ったときの説明ができます。委託が義務になる場合は、委託費が固定的に発生することを明示します。
体制では、誰が運営するかを書きます。人を宿泊させる間に不在等となる場合、または一の届出住宅の居室の数が5を超える場合は住宅宿泊管理業者への委託が義務になるため、委託の要否とその理由を書けば、費用の裏づけにもなります。委託する場合は、届出の時点で管理受託契約が結ばれている必要があります。
進捗と予定では、承諾の取得、消防への相談、届出、営業開始の見込みを書きます。所要期間の目安を示す公表資料は確認できなかったため、日数を断定せず、どこで相手待ちが発生するかを説明するほうが実態に合います。
計画書で最も見られるのは、数字の大きさではなく整合性です。売上の想定と費用の想定が同じ前提の上に立っているか、根拠のある数字と仮定が区別されているかを、提出前に自分で確かめてください。収支の組み立て方は民泊の収支計画の作り方、売上側の計算は民泊の売上予測はどう立てるにまとめています。
資金計画を立てる順序
順序としては、支出の項目を先に確定し、運転資金の期間を決め、そのうえで不足額を出します。不足額が出てから、自己資金で埋めるのか借入を使うのかを検討します。先に借入額を決めると、その金額に合わせて計画を作ることになり、根拠が薄くなります。
見積もりが取れていない項目は空欄のまま残し、埋まっていないことが分かる形で金融機関にも示してください。推測で埋めた数字は、計画の説得力をむしろ下げます。
開業後に続く費用は民泊のランニングコスト、予算が限られる場合の考え方は民泊は100万円で始められるか、収支の組み立ては民泊経営の始め方で扱います。融資制度の条件は改定されることがあるため、最新の内容は日本政策金融公庫のページと窓口で確認してください。
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