騒音トラブル/解説

マンション民泊の騒音トラブル|住戸間の音に効く三つの層

分譲マンションの民泊で、隣の住戸へ伝わる音には自治体の騒音条例が及ばない場合があります。建築基準法第30条と施行令第22条の3の界壁の基準、管理規約の定め、区分所有法第57条から第60条の請求を条文で確かめ、誰が何をできるのかを整理します。

分譲マンションの一住戸で民泊をしていて、隣や上の階から「音が響いている」と言われたとき、調べる場所を間違えやすい場面です。自治体の条例で決まっているデシベルの数値を探しても、答えが出ないことがあります。条例の規制基準には、同じ建物の中の住戸間を適用の対象から外している例があります。東京都環境局は、環境確保条例が定める日常生活等の騒音・振動の基準が適用されない場合として「集合住宅など同一建物内部における各住戸間の騒音・振動」を挙げています(確認日 2026-10-31)。

では住戸間の音には何も無いのか。あります。置かれている場所が違うだけです。建物の側には建築基準法が界壁の遮音の基準を置き、使い方の側には管理規約と建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)があります。音の大きさを決めている法令と、やめさせる手続きを決めている法令が別れているのが、この場面の特徴です。

誤解を防ぐために断っておきます。この記事は、音の大きさの基準を読み替えるためのものではありません。屋外へ出ていく音について、国の環境基準と自治体の条例の規制基準をどう読み分けるか、何時にどの数値が当てはまるかは民泊の騒音対策で扱っています。ここで扱うのは、音が同じ建物の中を伝わったときに、誰が何を根拠に動くのかです。

確認できなかったことも先に書きます。分譲マンションの民泊で騒音の苦情がどれだけ起きているかを集計した公的な統計は確認できませんでした(確認日 2026-10-31)。防音工事の費用の相場も、既存のマンションの界壁が実際にどの程度の性能かを全国で集計した資料も見つかりません。そのためこの記事に件数と金額はありません。あるのは、条文が置いている基準と、請求の手続きだけです。

音の行き先で、応じる相手が変わる

同じ「騒音の苦情」でも、音の行き先によって向かう先が二つに分かれます。

分譲マンションの一住戸で営む届出住宅から、屋外へ出る音と同じ建物の住戸間へ伝わる音を左右に分け、それぞれに適用される条例と条文、苦情や請求を受ける相手が変わることを示した関係図
左は自治体の条例と住宅宿泊事業法第10条、右は建築基準法第30条の界壁と区分所有法第6条・第57条以下が根拠になります。中央は、どちらの経路でも現地で対応できるのが事業者か住宅宿泊管理業者だけであることを示しています(出典:住宅宿泊事業法、建物の区分所有等に関する法律、東京都環境局。確認日 2026-10-31)。

屋外へ出ていく音について、苦情を受けて応じるのは事業者本人です。住宅宿泊事業法第10条は「住宅宿泊事業者は、届出住宅の周辺地域の住民からの苦情及び問合せについては、適切かつ迅速にこれに対応しなければならない」と定めています。条文は、どこまでが周辺地域かを決めていません。同じ建物の他の住戸の居住者から直接言われた場合にこの条文で応じることになるのかどうかも、文言からは一つに決まりません。

一方、住戸間の音には別の筋道があります。相手は近隣住民ではなく、同じ建物の区分所有者と管理組合です。区分所有法第6条第1項は「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と定め、同条第3項がこれを区分所有者以外の専有部分の占有者にも準用しています。この筋道で請求できるのは他の区分所有者の全員または管理組合法人で、事業者が向き合う相手は、行政でも仲介業者でもなく管理組合になります。

違いは、連絡が来る形にも出ます。屋外へ出る音は、標識を見た近隣住民から直接入ってくることがあります。住戸間の音は、管理会社や理事会をいったん経由して、書面で来ることがあります。電話が鳴らないまま、理事会の議題として上がっている場合があります。苦情の入口を電話とメッセージだけに置いていると、この経路を取りこぼします。

なお、条例の内容は自治体ごとに違います。区域の分け方、時間の区切り、適用しない場合の書きぶりのいずれも、東京都の内容が他の自治体にそのまま当てはまるわけではありません。自分の物件に当てはまるかどうかは、所在地の条例で確かめてください。

建築基準法は、界壁に遮音の基準を置いている

建物の側の要件は、建築基準法第30条にあります。第1項は、長屋又は共同住宅の各戸の界壁について、二つの基準に適合するものとしなければならないとしています。

第一号は、その構造が「隣接する住戸からの日常生活に伴い生ずる音を衛生上支障がないように低減するために界壁に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準」に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの、または国土交通大臣の認定を受けたものであること。第二号は、小屋裏又は天井裏に達するものであることです。

