同じ人がもう一度泊まってくれるなら、次は自社サイトから予約してほしい。そう考えたときに最初にぶつかるのは、集客の工夫ではありません。前回の宿泊者へ、こちらから連絡してよいのかという点です。手元には宿泊者名簿があり、申込みのときに受け取った連絡先もあります。それでも、持っていることと使ってよいことは別の話です。
そこでこの記事は、リピーターの直接予約を前回の滞在が終わった時点で手元に残っているものから組み立てます。残っているのは記録と、次に使える特典の余地の二つだけで、それぞれ別の資料が使える範囲を決めています。記録については個人情報保護委員会の考え方、特典については消費者庁の景品規制です。
先に断っておきます。再訪率やリピーターの比率を示す公的な集計を見つけられませんでした。そのため何割が再訪するといった数値は書いていません。また、メールを送るときの手続きそのものは自社予約を増やす方法で扱っているため、ここでは繰り返しません。この記事が扱うのは、送る前の段階で決まってしまう部分です。
前回の滞在が終わった時点で、手元に残っているもの
再訪の話を始める前に、いま何を持っているのかを数えます。数えるべきは印象や関係ではなく、記録として残っているものです。取得した場面で三つに分かれます。
一つめは、宿泊者名簿として記載した情報です。観光庁は住宅宿泊事業者の業務として宿泊者名簿の備付け等を挙げ、宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日を記載すること、宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときはその国籍及び旅券番号を記載することを示しています。備え置く場所は届出住宅または住宅宿泊事業者の営業所もしくは事務所とされ、保存は3年間です。これは法令が備付けを求めている記録であり、こちらから連絡するために集めたものではありません。記載事項と保存については民泊の宿泊者名簿にまとめています。
二つめは、申込みの受付で受け取った情報です。自社サイトで予約を受けていれば、連絡先や支払いに関する情報が自分の側に届きます。ここで受け取る項目は法令が決めているわけではなく、自分が置いた入力欄しだいです。逆に仲介事業者を通した予約では、宿の側へ渡される項目が事業者ごとに違います。どの項目が渡っているかは、この記事では示せません。全事業者を横断して確認できる公的な資料が無いためです。自分が使っている事業者の管理画面と契約で確かめてください。
三つめは、滞在中に相手から届いたやり取りです。問い合わせ、苦情、備品の依頼などに応じた記録が残ります。これも取得を目的として集めたものではなく、対応の結果として手元に来たものです。
三つを並べると分かるのは、どれも再訪の案内のために集めたものではないという点です。ここが、リピーターの直接予約を新規の集客と同じようには進められない理由になります。
名簿にある情報を、そのまま案内に使えるとは限りません
手元の記録を次の案内へ回せるかどうかは、取得したときの目的で決まります。個人情報保護委員会は、利用目的を「できる限り」特定するとは、個人情報取扱事業者において個人情報をどのような目的で利用するかについて明確な認識を持つことができ、また本人において、自らの個人情報がどのような事業の用に供され、どのような目的で利用されるのかについて一般的かつ合理的に予測・想定できる程度に、利用目的を特定することだと説明しています。あわせて、特定される利用目的は具体的で本人にとって分かりやすいものであることが望ましいとし、単に「お客様のサービスの向上」といった抽象的な内容では足りないとしています。
この説明を宿の側に当てはめると、確かめることは一つです。前回の宿泊者が、自分の連絡先が次回の案内に使われると予測・想定できる状態だったか。名簿の備付けは法令上の義務であり、その義務を果たすために書いてもらった情報について、本人が販売の案内を想定しているとは限りません。
では、あとから目的を足せるのか。個人情報保護委員会は、利用目的の変更が認められる範囲を、変更前の利用目的と「関連性」を有すると合理的に認められる範囲だと説明しています。同じFAQには事例が挙げられており、会員向けのレッスン情報を配信する目的で保有していた個人情報を、新たに始めた栄養指導サービスの案内に利用する場合、防犯を目的とした警備員派遣サービスのために保有していた個人情報を、新たに始めた高齢者見守りサービスのダイレクトメール送付に利用する場合などが示されています。
