国・地域別に訪日客の数を調べはじめると、入国した外国人の数という同じ話のはずなのに、二つの数字に行き当たります。日本政府観光局が毎月発表する訪日外客数と、法務省がまとめている出入国管理統計の入国外国人数です。どちらも公的な数字で、片方が誤っているわけではありません。決めるのは、どちらの定義で数えた数字を使うのか、そして国・地域別をどこまで細かく分けたいのかです。
先に誤解を一つ外しておきます。日本政府観光局は訪日外客統計のページで、国籍別のより細かいデータの入手先として法務省の統計を案内したうえで、法務省が発表する入国外国人総数は自らが発表する訪日外客数と異なる、と注記しています(確認日 2026-11-04)。二つの数字を並べて差を取ったり、片方の総数に他方の内訳の比率を当てはめたりすると、どこにも存在しない数字ができあがります。
この記事では、訪日外客数がどんな足し引きで作られているか、国・地域別の内訳を目的別・港別・在留資格別のどこまで分けられるか、その内訳がいつ手に入るか、そして資料へ転記するときに何を書き残すかを、日本政府観光局と出入国在留管理庁の公表資料の表記にそって整理します。公表されていない項目は、推測で埋めずに記載がないと書きます。
訪日外客数は、引き算と足し算の結果である
日本政府観光局の「統計・データに関するよくあるご質問」は、訪日外客数を「国籍に基づく法務省集計による外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに寄港地上陸、通過上陸、船舶観光上陸の外国人を加えたもの」と説明しています。出発点は法務省の集計で、そこから除いて加えた結果が訪日外客数です。別の調査で数え直した数ではありません。
含む人と含まない人も、同じ資料に書かれています。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は含まれ、乗員上陸数は含まれません。数え方は「入国手続きを受ける毎に1人と数えます」とされています。延べの人数であり、その月に日本にいた外国人の頭数ではないということです。同じ人が三回入国すれば、三として数に入ります。
ここから、国・地域別の順位を使うときの制約が二つ出てきます。観光目的の旅行者だけを取り出した数ではないこと、そして宿泊したかどうかを問わないことです。乗り継ぎのために上陸した人も条件に当てはまれば入ります。泊まった人を数えたいのであれば、入国側ではなく宿泊側の統計に移る必要があります。単位と対象の切り分けは国籍別の訪日客数はどの統計で見るかにまとめています。
同じ月でも、二つの官庁の総数は一致しない
日本政府観光局の訪日外客統計のページは、入国外国人の男女別・年齢別・国籍別は法務省の出入国管理統計年報で、月別の港別入国外国人数と入国外国人の国籍別在留資格は同省の出入国管理統計月報で公表されていると案内しています。そのうえで、法務省発表の入国外国人総数は訪日外客数と異なると明記しています。差が何人あるかという数値は、このページには記載がありません。
理由として示されているのは、上で見た定義の違いです。永住者等を除くか除かないか、一時上陸の三種類を加えるか加えないかで、数える母集団そのものが変わります。したがって、どちらが正しいかを決める問いではありません。使い分けの問いです。
実務では次の形に落とします。一つの資料の中では、どちらかの系列に統一します。前年同月比や構成比も、同じ系列の中だけで計算します。二つの数字を同じ表や同じグラフに並べる場合は、列ごとに発行元と定義を書き添え、合計や差を取らないことを明示します。手間ではありますが、後から見た人が足し合わせてしまう事故を防げます。
なお、訪日外客数そのものも、発表されたあとに書き換わります。段階の違いと、過去最高という言葉の使い分けは訪日外国人数の推移をどう読むかで扱っているので、ここでは繰り返しません。
内訳をどこまで分けられるかは、資料ごとに決まっている
国・地域別といっても、月ごとの人数を知りたいのか、観光目的かどうかを分けたいのか、どの空港から入ったのかを見たいのかで、開く資料が変わります。
| 資料 | 発行元 | 国・地域別で分かること | 対象期間 | 公表の時期 |
|---|---|---|---|---|
| 国籍/月別 訪日外客数 | 日本政府観光局 | 月ごとの人数 | 2003年〜2026年 | 対象月の翌月(推計値) |
| 国籍/目的別 訪日外客数 | 日本政府観光局 | 観光客・商用客・その他客の別 | 2004年〜2025年 | 年単位 |
| 出入国管理統計月報 | 法務省 | 港別入国外国人数、入国外国人の国籍別在留資格 | 2007年〜2026年 | 当該月の翌々月下旬 |
| 出入国管理統計年報 | 法務省 | 入国外国人の男女別、年齢別、国籍別 | 1961年〜2025年 | 当該年の翌年7月 |
訪日外客統計のページに並んでいる資料は、国籍/月別の訪日外客数が2003年から2026年まで、国籍/目的別の訪日外客数が2004年から2025年まで、年別の訪日外客数と出国日本人数の推移が1964年から2025年までです(確認日 2026-11-04)。目的別だけ、対象期間が一年短く、しかも年単位であることに注意してください。
