日本人の国内旅行がどれくらいあるのかを調べると、最初に行き当たるのは観光庁の旅行・観光消費動向調査です。四半期ごとに、日本人の国内旅行消費額、国内延べ旅行者数、国内旅行単価という三つの数値が公表されます。2026年8月19日に公表された2026年4-6月期の1次速報では、消費額が7兆5,361億円、延べ旅行者数が1億4,958万人、単価が50,381円/人でした。
先に押さえておきたいのは、この三つが宿泊施設の報告を集めた数字ではないことです。調査の対象は住民基本台帳をもとに無作為に抽出した約2万9000人で、旅行をした側に聞いた回答から全国の値を推計しています。誰に何を聞いた数値なのかを知らないまま自分の宿の需要へ当てはめると、統計が答えていないところまで読み取ってしまいます。
この記事では、四半期ごとに公表される値、その数値ができるまでの経路、単価と「延べ」という語の意味、速報と確報の関係、そして宿泊の需要がこの調査からは出てこないことを、観光庁の公表ページの表記にそって整理します。掲載されていない項目は、推測で埋めずに記載がない旨を書きます。
四半期ごとに三つの数値が公表される
観光庁は四半期ごとに1次速報を公表しています。直近の三期と、2025年の年間値(速報)は次のとおりです。いずれも観光庁の報道発表に掲載されている値で、対象は日本人の国内旅行です。2026年4-6月期の発表そのものは国内旅行消費額は7兆5,361億円にまとめています。
| 対象期間 | 国内旅行消費額 | 国内延べ旅行者数 | 国内旅行単価 | 公表日 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年10-12月期(1次速報) | 6兆3,022億円(前年同期比-2.6%) | 1億2,757万人(-0.1%) | 49,402円/人(-2.5%) | 2026年2月18日 |
| 2026年1-3月期(1次速報) | 5兆9,136億円(+4.8%) | 1億2,036万人(+0.4%) | 49,133円/人(+4.4%) | 2026年5月20日 |
| 2026年4-6月期(1次速報) | 7兆5,361億円(+11.7%) | 1億4,958万人(+3.3%) | 50,381円/人(+8.2%) | 2026年8月19日 |
| 2025年年間値(速報) | 26兆7,746億円(前年比+6.4%) | 5億5,366万人(+2.5%) | 48,359円/人(+3.8%) | 2026年2月18日 |
三期を横に並べると、1〜3月がいちばん低く、4〜6月で増えています。ただしこれは四半期ごとの水準の差であって、需要が伸び続けていることを示すものではありません。前年同期比のほうを見ると、延べ旅行者数は2025年10-12月期が-0.1%、2026年1-3月期が+0.4%、2026年4-6月期が+3.3%で、水準の上下と前年比の向きは別々に動いています。
年間値の行だけは性格が違います。1年分に相当する値であり、公表の段階も四半期の1次速報とは別のものです。同じ折れ線に載せると季節による上下が消えた図になるため、表に並べるときは期間の長さと段階を明示してください。
数値は約2万9000人への調査から推計されている
観光庁の調査ページには、この調査の目的が「わが国の旅行の実態を全国規模で把握することを目的とする」と示されています。調査の対象は「日本国内居住者であり、住民基本台帳をもとに無作為に抽出した約2万9000人」です。同じ対象者に年4回たずねる形をとっています。
方法は、報告者へ郵送で調査票を送り、報告者が自分で記入して郵送で返すものです。あわせて、政府統計オンライン調査総合窓口を使ったオンラインでの回答もできると案内されています。
調査事項として挙げられているのは「旅行に行った回数・時期(国内観光(宿泊旅行、日帰り旅行、出張・業務)、海外旅行)、消費内訳等」です。国内の旅行が宿泊旅行と日帰り旅行、出張・業務に分けて聞かれていること、消費の内訳まで含まれていることが、ここから分かります。
つまりこの統計は、旅行をする側に聞いた標本調査です。宿泊施設が毎月報告する宿泊旅行統計調査とは、集める相手も、数える単位も違います。どちらが正しいという話ではなく、答えられる問いが違うと考えてください。標本から全国の値を推計している以上、細かく切り分けるほど値の確からしさは落ちます。地域や施設の単位まで下ろして読むための統計ではありません。
単価は消費額を延べ旅行者数で割った値
三つの数値は独立していません。公表値どうしを割ると関係が確かめられます。2026年4-6月期でいえば、消費額7兆5,361億円を延べ旅行者数1億4,958万人で割った額が、単価50,381円/人です。ほかの期でも同じ関係が成り立ちます。
