英語での接客/解説

民泊の英語対応はどこまで必要か|求められるのは会話ではなく案内

民泊で英語が要るのは会話ではなく案内です。住宅宿泊事業法が外国語での案内を求める3項目と、書面やタブレット端末で足りる範囲、用意する言語の決まり方、それでも人が応じる本人確認・苦情・災害時の3場面を、観光庁と消防庁の資料で整理しました。

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英語が話せないと民泊は運営できないのか。この問いに住宅宿泊事業法の側から答えると、求められているのは会話の能力ではありません。法が事業者に課しているのは外国語を用いた案内と説明で、その手段として観光庁が挙げているのは、必要な事項を書いた書面を居室に備え付けること、そしてタブレット端末への表示等です。口頭でやり取りできることを条件にした規定は、今回確認した範囲では見当たりませんでした。

ただし、それで英語がまったく要らなくなるわけでもありません。書面や端末では代われない接点が残ります。宿泊者の本人確認、苦情等への対応、そして災害が起きたときの伝達です。この三つは、相手が目の前にいるか電話の向こうにいるかの違いはあっても、その場で応じることが前提に置かれています。英語をどこまで用意するかという判断は、この線引きをしてから始めたほうが早く決まります。

この記事では、外国語が関わる場面を「書面と端末で足りるもの」と「人が応じるもの」に分けたうえで、用意する言語がどこで決まるのか、旅行者の側は言葉で困ったときに何で解決しているのかを、観光庁と消防庁の資料で確かめられる範囲だけ並べます。案内に何を書くかという項目の一覧は民泊のチェックイン案内に何を書くかで扱っているため、ここでは重ねません。

求められているのは会話ではなく、外国語での案内と説明

外国語が最初に出てくるのは、住宅宿泊事業法の第7条です。観光庁は、外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るために必要な措置として、三つの案内を挙げています。外国語を用いて届出住宅の設備の使用方法に関する案内をすること、外国語を用いて移動のための交通手段に関する情報を提供すること、そして外国語を用いて火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内をすることです。

三つには、それぞれ中身の定義が付いています。交通手段の情報とは、最寄りの駅等の利便施設への経路と、利用可能な交通機関に関する情報をいいます。周辺の観光案内ではなく、移動そのものの話です。通報連絡先の案内とは、消防署、警察署、医療機関、住宅宿泊管理業者への連絡方法の情報を提供することをいいます。連絡先は四つ挙がっており、そのうち一つは自分たちの側の窓口です。

ここで注目したいのは、実施の方法です。観光庁は、必要な事項が記載された書面を居室に備え付けることによるほか、タブレット端末への表示等により、宿泊者が確認できる方法で行う必要があるとしています。住宅宿泊事業法施行要領でも、書面を居室に備え付けることによるほか、タブレット端末への表示等により、宿泊者が届出住宅に宿泊している間必要に応じて閲覧できる方法によることが望ましいと書かれています。宿泊中いつでも読める状態にしておくことが求められているのであって、その場で説明できることが求められているわけではありません。

外国語はもうひとつ、第9条にも出てきます。周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関する説明で、騒音の防止、廃棄物の処理、火災の防止について、外国人に対しては外国語を用いて説明するというものです。施行要領は、この第9条関係の「外国語を用いた説明について」という項目で、外国語の扱いは第7条関係の整理のとおりとすると定めています。二つの条文で別々の基準が立っているわけではありません

住宅宿泊事業法 事業者が行うこと 外国語の関わり方
第7条 外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保 設備の使用方法、交通手段、災害時の通報連絡先を外国語で案内する
第8条 宿泊者名簿の備付け 国籍及び旅券番号を記載し、旅券の写しを名簿とともに保存する。言語を指定した記述は確認できませんでした
第9条 周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関する説明 騒音・廃棄物・火災について、外国人に対しては外国語を用いて説明する
第10条 苦情等への対応 深夜早朝を問わず、常時、応答又は電話により対応する

