「何デシベルから騒音になるのか」という問いには、公的な答えがあります。環境省が告示で、地域の類型ごとに昼間と夜間の数値を示しています。ただしその数値は、音を出している人を取り締まるための基準ではありません。環境基本法第16条が定めているのは「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」で、行政の施策が目指す水準です。
音を出す側に向けられた数値は、別の場所にあります。自治体の条例です。東京都の場合、区域と時間帯ごとにデシベルの上限が決まっていて、こちらは音を出している側が守る数値として置かれています。同じ「騒音の基準」という言葉で両方を読むと、自分がどちらを見ているのか分からなくなります。
この記事は、その二つを分けたうえで、時間の区切りがいくつあるのかを確かめ、最後に苦情が入ったときの受け手を整理します。民泊で起きるトラブルを相手別に俯瞰したい場合は民泊のトラブルが入口で、ここでは音の話だけを扱います。
先に、確認できなかったことを書きます。民泊の騒音の苦情が全国で何件起きているかを集計した公的な統計は確認できませんでした(確認日 2026-10-30)。防音工事の費用相場も、全国を集計した公的資料を確認できていません。そのためこの記事には件数も金額もありません。
国の環境基準は、地域ごとの目標として置かれています
環境省の告示「騒音に係る環境基準について」は、地域をAAからCの類型に分け、それぞれの昼間と夜間の数値を示しています。告示での時間の区切りは、昼間が午前6時から午後10時まで、夜間が午後10時から翌日の午前6時までです。
| 地域の類型 | 当てはまる地域 | 昼間(6時から22時) | 夜間(22時から翌6時) |
|---|---|---|---|
| AA | 療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域 | 50デシベル以下 | 40デシベル以下 |
| AおよびB | A=専ら住居の用に供される地域/B=主として住居の用に供される地域 | 55デシベル以下 | 45デシベル以下 |
| C | 相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域 | 60デシベル以下 | 50デシベル以下 |
類型の指定は都道府県知事または市長が行うと書かれています。つまり自分の物件がどの類型なのかは、告示を読んでも分かりません。所在地の自治体に当たる必要があります。
道路に面する地域には別の数値が置かれています。A地域のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域は昼間60デシベル以下・夜間55デシベル以下、B地域のうち2車線以上の道路に面する地域とC地域のうち車線を有する道路に面する地域は昼間65デシベル以下・夜間60デシベル以下、幹線交通を担う道路に近接する空間は昼間70デシベル以下・夜間65デシベル以下です。幹線道路沿いの物件では、同じ住居系の地域でも目指す水準が一段上がります。
適用されないものも明記されています。告示は「この環境基準は、航空機騒音、鉄道騒音及び建設作業騒音には適用しないものとする」としています。空港や線路の近く、工事中の隣地から届く音は、この基準では測れません。
条例の規制基準は、音を出す側に向けられています
二つの基準の違いを、同じ軸で並べます。
東京都の場合、環境確保条例にもとづく「日常生活等に適用する騒音の規制基準」が、区域を第1種から第4種に分け、一日を4つの時間帯に区切って数値を定めています。単位はデシベルです。
| 区域 | 6時から8時 | 日中 | 夕方から23時 | 23時から6時 |
|---|---|---|---|---|
| 第1種区域(第1種・第2種低層住居専用地域、AA地域など) | 40 | 45(8時から19時) | 40(19時から23時) | 40 |
| 第2種区域(第1種・第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域など) | 45 | 50(8時から19時) | 45(19時から23時) | 45 |
| 第3種区域(近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域) | 55 | 60(8時から20時) | 55(20時から23時) | 50 |
| 第4種区域(知事が指定する商業地域) | 60 | 70(8時から20時) | 60(20時から23時) | 55 |
住居系の区域では、いちばん静かな数値が適用される時間が長く取られています。第1種区域なら、19時から翌8時までの13時間が40デシベルです。ゲストが帰ってくる時間帯が、そのまま最も厳しい区分に入ります。
適用の範囲には除外があります。東京都環境局は、この規制基準が日常生活等における騒音に適用されるとしたうえで、集合住宅の住戸間や、航空機・鉄軌道、工場・建設工事など個別に基準が定められている場合は除くと説明しています。マンションの一室で営む民泊で、隣の住戸へ響く音は、この条例の数値では扱われません。そちらは管理規約と当事者間の問題になり、民泊の管理規約の側の話になります。
そして条例は自治体ごとに違います。区域の分け方、時間の区切り、数値のいずれも、東京都の内容が他の自治体にそのまま当てはまるわけではありません。自分の物件に当てはまる数値は、所在地の自治体の条例で確かめてください。該当するかどうかの判断も、最終的には所管の窓口に確認する事柄です。
夜の始まりが、基準によって違います
ここまでに出てきた時間を、一日の軸に重ねます。
見てのとおり、夜の区切りは一つではありません。国の告示は22時を境にしますが、東京都の条例が最も厳しい数値へ切り替わるのは23時です。22時台は、告示では夜間でありながら、条例では夕方の区分のままという状態になります。どちらを基準に「何時以降は静かに」と伝えるのかは、自分で決めることになります。
もう一つ、重なりではなくずれが見えます。観光庁の民泊制度コールセンターの受付は平日の9時から17時です。制度や届出についての質問、民泊制度に関する意見や苦情を受け付けていますが、受付時間はこの範囲です。一方、住宅宿泊事業法第10条にもとづく苦情への対応は、時間帯で切れません。
