「民泊は100万円で始められますか」という問いに、このページでは「はい」とも「いいえ」とも答えません。金額の可否を判定するには全国の開業費用の分布が必要ですが、それを集計した公的な統計を確認できなかったためです。確認できていない数字で「できる」「できない」と答えると、読んだ人の判断を誤らせます。
ただし、答えられることはあります。予算が足りるかどうかを決めているのは、金額そのものではなく3つの条件です。物件を借りるのか、工事が要るのか、運営を委託しなければならないのか。この3つが決まれば、自分の場合にいくら要るかは自分で計算できます。逆に、この3つが決まらないうちは、どんな予算額を置いても意味がありません。
この記事では、予算では削れない費用と調整できる費用を分けたうえで、可否を左右する3つの分岐を整理します。費用の項目そのものは民泊の開業費用はいくら、支払いの時期は民泊の初期費用はいくらかかるで扱っています。
予算では削れない費用がある
まず押さえておきたいのは、値切ることも省くこともできない費用が存在することです。法令や制度で求められているものは、予算が足りないからといって外せません。
住宅宿泊事業者には、居室の床面積を宿泊者1人当たり3.3㎡以上確保すること、清掃および換気を行うこと、非常用照明器具を設けること、避難経路を表示すること、火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置を講じることが求められます。外国人観光旅客である宿泊者に対しては、外国語を用いて設備の使用方法、移動のための交通手段、災害時の通報連絡先を案内することも必要です。宿泊者名簿は本人確認のうえ作成し、作成の日から三年間保存します。届出住宅ごとに標識を掲げる義務もあります。
書類の取得費用も同じです。届出の添付書類には住宅の登記事項証明書が含まれ、法務省は登記事項証明書(謄抄本)の手数料について、令和7年4月1日からの区分として、書面請求は600円、オンライン請求で送付を選ぶ場合は520円、オンライン請求で窓口交付を選ぶ場合は490円としています。1通あたりは小さくても、複数の書類を揃えれば積み上がります。
そして、委託が義務になる場合の委託費も削れません。人を宿泊させる間に不在等となる場合、または一の届出住宅の居室の数が5を超える場合は、衛生の確保などの措置を住宅宿泊管理業者に委託しなければならないと定められています。
予算で調整できる費用
一方、金額を動かせる費用もあります。ここが予算の調整弁になります。
備品のグレードと数量が代表です。寝具、家具、家電、調理器具はいずれも価格帯に幅があり、中古を使うこともできます。ただし数量は自由に減らせません。泊められる人数は居室の面積から決まるため、定員に見合った数は必要になります。定員を絞れば備品は減りますが、その分だけ1泊あたりの上限も下がります。
内装や写真撮影も調整できます。これらは制度上求められているものではないため、後回しにしても営業は始められます。ただし、宿泊者に選ばれるかどうかには影響します。削るなら、削った結果として何が起きるかを見込んだうえで判断してください。
書類の取得方法も小さいながら調整できます。登記事項証明書は請求方法で手数料が変わるため、通数が多いほど差が出ます。
予算の可否を決める3つの分岐
金額ではなく条件で考えると、可否は次の3つで決まります。
1つ目は、物件を借りるか、すでに持っているかです。借りる場合は敷金・礼金・仲介手数料・前家賃が契約時に出ていき、届出までの準備期間にも家賃が発生します。すでに住んでいる自宅を使う場合、この支出は発生しません。予算の制約が最も強く出るのがここです。
2つ目は、工事が要るかです。住宅宿泊事業を実施できる住宅には、台所、浴室、便所、洗面設備の4つが必要です。これらは必ずしも独立している必要はなく、ユニットバス等も認められ、浴室は浴槽が無くてもシャワーがあれば足り、便所は和式・洋式を問わないとされています。すでに揃っていれば工事は不要です。加えて、消防用設備の要否は建物の使い方と規模で変わり、判断は消防部局が行います。家主居住型で宿泊室の床面積が50㎡以下であれば消防法令上は住宅として取り扱われ、住宅用火災警報器の設置が必要になる場合もあるとされていますが、50㎡を超える場合は旅館、ホテル等と同様の防火対策が必要になります。
3つ目は、委託が要るかです。宿泊者がいる間に在宅していられて、居室の数が5を超えないのであれば、自分で運営できます。日中の勤務などで継続的に長時間不在となる場合は委託が必要です。委託費は開業前の一時的な支出ではなく、稼働にかかわらず続く費用になります。
この3つがすべて「不要」の側に寄る条件、たとえば自宅の空き部屋で、設備がすでに揃っていて、在宅して運営するという形であれば、必要な支出は備品と書類と案内資料に絞られます。逆に、借りた物件で工事が必要で委託も要るなら、同じ予算では届きません。
予算が届かないときに取れる選択肢と、取ってはいけない選択肢
3つの分岐を埋めた結果、予算に届かないと分かることがあります。そのときに検討できる調整と、検討してはいけない調整を分けておきます。
検討できる調整は、規模と時期です。定員を絞れば必要な備品が減ります。居室の数を絞れば、一の届出住宅の居室の数が5を超える場合の委託義務を避けられる可能性があります。賃借であれば、契約から届出までの期間を短くするほど、準備期間中に出ていく家賃が減ります。書類の取得順序を整えて取り直しを防ぐことも、小さいながら効きます。運営の形を見直して、宿泊者がいる間に在宅できるようにすれば、委託費という継続的な負担そのものが発生しません。
検討してはいけない調整は、法令や制度で求められているものを省くことです。非常用照明器具を設けない、避難経路を表示しない、宿泊者名簿を作らない、標識を掲げない、消防への相談をせずに開業する、といった圧縮は費用の削減ではなく義務の不履行です。観光庁は、消防法令に適合していない状態で事業を開始した場合、火災発生時に宿泊者の人命が損なわれる可能性があること、消防用設備等や防火管理体制の不備により消防署から行政指導を受けたり行政処分の対象となる場合があることを挙げています。
届出そのものを省くことも選択肢になりません。住宅を使って有償で繰り返し宿泊所として提供することは基本的に旅館業にあたるため、住宅宿泊事業の届出をせずに行うのであれば旅館業法に基づく許可が必要です。予算が理由で手続きを飛ばすと、費用の問題が法令の問題に変わります。
予算から考えるときの手順
先に予算額を決めてから物件を探すと、条件の合わない物件に予算を合わせようとして無理が出ます。順序としては、3つの分岐を自分の条件で埋め、そのうえで必要額を積み上げるほうが確実です。
手順としては、まず自宅か賃借かを決めます。次に、候補の物件が設備要件を満たすかを確認し、消防に相談して工事の要否を確かめます。最後に、宿泊者がいる間に在宅できるかを整理して委託の要否を決めます。ここまで済めば、見積もりを取るべき相手が確定します。
金額の欄が埋まらない項目は、空欄のまま残してください。予算に収めたいからといって、確認していない金額を小さく見積もると、開業後に足りなくなります。
必要な資金の考え方と公的な融資制度は民泊開業に必要な資金はいくら、開業後に続く費用は民泊のランニングコストで扱います。手数料と制度の運用は改定されることがあるため、実際の金額は法務局と、届出先の都道府県等の窓口で確認してください。
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