ADR・平均客室単価/解説

民泊のADR(平均客室単価)|単価を動かすと連動するもの

民泊のADRは1室1泊あたりの平均単価ですが、単価を動かすと宿泊税の区分、消費税の納税義務の判定、価格の表示が同時に動きます。東京都・京都市・大阪府の公表ページと国税庁のタックスアンサーで、単価を決める前に確かめる境界を確認します。

ADR(平均客室単価)は、販売した客室1室1泊あたりで平均していくら受け取ったかを表す数値です。単価を1円上げたときに動くのは、自分の売上だけではありません。宿泊者が払う総額、将来の消費税の申告、掲載先と自分のサイトの表示が、同じ1円で一緒に動くことがあります。

この記事が扱うのは、単価の上げ方ではなく単価を動かしたときに連動する三つの仕組みです。宿泊税の区分、消費税の納税義務の判定、価格の表示の順に、公表資料で境界を確かめます。どれも自分の都合では動かせない仕組みで、単価のほうが先に決まってしまうと、あとから条件へ合わせ直すことになります。

相場の金額はここにありません。民泊のADRの全国平均や地域平均を集計した公的な統計を確認できなかったためです。統計のどこを探してどこに無かったかは民泊の客室単価はどこで調べるかにまとめてあります。売上の枠を日数と定員と単価から逆算する手順は民泊の売上予測、投資額に対する比率の出し方は民泊の利回り計算にあり、ここでは重ねません。

ADRは、自分で定義してから使う数字

ADRの算出方法を定めた法令や公的な基準は確認できませんでした。つまり分子と分母を自分で決めることになります。決めずに月ごとに違う取り方をすると、単価が上がったのか取り方が変わったのかを区別できなくなります。

決めるべきことは三つです。ひとつめは、宿泊料金のほかに請求している額を分子へ入れるかどうかです。清掃料や寝具の追加料を別建てにしている場合、それを入れた数字と入れない数字は別のものになります。ふたつめは、仲介手数料を引く前か後かです。掲載先ごとに率が違うため、引いた後で揃えると経路の違いが単価に混ざります。手数料そのものの扱いはOTA手数料と消費税で扱っています。みっつめは、分母を何で数えるかです。販売した室泊数(売れた室数と泊数の積)で割るのがADRで、空室を含めた全室泊で割ると別の指標になります。

左に自分で決めるADRの分子と分母、右に宿泊税の判定で使う宿泊料金の範囲を並べ、含むものと含まないものを対比した比較図
左は自分の指標として決める範囲、右は税の判定で使う範囲です。同じ「単価」と呼んでも中身が違います。出典は大阪府の宿泊税のページと宿泊料金の取扱いに関する回答で、確認日は2026-10-17です。

決めたら、帳簿のどの列から取るのかまで書き残します。定義を固定しないと、比べる相手が自分の過去の数字であっても比べられません。稼働のほうの数え方はホテルの客室稼働率が公表値の定義を扱っています。

税の判定で使う「宿泊料金」は、別に定義されている

自分で決めるのはADRの話までです。宿泊税の区分を判定する「宿泊料金」は、自治体の側が定義しています。大阪府は、宿泊料金に「名称にかかわらず、宿泊の利用行為に係る対価又は負担として宿泊者の意思に関わりなく請求される寝具代、入浴料、寝衣代、いわゆる『民泊』施設における清掃料等を含みます」とし、「これらに係るサービス料、奉仕料等についても含まれます」としています。

含まれないものも挙げられています。宿泊に伴い提供される飲食・遊興に係る金額、会議室の利用や休憩に係る金額、消費税・地方消費税・入湯税・宿泊税等の税、自動車代や煙草代や電話代やクリーニング代や土産代等の立替金、宿泊者が任意で支払った心付けやチップです。算定の場面についても、食事や宴会が宿泊料金に含まれている場合は食事料金等に相当する金額を除いた料金とし、消費税等が含まれている場合はその税相当分を控除した額を宿泊料金とするよう示されています。

ここから分かることは一つです。宿泊料金の内訳を分けても、税の判定では合算されます。清掃料を別建てにして表示上の宿泊料金を下げても、宿泊者の意思に関わりなく請求するものであれば区分の判定には入ります。一方で、消費税を含んだ総額のまま区分を当てると、実際より高い区分で判定してしまいます。判定に使う金額は、素泊まり・税抜きへ直した1人1泊の額です。清掃の実務と費用の持ち方は民泊の清掃にあります。