この表の第8条と第10条には、外国語という言葉が直接は出てきません。それでも実務では言葉が要ります。名簿の記載事項を本人から聞き取り、旅券の呈示を求め、苦情が入れば電話に出ることになるからです。条文に外国語と書かれているかどうかと、現場で言葉が要るかどうかは、別の話です。この記事が分けたいのは、まさにその境目です。

何語を用意するかは、自分の予約導線が決めている

何か国語を用意すればよいのか、という問いには答えが示されています。観光庁と施行要領はどちらも、外国語とは宿泊予約の時点で日本語以外の言語として提示したものをいうと定めています。世界中の言語を並べる話ではなく、自分がどの言語で予約を受け付けているかで決まります。

この定義には続きがあります。その時点において外国人宿泊者が日本語を指定した場合は、外国語で案内等を行う必要はありません、と観光庁は書いています。つまり分岐は予約の時点で終わっており、チェックインの場で相手の語学力を見て判断するものではありません。

宿泊予約の時点で日本語以外の言語を提示したか、提示した言語は何か、宿泊者が日本語を指定したかによって、外国語での案内が必要かどうかが三つに分かれることを示した分岐図
分岐はすべて宿泊予約の時点で決まります。どの枝に進んでも、案内を届ける手段は書面の備付けかタブレット端末への表示等です。 出典:観光庁 民泊制度ポータルサイト「事業者の業務[1]」住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)(確認日 2026-09-16)

裏返すと、予約の入口で英語を掲げた時点で、英語の案内を用意する側に回ります。仲介サイトで英語の掲載面を持つ、自社の予約ページを英語でも出す、といった選択は、集客の判断であると同時に、案内の準備範囲を決める判断でもあります。言語を増やすかどうかは、集客の話と案内の話をひとつの決定として扱ったほうが整理しやすくなります

なお、提示した言語のほかに何語まで備えるべきかを定めた規定は、今回の確認では見つけられませんでした。用意する言語の数についても、多いほどよいという根拠を公的資料から示すことはできません。この記事では、確認できた範囲、つまり予約の時点で提示した言語が対象になるというところまでを書きます。

書面と端末で足りる場面、人が応じる場面

ここまでで、外国語が関わる場面を二つに分けられます。片方は、あらかじめ作っておけば足りるものです。設備の使用方法、交通手段、災害時の通報連絡先、そして騒音・廃棄物・火災の説明。いずれも文章として用意し、居室に置くか端末で読めるようにしておけば、条件を満たす方法として観光庁が示した形になります。この四つは、準備の作業であって、会話の技術ではありません

もう片方が、人が応じる場面です。まず宿泊者の本人確認があります。観光庁は、本人確認は対面又は対面と同等の手段として、いずれも満たすICTを活用した方法等により行われる必要があるとしています。ICTを使う場合の条件は二つで、宿泊者の顔及び旅券が画像により鮮明に確認できること、そしてその画像が住宅宿泊事業者や住宅宿泊管理業者の営業所等、届出住宅内又は届出住宅の近傍から発信されていることが確認できることです。対面であれ画面越しであれ、相手とやり取りする時間が必ず生じます。詳しい要件は民泊の本人確認にまとめました。

次に苦情等への対応です。観光庁は、深夜早朝を問わず、常時、応答又は電話により対応する必要があるとしています。ここには時間帯の除外がありません。夜間に外国語の電話が鳴る可能性を、運営の設計に織り込んでおく必要があります。自分で受けられないなら、受けられる体制に委ねることになります。委託の範囲は民泊の運営代行で扱っています。

設備の使用方法、交通手段、災害時の通報連絡先、騒音などの説明は書面や端末で足り、本人確認、苦情等への対応、災害時の伝達は人がその場で応じる必要があることを左右に並べた比較図
左の四つは条文が案内・説明として求めているもので、手段が示されています。右の三つは応じる時間そのものが求められているため、書面に置き換えられません。 出典:観光庁 民泊制度ポータルサイト「事業者の業務[1]」総務省消防庁のガイドライン(確認日 2026-09-16)

