自社予約を増やす打ち手は、突き詰めると「宿泊者に何かを伝えること」に行き着きます。自分の場で見せるか、相手へ送るか、他人に書いてもらうかのどれかです。集客の話としては地続きに見えますが、この三つは上限を決めている決まりが別々です。同じ「割引を知らせる」という行為でも、自社サイトに載せるのか、メールで送るのか、宿泊者に投稿してもらうのかで、確認する法令が変わります。
この記事では、打ち手を伝え方で三つに分け、それぞれで書ける内容と送れる相手の上限がどこにあるのかを、消費者庁・総務省・観光庁の資料で確認できる範囲だけ整理します。自社予約そのものの位置づけは自社予約とはで扱っているため、ここでは繰り返しません。なお、直接予約の比率や打ち手ごとの効果を示す公的な集計は見つけられなかったため、割合や効果の数値は書いていません。
自社予約を増やす打ち手は、伝え方で三つに分かれる
打ち手を並べると数は多く見えますが、伝え方で束ねると三つになります。第一に、自分の場で見せるもの。自社サイトの料金や条件の表示、検索結果への露出、館内の掲示や滞在中の案内がここに入ります。第二に、相手へ送るもの。会員向けの案内メールや、退室後に届く再訪の連絡です。第三に、他人に書いてもらうもの。口コミの投稿依頼や、SNSでの紹介の依頼がこれにあたります。
この分け方が実務で役に立つのは、直し方が層ごとに違うからです。自分の場で見せるものは、書いた内容が実際と合っているかという問題になります。相手へ送るものは、送ってよい相手かどうかという問題になり、内容以前に同意の有無で止まります。他人に書いてもらうものは、書き手ではなく依頼した側の責任として扱われます。困ったときに、どの資料へ戻ればよいかが変わるということです。
自分の場で見せる打ち手は、景品表示法が内容の上限を決める
自社サイトに載せる文章は、自由に書けるように見えて、実際と合っているかどうかで線が引かれています。消費者庁は景品表示法の不当表示を二つに分けて説明しています。ひとつは優良誤認表示で、法第5条第1号の「商品・サービスの品質、規格その他の内容についての不当表示」です。もうひとつは有利誤認表示で、法第5条第2号の「商品・サービスの価格その他取引条件についての不当表示」です。宿泊で言えば、部屋や設備の説明が前者、料金や条件の説明が後者にあたります。
消費者庁が挙げている有利誤認の例のひとつは、当選者だけが割安料金で契約できる旨を表示していたのに、実際には応募者全員を当選として同じ料金で契約させていた場合です。ここで問題にされているのは、割引そのものではなく、限定だと示したのに限定ではなかったという食い違いです。自社予約の特典を「自社サイト限定」と書くなら、他の経路で同じ条件を出していないかを先に確認します。
同じ内容は、通信販売の側からも規制されています。消費者庁は通信販売の誇大広告等の禁止として、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止していると説明しています。あわせて、広告に表示する事項として、販売価格と送料、代金の支払時期と方法、役務の提供時期、事業者の氏名・住所・電話番号、申込みの期間に関する定めがあるときはその旨とその内容、販売価格以外に負担する金額などを挙げています。予約ページの項目としてどう並べるかは民泊の予約フォームの項目で扱っています。
見せる場所を増やす打ち手についても、載せる先の条件は先方が決めています。検索結果からの経路についてはGoogleから直接予約につなげる方法で、掲載に何が必要かを公式ヘルプの範囲でまとめました。増やす前に、いま出している表示が実際と合っているかを見直すほうが、順番としては先です。
値引きや特典で差を付けるときは、比較する価格の説明が要る
自社予約を増やす打ち手として最も選ばれやすいのが、値引きと特典です。ここで注意が要るのは、比べる相手として何かの価格を並べたときです。消費者庁は二重価格表示について、同一の商品で「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対照価格とする場合には不当表示に該当するおそれはない一方、そうとはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、その価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるかなど、内容を正確に表示しない限り不当表示に該当するおそれがある、と説明しています。