課税対象かどうかは、自治体ごとに違う

同じ住宅宿泊事業でも、宿泊税の対象になるかどうかは所在地で変わります。三つの自治体の公表ページを並べると、対象の範囲も税額の形もそろっていません。

自治体 住宅宿泊事業(民泊)の扱い 税額の形 適用の時期
東京都(現行) 旅館・ホテル営業の許可を受けた施設への宿泊が対象。新法民泊は対象に挙げられていない 10,000円未満は課税されず、10,000円以上15,000円未満は100円、15,000円以上は200円 現行
東京都(改正後) 旅館・ホテル、簡易宿所に加え、新法民泊と特区民泊が対象に加わる 宿泊料金の3%。1人1泊1万3千円未満の宿泊は課税免除 令和9年4月1日から
京都市 旅館業を営む施設に加え、住宅宿泊事業を営む施設も課税客体 区分ごとの定額。境界は6,000円・20,000円・50,000円・100,000円で、最も低い区分は200円 令和8年3月1日に見直し
大阪府 旅館・ホテル営業、簡易宿所営業に加え、特区民泊と住宅宿泊事業の施設が対象 5,000円未満は課税されず、5,000円以上15,000円未満は200円、15,000円以上20,000円未満は400円、20,000円以上は500円 令和7年9月1日から

京都市の中間の区分の税額は、公表ページの表記を確認しきれなかったため書いていません。金額は京都市のページで直接確かめてください。確認できなかったことを、推測で埋めずに残します。

東京都の改正は、民泊の運営者にとって特に大きい変更です。現行の課税対象は旅館・ホテル営業の許可を受けた施設への宿泊で、新法民泊は挙げられていません。改正後は旅館・ホテル、簡易宿所、民泊(新法民泊・特区民泊)が対象となり、税額は定額から宿泊料金の3%へ変わります。課税免除の基準は1人1泊1万3千円未満とされ、都は民泊のうち約3割が課税対象になる見込みと示しています。いま対象外であることは、ずっと対象外である理由にはなりません。

境界の直後で、宿泊者が払う総額が跳ねる

定額の宿泊税には段差があります。免税点や区分の境界を1円越えると、宿泊者の支払う総額に税額がそのまま乗ります。単価を上げた分より、段差のほうが大きく見えることもあります。

大阪府の宿泊税の区分を数直線で示した図。5,000円未満は課税なし、5,000円以上15,000円未満は200円、15,000円以上20,000円未満は400円、20,000円以上は500円で、境界が三か所にあることを示している
大阪府の区分を数直線に置いたものです。境界の位置が、単価を置ける範囲の区切りになります。出典は大阪府の宿泊税のページと制度改正の告知で、確認日は2026-10-17です。

段差の形は税額の決め方で変わります。定額なら、区分の中で単価を上げても宿泊税は増えません。区分の中では単価の上げ幅がそのまま自分の売上になり、区分を越えた時点で宿泊者の負担が増えます。一方、東京都の改正後のように定率であれば、段差は課税免除の基準の1か所だけになり、そこを越えたあとは単価に比例して税額が増えます。どちらの形かで、単価の刻み方の意味が変わります。

実務では、境界の直前で止めるか、越えたうえで越えた分を上回る内容を示すかを区分ごとに決めることになります。判定に使う金額は素泊まり・税抜きの額なので、表示価格のまま境界に当てないでください。消費税を含んだ額で判定すると、まだ届いていない区分で止めてしまいます。

表示は、税込みの総額が分かる形にする

単価を変えると、掲載先と自分のサイトの表示も変わります。ここには表示の義務がかかります。国税庁は総額表示の対象を「事業者が消費者に対してあらかじめ表示する価格」とし、店頭表示、チラシ広告、新聞・テレビの広告など、どのような媒体による表示でも対象になるとしています。価格を表示していない場合や、口頭で価格を伝える場合は対象外です。

認められる表示の例として、11,000円、11,000円(税込)、11,000円(税抜価格10,000円)、11,000円(うち消費税額等1,000円)、10,000円(税込価格11,000円)といった形が挙げられています。税抜価格を大きく出す場合でも、税込価格が分かる形になっていることが条件です。

国税庁タックスアンサー「No.6902 『総額表示』の義務付け」のページのファーストビュー
引用キャプチャ 単価を改定したあとに表示を直すときに読む画面です。対象になる価格表示の範囲と、認められる税込価格の表示例が示されています。 出典:No.6902 「総額表示」の義務付け(国税庁 タックスアンサー)(画面の取得日 2026-09-21/記載の確認日 2026-10-17)

