宿泊料のほかに朝食やお酒、送迎、体験を売れば、1泊あたりの売上は増えます。ただ、増えるのは売上だけではありません。何を売るかによって、住宅宿泊事業の届出とは別に、食品衛生法・酒税法・道路運送法・旅行業法のいずれかの手続きが立ち上がります。宿泊料の値上げは自分の判断で決められますが、オプションを足すことは自分の判断だけでは決められません。
この記事が扱うのは、オプションの単価の付け方ではなく、売り始める前に通す手続きの判定です。条文と、観光庁・厚生労働省の公開資料をもとに、「この売り方なら許可が要る/届出で足りる/どちらも要らない」という分かれ目を、売るものの種類ごとに並べました。
先に、確認できなかったことを書きます。民泊のオプション料金の相場や、オプションの売上が宿泊料の何割にあたるかを集計した公的な統計は確認できませんでした(確認日 2026-10-27)。そのためこの記事に金額はありません。宿泊料そのものの決め方は民泊の宿泊料金の決め方、受け取った金額が手元に残るまでの段は民泊の収益に分けてあり、ここでは重ねません。
オプションを足す前に、宿泊料の中か外かを決める
住宅宿泊事業は、観光庁の民泊制度ポータルサイトで「旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて届出住宅に人を宿泊させる事業」と説明されています。届出が覆っているのは、この宿泊料を受けて宿泊させる行為です。人を宿泊させる日数が180日を超えないものという枠も、同じ行為にかかっています(民泊の180日)。
オプションの代金には、二つの受け取り方があります。一つは、宿泊料の中に含めてしまう形です。寝具を1組足す、タオルの枚数を増やす、といったものは、泊まるという行為に付いて回る費用なので、宿泊料の一部として受け取る整理になります。もう一つは、宿泊とは別のサービスとして代金を受け取る形です。朝食を出す、酒を渡す、駅まで車で送る、近くの体験に申し込む。これらは宿泊そのものではないので、宿泊料の外側に出ます。
手続きが増えるのは、この外側に出たときです。宿泊料に含めている限り、関わる法令は住宅宿泊事業法のまま変わりません。外に出した瞬間に、その行為そのものを規制している別の法律が顔を出します。どの法律かは、売るものが食品か、酒か、移動か、他人のサービスかで決まります。
言い換えると、売上を足す方法は二系統あるということです。宿泊料の中で単価を動かす方法と、宿泊料の外に別の商品を置く方法。前者は値付けの問題で終わりますが、後者は許認可の問題になります。同じ「売上を増やす」でも、必要な準備がまったく違います。先に決めるのはどちらの系統で増やすかで、金額はそのあとです。
食べ物を出すなら、調理するかどうかで手続きが変わる
食品は三つの層に分かれます。分かれ目は調理・加工をするかと、容器包装のまま渡すならそれが常温で持つかです。
一つ目は、自分で調理して出す場合です。食品衛生法第55条第1項は「前条に規定する営業を営もうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない」と定めています。この「前条に規定する営業」は政令で列挙されていて、食品衛生法施行令第35条の第1号が「飲食店営業」です。朝食を作ってゲストに出す形がこれに当たるかどうかは、設備と提供のしかたを見て保健所が判断します。自分で読んで決める話ではありません。
二つ目は、調理はせず、買ってきたものをそのまま渡す場合です。食品衛生法第57条第1項は、許可の対象になる営業と、政令で定める「公衆衛生に与える影響が少ない営業」などを除いて、あらかじめ営業所の名称および所在地その他の事項を都道府県知事に届け出なければならないとしています。許可は要らないが届出は要る、という層がここにあたります。
三つ目は、その届出さえ要らない層です。施行令第35条の2は「公衆衛生に与える影響が少ない営業」を列挙していて、その第3号が「容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品又は添加物のうち、冷凍又は冷蔵によらない方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化により食品衛生上の危害の発生のおそれがないものの販売をする営業」です。常温の棚に置ける菓子や飲料を、容器のまま売る形は、この号の読み方にかかってきます。
逆に言えば、冷蔵庫や冷凍庫が要るものを売ると、この号から外れます。乳飲料やアイス、要冷蔵の弁当をゲストへ有償で渡す形は、届出の要否をあらかじめ保健所へ確かめてください。厚生労働省の営業規制のページには、営業許可の業種を公衆衛生に与える影響の大きさから見直したことと、許可の対象にならない営業について届出の制度を設けたことが示されています。制度の全体がこの二段で組まれているので、自分の売り方がどちらの段に乗るのかを先に当てはめます。