宿泊料金は日によって変わるため、「通常料金」が何を指すのかを自分で説明できないまま線を引きがちです。書く前に、その価格でいつからいつまで販売していたのかを説明できるか、記録が残っているかを確かめてください。どの程度の期間であれば「最近相当期間」といえるのかについては、消費者庁の価格表示に関する考え方に基準が示されていますが、その本文を機械的に取得できなかったため、この記事では期間の数値を書きません。実際に二重価格の形で表示するなら、消費者庁の資料そのものを確認してください。
宿泊予約サイトより自社を安くできるかどうかは、表示の問題だけでなく、予約サイトとの契約に置かれる条件の問題でもあります。この二つの関門は最低価格保証を掲げる前にで分けて整理しました。値引きを打ち手に選ぶ場合は、表示の根拠と契約の条件の両方を先に確認します。
相手へ送る打ち手は、二つの法律が重なる
再訪を促す連絡は、自社予約を増やす打ち手のなかでも、送る前に確認することが最も多い部類です。理由は単純で、二つの法律が同時にかかるからです。
ひとつは特定電子メールの送信の適正化等に関する法律です。総務省の説明によれば、法第3条は、あらかじめ特定電子メールの送信をするように求める旨、または送信をすることに同意する旨を送信者や送信委託者へ通知した者などに送信先を限っています。いわゆるオプトインです。さらに同条第2項は、通知を受けた者に対して、送信をするように求めがあったこと、または送信をすることに同意があったことを証する記録の保存を求めています。法第4条は表示義務で、送信者の氏名または名称、受信拒否の通知を受けるための電子メールアドレスなどを表示することとされています。法第5条では、送信者情報を偽って特定電子メールを送信することが禁じられています。
もうひとつは特定商取引法です。消費者庁は通信販売の電子メール広告について、消費者があらかじめ承諾しない限り事業者が電子メール広告を送信することを原則として禁止していると説明し、承諾や請求があった記録を、最後に電子メール広告を送信した日から3年間保存することを求めています。同意を得ること、記録を残すこと、送信元を明らかにすることという三つが、二つの法律から重ねて求められている形です。
実務では、この三つを予約の受付と切り離さないほうが確実です。同意をどの画面で取るのか、どの文言で取るのかは、予約フォームの設計そのものだからです。予約時に取得した情報の扱いについては民泊の予約フォームの項目で整理しています。送る仕組みを先に作り、同意は後から集めるという順番にすると、送れる相手がいない状態から抜け出せなくなります。
他人に書いてもらう打ち手は、依頼した側の表示として扱われる
口コミやSNSの投稿を増やす打ち手には、令和5年10月1日から施行された景品表示法の告示がかかります。消費者庁は、広告であるにもかかわらず広告であることを隠すことを、いわゆるステルスマーケティングとして説明しています。対象になるのはSNSの投稿やレビューの投稿といったインターネット上の表示のほか、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌といった媒体も含まれます。
宿の側が押さえておくべき点は二つあります。ひとつは、規制の対象が商品やサービスを供給する事業者だとされていることです。依頼を受けた投稿者の側は規制の対象外と説明されています。つまり、依頼した宿の側に責任が残ります。もうひとつは、個人の感想や、広告であることが明らかな表示は対象外とされていることです。宿泊した人が自分の判断で書いた投稿と、宿が依頼して書いてもらった投稿は、同じ文面でも扱いが違うということになります。
打ち手として使うなら、依頼するかどうかを曖昧にしないことです。宿泊料の割引や特典と引き換えに投稿を頼むなら、それが広告として分かる形で示されるところまでを依頼の内容に含めます。逆に、書き手の判断に任せて何も渡さないなら、投稿の中身にこちらから条件を付けないことです。どちらでもない中間の頼み方が、いちばん判断に困ります。
打ち手ごとに、どの決まりが上限を決めるか
ここまでの内容を、着手しようとしている打ち手から引ける形にまとめます。左の列が打ち手、中央が確認する根拠、右がその根拠が実際に止めているものです。
| 打ち手 | 確認する根拠 | その根拠が止めているもの |
|---|---|---|
| 自社サイトで部屋や設備を紹介する | 景品表示法 第5条第1号(優良誤認表示) | 内容が実際より著しく優良だと誤認させる表示 |