掲載先の画面では、税の扱いが自動で計算されることもあります。それでも表示の責任は自分の側に残ります。改定のたびに、自分のサイトと各掲載先の表示が税込みで読める形になっているかを見てください。自分のサイト側の作り方は自社予約サイトの作り方で扱っています。

単価を上げると、消費税の判定に近づく

単価は年間の売上に直結します。国税庁は、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合には、原則として納税義務が免除されるとしています。基準期間だけでなく特定期間の判定もあり、個人事業者は前年の1月1日から6月30日までの期間、法人は前事業年度開始から6か月間の売上高で見ます。この1,000万円の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額によることもできるとされています。新たに設立された法人は設立1期目および2期目の基準期間がないため原則として免除されますが、設立時の資本金が1,000万円以上の場合は免除されません。

ここで効いてくるのが、単価の改定は売上の水準を変えるだけでなく、判定に当たる時期を前へ動かすこともあるという点です。免除されている状態で単価を上げ、基準期間の課税売上高が基準を越えれば、その後の課税期間で納税義務が生じます。同じ表示価格で売り続けるなら、受け取る額のうち消費税に相当する部分は納付へ回ることになります。単価の改定案は、売上の増加だけでなく、判定に当たるかどうかまで含めて見てください。個別の当てはめは所轄の税務署に確認してください。この記事では判断しません。

日数に上限があるため、単価が残る変数になる

住宅宿泊事業では、売上を伸ばす方向のうち一つがふさがっています。観光庁は、年間提供日数の上限を180日とし、1年間を毎年4月1日正午から翌年4月1日正午まで、1日を正午から翌日の正午までとしています。日数は買い足せません。詳しい数え方は民泊の180日にあります。

売上を決める変数 上限や制約 動かせる余地
提供日数 年間180日が上限。1年は4月1日正午から翌年4月1日正午まで 上限の中で埋める余地だけ
稼働 提供できる日のうち、売れた割合 掲載先・価格・最低泊数の設定で動く
単価(ADR) 法令上の上限は確認できない。宿泊税の区分と表示の義務がかかる 区分の境界と、示せる内容の範囲で動く

日数の天井が決まっているため、残る変数は稼働と単価です。そして稼働は売り切れば止まりますが、単価には法令上の上限が見つかりません。だから単価の側に手を入れることになり、同時に、この記事で並べた外側の仕組みに触れることになります。

単価を見直す前に通す五つの確認を上から順に並べた工程図。素泊まり・税抜きへ直す、課税対象かを確かめる、区分と免税点の境界をまたぐかを見る、年間の課税売上高への影響を見る、表示を税込みの総額へ直すの順に並べ、それぞれの根拠を添えている
単価を動かす前に通す順序です。順番を逆にすると、金額を決めたあとで条件が変わります。出典は大阪府の宿泊税のページと国税庁のタックスアンサーで、確認日は2026-10-17です。

相場の代わりに、自分の定義を書き出す

全国平均のADRを借りてくることはできません。観光庁の宿泊旅行統計調査で公表されているのは客室稼働率などで、客室単価の表章項目は確認できませんでした。比べる相手は、同じ定義で測った自分の過去の数字になります。

そこで、相場の表の代わりに、自分で埋める定義の表を置きます。公表されていない項目や決めていない項目は、空欄のまま「-」で残してください。埋まらないことも判断の材料です。

決めること 自分の答え 根拠にする資料
分子に入れる収入(清掃料を含めるか) - 自分の請求の内訳
仲介手数料を引く前か後か - 掲載先ごとの手数料の記載
分母の数え方(販売した室泊数) - 予約の明細
所在地の自治体が住宅宿泊事業を課税対象にしているか - 自治体の宿泊税のページ
区分の境界と免税点の金額 - 自治体の税率表
素泊まり・税抜きに直した1人1泊の額 - 自分の料金表
表示が税込価格の分かる形になっているか - 国税庁 No.6902
基準期間の課税売上高の見込み - 自分の帳簿と国税庁 No.6501

この表が埋まると、単価の改定は「いくら上げるか」ではなく「どの境界の内側で、どの範囲の金額を動かすか」という形になります。段差の位置と自分の定義が分かっていれば、改定の良し悪しを自分の数字で説明できます。

なお、宿泊税の区分と免税点は改正されます。大阪府は令和7年9月1日に、京都市は令和8年3月1日に見直しており、東京都は令和9年4月1日からの改正が示されています。単価の改定をする前に、所在地の自治体の公表ページをその日付で確認してください。この記事の数値は2026-10-17時点のものです。

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