自分の宿の客室単価は、帳簿があれば出せます。困るのはその次です。出た金額が高いのか安いのか、平日と休前日でどのくらい開いているのが普通なのかを確かめようとすると、平均値ではなく価格帯の分布が見たくなります。どの料金帯がいくつ売れているのか、という形です。
結論を先に書きます。確認できた範囲では、宿泊料金の分布をいまも続けて公表している統計は見つかりませんでした。ただし、分布を集計した公的な調査は過去にあります。総務省統計局の全国物価統計調査です。政府統計の総合窓口(e-Stat)には「ホテル・旅館,宿泊日,予約形態,客室階級別宿泊料金分布(インターネット予約料金有り)-全国」と「ホテル・旅館,宿泊日,予約形態,通常料金階級別宿泊料金分布(インターネット予約料金有り)-全国」という2つの表が、2007年の調査として収録されています(確認日 2026-11-04)。そして同じ収録情報の注記に「本調査は平成19年の調査を最後に、平成25年から小売物価統計調査に統合しました」と書かれています。
この記事で扱うのは2つです。1つめは、宿泊料金についていま何が公表されていて、何が公表されていないのか。2つめは、終了したその調査が宿泊料金をどの区分で分けていたかを読み、同じ区分を自分の販売記録に持たせる方法です。金額の相場は出てきません。平均値そのものの所在と、自分の客室単価を算出するときに分子と分母をどう決めるかは民泊の客室単価(ADR)はどこで調べるかで扱っているので、この記事は1つの平均を帯に割る側を引き受けます。
分布を集計した調査は、2007年の調査で終わっている
e-Stat に収録されている上の2つの表は、どちらも実施機関が総務省統計局で、調査年は2007年です。公表された日付も収録情報に表示されており、下の図に入れました(確認日 2026-11-04)。11-2 の表に付いている分類事項は、宿泊日、予約形態、客室階級、そしてインターネット予約料金の有無です。宿泊料金を1つの平均に丸めず、条件ごとに分けて分布として示していたことが、題名と分類事項から分かります。
注意したいのは、2つの表で階級の取り方が違うことです。一方は「客室階級別」、もう一方は「通常料金階級別」と題名が分かれています。それぞれの階級が何で区切られ、どこに境目が置かれているのかは、題名と分類事項の表示だけでは分かりませんでした(確認日 2026-11-04)。階級の幅まで引き写したい場合は、収録されている統計表そのものを開いて確かめる必要があります。
題名に付いている「(インターネット予約料金有り)」という限定も、読み落とさないほうがよい部分です。インターネット予約の料金があるかどうかで表が分けられているので、予約の経路によって料金が違うことが、この調査の時点で集計の前提に置かれていたと読めます。いまのように複数の予約サイトと自社サイトを並行して使う形とは環境が違いますが、経路で料金が分かれるという構造そのものは新しい話ではありません。
この記事に、その調査結果の数値は載せません。表はファイルで提供されており開けば読めますが、20年近く前の調査結果をいまの料金として読まれる危険のほうが大きいと判断しました。分布の形が当時どうだったかは、いまの自分の値付けの判断材料になりません。使えるのは、どの区分で分けていたかという設計のほうです。
もう1つ、この調査には届出住宅という区分がありません。分類事項に現れるのは宿泊日、予約形態、客室階級、インターネット予約料金の有無で、住宅宿泊事業の施設を切り分けて見ることはできません。民泊の料金分布を過去にさかのぼって探しても、この調査では出てこないということです。
いま続いている公表で分かるのは、量と指数だけ
では、いま公表されている統計で何が分かるのか。宿泊の側から数える統計と、価格の動きを測る統計に分かれます。
観光庁の宿泊旅行統計調査は、e-Stat に収録されている第8表が「年、月(12区分)、施設所在地(47区分及び運輸局等)、宿泊施設タイプ(6区分)別客室稼働率」という名前で、表章項目は客室稼働率だけです(確認日 2026-11-04)。観光庁の調査ページにも、第1次速報から確定値までの結果、調査の概要、用語の解説、層化基準の変更などが並びますが、料金や価格の項目は見当たりませんでした(確認日 2026-11-04)。この調査の公表段階と集計区分の読み方は宿泊旅行統計調査の見方にあります。