| 自社サイト限定の割引・特典を掲げる | 景品表示法 第5条第2号(有利誤認表示) | 限定や条件が実際と食い違う表示 |
| 通常料金と並べて割引額を示す | 消費者庁「二重価格表示」の考え方 | いつどの程度の期間販売した価格かを示さない比較 |
| 予約ページに料金と条件を掲載する | 特定商取引法(通信販売の広告の表示事項) | 価格・支払時期・提供時期・事業者情報などの欠落 |
| 会員や過去の宿泊者へ案内メールを送る | 特定電子メール法 第3条/特定商取引法 | 同意を得ていない相手への送信 |
| メールの差出人や連絡先を書く | 特定電子メール法 第4条・第5条 | 送信者名や受信拒否の通知先の未表示、送信者情報の詐称 |
| 宿泊者へ口コミやSNS投稿を依頼する | 景品表示法(令和5年10月1日施行の告示) | 事業者の表示であることを判別しにくい投稿 |
表の右の列は、根拠が禁じている行為をこの記事の言葉で要約したものであり、法令の条文そのものではありません。実際に判断するときは、左から二つ目の列の資料に戻ってください。
増やす前に、義務として持っている接点を数える
打ち手を新しく足す前に、すでに義務として持っている接点を確認しておくと、作るものが減ります。観光庁は住宅宿泊事業者の業務として、外国人観光旅客の快適性および利便性の確保のため、外国語を用いて設備の使用方法に関する案内、交通手段に関する情報提供、災害時の通報連絡先に関する案内を行うこととしています。また、苦情等への対応として、深夜早朝を問わず、常時、応答または電話により対応する必要があるとしています。宿泊者名簿については、宿泊者の氏名、住所、職業および宿泊日を記載し、3年間保存することが示されています。
これらは集客のために作るものではありませんが、すでに宿泊者と接している場所ではあります。外国語の案内を用意しているなら、その内容は自社サイトの説明としても使えます。苦情や問い合わせに常時応答できる体制があるなら、予約前の質問に答える窓口としても機能します。滞在中の案内をどう作るかは民泊のチェックイン案内で扱っています。
| 義務として持っている接点 | 観光庁の資料に示されている内容 | 自社予約との関係(この記事での整理) |
|---|---|---|
| 外国語を用いた案内 | 設備の使用方法、交通手段の情報提供、災害時の通報連絡先 | 自社サイトの説明として同じ内容を使える |
| 苦情等への対応 | 深夜早朝を問わず、常時、応答または電話により対応 | 予約前の問い合わせを受ける窓口にもなる |
| 宿泊者名簿の備付け | 氏名、住所、職業、宿泊日を記載し3年間保存 | 名簿は義務のための記録であり、送信先の名簿とは別に考える |
右の列は接点としての見方を整理したもので、観光庁が集客の手段として示しているものではありません。特に宿泊者名簿は、備え付けと保存のための記録です。これをそのまま連絡先の一覧として使えるかどうかは、同意の有無という別の問題になります。名簿の記載事項と保存については民泊の宿泊者名簿を参照してください。
着手の順番と、この記事で確認できなかったこと
順番としては、自分の場で見せているものの点検が先です。すでに出している表示が実際と合っているかを確かめるのは、新しい打ち手を足すより早く終わり、直す範囲もはっきりしています。次が、送る仕組みです。ここは同意と記録から始めないと、作っても送る相手がいません。最後が、他人に書いてもらう打ち手です。依頼の仕方を決めるところまでが宿の側の仕事になるため、先の二つより準備が要ります。
確認できなかったことも書いておきます。自社予約の比率、打ち手ごとの効果、宿泊予約サイトに支払う手数料の水準について、公的に確認できる集計を見つけられませんでした。そのため、どの打ち手が何割の効果を持つといった数値は書いていません。二重価格表示における「最近相当期間」の具体的な期間も、資料の本文を取得できなかったため扱っていません。いずれも、この記事の外で確認する必要があります。
なお、ここで挙げた法令の適用は、事業の形や取引の相手によって変わります。自分の取引がどの区分に入るのかを判断できない場合は、消費者庁や総務省の窓口、届出先の自治体、専門家に確認してください。この記事は、確認する先を絞り込むための整理です。
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