この切り分けは、非対面での運営を考えるときにそのまま使えます。左側は仕組みに載せられる部分、右側は人か体制を確保する部分です。家主不在型で遠隔から運営する場合、どこまでを機器に任せられるかという問いは、結局この二列のどちらに入るかという問いになります。あわせて民泊の遠隔運営も参照してください。

旅行者側の統計では、困ったときの解決手段はICTツールが最多

では、旅行者の側は言葉の壁をどう越えているのでしょうか。ここには公的な調査があります。観光庁が令和8年4月28日に公表した令和7年度の受入環境に関する調査で、成田国際空港、東京国際空港、関西国際空港、福岡空港、新千歳空港で、日本から出国する前の訪日外国人旅行者に旅行中に困ったことを聞いたものです。調査期間は令和7年11月18日から令和8年1月13日まで、調査件数は4,110件です。

結果を先に書くと、旅行中に困ったことはなかったと回答した割合が43.7%で、いちばん多かった困りごとはごみ箱の少なさの17.2%でした。言葉に関わる項目は二つあり、施設等のスタッフとのコミュニケーションが15.4%で二番目、多言語表示の少なさ・わかりにくさが10.9%で五番目です。

訪日外国人旅行者が旅行中に困ったこととして挙げた七項目の割合を横棒で並べ、施設等のスタッフとのコミュニケーションと多言語表示の二項目を濃い色で示した棒グラフ
言語に関わる二項目を濃い色にしています。困ったことはなかったという回答が最も多く、その次にごみ箱の少なさが来ています。 出典:観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査を実施しました」(令和8年4月28日)(確認日 2026-09-16)

この調査には、困った場所と対処の方法も載っています。宿泊施設の運営にとって重要なのは、困った場所の上位に宿泊施設が挙がっていないことです。発表に書かれているのは飲食店と鉄道駅・バスターミナルで、宿泊施設の数値はこの発表に記載がありません。掲載がないことを「宿泊施設では困っていない」と読み替えることはできませんが、少なくともこの資料から宿泊施設の順位を主張することもできません。

困った項目と割合 発表に挙がっている困った場所 困ったときの対応
施設等のスタッフとのコミュニケーション(15.4%) 飲食店38%、鉄道駅、バスターミナル27% ICTツールを利用68%
多言語表示の少なさ・わかりにくさ(10.9%) 都市部は鉄道駅構内30%、地方部は飲食店23% ICTツールを利用57%

もうひとつ読み取れるのは、対処の方法です。コミュニケーションで困ったとき、ICTツールを利用したという回答が68%です。多言語表示で困ったときも57%が同じ手段を取っています。旅行者の側はすでに機器で解決しており、受け入れる側が同じ道具を使うことに違和感はない状況だと言えます。ただし、この調査は旅行者に何をしたかを聞いたものであって、宿泊施設がどの道具を備えるべきかを示したものではありません。特定のアプリやサービスを推奨する記述も、この発表にはありません。

観光庁の報道発表「訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査を実施しました」のページのファーストビュー
引用キャプチャ 調査期間と調査件数、旅行中に困ったことの上位項目と割合、施設等のスタッフとのコミュニケーションで困った場所と対応が並んでいる公式ページです。 出典:訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査を実施しました(観光庁 報道発表 令和8年4月28日)(確認日 2026-09-16/表示のファーストビュー)

災害が起きた場面だけは、同じ考え方が通らない

三つ目の、人が応じる場面が災害です。ここだけは、書面を置いておくことでも、その場で機器を出すことでも足りない可能性があります。通報連絡先の案内は事前に用意できますが、地震や火災が起きた瞬間に何が起きていて、どちらへ動けばよいかを伝える場面は、事前の紙にも、落ち着いて操作する機器にも収まりません。