価格側の統計は2つです。総務省統計局の消費者物価指数は、基準時を100として指数の形で公表されるもので、1室1泊あたりの金額ではありません。日本銀行の企業向けサービス価格指数は、概要のページに「企業間で取引されるサービスを対象としている」「原則、サービスの提供者(生産者)段階における価格(生産者価格)を調査している」と説明があり、個人向けサービスは対象外としつつ、主として個人向けであっても企業が同様に需要するサービスは調査対象としている、とされています。基準時は2020年です(確認日 2026-11-04)。企業が取引した価格を生産者段階で測った指数なので、個人の旅行者に売った1泊の金額とは前提が違います。
統合先の小売物価統計調査も見ました。e-Stat に収録されている動向編の表は「主要品目の都市別小売価格-都道府県庁所在市及び人口15万以上の市」と「調査品目の年平均価格-都道府県庁所在市及び人口15万以上の市」で、どちらも表章項目は価格です(確認日 2026-11-04)。品目ごとの価格を都市別に並べる形の表で、料金の分布を示す表ではありません。統合後に宿泊料金の分布が別の形で公表されているかどうかは、この記事では確認できませんでした。
| 統計 | 作成 | 公表されているもの | 料金の分布 |
|---|---|---|---|
| 宿泊旅行統計調査 | 観光庁 | 延べ宿泊者数、客室稼働率など量の集計。第8表の表章項目は客室稼働率 | 含まれていない |
| 消費者物価指数 | 総務省統計局 | 基準時を100とした指数 | 含まれていない |
| 企業向けサービス価格指数 | 日本銀行 | 企業間取引のサービスの生産者価格の指数(基準時2020年) | 含まれていない |
| 小売物価統計調査(動向編) | 総務省統計局 | 品目ごとの都市別の価格、調査品目の年平均価格 | 分布を示す表は確認できず |
| 全国物価統計調査 | 総務省統計局 | ホテル・旅館の宿泊料金分布(宿泊日・予約形態・階級別) | 2007年の調査結果のみ |
上の表は、各収録情報と公表ページに書かれていた表章項目と区分を転記したものです(確認日 2026-11-04)。指数の水準や稼働率の数値は転記していません。この記事で確かめたいのは、どの統計に料金の分布が入っているかという1点だからです。
終了した調査の題名が、分ける軸を示している
公表された分布が無いなら、分布は自分で作るしかありません。そのとき困るのは、どう分けるかです。ここで、終了した調査の題名と分類事項がそのまま手本になります。宿泊日、予約形態、階級という区分は、国の調査が宿泊料金を見るときに必要だと判断して置いた軸です。自分の台帳に同じ列を持たせれば、少なくとも恣意的な分け方にはなりません。
| 調査に現れた区分 | 分ける理由 | 自分の台帳に持つ列 | 混ぜると起きること |
|---|---|---|---|
| ホテル・旅館の別 | 施設の種類で料金の前提が違う | 施設タイプ、部屋タイプ | 一棟貸しと1室貸しが1つの平均に入り、帯が2つの山に割れる |
| 宿泊日 | 曜日や休前日で需要が動く | 宿泊日と、平日・休前日・連休の区分 | 高い日が平均を押し上げ、平日の実力が見えなくなる |
| 予約形態 | 経路ごとに料金と手数料が違う | 販売経路(予約サイトごと、自社) | 表示した価格と受け取った額が混ざり、どちらの平均かが分からなくなる |
| 料金の階級・客室の階級 | 分布は階級の単位で見る | 料金帯(幅を固定)、客室の規模 | 帯の幅を途中で変えると、前の月と比べられなくなる |
この表は、公的な調査の区分と自分の台帳の列を対応させたもので、調査結果の数値ではありません。右端の列は、区分を持たせずに1つの平均だけを見ていたときに起きることを書いています。どれも金額が間違っているのではなく、平均だけを見ていると気づけないという形で現れます。
区分を増やすほど、1つの帯に入る件数は減ります。件数が1けたになると、1件の予約で帯の形が変わってしまいます。最初から4つの軸すべてで分けるのではなく、まず宿泊日と販売経路の2軸から始めて、件数がたまってから階級を細かくするほうが実務に合います。
平均が同じでも、分布が同じとは限らない
分布を作る意味は、平均では消えてしまう情報が残ることにあります。同じ平均でも、売れている帯の形は違います。
