住宅宿泊事業法/解説

民泊の行政処分|業務改善・停止・廃止の三段と手前にある検査

住宅宿泊事業法の行政処分は業務改善命令・業務停止命令・事業廃止命令の三つです。手前にある報告徴収と立入検査、命令の前に置かれる意見陳述の手続、廃止を命じられても届出の効果が消えない理由を、条文と厚生労働省・観光庁の資料で確かめます。

苦情が続いている、自治体から連絡が来た、立入検査の日程を指定された。この段階で知りたいのは「何が起きるのか」ではなく、いま自分がどの段にいて、次に何が来るのかだと思います。住宅宿泊事業法の答えははっきりしています。命令は三つしかありません。業務改善命令(法第15条)、業務停止命令(法第16条第1項)、事業廃止命令(法第16条第2項)です。この三つ以外の名前で呼ばれているものは、命令ではありません。

区別の実益は小さくありません。三つの命令は行政手続法の不利益処分に当たるため、命令が出る前に、こちらが意見を述べる手続が法律で置かれています。一方、電話や文書で改善を求められている段階は行政指導で、行政手続法は行政指導を「処分に該当しないもの」と定義しています。同じ「言われている」状態でも、相手の権限と、こちらに与えられている手続が違います。

この記事は監督の側だけを扱います。起きる出来事そのものを相手別に並べたものは民泊のトラブル、刑罰の一覧と無届・無許可の扱いは民泊は無許可で営業できる?、届出後に続く業務の全体像は住宅宿泊事業者とは?にあります。ここでは、条文と通知で裏の取れる範囲に絞って、監督が進む順序と各段で使える手続を並べます。

先に書けないことも断っておきます。全国で何件の監督処分が行われているか、どの程度の事実がそろえば処分に至るかを集計した資料は、この記事では確認できませんでした(確認日 2026-10-30)。そのため件数と確率は書きません。残るのは、条文が定める要件と、通知が示す考え方だけです。

行政処分は三つだけで、手前に検査と指導がある

監督の規定は、法第15条から法第17条までの三つにまとまっています。命令が二つの条に分かれ、検査が一つの条に分かれている、という並びです。

条文の順番は、実務で進む順番とほぼ重なります。まず苦情や問合せが入ります。法第10条は、届出住宅の周辺地域の住民からの苦情及び問合せについては適切かつ迅速に対応しなければならない、と定めています。対応そのものが義務です。次に、都道府県知事等が状況を把握するために報告徴収と立入検査(法第17条第1項)を行います。そのうえで、命令が必要かどうかが判断されます。

その手前に、行政指導が入ることがあります。行政手続法第2条第6号は行政指導を「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう」と定義しています。同法第32条第1項は、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない、としています。指導の段で直せば、命令へは進みません。逆に、指導を受けた記録が残っている状態で同じことが続けば、次の段の材料になります。

住宅宿泊事業法の監督を、命令の手前にある苦情等への対応・報告徴収と立入検査・行政指導の三つと、業務改善命令・業務停止命令・事業廃止命令の三つの命令に分け、命令に違反したときの罰則を下段に並べた工程図
上の段はまだ処分ではありません。下の段の三つが不利益処分で、それぞれに違反したときの罰則が別に定められています。条文は住宅宿泊事業法第10条・第15条・第16条・第17条・第73条・第76条、行政指導の定義は行政手続法第2条第6号によります(確認日 2026-10-30)。

命令より先に来るのは、報告徴収と立入検査

法第17条第1項は、都道府県知事が住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要があると認めるときに、住宅宿泊事業者に対しその業務に関し報告を求め、又はその職員に、届出住宅その他の施設に立ち入り、その業務の状況若しくは設備、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる、と定めています。

読み方の要点は三つです。一つめは対象が「届出住宅その他の施設」まで及ぶこと。二つめは、検査の対象に帳簿書類が明記されていること。三つめは、関係者への質問が含まれていることです。設備を見るだけの手続ではありません。

同条第2項は、立入検査をする職員はその身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならないと定めています。そして第3項は、立入検査の権限は犯罪捜査のために認められたものと解してはならないとしています。この一文があるため、立入検査は行政の監督のための手続として位置づけられます。

応じなかった場合の扱いも決まっています。観光庁の民泊制度ポータルサイトは、報告徴収に応じない者または虚偽の報告をした者、立入検査を拒み・妨げ・忌避した者、質問に対して答弁しない者または虚偽の答弁をした者について30万円以下の罰金と整理しています。検査を断ることは、選択肢として用意されていません。