つまり深夜に音の苦情が起きている時間は、公的な窓口がどこも開いていない時間です。その時間を埋めるものは、事業者側の窓口しかありません。この構造は、連絡手段をどう用意するかという判断に直接関わります。
法が先に求めているのは、測ることではなく説明することです
騒音というと測定の話に見えますが、住宅宿泊事業法が最初に置いているのは測定の義務ではありません。泊める前に、宿泊者へ説明することです。
法第9条第1項は、住宅宿泊事業者が宿泊者に対し、騒音の防止のために配慮すべき事項その他の届出住宅の周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項について説明しなければならないと定めています。同条第2項は、外国人観光旅客である宿泊者に対しては外国語を用いて説明しなければならないとしています。
説明する事項として観光庁が挙げているのは、騒音の防止について配慮すべき事項、ごみの処理に関し配慮すべき事項、火災の防止について配慮すべき事項、その他周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項です。騒音は、このうちの一つとして位置づけられています。
説明の方法についても示されています。書面の備付けやタブレット端末の表示により、宿泊中いつでも確認できる状態にすることが求められ、対面での説明は必須とはされていません。目につきやすい場所への掲示や、電話で注意を喚起できる体制が必要だと説明されています。
ここでこの記事に文例を置かない理由を書いておきます。説明すべきものは「届出住宅とその周辺地域の生活環境に応じた内容」です。壁の構造、隣家との距離、通りに面しているか、共用部をどう通るか。これらが違えば、配慮してほしい内容も変わります。汎用の文例は、どの物件でも成り立たない代わりに、どの物件でも的を外します。説明する項目は上の4区分で決まっているので、中身は自分の物件を見て埋めてください。何をどこまで決めるかという強制力の切り分けは民泊のハウスルールにまとめてあり、到着時に渡す案内の作り方は民泊のチェックイン案内で扱っています。
苦情は二つの経路から入り、受け手は委託の有無で変わります
説明しても起きたときの話です。法第10条は「住宅宿泊事業者は、届出住宅の周辺地域の住民からの苦情及び問合せについては、適切かつ迅速にこれに対応しなければならない」と定めています。
観光庁は、この対応について深夜早朝を問わず常時、応答または電話により対応する必要があるとしています。あわせて、宿泊者が不在のときも対応は続くこと、誠実かつ迅速に対応すること、改善されない場合には退室を求めるといった対応も含まれることが示されています。
直接入ってくる経路の起点は、標識です。法第13条は、届出住宅ごとに公衆の見やすい場所に、国土交通省令・厚生労働省令で定める様式の標識を掲げなければならないと定めています。観光庁は、門扉や玄関など公衆が認識しやすい位置に掲示すること、事業を実施している期間は継続して掲示すること、共同住宅では個別の住戸に加えて共用エントランスや集合ポストにも掲示することを示しています。標識は、外から事業者を特定できる状態をつくる仕組みです。掲示を省けば、連絡の行き先が自治体だけになります。
行政をはさんで入ってくる経路は、自治体の民泊担当窓口と、先に触れた民泊制度コールセンターです。ここへ入った苦情は、指導や報告徴収、立入検査につながることがあります。その先の段取りは民泊の行政処分に分けてあります。
委託している場合、受けて応じるのは住宅宿泊管理業者です。観光庁は管理業者の業務として、緊急の対応が必要な場合には関係機関への通報のほか委託者に対しても報告することが適切であるとし、苦情があってから現地に赴くまでの時間は30分以内を目安とし、交通手段の状況等により時間を要することが想定される場合は60分以内を目安とすると示しています。委託先を選ぶときに確かめる項目は民泊の運営代行にまとめています。
この30分・60分は、委託したときに業者側へ求められる目安です。委託していない場合に、同じ時間で駆けつけることを法が求めているわけではありません。ただ、常時応答できる状態を自分で保つことが前提になります。
騒音モニターを置くときは、先に決まっていることがあります
音を測る機器を置く場合、法令より先に、掲載しているプラットフォームの規約が効いてきます。
Airbnbは監視機器に関するポリシーで、騒音モニターを「騒音レベルとその持続時間を計測するものの、音声は録音しない機器」と定義し、屋内への設置を認めています。ただし寝室、バスルーム、就寝エリアへの設置は認められていません。また、設置していることを開示する必要があるとされています。設置場所まで明記する必要はないとされています。
同じポリシーで、屋内のカメラは扱いが違います。廊下、寝室、バスルーム、リビング、ゲストハウスなど宿泊施設の屋内のあらゆる場所を監視する防犯・監視カメラおよび録画・録音機器の設置は、電源が入っているかどうかを問わず禁じられています。隠して設置することも固く禁じられています。これらのルールは2024年4月30日に施行されたと記載されています。
機種は挙げません。どの機器が適切かを示した公的な資料を確認できていないためです。カメラの側の根拠と目的の切り分けは民泊の防犯カメラで扱っています。
なお、測定した数値をそのまま条例の規制基準と比べられるとは限りません。条例の数値は測定の方法と場所を含んだ基準で、室内に置いた機器の表示と同じものではありません。自分の機器の数値は自分の運用のための目安として使い、基準に適合しているかどうかの判断は所管の窓口に確認してください。
この記事で確認できなかったこと
出典が取れなかったものを、埋めずに残しておきます。
- 民泊の騒音の苦情件数。全国を集計した公的な統計を確認できませんでした
- 「何デシベルで苦情が来るか」の目安。苦情の発生と測定値の関係を示した公的な資料を確認できませんでした
- 防音工事の費用相場。全国を集計した公的な統計を確認できませんでした
- 騒音モニターの推奨機種・推奨設置数。これを示した公的資料を確認できませんでした
- 自分の物件の地域類型と区域区分。告示と条例を読むだけでは決まりません。自治体に確認します
書けるのは、告示と条例が示している数値と時間の区切り、そして法第9条・第10条・第13条が求めている中身までです。そこから先の「自分の物件でどうするか」は、数値ではなく物件を見て決める部分です。
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