左の形では、売れている帯が1つに寄っています。この場合に見るべきなのは、その帯の上側がどうなっているかです。右の形では、安い帯と高い帯の両方で売れていて、中央が空いています。同じ部屋を2つの違う条件で売っている可能性があり、その2つを1つの平均で語ると、どちらの実態も表していない数値になります。どちらの形が良いという話ではありません。打つ手を考える前に、自分がどちらの形なのかを知る必要があるという話です。
なお、ここで帯の形から「だからこう値付けすべきだ」という結論は出しません。値付けの効果を示した公的な資料を確認できていないためです。分布は、自分の販売実績の形を見るための道具として使ってください。
階級の幅は、決めたら動かさない
分布を作るときに最初に決めるのは、帯の幅です。そして決めたあとは動かさないことが、この数値を続けて使える条件になります。幅を変えると、前の月の分布と形を比べられなくなるためです。
決めておく項目は3つあります。帯の幅と本数、境目の扱い(ある金額を下の帯に入れるのか上の帯に入れるのか)、そして上端と下端の扱い(いちばん高い帯を「○円以上」で開いたままにするか)です。どれも正解はなく、書き残して固定することが答えになります。
もう1つ、帯に入れる金額そのものの定義も先に決めます。清掃費を別に受け取っている場合に客室の売上へ含めるのか、予約サイトの手数料を差し引く前と後のどちらを使うのか、税を含めるのか。これは平均を出すときと同じ判断で、2つの系列を混ぜないことが大事です。決め方の整理は民泊の客室単価(ADR)はどこで調べるかにあります。平均と分布で別の定義を使うと、両方を並べたときに説明できなくなります。
終了した調査の結果を「いまの相場」として使わない
終了した統計の数値は、検索で見つかる場所に残り続けます。全国物価統計調査の宿泊料金分布も、e-Stat から開ける状態にあります。ここで気をつけたいのは、開けることと、いまの料金として使えることは別だという点です。
引用するときは、統計名、調査年、実施機関、公表日、そして統合や終了の経緯まで書いてください。この調査は注記で「本調査は平成19年の調査を最後に、平成25年から小売物価統計調査に統合しました」と明示されています。経緯を落として数値だけを転記すると、受け取った側は現行の統計だと読みます。社内の資料でも、1枚だけ切り出されて回るときに注記が落ちます。
他のページで「宿泊料金の平均」や「価格帯の割合」を見かけたときも、同じ順番で確かめるのが安全です。どの統計か、調査年はいつか、集計の対象は何か。この3つが書かれていない数値は、自分の値付けの根拠には使えません。
分布を作ったら、稼働と突き合わせる
帯ごとの件数が出たら、次に見るのは稼働です。ある帯で売れた件数が少ないのは、その価格が選ばれなかったからなのか、そもそもその価格で売り出した日が少なかったからなのか、件数だけでは区別できません。帯ごとに売り出した日数と売れた日数を並べてはじめて、価格の問題なのか在庫の問題なのかが分かります。
客室稼働率は統計側に公表があるので、全体の需要の動きは外から確かめられます。読み方と、自分の施設の数値と取り違えないための注意はホテルの客室稼働率の統計にまとめています。売上の枠を日数・定員・単価から逆算する手順は民泊の売上予測の立て方にあります。
価格を動かす前に確かめておくことも、分布とは別にあります。単価が動くと、宿泊税の区分や価格の表示の決まりが同時に動きます。この連動は民泊のADR(平均客室単価)で扱っているので、帯を上げる案を作る前に目を通しておくと手戻りが減ります。
この記事で確認できなかったこと
宿泊料金の分布を、いまも継続して公表している統計は確認できませんでした。宿泊の量を数える統計にも、価格指数にも、小売物価統計調査の収録表にも、料金の階級別の分布として使える表が見当たらなかったためです。
全国物価統計調査の2つの表について、階級の境目がどこに置かれているかも確認できませんでした。題名と分類事項の表示からは、階級の取り方が2通りあることまでしか読めていません。
住宅宿泊事業の届出住宅に限った料金の集計も、確認できていません。したがって、この記事には金額も分布の実数もありません。書けるのは、どの統計に料金の分布が無いか、過去にどの区分で分けられていたか、そしてその区分を自分の記録へどう持たせるかの3つです。
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