建築基準法第30条第1項が長屋又は共同住宅の各戸の界壁に求める二つの号を左右に分け、第2項によって第二号の適用が外れる場合と、第一号の遮音の技術的基準として施行令が定める振動数ごとの透過損失の値を示した分岐図
第2項で適用が外れるのは第二号(小屋裏又は天井裏に達すること)だけで、第一号の遮音の技術的基準は残ります。図の左下はその数値で、振動数125ヘルツで透過損失25デシベル以上、500ヘルツで40デシベル以上、2,000ヘルツで50デシベル以上です(条文は漢数字で表記。出典:建築基準法第30条、建築基準法施行令第22条の3。確認日 2026-10-31)。

第2項には例外が置かれています。長屋又は共同住宅の天井の構造が、天井に必要とされる性能に関する政令の技術的基準に適合するもので、大臣が定めた構造方法を用いるものか大臣の認定を受けたものである場合には、第1項第二号の規定は適用しないとされています。外れるのは第二号だけです。第一号の遮音の基準は、天井の構造によっても外れません。

政令の数値は、建築基準法施行令第22条の3にあります。第1項は、法第30条第1項第一号の技術的基準を「次の表の上欄に掲げる振動数の音に対する透過損失がそれぞれ同表の下欄に掲げる数値以上であること」と定めています。条文の表は、次のように漢数字で書かれています。

振動数(単位 ヘルツ) 透過損失(単位 デシベル)
一二五 二五
五〇〇 四〇
二、〇〇〇 五〇

読み替えると、低い音で求められる値がいちばん小さく、高い音ほど大きくなります。上の図では、同じ内容をアラビア数字で並べています。同条第2項は、法第30条第2項の技術的基準も前項に規定する基準とするとしています。天井の構造で代えるときに、緩い数値が使われるわけではありません。

ここで取り違えやすいのは、この表が建物の部位の性能についての基準で、生活音の大きさの基準ではないことです。隣の住戸で測ったデシベルを、この表の数値と並べて比べるものではありません。比べられるのは、界壁の透過損失として評価された値です。音の測定値と条例の規制基準の関係は民泊の騒音対策の側の話になります。

自分の建物が満たしているかは、条文からは分からない

条文を読んでも、手元のマンションの界壁がどの構造方法によったのかは分かりません。第30条第1項第一号は、大臣が定めた構造方法を用いるものか、大臣の認定を受けたもののどちらかを求めています。どちらによったのかは、設計図書や確認の図書を見るほかありません。中古で取得した住戸では、図書が手元に無いこともあります。

施行令第22条の3の条文には、法第30条第1項第一号について「法第八十七条第三項において準用する場合を含む」という括弧書きが付いています。建築物の用途を変更する場合にこの基準が準用される場面があることを示した書きぶりです。自分の計画がそれに当たるかどうかは条文だけでは判断できません。当てはめは、所管の建築主事や指定確認検査機関、自治体の建築指導の窓口に確認してください。

混同しやすいものがもう一つあります。同じ界壁を対象にした規定が、防火の側にも別に置かれています。施行令第百十四条第一項は、長屋又は共同住宅の各戸の界壁を準耐火構造とし、小屋裏又は天井裏に達せしめなければならないとしています(防火上支障がないものとして大臣が定める部分などは除かれます)。目的の違う二つの規定が、同じ部位に重なっています。防火の基準を満たしていることは、遮音の基準についての判断にはなりません。消防法令の側で求められるものは民泊と消防法にまとめています。

規約は、音より前に民泊の可否を決めている

住戸間の音の話は、管理規約の話と切り離せません。分譲マンションでの届出では、規約そのものが書類として求められます。

観光庁の民泊制度ポータルサイト「届出の際の添付書類」ページのファーストビュー
引用キャプチャ 区分所有の建物では、専有部分の用途に関する規約の写しが添付書類として挙げられている公式ページです。音の苦情より前に、規約の側で事業の可否が決まる構造になっています。当サイトが2026-09-21に取得したファーストビューで、規約に関する記載は2026-10-31に同じページで再確認しました。出典:届出の際の添付書類(観光庁 民泊制度ポータルサイト「minpaku」)