ここで注意したいのは、これが認められる方向の事例であって、宿泊業に当てはめた基準ではないことです。挙げられている事例はいずれも、もともと本人へ役務を提供していた関係の延長にあります。自分の場合が同じ形といえるかどうかは、変更前の利用目的として何を示していたかによって変わります。判断できないまま送り始めるより、次の予約を受ける画面で利用目的を示し直すほうが早いことも多いはずです。申込みの画面に置く項目は民泊の予約フォームの項目で扱っています。
| 手元にあるもの | 取得した場面と目的 | 次の案内に使う前に確かめること |
|---|---|---|
| 宿泊者名簿の記載事項 | 法令にもとづく備付けのための記録 | 備付け以外の目的を、本人が予測・想定できる形で示していたか |
| 申込みの受付で受け取った情報 | 自社サイトで宿泊の申込みを受けるため | 申込みの画面で、案内に使うことを利用目的として示していたか |
| 滞在中のやり取り | 問い合わせや苦情への対応のため | 対応のために受け取った連絡先を、案内に回す目的を示していたか |
右の列は、いずれも「示していたか」を問う形にしています。あとから示し直すこともできますが、そのときは変更前の利用目的との関連性という物差しが入ります。最初に示しておくほうが、確実で手数も少ないという順番になります。
送る手段の条件は、案内を作る前に決まっている
使ってよい情報の範囲が決まったら、次は送る手段です。ここは既存の記事で扱っているため要点だけ置きます。消費者庁は通信販売の電子メール広告について、消費者があらかじめ承諾しない限り事業者が電子メール広告を送信することを原則として禁止しているとし、承諾や請求があった記録を、最後に電子メール広告を送信した日から3年間保存することを求めています。判断の手順は自社予約を増やす方法にあります。
リピーターの話として押さえておきたいのは、宿が抱える二つの3年が、別々の起点で動くことです。宿泊者名簿の保存は、宿泊という出来事を軸にしています。承諾の記録の保存は、最後に電子メール広告を送信した日を軸にしているため、送るたびに終わりが後ろへずれます。名簿の3年が過ぎても送信の記録は別に残り、逆に送るのをやめれば承諾の記録の側だけが先に切れます。なお、名簿の保存期間の起算をどう扱うかについては、観光庁のページに細かい記載を見つけられなかったため、ここでは断定しません。
再訪の特典は、「値引き」と「景品類」に分かれる
送り先と手段が整うと、次に考えるのは何を提示するかです。再訪の特典として思いつくものは、消費者庁の説明に沿って読むと二つに分かれます。この切り分けを先にしておかないと、上限のある側とない側を混ぜてしまいます。
消費者庁は景品類ではないものとして、取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)は、正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益であると説明しています。例として、次回以降の買い物で使用できる割引券、支払いに充当できるポイント、キャッシュバックが挙げられています。次に泊まるときの宿泊料から差し引く形は、この説明の側に近いということです。
ただし、同じページには値引と認められない場合も置かれています。対価の減額または割戻しであっても、懸賞による場合は値引とは認められず景品類に含まれること、同一の企画において景品類の提供と併せて行う場合は値引とは認められず景品類に該当すること、減額し割り戻した金銭の使途を制限する場合も値引とは認められないことが示されています。
再訪の企画に当てはめると、境目が見えてきます。次回の宿泊料を差し引くだけなら値引きの側で読めます。抽選で無料の宿泊を出すなら懸賞です。割引に加えて地元の品物も付けるなら、同一の企画で景品類の提供と併せている形になります。金額を渡すとしても使い道を限定すれば、値引きとして扱えなくなる余地があります。
| 再訪の特典の形 | 消費者庁の説明に沿った読み方 | 金額の上限 |
|---|---|---|
| 次回の宿泊料から差し引く | 支払うべき対価を減額すること | 景品規制の限度額はかからない |
| 次回以降に使える割引券を渡す | 次回以降の買い物で使用できる割引券として挙げられている | 同上 |
| 抽選で無料宿泊や品物を出す | 懸賞による場合は値引とは認められない | 一般懸賞の限度額がかかる |
| 割引と品物をまとめて提供する | 同一の企画で景品類の提供と併せる場合 | 景品類として限度額がかかる |
| 使い道を限定した金銭を渡す | 減額した金銭の使途を制限する場合 | 同上 |
