地震や台風が起きたとき、届出住宅に泊まっている外国人宿泊者へ何をしなければならないのか。法令の側から答えると、住宅宿泊事業者に課されている災害関係の措置は三つです。非常用照明器具の設置、避難経路の表示、そして火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置。平成29年国土交通省告示第1109号に定められたもので、外国人かどうかに関係なく、届出住宅に泊まる人すべてに向けたものです。
外国人宿泊者だけに関わる義務は、ここにもう一つ足されます。住宅宿泊事業法第7条にある、外国語を用いて火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内をすること。災害という場面で「外国語」という言葉が出てくるのは、今回確認した範囲ではこの一か所だけでした。裏返すと、多言語の避難誘導の手順や、外国語で呼びかける体制を整えることは、法令が義務として書いているものではありません。
それで足りるのかというと、話はそこで終わりません。総務省消防庁は、旅館・ホテルなど多数の外国人来訪者等の利用が想定される施設に向けて、災害情報の伝達と避難誘導について取り組むことが望ましい事項をガイドラインにまとめています。義務と望ましい事項は性質が違い、同じ一覧に混ぜると何から手を付けるかが決まらなくなります。この記事では両者を分け、そのうえで観光庁が用意している多言語ツールまで並べます。英語をどこまで用意するかという判断そのものは民泊の英語対応はどこまで必要かで扱っているため、ここでは災害の場面だけを見ます。
備えは、三つの違う根拠から降りてくる
災害対応という言葉でひとまとめにすると混乱しますが、根拠をたどると三つに分かれます。どれも出どころが違い、向けられている相手も違います。
一つ目が、先ほどの告示です。観光庁は住宅宿泊事業者の業務として、非常用照明器具の設置、避難経路の表示、火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置の三点を挙げています。適用は建物の形態と規模で変わり、一戸建ての住宅や長屋で家主同居かつ宿泊室の床面積が50㎡以下の場合は、非常用照明器具の欄が適用なしとして示されています。自分の物件がどの行に当たるかを、先に表で確かめてください。家主が同居しているかどうかの区分は家主居住型と家主不在型の違いで扱っています。
避難経路の表示には、もう一段の確認が要ります。観光庁は、表示にあたっては市町村の火災予防条例により規制される地域もあることから、当該条例の規制内容を確認し、規定された事項を表示に盛り込む必要があるとしています。全国一律の書式があるわけではありません。届出先の自治体と管轄の消防に当たるところから始まります。
二つ目が住宅宿泊事業法第7条で、こちらが外国人宿泊者に向けたものです。三つ目が消防庁のガイドラインで、こちらは法令上の義務ではなく、望ましい事項として示されています。設備そのものの要件は民泊に必要な設備で層ごとに整理しているので、重ねては書きません。
外国語で案内する通報連絡先は四つ。中身は自分で埋める
第7条の案内のうち、災害に直接関わるのが通報連絡先です。観光庁は、通報連絡先の案内とは消防署、警察署、医療機関、住宅宿泊管理業者への連絡方法の情報を提供することをいう、と定めています。四つのうち一つは、自分たち側の窓口です。
ここで確かめておきたいのは、示されているのが連絡先の種類までだという点です。どの消防署か、どの医療機関か、何時なら誰が出るのかは、物件ごとに違います。テンプレートを配って終わりにできる項目ではありません。
| 外国語で案内する通報連絡先 | 自分の届出住宅で埋めるもの |
|---|---|
| 消防署 | 管轄の消防署と、火災や救急のときの通報の方法 |
| 警察署 | 管轄の警察署と、緊急時の通報の方法 |
| 医療機関 | 届出住宅から実際にたどり着ける医療機関 |
| 住宅宿泊管理業者 | 委託しているときの連絡先と、応答できる時間 |
案内を届ける方法も決められています。観光庁は、必要な事項が記載された書面を居室に備え付けることによるほか、タブレット端末への表示等により、宿泊者が確認できる方法で行う必要があるとしています。宿泊している間、必要に応じて閲覧できる状態にしておくことが求められているのであって、到着時に口頭で伝えれば済むという形にはなっていません。
なお、ここでいう外国語とは宿泊予約の時点で日本語以外の言語として提示したものを指します。何語を用意するかは、自分がどの言語で予約を受けているかで決まります。案内に載せる項目全体の考え方は民泊のチェックイン案内に何を書くかに整理しています。
音声だけの伝え方では、届かない相手がいる
義務の話はここまでです。ここからは、消防庁が望ましい事項として挙げているものを見ます。
ガイドラインが対象にしているのは、駅・空港や競技場、旅館・ホテルなど、多数の外国人来訪者や障害者等の利用が想定される防火対象物です。求めているのは、避難誘導等の多言語化や、障害など施設利用者の様々な特性に応じた対応を行うこと。そして、多言語化・視覚化した災害情報や避難誘導情報を伝達する取組です。手段の例として挙がっているのが、デジタルサイネージ、スマートフォンアプリ、フリップボードの三つです。
並んでいる三つに共通しているのは、音声ではないという点です。日本語の音声で呼びかける方法は、その場かぎりで、聞き取れなければ内容が残りません。文字や表示にしておけば、その場で聞き取れなくても、あとから読み直せます。多言語化と視覚化が並べて書かれている理由は、ここにあります。
