多言語対応/解説

民泊の多言語対応|訳す前に決める原稿の範囲と、表示の作り方

民泊の案内を多言語にするとき、先に決まるのは訳す原稿の範囲です。住宅宿泊事業法が中身まで示している項目と、市町村や物件で変わる項目を分け、文字に頼らない案内用図記号の使い分けと、更新で版がずれない持ち方を観光庁と国土交通省の資料で整理しました。

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案内を多言語にしようと決めたとき、最初に手を付けたくなるのは翻訳です。ところが住宅宿泊事業法の側から見ると、訳し始める前に決まっていることのほうが多い。何を案内し、何を説明するのかという項目は法第7条と法第9条で定まっていて、その中身の一部は住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)が例示しています。翻訳は、その原稿が日本語で確定してから始まる後工程です。

順番を逆にすると、あとで全言語を作り直すことになります。ごみの出し方のように市町村ごとに中身が変わる項目があり、騒音のようにその物件と周辺地域でしか書けない項目があるためです。どこかで拾ってきた汎用の文例を訳しても、この二つは埋まりません。埋まらないまま置いた案内は、言語の数だけ同じ穴を抱えることになります。

この記事では、訳す原稿が法令のどこで決まるのかを確かめ、原稿を三つの層に分けて物件ごとに書き下ろす範囲を特定し、文字を増やす前に図記号へ逃がせるものを選び、最後に原本が変わったときに直す範囲をどう抑えるかまでを扱います。何語を用意するかという判断はここでは扱いません。対象になる言語は宿泊予約の時点で提示したもので決まるため、民泊の英語対応はどこまで必要かのほうで整理しています。

訳す原稿の単位は、法第7条と法第9条で決まっている

多言語にする作業を「案内文を訳すこと」と捉えると、原稿の範囲が人によってばらつきます。法令の側は、もっと細かい単位で項目を指定しています。まず法第7条で、外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るための措置として、届出住宅の設備の使用方法に関する案内、移動のための交通手段に関する情報の提供、火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内の三つが挙がっています。

そして、このうち二つには施行要領が定義を付けています。移動のための交通手段に関する情報とは、最寄りの駅等の利便施設への経路と利用可能な交通機関に関する情報をいいます。通報連絡先に関する案内とは、消防署、警察署、医療機関、住宅宿泊管理業者への連絡方法の情報を提供することをいいます。四つの連絡先のうち一つは自分たちの窓口です。観光案内でも周辺の店の情報でもなく、移動と通報という具体的な用途に絞られている点が、原稿の量を決めるうえで効いてきます。

法第9条は別の目的で外国語を求めています。周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関する説明で、騒音の防止、ごみの処理、火災の防止について配慮すべき事項を説明するというものです。施行要領には、それぞれの中身の例示があります。騒音では、大声での会話を控えること、深夜に窓を閉めること、バルコニー等屋外での宴会を開かないこと、届出住宅内は楽器を使用しないこと。火災では、ガスコンロの使用のための元栓の開閉方法及びその際の注意事項、初期消火のための消火器の使用方法、避難経路、通報措置等です。

条文 案内・説明する項目 観光庁・施行要領が示している中身
法第7条 設備の使用方法 中身を具体的に例示した記述は、今回の確認では見つかりませんでした
法第7条 移動のための交通手段 最寄りの駅等の利便施設への経路、利用可能な交通機関に関する情報
法第7条 災害時の通報連絡先 消防署、警察署、医療機関、住宅宿泊管理業者への連絡方法
法第9条 騒音の防止 大声での会話を控える、深夜に窓を閉める、バルコニー等屋外で宴会を開かない、届出住宅内で楽器を使用しない
法第9条 ごみの処理 当該市町村における廃棄物の分別方法等に沿って、住宅宿泊事業者の指定した方法により捨てるべきであること等
法第9条 火災の防止 ガスコンロの元栓の開閉方法とその際の注意事項、初期消火のための消火器の使用方法、避難経路、通報措置等

この表の六行が、多言語にする原稿の単位です。行を増やすのは自由ですが、減らすことはできません。そして右の列を見ると、例示がそのまま使える行と、自分の物件を見なければ一文字も書けない行が混じっていることが分かります。この違いが、次の層分けになります。案内に何を書くかという項目そのものは民泊のチェックイン案内に何を書くかで扱っているため、ここでは翻訳の原稿という側面だけを見ます。