三つの命令は、条文の要件が別々に書かれている

三つを同じ「処分」でくくると、順番が必ず上から下へ進むように見えます。条文はそうなっていません。要件は別々に書かれており、期間の定めも一つにしかありません。

命令 根拠 条文が定める要件 期間の定め 違反したとき
業務改善命令 法第15条 住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要があると認めるとき。必要の限度において、業務の方法の変更その他業務の運営の改善に必要な措置をとるべきことを命ずる 定めはありません 30万円以下の罰金(法第76条)
業務停止命令 法第16条第1項 住宅宿泊事業者がその営む住宅宿泊事業に関し法令又は前条の規定による命令に違反したとき 一年以内の期間を定めて、業務の全部又は一部の停止 6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はこれの併科(法第73条第2号)
事業廃止命令 法第16条第2項 法令又は前条若しくは前項の規定による命令に違反した場合であって、他の方法により監督の目的を達成することができないとき 期間ではなく事業の廃止 6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はこれの併科(法第73条第2号)

表の二列目と三列目を並べると、構造が見えます。業務改善命令の要件は「必要があると認めるとき」で、違反を前提にしていません。業務停止命令は法令違反または改善命令違反が要件です。事業廃止命令はそれに加えて「他の方法により監督の目的を達成することができないとき」という条件が重なります。つまり、廃止命令は最後の手段として条文上も位置づけられています。

法第16条第3項は、前二項の規定による命令をしたときは、遅滞なく、その理由を示して、その旨を住宅宿泊事業者に通知しなければならないと定めています。理由を示すことが条文に書かれています。命令を受けた側が何に対する命令かを確かめる手がかりは、この通知です。

なお、観光庁のポータルサイトの罰則一覧は「6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金」という表記です。現行の条文は「六月以下の拘禁刑」となっています(厚生労働省の法令等データベースで確認日 2026-10-30)。刑の種類の名称が変わったもので、金額は同じです。

命令を出すのは都道府県知事等で、窓口は自治体ごとに分かれる

条文の主体は「都道府県知事」ですが、実際の窓口は都道府県だけではありません。観光庁の民泊制度ポータルサイトは、住宅宿泊事業に係る届出の受理・監督等の事務を処理する都道府県等の窓口と条例等の制定状況について、一覧表で確認するよう案内しています。

ここで押さえておきたいのは、届出を受けた窓口が、そのまま監督をする窓口になるという点です。届出のときに書類を出した相手と、報告徴収や立入検査に来る相手と、命令を出す相手が同じ系統になります。届出先が保健所設置市や特別区になっている地域では、監督もそちらの事務になります。

観光庁の民泊制度ポータルサイトで、住宅宿泊事業の届出の受理と監督の事務を処理する自治体の窓口一覧が地域別に並んでいるページのファーストビュー
引用キャプチャ 案内文に「届出の受理・監督等の事務を処理する都道府県等」と書かれています。届出と監督が同じ窓口の事務として並んでいることが、この画面から読み取れます。北海道・東北から九州・沖縄まで地域別に一覧が分かれています。 出典:各自治体の窓口案内(条例等の状況等)(観光庁 民泊制度ポータルサイト「minpaku」)(キャプチャの取得日 2026-09-21/記載は 2026-10-30 に確認/表示のファーストビュー)

命令の前に、意見を述べる手続が置かれている

ここが、指導と処分の最大の違いです。三つの命令はいずれも行政手続法の不利益処分に当たります。同法第2条第4号は不利益処分を「行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分」と定義しています。

不利益処分をしようとする場合の手続は同法第13条第1項にあります。第一号に挙げられた場合は聴聞、第一号イからニまでのいずれにも該当しないときは弁明の機会の付与です。第一号ロは「イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき」と書かれています。

厚生労働省と観光庁が連名で出した「住宅宿泊事業法に基づく行政処分を行う際の留意点について」(平成31年1月16日)は、業務改善命令、業務停止命令、事業廃止命令のいずれについても意見陳述のための手続を執る必要があるとし、事業廃止命令は第一号ロの「名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分」に該当するため聴聞の手続が必要としています。

二つの手続は方式が違います。弁明の機会の付与について、行政手続法第29条第1項は、弁明は行政庁が口頭によるものとすることを認めたときを除き、弁明書を提出してするものとする、としています。聴聞については、同法第15条第1項が、聴聞の期日までに相当な期間をおいて、予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項、不利益処分の原因となる事実、聴聞の期日及び場所を書面により通知しなければならないと定めています。