条文の位置を表にすると、次のようになります。並べているのは根拠の場所で、要否の結論ではありません。
| 出し方 | 手続きの区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 自分で調理・加工して出す | 都道府県知事の許可 | 食品衛生法第55条第1項/施行令第35条第1号「飲食店営業」 |
| 容器包装のまま渡す(冷凍・冷蔵が要るもの) | 都道府県知事への届出 | 食品衛生法第57条第1項 |
| 容器包装のまま渡す(常温で品質の劣化のおそれがないもの) | 届出の対象外として列挙されている範囲 | 施行令第35条の2第3号 |
お酒は「飲ませる」と「容器のまま渡す」で分かれる
酒税法第9条第1項は「酒類の販売業又は販売の代理業若しくは媒介業(以下「販売業」と総称する。)をしようとする者は、政令で定める手続により、販売場(継続して販売業をする場所をいう。以下同じ。)ごとにその販売場の所在地(販売場を設けない場合には、住所地)の所轄税務署長の免許(以下「販売業免許」という。)を受けなければならない」と定めています。免許は事業者単位ではなく販売場ごとで、受けるのは所轄の税務署長からです。
ただし同じ項には、適用の外に置かれているものが並んでいます。酒類製造者が製造免許を受けた製造場で自分の酒を売る場合と、酒場、料理店等、酒類を専ら自己の営業場において飲用に供する業です。後者が、オプション販売を考えるときの分かれ目になります。
つまり、同じ缶ビールでも扱いが変わりえます。自分の営業場で飲んでもらう形と、容器のまま渡して持ち帰れる形は、条文の上で別の位置にあります。客室の冷蔵庫に缶を入れておいて代金を受け取る運用がどちらに寄るのかは、条文を読むだけでは決まりません。所轄の税務署へ、受け取り方と場所の形を示して確認してください。
ここで差が出るのは、無償で置く場合との比較です。宿泊料に含めて置いておくのか、別に代金を受け取るのかで、立つ条文が変わります。民泊のアメニティで扱ったとおり、置くこと自体に義務はありませんが、出し方を変えると別の法律がかかる構造は酒でも同じです。「冷蔵庫に入れて、代金は自己申告でいただく」という運用も、代金を受け取っている点では同じ側にあります。
送迎で代金を受け取ると、道路運送法の条文に当たります
駅や空港までの送迎は、要望の多いオプションです。ただし代金を受け取るかどうかで、まったく別の話になります。
道路運送法第78条は「自家用自動車は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない」と定めています。除かれているのは三つです。災害のため緊急を要するとき。市町村、特定非営利活動促進法第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が、地域住民又は観光旅客その他の当該地域を来訪する者の運送その他の国土交通省令で定める旅客の運送を行うとき。公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき。
事業として旅客を運ぶ側に回るなら、別の条文が出てきます。同法第4条第1項は「一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない」と定めています。宿のオーナーが自分の車でゲストを運び、その対価を受け取る形は、この二つの条文が向いている方向にあります。
現実的な選び方は二つです。送迎を宿泊料の中に含めて、対価を受け取らない形で行うか。あるいは、許可を持つ事業者に運んでもらうか。後者を自分が手配して報酬を得る場合は、次の節の話に移ります。「ガソリン代として実費だけもらう」という形も、対価を受け取っていないとは言えません。判断を自分で固めずに、運輸支局へ運用の形を示して確かめてください。
体験や移動を手配して売ると、旅行業法の登録が出てきます
近くの体験やタクシー、別の宿をゲストに取り次ぐ形は、宿の側から見れば「紹介」ですが、法律の側から見ると別の名前が付きます。
旅行業法第2条第1項は、報酬を得て行う行為を第1号から第9号まで列挙しています。オプション販売で近いのは三つです。第3号は「旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為」。第4号は「運送等サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送等サービスの提供について、代理して契約を締結し、又は媒介をする行為」。第5号は「他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為」です。