原稿は三つの層に分かれる。使い回せるのは上の二層まで

同じ「案内文」でも、書く手間はまったく違います。層に分けると、どこで止まっているのかが見えます。

第一層は、法が項目を定めているところです。先ほどの六項目がこれにあたり、どの届出住宅でも共通です。第二層は、施行要領が中身を例示しているところです。大声での会話、深夜の窓、消火器の使用方法といった文言は、そのまま原稿の骨格に使えます。第三層が、届出住宅と市町村で中身が変わるところです。ごみの分別方法は当該市町村のルールに沿う必要があり、事業者が指定した捨て方も自分で決めた内容になります。騒音についても、施行要領は届出住宅及びその周辺地域の生活環境に応じ適切な内容を説明することが必要としています。

多言語にする原稿を、法が項目を定めている層、施行要領が中身を例示している層、届出住宅と市町村で中身が変わる層の三段に分け、各層に含まれる具体的な文言を並べた階層図
上二層は文言が共通で、他の届出住宅と同じ原稿を使えます。いちばん広い第三層だけは、自分の物件と自治体を調べないと書き出せません。 出典:観光庁 民泊制度ポータルサイト「事業者の業務[1]」住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)(確認日 2026-09-18)

多言語対応が進まないとき、止まっているのはたいてい第三層です。翻訳そのものは外へ出せますが、市町村の分別区分を調べる作業と、自分の物件で何を禁止するかを決める作業は、外へ出せません。ここが空のまま英語版だけ先に作ると、あとで原本を直したときに、すでに配った全言語を追いかける羽目になります。ハウスルールとしてどこまで決めるかは民泊のハウスルールで扱っています。

作業の順番としては、第三層を日本語で書き切ってから翻訳に入るのが安全です。逆に言うと、第一層と第二層は先に訳しておいても手戻りが起きにくい部分になります。訳せる部分と、決めなければならない部分を分けておくと、外注できる範囲もはっきりします

訳す文体をそろえたいとき、公的に手に入る材料

用語のゆれは、言語が増えるほど目立ちます。同じ設備を別の語で書いた版が並ぶと、宿泊者からの問い合わせが増えるのは想像に難くありません。ここで参照できる公的な材料が二つあります。

一つは、観光庁が公開している多言語対応のガイドラインです。観光庁は「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」を掲載しており、そのページは、公共交通機関、美術館・博物館、観光地等の外国人目線に立った多言語対応を強化・改善するためのものだと説明しています。届出住宅を名指しで対象に挙げた記述は、今回の確認では見つけられませんでした。そのため、この記事では届出住宅に適用される基準としては扱わず、表記を考えるときの参照先として位置づけます。

もう一つは、同じく観光庁の「地域観光資源の多言語解説整備促進事業」で公開されている資料群です。英語のページには、「How To 多言語解説文整備」「地域観光資源の英語解説文作成のためのライティング・スタイルマニュアル(日本語・英語版)」「地域観光資源の英語解説文作成のための用語集」「地域観光資源の多言語解説文用語集・事例集データベース」が並んでいます。中国語のページでは、スタイルマニュアルが日本語版・簡体字版・台湾繁体字版の三つに分かれ、用語集は、解説文作成の際に丁寧な説明が必要である用語や注意が必要な用語及びその用例を、本事業で作成した英語と併せて中国語(簡体字・台湾繁体字)で明記するものだと説明されています。

ただし、この事業が対象にしているのは地域観光資源の解説文です。民泊の案内文のために作られた文例集ではありません。使えるのは、用語の当て方や文体のそろえ方といった考え方の部分で、そこに載っている文章をそのまま届出住宅の案内に移せるわけではない、という距離感で扱ってください。なお、英語のページには、2018年度から2025年度までに作成した英語解説文が383地域、10,510点という実績も記載されています。

翻訳の手段についても触れておきます。どの翻訳サービスや機器が適切かを示した公的資料は、今回の確認では見つけられませんでした。このサイトでは確認できた一次情報の範囲だけを書くため、特定の製品名は挙げません。

文字を増やす前に、図記号で示せるものを外へ出す

多言語対応を文章だけで進めると、言語の数だけ文字が増えます。増えた文字は、そのまま更新のたびに直す量になります。そこで先に考えたいのが、そもそも文字にしなくてよいものを分けることです。