届出住宅は、規模も設備も旅館・ホテルとは違います。ガイドラインが想定している施設と同じものを揃える話ではありません。それでも、音声で呼びかける手段を持たない物件のほうが、文字で残す形の重みは大きくなります。家主不在型では、その場で呼びかける人がいないためです。
宿泊者が自分で情報を取れる手段は、公的に用意されている
事業者が用意する案内とは別に、宿泊者自身が災害情報を取りに行く手段があります。観光庁は、訪日外国人旅行者用の災害時に役立つツールを一覧にして公表しています。自分で作らなくてよい部分が、ここにあります。
観光庁が監修しているスマートフォンアプリは15言語に対応し、緊急地震速報、津波警報、気象特別警報等をプッシュ型で通知できるほか、対応フローチャートやコミュニケーションカード等、災害時に必要な情報を収集できるリンク集等を掲載しているとされています。日本政府観光局が運営する電話の窓口は、24時間、電話での問い合わせに対応し、観光庁の一覧では対応言語を4言語(英語、中国語、韓国語、日本語)としています。
| ツール | 提供・監修 | 対応言語 | 一覧に書かれている内容 |
|---|---|---|---|
| Safety tips | 観光庁が監修 | 15言語 | 緊急地震速報、津波警報、気象特別警報等をプッシュ型で通知。対応フローチャートやコミュニケーションカード等のリンク集を掲載 |
| Japan Safe Travel(SNS) | 日本政府観光局 | X・微博で発信 | 自然災害の発生時に外国人旅行者が必要とする情報を発信 |
| Japan Safe Travel Information | 日本政府観光局 | 英語 | 災害時の気象警報や交通情報等を確認できる |
| Japan Visitor Hotline | 日本政府観光局 | 4言語 | 24時間、電話での問い合わせ対応。事故、病気、災害等非常時のサポートと一般観光案内 |
| Safety Information Card | 観光庁 | 4言語併記 | 有用と思われるウェブサイト等の情報をまとめたリーフレット |
事業者の側で作る文章を減らしたいなら、この一覧へ案内するのが早い方法です。観光庁は別に、外国人旅行者向けの「伝わる表現」用語集も公表しており、日本語・英語・中国語(簡体字と繁体字)・韓国語に対応しています。非常時における訪日外国人旅行者対応マニュアル作成のための指針も、同じページから概要と本文をたどれます。ゼロから文面を起こす前に、公表されている用語と表現を見てください。
ただし、これらのツールを備え付けることが法令で求められているわけではありません。第7条が求めているのは通報連絡先の案内であって、アプリの紹介ではありません。両者を混同して、案内の必須項目を置き換えないようにしてください。
備えを置ける時点は、災害が起きる前にしかない
ここまでの内容を、時間の順に並べ直します。災害が起きたあとにできることは、それまでに置いたものの範囲に限られるためです。
開業の準備をする時点では、非常用照明器具と避難経路の表示が対象になります。予約を受ける時点では、日本語以外の言語を提示したかどうかで、外国語で案内する範囲が決まります。到着と受付の時点では、宿泊者名簿への記載が発生します。住宅宿泊事業法施行規則は、宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日のほか、宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときはその国籍及び旅券番号を記載すると定めています。誰が泊まっているかは、この記録に残ります。名簿そのものの扱いは民泊の宿泊者名簿で扱っています。
そして滞在している間は、通報連絡先の案内を閲覧できる状態に保ちます。書面を居室に備え付けるか、タブレット端末への表示等によるか。どちらを選んでも、宿泊中いつでも読める状態であることが条件です。到着時に一度見せただけの運用は、この条件を満たしません。
出典が取れず、この記事で書かなかったこと
書かなかったことを残しておきます。いずれも裏づけになる一次情報を確認できなかったためです。
外国語での避難誘導の文例を作りませんでした。届出住宅ごとに建物の構造も避難の経路も違い、どの物件にも当てはまる文章は成り立ちません。生活環境への悪影響の防止に関する説明について、届出住宅とその周辺の状況に応じた内容が求められているのと同じ理由です。
備蓄すべき品目と数量も書いていません。住宅宿泊事業者に対して、宿泊者向けの備蓄の品目や数量を定めた資料を、今回の確認では見つけられませんでした。避難場所の案内をどの範囲まで載せるか、館内の掲示を何言語で用意するかについても、数を示した公的な基準は確認できませんでした。翻訳を機械翻訳で済ませてよいかどうかを示した資料も同じです。
特定のアプリや通信機器を推奨することもしていません。観光庁の一覧に載っているものはそのまま紹介できますが、一覧にないサービスを比べる根拠がありません。空欄のままにしてあるのは、埋められなかったからです。
自分の届出住宅で、先に確かめる四つ
最後に、着手の順番を四つに絞ります。
第一に、観光庁の表で自分の物件の行を特定し、非常用照明器具と避難経路の表示が適用されるかを確かめます。第二に、避難経路の表示について、市町村の火災予防条例に規定された事項を届出先へ確認します。第三に、通報連絡先の四つを、種類ではなく実際の連絡先として埋めます。第四に、その案内を宿泊中いつでも閲覧できる形にします。
ここまでが法令に沿った範囲です。そのうえで余力があれば、消防庁が挙げている多言語化と視覚化、そして観光庁の一覧にあるツールへの導線を足していきます。順序を逆にすると、義務を満たさないまま道具だけが増えます。
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