月ごとの目的別が必要な場合の入手先も示されています。よくあるご質問は、目的別(観光客・商用客・その他客)の訪日外客数は「月別推計値発表の2ヶ月後に発表する暫定値の資料や日本の観光統計データサイトでご確認いただけます」としています。つまり、月次の推計値が出た時点では、その月の目的別はまだ手元にありません。来月の会議資料に観光目的だけの数を載せたいという話は、二か月待つか、年単位の資料で代える以外にありません。
入国した港や在留資格で分けたいときは、法務省側の統計表に移ります。こちらは月報と年報で粒度が分かれており、港別と在留資格別は月報、男女別と年齢別は年報です。
手に入る最新の月が、資料によってずれる
2026年11月4日に確認した時点で、日本政府観光局は2026年9月分の訪日外客数を2026年10月21日に発表済みでした。一方、出入国在留管理庁の「出入国管理統計統計表」では、出入(帰)国者数の月報と速報値が2026年8月分、年報が2025年分までです。港別の内訳を同じ月でそろえようとすると、訪日外客数の側を一か月戻すことになります。
同じページに収録されている範囲も確かめておくと、出入(帰)国者数は時系列表が1950年から2005年まで、年報が1961年から2025年まで、月報が2007年から2026年まで、速報値が2013年から2026年までです。入国審査・在留資格審査・退去強制手続等については、年報が1961年から2025年まで、月報が2007年から2026年までが掲載されています。
このページには、出入国管理統計統計表は変更される場合がある旨の注記も置かれています。表の構成が変わると、去年と同じ手順で同じ表を開けるとは限りません。転記するときに表の名前と確認日を残しておけば、変わったかどうかをその場で確かめられます。
月次の発表から読めるのは、総数と市場の名前までである
2026年10月21日の発表によると、2026年9月の訪日外客数は3,103,700人で、前年同月比5.0%減でした。9月として過去最高を記録したのは韓国、台湾、シンガポール、インド、メキシコ、ロシア、中東地域の7市場で、9月までの累計は3,000万人を超えたと示されています。
この発表の本文に、国・地域ごとの人数を並べた表は載っていません。出てくるのは総数と、過去最高を更新した市場の名前です。市場ごとの人数や順位を転記したいときは、訪日外客統計のページにある国籍/月別の時系列ファイルを開きます。発表の見出しから市場名だけを拾って順位表を作ると、根拠のない並べ替えになります。
民泊の実務で効く場面と、効かない場面
入国側の数字は、国・地域別の動きを早く知るには向いています。一方で、自分の物件に誰が泊まるかを決める数字ではありません。問いごとに整理すると次のようになります。
| 知りたいこと | 開く資料 | 読み違えやすい点 |
|---|---|---|
| 今月はどの市場が伸びたか | 訪日外客数の月次発表 | 本文に国ごとの人数の表はない |
| 国・地域別の人数を時系列で並べたい | 国籍/月別 訪日外客数 | 発表の段階が違う月が混ざる |
| 観光目的だけに絞りたい | 目的別の資料(暫定値以降) | 月次の推計値の時点では分からない |
| 近くの空港から誰が入っているか | 出入国管理統計月報の港別 | 入国した港は宿泊した場所ではない |
| 自分の地域に泊まった人を見たい | 宿泊側の統計 | 単位が人ではなく人泊になる |
港別の内訳は、地域の玄関口を把握するには使えます。ただし入国した港と宿泊した場所は別です。空港から離れた地域へ移動する人も、同じ県内に泊まる人も、同じ港の数に入っています。地域で泊まった人の量を見るなら都道府県別の宿泊者数の側へ移ります。
多言語での案内をどの言語から整えるかという判断にも、国・地域別の入国の数は材料になります。ただし全国の入国者の構成と、自分の宿に泊まる人の構成は一致しません。案内の作り方は民泊の多言語対応にまとめています。売上の見積もりについても、入国者数の増減をそのまま掛けるのではなく、営業できる日数と定員と単価から組み立てたうえで前提の確認に使ってください(民泊の売上予測)。
転記するときに残す四つの項目
資料へ書き写すときは、数値だけを持っていかないでください。残すのは、統計名と表の名前、発行元、対象の期間、確認日の四つです。この四つがそろっていれば、半年後に同じ値を探し直せます。
引用の条件も公表されています。日本政府観光局は、引用の際は出典元として同局を明記すれば利用でき、連絡は不要であるとしています(確認日 2026-11-04)。明記する相手を間違えないよう、法務省の統計表から取った値には法務省側の表名を書きます。
過去の数字が動く可能性にも触れておきます。日本政府観光局のページは、日本人訪問者数について、国によっては過去年の数字が変更されることがあると断っています。出入国管理統計統計表の側にも、統計表は変更される場合があるという注記があります。公表された数字は動かないものだという前提で資料を作ると、差し替えの判断ができなくなります。
まとめると、訪日外客数と入国外国人総数は、同じ出入国の記録を別の定義で切り出した二つの数字です。足し合わせず、比べず、問いに応じて開く資料を選ぶ。そして開いた資料の名前と確認日を残す。国・地域別の内訳を扱うときの作業は、この二つに集約されます。
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