この表は消費者庁のページに書かれている区分をこの記事の言葉で並べたもので、個別の企画の判定そのものではありません。値引と認められるかどうかは「取引通念上妥当と認められる基準に従い」とされており、企画の組み方で読み方が変わります。実際に設計するときは資料の本文へ戻ってください。
景品類に当たるときの上限
景品類の側に入った場合は、金額の上限が決まっています。消費者庁は景品類を、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して、取引の相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益と定義しています。再訪の特典は、前回の宿泊を条件に次の取引へ誘うものなので、この定義に当たるかどうかを通る必要があります。
限度額は提供の方法で変わります。懸賞によらず全員に提供する総付景品は、取引価額が1,000円未満なら景品類の最高額が200円、1,000円以上なら取引価額の10分の2とされています。抽選などで提供する一般懸賞は、取引価額が5,000円未満なら取引価額の20倍、5,000円以上なら10万円が最高額で、総額は懸賞に係る売上予定総額の2パーセントとされています。複数の事業者が共同で行う共同懸賞は、最高額が30万円、総額が懸賞に係る売上予定総額の3パーセントです。
ここで一つ、この記事では埋められない空欄があります。宿泊の「取引価額」が何を指すのかを示した記載を、確認した資料の中に見つけられませんでした。1泊分の料金なのか、予約した滞在全体の料金なのかで、上限は変わります。特典の額が上限に近づく企画を組むなら、この点を消費者庁の資料か窓口で確かめてから決めてください。数字の出どころが曖昧なまま計算しても、確かめたことにはなりません。
滞在中にしかできないことと、滞在後にできること
ここまでを踏まえると、再訪の直接予約で効いてくるのは、実は滞在後の工夫ではありません。相手が目の前にいる時間に何を取り決めたかです。滞在が終わったあとは、取得済みの記録と、そのときに示していた利用目的の範囲でしか動けません。
滞在中には、法令が求める接点がすでにあります。観光庁は外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保として、外国語を用いた設備の使用方法に関する案内、移動のための交通手段に関する情報提供、災害時の通報連絡先に関する案内を挙げています。苦情等への対応については、深夜早朝を問わず常時、応答または電話により対応する必要があるとしています。これらは集客のための接点ではありませんが、宿泊者と実際にやり取りする場面です。滞在中の案内の作り方は民泊のチェックイン案内で扱っています。
同じ時間に、滞在後にはできないことを済ませられます。次回の案内を受け取るかどうかを本人に尋ねること、そのときに利用目的を示すこと、承諾を得た記録を残すことです。逆に、滞在後に新しくできるのは、示してある利用目的の範囲で案内を送ることだけです。両者の差は、工夫の量ではなく、やれる時期が過ぎたかどうかという一点にあります。
なお、自ら予約を受けること自体は制度上の例外ではありません。位置づけと表示事項の全体像は自社予約とは、始めるかどうかの判断材料は自社予約のメリット・デメリットにまとめています。
着手の順番と、この記事で確認できなかったこと
順番は、手元にあるものを数えるところから始めます。宿泊者名簿に何を書いているか、申込みの画面で何を受け取っているか、やり取りで何が残っているかを書き出します。次に、その一つひとつについて、取得したときに示していた利用目的を確かめます。ここで空欄が見つかったら、次の予約を受ける画面で示し直すのが早道です。
そのあとで、特典を値引きと景品類に切り分けます。次回の宿泊料から差し引く形であれば限度額の話に入りませんが、抽選や物品を組み合わせた時点で限度額の表に当てはめる必要が出ます。送る手段の条件を整えるのは最後で構いません。送り先と内容が決まっていない段階で仕組みだけ作っても、送る相手がいないためです。
確認できなかったことも残しておきます。宿泊施設の再訪率やリピーターの比率を示す公的な集計、宿泊における取引価額の考え方、仲介事業者から宿の側へ渡される情報の項目の三つです。いずれもこの記事の外で確かめる必要があります。自分の企画がどの区分に入るのか判断できない場合は、消費者庁や個人情報保護委員会の窓口、届出先の自治体、専門家に確認してください。ここで整理したのは、確認する先を絞り込むための道筋です。
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