原因となる事実が書面で示されるということは、こちらが反論の材料をそろえられるということです。苦情への対応をいつ誰が行ったか、設備をいつ直したか、宿泊者へ何を説明したか。この種の記録は、命令が出てから作れるものではありません。

届出後に欠格事由に当たると、治癒の余地で分かれる

命令へ至る経路は、義務違反だけではありません。法第4条は住宅宿泊事業を営んではならない者として、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者、暴力団員等、法人でその役員がこれらに該当するものなど、複数の欠格事由を列挙しています。

届出のときに該当していなくても、あとから該当することがあります。前出の通知は、届出後に欠格事由に該当した場合はその時点で法に違反した状態になるとしたうえで、当該欠格事由が治癒される余地が見込める場合には業務停止を命じ、治癒される余地が見込めない場合には事業の廃止を命ずることが適切としています。

同じ通知は、業務改善命令の例として、転借物件の転貸の承諾の取下げやマンション管理規約の変更などによって、届出後に住宅宿泊事業の実施が制限される事情が生じた場合を挙げています。自分の落ち度がなくても、要件が崩れることはあるという前提で書かれています。

届出後に住宅宿泊事業法第4条の欠格事由に該当した場合、治癒される余地が見込めるかで業務停止命令と事業廃止命令に分かれることを示し、事業廃止命令を受けたあとに届出の効果が残ることと廃止の届出をしないときの過料までを鎖で並べた判断分岐図
分かれ目は「治癒される余地が見込めるか」の一点です。下段は、廃止を命じられたあとに事業者の側に残る手続です。考え方は厚生労働省・観光庁「住宅宿泊事業法に基づく行政処分を行う際の留意点について」、条文は住宅宿泊事業法第3条第6項・第4条・第16条・第79条と行政手続法第13条第1項によります(確認日 2026-10-30)。

廃止を命じられても、届出の効果は自動では消えない

通知が示しているなかで、いちばん見落としやすいのがこれです。事業廃止命令を行ったとしても、当然に法第3条第1項の届出の効果が消滅したものとして取り扱うことはできないとされています。届出の効果が消滅するのは、廃止を命じられた事業者が法第3条第6項の規定に基づいて事業の廃止の届出を行った時点です。

つまり、命令を受けた側にはまだ出すべき書類が残ります。そして、その届出を怠ったときの定めもあります。法第79条は、第3条第6項などの規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者を20万円以下の過料に処するとしています。

命令に従って営業をやめたことと、制度上の届出を終えることは別の事柄です。やめたつもりで手続が残っている状態は、それ自体が別の違反になり得ます。事業をやめる方向で話が進んだときは、廃止の届出まで含めて窓口に確認してください。

行政処分の線と、刑罰の線は別に走っている

ここまでに二種類の結果が出てきました。命令と、罰金や拘禁刑です。この二つは別の線です。命令を出すのは都道府県知事等で、根拠は法第15条と法第16条。罰則は法第73条や法第76条などに置かれ、判断するのは刑事手続を担う機関です。

二つの線が交わるのは、命令に違反したときです。業務改善命令に違反すれば30万円以下の罰金、業務停止命令または事業廃止命令に違反すれば6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はこれの併科という形で、命令違反そのものが罰則の対象になります。命令は「守らなくてもよい要望」ではありません。

住宅宿泊事業法の違反に対して走る二つの線を、判断する主体、根拠の条文、出てくる内容、前に置かれる手続、命令に違反したときの扱いという五つの軸で左右に並べ、立入検査の権限が犯罪捜査のために認められたものではないことを下段に添えた比較表
行政処分の線には意見陳述の手続があり、刑罰の線はそれとは別の手続で判断されます。立入検査の位置づけは法第17条第3項の一文で決まっています。この記事で扱うのは左側の線だけで、刑罰の内容は条文の定めを示すところまでにしています(確認日 2026-10-30)。

委託していると、監督は二つの系統から来る

住宅宿泊管理業者に管理業務を委託している場合、監督の相手が一つ増えます。観光庁は、住宅宿泊事業者、住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者の三者について、監督を行う行政機関が都道府県知事等、国土交通大臣、観光庁長官とそれぞれ分かれていると説明しています。自分への監督と、委託先への監督は、別の機関が別に行います。