観光庁の「届出の際の添付書類」は、区分所有の建物の場合に、専有部分の用途に関する規約の写しを提出する形を案内しています。規約に住宅宿泊事業を営むことを禁止する旨の定めがない場合は、禁止する方針が決議されていないことを確認した誓約書や、法の成立以降の総会・理事会の議事録等を添付する流れが示されています。規約の書きぶりごとの判定はマンションの管理規約にまとめてあり、ここでは繰り返しません。

もう一つ、規約の側に用意されているものがあります。国土交通省は平成29年8月29日に、住宅宿泊事業法の成立を踏まえてマンション標準管理規約を改正し、分譲マンションで住宅宿泊事業を可能とする場合と禁止する場合の規定例を示したと発表しています。発表では、住宅宿泊事業をめぐるトラブルの防止のため、あらかじめ区分所有者間で十分な議論を行い、規約上明確化しておくことが示されています。音が出てから規約を読み直す形ではなく、先に決めておく前提で作られた改正です。

言い換えると、音の苦情が管理組合へ入ったとき、相手は規約で認められた事業かどうかを先に確かめられる立場にいます。届出のときに提出した書類と同じものが、そこで読まれます。

起きたあとの請求は、段階が上がると要件が増える

苦情が続いた場合に管理組合の側が取れる手続きは、区分所有法に並んでいます。重い請求になるほど、必要な要件が増えます。

建物の区分所有等に関する法律の第57条・第58条・第59条・第60条の四つの請求を列に並べ、適用の前提、向けられる相手、訴えの提起に必要なもの、請求できる内容の四項目で比べた比較マトリクス
第58条と第59条は区分所有者に向けられ、占有者に向けられているのは第57条第4項と第60条です。第58条以下は、第57条の請求では障害の除去が困難であることが前提に置かれています(出典:建物の区分所有等に関する法律第6条・第57条から第60条。確認日 2026-10-31)。

第57条第1項は、区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合、またはその行為をするおそれがある場合に、他の区分所有者の全員または管理組合法人が、行為の停止、結果の除去、予防に必要な措置を請求できるとしています。同条第2項は、これに基づいて訴訟を提起するには集会の決議によらなければならないとし、第4項は占有者の行為にもこれらを準用しています。

第58条第1項は、第57条第1項の請求では障害の除去が困難であるときに、相当の期間の専有部分の使用の禁止を訴えで請求できるとしています。この決議は、出席した区分所有者およびその議決権の各四分の三以上の多数で行い、あらかじめ当該区分所有者に弁明する機会を与えなければならないとされています。第59条は区分所有権および敷地利用権の競売の請求で、決議には第58条第2項・第3項が準用されます。

占有者に向けられているのが第60条です。第57条第4項に規定する場合で、共同生活上の障害が著しく、他の方法では障害を除去して共同生活の維持を図ることが困難であるときに、集会の決議に基づき、訴えをもって専有部分の使用または収益を目的とする契約の解除と、その専有部分の引渡しを請求できるとされています。決議の要件は第58条第2項・第3項の準用です。

ここで断定しないことが二つあります。民泊の宿泊者が条文の「占有者」に当たるかどうか、そして音が「共同の利益に反する行為」に当たるかどうかは、条文の文言からは決まりません。実際の当てはめは、管理組合の決議と裁判所の判断、そして専門家への相談の領域です。この記事が示せるのは、どの条文がどの相手に向けられ、何が前提に置かれているかまでです。

事業者の側から見ると、ここは自分が動かす手続きではありません。自分の知らないところで決議が進む可能性があるという点が、屋外の苦情との最大の違いです。議事録や掲示で知ることになります。

この記事で確認できなかったこと

三つの層のうち、事業者が自分で動かせるのは一番上の層だけです。建物の界壁は後から変えにくく、規約は管理組合の決議で決まります。残るのは、宿泊者へ説明する内容と、苦情を受けたときの対応です。説明する項目の決め方は民泊のハウスルール、トラブル全体の俯瞰は民泊のトラブルにあります。

出典が取れなかったものを、埋めずに残しておきます。

  • 分譲マンションの民泊で起きた騒音の苦情件数。全国を集計した公的な統計を確認できませんでした
  • 既存のマンションの界壁の実際の性能。全国を集計した資料がなく、建物ごとに図書で確かめる事柄です
  • 防音工事の費用の相場。公的な集計を確認できませんでした
  • どの程度の音が「共同の利益に反する行為」に当たるか。数値で示した公的資料を確認できませんでした
  • 民泊の宿泊者が区分所有法の「占有者」に当たるかどうかの一般的な判断。条文の文言からは決まりません

書けるのは、条文が置いている基準と、請求の相手と要件までです。そこから先は、自分の建物の図書と、自分のマンションの規約を読む作業になります。

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