第5号に「他人の経営する」と書かれていることが、判定の手がかりになります。自分の届出住宅にゲストを泊める行為は、他人の施設を利用しているわけではありません。一方、満室のときに近隣の別の宿を押さえて渡す、貸切の車を手配して渡す、といった形は、他人の運送機関や宿泊施設を利用して旅行者にサービスを提供する側へ寄っていきます。
これらを事業として行う場合、同法第3条は「旅行業又は旅行業者代理業を営もうとする者は、観光庁長官の行う登録を受けなければならない」と定めています。観光庁の旅行業法概要のページでは、登録を受けた者が第1種旅行業者、第2種旅行業者、第3種旅行業者、地域限定旅行業者、旅行業者代理業者に区分されることが示されています。
旅行業を営む者のために手配する側に回る場合は、別の登録があります。同じページには、旅行サービス手配業の登録が必要な行為として、運送(鉄道、バス等)又は宿泊(ホテル、旅館等)の手配、全国通訳案内士又は地域通訳案内士以外の者による有償による通訳案内の手配、輸出物品販売所(消費税免税店)における物品販売の手配の三つが挙げられています。宿泊の手配そのものが、この登録の対象として名前を挙げられています。
売るものごとに立つ手続きを一覧にする
ここまでの条文を、売るものの側から並べ直します。この表は要否を判定するものではありません。どの法律のどの窓口へ当たればよいかを示す索引です。要否の判断は、設備と提供の形を見た所管の窓口が行います。
| 売るもの | 根拠になる法令 | 立ちうる手続き | 当たる窓口 |
|---|---|---|---|
| 調理した食事 | 食品衛生法/施行令 | 飲食店営業の許可 | 保健所 |
| 容器包装のままの食品・飲料 | 食品衛生法/施行令 | 営業の届出、または届出の対象外 | 保健所 |
| 酒類(容器のまま渡す) | 酒税法 | 販売業免許(販売場ごと) | 所轄の税務署 |
| 有償の送迎 | 道路運送法 | 自家用自動車の有償運送の扱い、一般旅客自動車運送事業の許可 | 運輸支局(国土交通大臣) |
| 他人の運送・宿泊・体験の手配 | 旅行業法 | 旅行業の登録、旅行サービス手配業の登録 | 観光庁長官、都道府県知事 |
表のとおり、窓口は保健所・税務署・運輸支局・旅行業の登録先に分かれます。住宅宿泊事業の届出先に聞いても、この四つの答えは返ってきません。オプションを一つ足すたびに、聞く相手が増えるということです。運営を委託している場合は、民泊の運営代行で扱った委託の範囲に、オプションの販売や手配が含まれているかどうかも確かめてください。委託していても、許可や登録の名義が誰になるのかは契約の文面で決まります。
価格と相場について、書けなかったこと
オプションの単価をいくらにするかは、この記事では扱えませんでした。民泊のオプション料金の相場を集計した公的な統計を確認できなかったためです。朝食の価格、送迎の片道の料金、体験を取り次ぐときの手数料率について、全国または地域の集計値は見つかりません。
同じ理由で、アーリーチェックインやレイトチェックアウトの追加料金の目安も書いていません(民泊のアーリーチェックイン・レイトチェックアウト)。時間の区切りは正午という形で決まりますが、その時間に値段を付ける根拠は、公表されている資料から取れませんでした。
代わりに手元で決められるのは、原価と手間が確定しているものから並べるという順番です。仕入れ値、委託先に払う額、自分の作業時間は自分で測れます。相場が分からないことと、自分の原価が分からないことは別の問題です。前者は資料がないので埋まりませんが、後者は数えれば埋まります。埋まる側から埋めるのが、この順番にする理由です。
判定の順番として、最後に三つ確認する
オプションを一つ足すときに、順番に確認するのは三つです。
一つ目は、その代金を宿泊料に含めるのか、別に受け取るのか。含めるなら、関わる法令は住宅宿泊事業法のままです。別に受け取るなら、二つ目へ進みます。
二つ目は、自分が作る・運ぶ・渡すのか、他人のサービスを取り次ぐのか。自分が作るなら食品衛生法、自分が運ぶなら道路運送法、他人のサービスを取り次ぐなら旅行業法の側です。酒だけは少し違って、作るかどうかではなく、飲用に供する形か容器のまま渡す形かで分かれます。
三つ目は、聞く窓口はどこか。保健所、所轄の税務署、運輸支局、旅行業の登録先。この記事に挙げた条文の番号をそのまま持っていけば、話が早く進みます。逆に、条文の読み方を自分で決めて運用を始めてしまうと、あとから戻すのに費用がかかります。売り始める前に確かめるほうが、確かめずに売り始めるより安く済みます。
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