この領域には、総務省消防庁が出した「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」があります。平成30年3月29日に策定され、令和7年1月30日に改定されています。令和元年版の消防白書は、日本語音声だけでは災害情報を十分に受け取ることができないことなどの課題が生じ得るとしたうえで、駅・空港、競技場、旅館・ホテルなどの施設を挙げ、デジタルサイネージ、スマートフォンアプリ、フリップボードなどによって災害情報と避難誘導の情報を多言語化・視覚化する取組を示しています。

このガイドラインが届出住宅を名指しで対象としているかどうかは、今回の確認では確かめられませんでした。旅館・ホテルが挙がっている一方で、住宅宿泊事業の届出住宅について書かれた箇所は見つけられていません。そのため、この記事では義務として紹介せず、考え方の参考として扱います。実際に何を備えるかは、届出先の自治体と消防の窓口に確認してください。

考え方として持ち帰れるのは、言葉に頼らない伝え方を一つは用意しておくということです。多言語化と並んで視覚化が挙がっているのは、緊急の場面では文字量を読ませること自体が難しくなるためだと読めます。避難経路の表示については、観光庁が、市町村の火災予防条例により規制される地域もあることから、当該条例の規制内容を確認し、規定された事項を表示に盛り込む必要があると書いています。表示の中身は、全国共通ではなく地域の条例で変わります

英語の言い回しをこの記事に載せていない理由

ここまで読んで、英語の例文が一つも出てこないことに気づいた方もいると思います。載せていないのは理由があってのことです。

第一に、どの言い回しが適切かを示した公的な資料を、今回の確認では見つけられませんでした。挨拶や案内の英文を並べることはできますが、それは出典のない文章になります。このサイトでは、確認できた一次情報の範囲だけを書くことにしています。

第二に、第9条の説明については、汎用の文例がそもそも成り立ちません。観光庁は、騒音の防止のために配慮すべき事項について、大声での会話を控えること、深夜に窓を閉めることといった内容を例示したうえで、届出住宅及びその周辺地域の生活環境に応じ適切な内容を説明することが必要としています。どの物件にも当てはまる文章を配ることは、この求めに応える形になりません。自分の物件で実際に起きること、周りにどんな建物があり、ごみの出し方が地域でどう決まっているかを先に書き出して、それを訳す順序になります。

第三に、翻訳の手段を推奨できるだけの根拠もありません。先ほどの調査は旅行者がICTツールを利用したという事実を示していますが、どのツールがよいかを示すものではありません。機器や事業者の名前を挙げる記事ではなく、何を用意する必要があるかを確かめる記事として書いています

先に決めるのは英語力ではなく、置き場所と連絡手段

最後に、決める順番を整理します。英語の勉強を始めるかどうかは、この順番の後ろのほうに来ます。

一つ目は、予約の入口でどの言語を提示するかです。ここで用意すべき案内の言語が決まります。二つ目は、その言語の案内をどこに置くかです。書面を居室に備え付けるのか、端末で読める形にするのか、あるいは両方かを決めます。宿泊中に必要に応じて閲覧できる状態であることが条件です。三つ目は、本人確認をどの方法で行うかです。対面か、二つの条件を満たすICTか、いずれかを選びます。四つ目は、深夜早朝を含めて誰が電話に出るかです。自分が出られないなら、出られる相手に委ねることになります。

ここまで決めたあとに、残った会話の場面をどう埋めるかという話が来ます。順番を逆にすると、英語の練習をしても義務の範囲が埋まらないという状態が起きます。案内の書面が無ければ、どれだけ流暢に話せても第7条の求めは満たされません。逆に、書面と端末が整っていれば、会話で埋めるべき範囲はかなり小さくなります。

外国人宿泊者を受け入れるときの手続き全般、とくに宿泊者名簿と旅券の写しの扱いについては民泊で中国からの旅行者を受け入れる準備で、国籍を問わない共通の手続きとして整理しています。チェックインの方法そのものの選択肢は民泊のチェックイン方法を参照してください。

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