そのため、この単価が示しているのは旅行1回あたりの旅行消費額です。1泊あたりの宿泊料金ではありません。1人が1年間に旅行へ使う金額でもありません。宿の料金設定の参考にしようとすると、含まれている範囲が違うため、そのままでは使えません。
費目の内訳についても同じことが言えます。この単価のうち宿泊費がいくらを占めるかは、報道発表の本文には掲載されていません。数字を分解したいときは、発表ページに用意されている報道発表資料や統計表を開く必要があります。
「延べ」は同じ人を何度でも数える
延べ旅行者数は、旅行に行った人の数ではなく、旅行の回数を積み上げた数です。1人が四半期のあいだに3回旅行すれば、3として数えます。単価が消費額をこの数で割った値である以上、単価のほうも1人あたりではなく1回あたりということになります。
この違いは、需要の変化を語るときに効いてきます。延べ旅行者数が増えたという事実は、旅行する人が増えたのか、同じ人が回数を増やしたのかを区別しません。公表されている三つの数値だけからは、どちらが起きたのかは分かりません。集客の打ち手を考えるなら、この区別ができていないことを前提にしてください。
速報と確報で、同じ期の数字が動く
公表は1次速報、2次速報、確報の三段階に分かれています。四半期の値には1次速報と2次速報があり、確報は四半期と年間の両方で公表されます。同じ期の値でも、どの段階を引用したかで数字が変わります。
だから、複数の期を並べるときは段階をそろえます。この記事の表とグラフで三期とも1次速報にそろえているのはそのためです。1次速報と確報を混ぜて折れ線にすると、実際には起きていない段差が図に出ます。
社内の資料へ転記するときは、対象期間、公表の段階、公表日の三つを必ず一緒に残してください。あとから差し替えの判断ができなくなるのを防ぐためです。段階が分かれるのは宿泊の統計でも同じで、扱い方は宿泊旅行統計調査の見方にまとめています。
宿泊の需要は、この調査からは出てこない
自分の宿にどれだけ泊まるかを考えるなら、開く統計は別のものになります。観光庁の宿泊旅行統計調査は、宿泊施設の側から延べ宿泊者数を集めています。2026年8月31日に公表された2026年7月分(第1次速報)では、全国の延べ宿泊者数が5,467万人泊で、うち日本人が4,110万人泊、前年同月比-3.1%と公表されています。
単位が人泊であることに注意してください。1人が3泊すれば3人泊です。旅行・観光消費動向調査の延べ旅行者数は旅行の回数を数えたものなので、二つを割って1回あたりの泊数を出すような使い方はできません。分母と分子がそろっていないためです。同じ時期に片方が増えて片方が減っていても、どちらかが誤っているという話にはなりません。
国籍別に見たい場合は、さらに別の統計になります。どの資料に何が載っているかは国籍別の訪日客数はどの統計で見るかで扱っています。
報道発表の本文に載っていないこと
四半期の報道発表の本文に載っているのは、消費額、延べ旅行者数、単価の三つと前年同期比です。都道府県別の内訳は記載がありません。宿泊施設のタイプ別の内訳も記載がありません。民泊や旅館・ホテルといった区分ごとの数値も、本文にはありません。
宿泊旅行と日帰り旅行に分けた内訳も、本文には出ていません。発表ページには報道発表資料がPDFで用意されており、内訳や算出方法はそちらに記載されています。直近の四半期の水準を確かめるだけなら報道発表で足りますが、内訳や長い期間の比較が必要なら統計表へ進んでください。
載っていない項目を、近い数字で埋めないでください。ここで推測を一つ入れると、その先の計算がすべて確かめられないものになります。空欄のまま残し、確認できなかったことを資料に書くほうが、後から直せます。
自分の宿の判断へ持ち込む順序
この統計は、自分の宿の売上を決める数値ではありません。使いどころは、自分で立てた前提が市場の動きから外れていないかを確かめるところにあります。順序は三つです。
まず、営業できる日数、定員、単価という自分の条件から収入の枠を出します。組み立て方は民泊の売上予測に、単価の考え方は民泊の客室単価にまとめています。統計から逆算するのではなく、自分の条件から先に組み立てるのが順序です。
次に、その前提が全国の動きと逆を向いていないかを、四半期の公表値で確かめます。逆を向いていたとしても、全国の数字がそのまま自分の地域に当てはまるとは限りません。地域による差の見方は民泊の立地の選び方で扱っています。
最後に、引用した数値には統計名、対象期間、公表の段階、確認日を残します。この記事の値も、上に挙げた公表ページを確認日の時点で転記したものです。四半期ごとに新しい値が出て、段階が進めば同じ期の数字も動きます。時間がたったら、公表ページで確かめ直してください。
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