訪日外国人に泊まってもらう民泊を考えるとき、先に押さえておきたい数字があります。観光庁が公表している届出住宅の宿泊実績では、令和8年4月1日から5月31日までの宿泊者626,765人のうち、外国人宿泊者は391,174人でした。割合にすると62.4%です。届出住宅に泊まっているのは、すでに過半が海外からの旅行者だということになります。
そうであれば、インバウンドは後から足す施策ではなく、届出住宅の既定の状態として設計したほうが早く決まります。では、その外国人はどこから予約してくるのか。多くは民泊の仲介サイトです。そしてここに、住宅宿泊事業法が引いた線があります。届出住宅の仲介を他人に委託するときは、住宅宿泊仲介業者または旅行業者に委託しなければならない、というものです。掲載先を自由に選べるわけではありません。
この記事が扱うのは、公表値で確かめられる外国人宿泊者の比重と、掲載先を選ぶときに法令が決めていること、そして掲載を頼むまでに手元でそろえる情報の三つです。外国語で何をどう案内するかは民泊の英語対応はどこまで必要かで、宿泊者名簿と旅券の写しは民泊の宿泊者名簿で扱っているため、ここでは重ねません。受け入れ後に増える業務は、記事の後半で根拠と担当記事の対応だけを示します。
届出住宅に泊まる人の62.4%は、すでに外国人
数字の出どころは、観光庁が民泊制度ポータルサイトで公表している「住宅宿泊事業法の施行状況」です。住宅宿泊事業者が2か月ごとに提出する定期報告を集計したもので、令和8年4月1日から5月31日分の報告率は84.7%と書かれています。全数ではなく、報告のあった分の集計だという前提は、引用するときに落とさないでください。この数字が何を数えたものかは民泊の宿泊者数は何を数えた数字かで詳しく扱っています。
同じ資料には、外国人宿泊者の地域別の内訳も載っています。東アジアが最も多く全体の31.5%、次いで北米が18.2%、欧州が14.7%です。国籍別では第1位が米国、第2位が韓国、第3位が台湾、第4位が中国、第5位がオーストラリアで、上位5か国・地域で外国人宿泊者数の47.0%を占めると書かれています。近隣の国だけで埋まっているわけではないことが、この並びから読めます。
この構成は、用意する言語を考えるときに効いてきます。東アジアが最も多いとはいえ、北米と欧州が続いており、英語で読む相手が一定の比重を占めます。ただし何語を用意するかは、住宅宿泊事業法の側では宿泊予約の時点で日本語以外の言語として提示したもので決まります。統計の構成比は、どの言語で予約を受け付けるかという自分の判断の材料であって、義務の範囲そのものを決めるものではありません。この切り分けは民泊の英語対応はどこまで必要かで整理しています。
予約経路で法令が決めているのは「委託先」
外国人宿泊者の多くは仲介サイトを通して予約します。住宅宿泊事業者の側から見ると、それは「どのサイトに載せるか」という営業の判断です。ところが法令の側から見ると、同じ行為が誰に仲介を委託するかという決定になります。観光庁は、住宅宿泊事業者が届出住宅の仲介を他人に委託するときは住宅宿泊仲介業者または旅行業者に委託しなければならないと住宅宿泊事業法で規定(法第12条)されている、と書いています。無登録の相手へ委託した場合には、業務改善命令や50万円以下の罰金(法第75条)等が科されることがあるとも示されています。
住宅宿泊仲介業とは、旅行業法第6条の4第1項に規定する旅行業者以外の者が、報酬を得て、住宅宿泊仲介業務を行う事業をいいます。営もうとする者は観光庁長官の登録を受ける必要があり、登録は5年ごとの更新です。そして観光庁は、住宅宿泊仲介業者は住宅宿泊事業法に基づく届出住宅しか扱うことはできませんと明記しています。この登録の枠内で扱えるのは届出住宅だけだ、ということです。掲載を頼む側にとっては、相手が届出住宅を扱う前提で作られた仕組みの中にいるかどうかの確認になります。
では、その相手はどれくらいあるのか。観光庁の「住宅宿泊事業法の施行状況」では、住宅宿泊仲介業の登録件数は66件(令和8年7月15日時点)と示されています。別に公表されているリストのページでは、住宅宿泊仲介業者のリストが令和8年6月22日時点で66社、民泊を取り扱う旅行業者のリストが令和7年3月末時点で10社です。旅行業者のリストには、本リストに名前のない旅行業者においても民泊物件を取り扱うことは可能だという注記が付いています。リストに載っていないことが、そのまま取り扱えないことを意味するわけではありません。
海外の事業者も、この枠の外にいるわけではありません。登録の申請では、外国法人の場合に、日本国政府の承認した外国政府または権限のある国際機関の発行した書類その他これに準じるもので、法人名や事業目的等の記載があるものを提出することとされています。日本国内に本社があるかどうかで扱いが分かれる仕組みではないということです。海外の旅行者がよく使うサイトへ載せたいときも、確認する先は同じ登録とリストになります。
掲載を頼むまでに、手元でそろえる情報
掲載の依頼そのもので、住宅宿泊事業者の側がやることは多くありません。観光庁は、届出番号等の記載されたメールの情報または標識のコピーに記載されている情報を正確に通知することが求められる、としています。通知する中身は、住宅宿泊事業者の商号、名称または氏名、届出住宅の所在地、そして届出番号です。記憶や下書きから書き写さず、届いた原本を見て写すのが安全です。届出から営業を始めるまでの並びは民泊の届出後に営業を開始するまでにまとめています。