委託先への監督は実際に動いています。国土交通省は令和7年度の住宅宿泊管理業者への全国立入検査の結果として、44業者に立入検査を実施し、うち35業者に是正指導を行ったと公表しています(報道発表 令和8年5月29日)。是正指導の内容として挙げられているのは、帳簿の備付け等義務違反、住宅宿泊事業者への定期報告義務違反、証明書の携帯等義務違反です。35業者すべてで是正等がなされたことを確認した旨も記載されています。項目ごとの件数は添付資料にあり、この記事では確認していません。

この三項目のうち二つめは、事業者の側から気づける種類のものです。管理業者から自分への定期報告が来ていない状態は、委託先の側の義務違反として指導の対象になっています。報告が止まっていることに気づかないまま、自分の定期報告の材料が不足していく、という連鎖も起こり得ます。委託の仕組みと契約前に確認する書面は民泊の運営代行で扱いました。

同じ報道発表は、今後の方針として、宿泊者による迷惑行為の発生やこれに対する事業者による迅速な対応が行われないといった、管理が適切に行われていない民泊について、特に重点的に立入検査等を通じた指導を行い、法令違反に対しては厳正かつ適正に対処するとしています。苦情への対応が遅いこと自体が、重点の対象として名指しされています。

検査で出せるようにしておく記録

法第17条第1項が検査の対象として帳簿書類を挙げている以上、準備できるのは記録です。命令の前に意見を述べる手続があっても、示せる記録がなければ述べる材料がありません。

記録・掲示物 根拠 検査や意見陳述で問われること 違反したときの扱い
宿泊者名簿 法第8条 備付けの場所と、記載すべき事項が埋まっているか 備付け義務の違反は30万円以下の罰金(法第76条)
都道府県知事等への定期報告 法第14条 定められた時期に報告しているか、内容が事実か 報告をしない、または虚偽の報告は30万円以下の罰金(法第76条)
標識 法第13条 届出住宅ごとに、見やすい場所に掲げているか 掲示義務の違反は30万円以下の罰金(法第76条)
届出事項の変更の届出 法第3条 届出の内容が現況と一致しているか 変更の届出をしない、または虚偽の届出は30万円以下の罰金(法第76条)
苦情及び問合せへの対応 法第10条 適切かつ迅速に対応したか 記録の様式と保存期間を定めた規定は確認できませんでした
管理受託契約の書面 - 委託が必要な場合に委託しているか、範囲がどこまでか 委託義務の違反は50万円以下の罰金

最後の二行には、性質の違いがあります。管理受託契約の書面と委託義務は、観光庁が整理する罰則の一覧に対応する項目が置かれています。一方、苦情及び問合せへの対応については、記録の様式や保存の期間を定めた規定を確認できませんでした(確認日 2026-10-30)。義務は法第10条にありますが、何をどう残すかは条文に書かれていません。

だからこそ、自分で決めておく部分になります。受けた日時、相手、申し出の内容、こちらが行ったこと、再発防止のために変えたこと。この五つが日付順に並んでいれば、適切かつ迅速に対応したかどうかの説明は組み立てられます。名簿の記載事項と保存の実務は民泊の宿泊者名簿、宿泊日数の数え方は民泊の180日にまとめました。

確かめられたことと、確かめられなかったこと

確かめられたのは、監督の規定が法第15条から法第17条までにまとまっていること、命令が業務改善命令・業務停止命令・事業廃止命令の三つであること、業務停止命令にだけ一年以内という期間の定めがあること、事業廃止命令には他の方法により監督の目的を達成することができないときという条件が重なること、命令をしたときは理由を示して通知しなければならないこと、立入検査の権限が犯罪捜査のために認められたものではないこと、三つの命令が不利益処分で意見陳述の手続が置かれ、事業廃止命令には聴聞が必要とされていること、事業廃止命令だけでは届出の効果が消滅せず廃止の届出が必要であること、そして届出を怠れば20万円以下の過料の定めがあることです。

確かめられなかったのは、全国の監督処分の件数と、処分に至る判断の目安です。観光庁は施行状況のなかで監督処分等の状況を公表していますが、この記事では数値まで確認できませんでした。そのため件数も確率も書いていません。出典が取れない限り、ここは空けておきます。

次にやることは、処分の重さを心配することではありません。いま来ている連絡が指導か処分かを確かめる。処分の予告であれば、書面に書かれた根拠の条項と原因となる事実を読む。そのうえで、名簿、定期報告、標識、苦情への対応の記録を日付順に並べる。意見を述べる手続は法律で与えられていますが、述べる材料はこちらで用意するほかありません。

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