国土交通省は、案内用図記号(JIS Z8210)を、不特定多数の人々が利用する公共交通機関や公共施設、観光施設等において、文字・言語によらず対象物、概念または状態に関する情報を提供する図形と定義しています。同省のページには図記号が区分ごとに並んでおり、「案内用図記号(JIS Z8210)(PDF版)」「旅客施設における誘導サイン・位置サイン・案内サインの表示例(PDF版)」「標準案内用図記号((公財)交通エコロジー・モビリティ財団策定)」といった資料が掲載されています。

国土交通省のページに並んでいる区分 届出住宅の案内で関わる場面があるか(本記事の整理)
公共・一般施設 建物内の設備や窓口を指す場面で関わる
交通施設 最寄りの駅等への経路を示す場面で関わる
商業施設 周辺情報として触れる場合に関わる
観光・文化・スポーツ施設 周辺情報として触れる場合に関わる
安全 避難や消火に関わる表示で使う場面がある
禁止 ハウスルールで禁止する事項の表示に使う場面がある
注意 設備の取り扱いで注意を促す表示に使う場面がある
指示 行為を促す表示に使う場面がある
災害種別一般、洪水・堤防案内 立地によっては関わる
JIS Z8210付属書JA(参考)・付属書JD(規定) 規格本体の付属書として掲載されている

右の列は本記事の整理であって、公的に届出住宅へ割り当てられた区分ではありません。この規格は公共交通機関や公共施設、観光施設等を想定して作られたもので、届出住宅での使用を義務づけたものではないという点も、あわせて押さえておいてください。義務ではないものを義務のように書くと、読者が不要な設備投資へ進むことになります。

それでも図記号を先に検討する価値があるのは、更新の負担が言語の数に比例しないからです。図記号は一つ直せば全言語で直ります。文章は、言語の数だけ直すことになります。この差は、言語が二つのときはほとんど感じられず、四つを超えたあたりから効いてきます。

国土交通省「バリアフリー:案内用図記号(JIS Z8210)」のページのファーストビュー
引用キャプチャ 案内用図記号の定義と、公共・一般施設から災害種別一般までの区分、図記号のPDF版や表示例の資料へ進むリンクが並んでいる公式ページです。 出典:バリアフリー:案内用図記号(JIS Z8210)(国土交通省 総合政策)(確認日 2026-09-18/表示のファーストビュー)

図記号で足りるか、文章が要るかを分ける二つの軸

では、どこまでを図記号に任せられるのか。判断の軸は二つです。一つは、その内容がどの物件でも同じかどうか。もう一つは、読む人が急いでいるかどうかです。

内容が物件固有かという横軸と、急いで読む場面かという縦軸で四象限をつくり、図記号だけで足りる、図と短い文を組み合わせる、図記号に一文を添える、文章で書くしかない、の四つに表示手段を割り当てた比較マトリクス
右下へ行くほど言語の数だけ書き下ろしが増え、左上へ行くほど言語が増えても作業量が変わりません。四象限への割り当ては本記事の整理で、区分名は国土交通省の掲載区分によります。 出典:国土交通省「案内用図記号(JIS Z8210)」住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)(確認日 2026-09-18)

急いで読む場面のうち、意味が世界共通のものは図記号だけで足ります。同じく急いで読む場面でも、消火器がどこにあるか、避難経路がどう伸びているか、ガスの元栓がどの位置かという情報は物件ごとに違います。ここは図記号だけでは示せず、間取りと短い一文の組み合わせになります。施行要領が火災の防止として挙げている元栓の開閉方法や消火器の使用方法は、まさにこの右上に入ります。

落ち着いて読む場面で、内容が共通のものは、図記号に一文を添える形がいちばん軽くなります。設備の使用方法がこれにあたり、絵で対象を示し、操作だけを言語ごとに訳せば済みます。訳す文字数をいちばん減らせるのはこの象限です。そして右下、つまり落ち着いて読むが内容は物件固有というところだけが、文章で書くしかない領域として残ります。市町村の分別方法と自分が指定した捨て方、周辺地域の生活環境に応じた騒音の配慮事項が、ここに集まります。