正確さを求められる理由は、仲介業者の側の義務にあります。観光庁は、届出物件を民泊仲介サイトに掲載する際は、住宅宿泊事業者から通知される商号、名称または氏名、届出住宅の所在地および届出番号を確認する必要があるとし、確認ができない物件は掲載してはいけないと示しています。さらに、自治体から届出が受理された情報と、住宅宿泊事業者が仲介業者へ通知した情報とが相違する物件等が掲載されていることが確認された場合には、観光庁からの求めに応じて速やかに削除等を行う必要があるとも書かれています。通知の一字がずれているだけで、掲載が止まる経路があるということです。
掲載が始まったあとにも、見ておく項目があります。観光庁は、民泊物件を民泊仲介サイトに掲載する際の留意事項として、掲載物件に届出番号等の情報を表示すること、そして人を宿泊させた日数が年間180日を超過していないかを確かめることを挙げています。日数の数え方には起算日と単位の決まりがあり、民泊の180日はどう数えるかで扱っています。
仲介業者の側に課されているものを並べると、こちらが何を渡せばよいかも見えてきます。
| 仲介業者の側に課されている措置 | 観光庁が示している内容 |
|---|---|
| 届出物件の確認 | 住宅宿泊事業者から通知される商号、名称または氏名、届出住宅の所在地および届出番号を確認する。確認ができない物件は掲載しない |
| 掲載情報の表示 | サイト利用者に適法な物件であることを周知する等のため、掲載物件に届出番号等の情報を表示する |
| 書面の交付 | 住宅宿泊仲介契約を締結するまでに、契約の内容および履行に関する事項について書面を交付して説明する |
| 観光庁への報告 | 民泊仲介サイトに掲載している届出物件を6ヶ月毎に観光庁へ報告する |
| 削除要請への対応 | 違法な物件や、届出が受理された情報と通知された情報が相違する物件等について、観光庁からの求めに応じ速やかに削除等を行う |
この表の一行目が、こちらの通知と直接つながっています。仲介業者は確認できなければ掲載できず、確認の材料はこちらから渡すものだけです。掲載が進まないときに真っ先に見るのは、渡した情報と届出の原本が一致しているかどうかになります。届出をしていない物件を掲載できない仕組みそのものについては民泊の無許可・無届はどう扱われるかも参照してください。
受け入れが決まったあとに増える業務
ここまでは、外国人に予約してもらうための経路の話でした。実際に泊まってもらうと、日本人だけを受け入れる場合には出てこない業務が加わります。根拠がそれぞれ別の条文にあるため、ひとまとめに覚えようとすると抜けます。担当する記事も分かれているので、ここでは対応だけを示します。
| 受け入れで加わる場面 | 根拠 | 詳しく扱っている記事 |
|---|---|---|
| 設備の使用方法、移動のための交通手段、災害時の通報連絡先を外国語で案内する | 住宅宿泊事業法第7条 | 民泊の英語対応 |
| 騒音の防止、廃棄物の処理、火災の防止について、外国人には外国語で説明する | 住宅宿泊事業法第9条 | 民泊の英語対応 |
| 宿泊者名簿に国籍および旅券番号を記載する | 住宅宿泊事業法第8条 | 民泊の宿泊者名簿 |
| 旅券の写しを名簿とともに保存するかどうかを判定する | 日本国内に住所を有するかどうかで分かれる | 民泊で韓国人宿泊者を受け入れる |
| 災害が起きたときに宿泊者の安全を確保する | 観光庁が示す事業者の業務(非常用照明器具、避難経路の表示、安全確保の措置) | 民泊の外国人宿泊者への災害対応 |
表のとおり、外国語という言葉が条文に出てくるのは案内と説明の場面です。名簿と旅券の写しは国籍ではなく、日本国内に住所を有するかどうかで分かれます。国籍で手続きを切り替える仕組みではありません。ここを取り違えると、在留している外国籍の宿泊者に対して不要な書類を求めることになります。国籍別の位置づけと連休の日程という観点は民泊で中国からの旅行者を受け入れる準備にまとめてあります。
もうひとつ、委託の話が二重になる点に注意してください。仲介の委託先は住宅宿泊仲介業者または旅行業者ですが、管理業務の委託先は住宅宿泊管理業者です。観光庁の同じ資料で、住宅宿泊管理業の登録件数は4,529件(令和8年7月15日時点)と示されており、仲介業の66件とは桁が違います。仲介と管理は別の登録制度です。管理を誰に委ねるかは民泊の運営代行で扱っています。
決める順番
最後に、順番を整理します。一つ目は、掲載を頼む相手が住宅宿泊仲介業者か旅行業者かを確かめることです。ここが通らないと、後ろの準備がすべて組み直しになります。二つ目は、届出番号等を原本から写して正確に通知することです。三つ目は、予約の入口でどの言語を提示するかを決めることです。ここで外国語の案内を用意する範囲が決まります。四つ目が、名簿と旅券の写し、災害時の通報連絡先といった、受け入れ後に続く業務です。
この順番を逆にしないでください。言語の準備から始めると、掲載先が登録を受けていなかった場合に、作った案内ごと作り直すことになります。経路を確定させてから、受け入れの中身を作るほうが手戻りが少なくて済みます。
そして、公表値が示しているのは、外国人を受け入れるかどうかを選ぶ段階ではすでにない、ということです。届出住宅の宿泊者の62.4%が外国人である以上、受け入れないという選択をしたとしても、予約が来たときの手続きは同じように発生します。備えを持たない状態は、選択ではなく未決定です。掲載先の確認と届出番号の通知という二つだけなら、今日のうちに終えられます。
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