災害が起きた瞬間の伝達は、この四象限の外にあります。事前に置いた紙や画面では届かない場面があり、義務と任意の切り分けも別に整理する必要があるため、民泊の外国人宿泊者への災害対応を参照してください。

置き場所は「宿泊中に必要に応じて閲覧できるか」で決まる

原稿ができたら、次は置き場所です。ここには条件が示されています。観光庁は、必要な事項が記載された書面を居室に備え付けることによるほか、タブレット端末への表示等により、宿泊者が届出住宅に宿泊している間必要に応じて閲覧できる方法で行う必要があるとしています。施行要領も同じ形で、宿泊者が届出住宅に宿泊している間必要に応じて閲覧できる方法によることが望ましいとしています。

条件は「渡したかどうか」ではなく「宿泊中いつでも読めるかどうか」に置かれています。チェックインのときに一度見せて回収してしまう運用は、この条件を満たしていると言いにくくなります。法第9条の説明についても、観光庁は、宿泊者の目につきやすい場所に掲示する等により、宿泊者の注意喚起を図る上で効果的な方法で行う必要があるとしています。掲示という言葉が出てくるのはこちらです。実際にどの置き方が認められるかは、届出先の自治体の窓口で確認してください。

置き方を選ぶとき、多言語という観点では版の数が問題になります。紙は言語ごとに部数が要り、端末は一か所を直せば全部の版が入れ替わります。ただし端末には表示するための機器が要るため、どちらが良いと一般化することはできません。自分の物件で、何語を何部置くことになるかを数えてから決めてください。遠隔で運営している場合に誰が差し替えるのかという問題は民泊の遠隔運営にも関わります。

更新が起きたとき、直す範囲を言語の数より小さくする

多言語対応でいちばん壊れやすいのは、作った直後ではなく更新のときです。管理業者が変われば通報連絡先が変わり、設備を入れ替えれば使用方法が変わり、市町村がごみの分別を見直せば第三層が変わります。このとき、英語版だけ直して他が古いまま残ると、同じ届出住宅について複数の異なる説明が同時に存在する状態になります。

日本語の原本を中心に置き、原本を直す、影響する版を洗い出す、変わった箇所だけ訳す、置いた先を差し替える、という四つの工程を時計回りに並べた循環図
起点を必ず日本語の原本に固定すると、洗い出す対象が「その項目を持つ版」だけに絞られます。工程の並べ方は本記事の整理で、閲覧できる状態を保つことが出典の求めです。 出典:観光庁 民泊制度ポータルサイト「事業者の業務[1]」住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)(確認日 2026-09-18)

この循環を回すために要るのは、大がかりな仕組みではありません。原本を一つに決めること、原稿を項目ごとに分けて持つこと、そして置いた先の一覧を持つことの三つです。項目ごとに分けてあれば、通報連絡先が変わったときに開くのは連絡先の行だけで済みます。案内文を一枚の長い文章として持っていると、どこが変わったかを言語ごとに探すことになります

点検の間隔も決めておいてください。市町村のごみのルールや管理業者の連絡先は、こちらが何もしなくても変わります。外国人宿泊者を受け入れる準備全体の順番はインバウンド民泊の準備にまとめています。

多言語対応の設計とは、訳す量を決めることでもある

ここまでを振り返ると、多言語対応という作業は、翻訳の作業より前の段階で勝負がついていることが分かります。法が定めた六項目のうち、どこまでが例示の流用で済み、どこからが自分で書き下ろす部分なのか。そのうち、どれが図記号で示せて、どれが文章でしか示せないのか。この二回の切り分けを済ませた時点で、訳す文字の量はほぼ確定します。

言語を増やす判断と、訳す量を減らす判断は、同時に進められます。図記号へ寄せられるものを寄せ、項目ごとに原稿を分け、原本を一つに保つ。ここまでやってから二つ目の言語を足すのと、長い案内文を一枚持ったまま足すのとでは、三つ目以降で差が開きます。

最後に、書かないことも決めておいてください。今回の確認では、届出住宅の案内文として適切な言い回しを示した公的資料も、推奨できる翻訳の手段を示した資料も見つけられませんでした。出典を示せないものを、それらしく書き足さないでください。書けるのは、法が求めている項目と、自分の物件で実際に起きることだけです。その二つだけで、案内は十分に成り立ちます。

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