小規模ホテルの開業は、民泊の延長ではありません。旅館業法の許可を取る事業であり、届出で進む住宅宿泊事業とは、手続きも、営業開始後に続く義務も別の体系です。
まず確かめるのは、自分がどの営業種別で許可を取るのかです。厚生労働省は、旅館業には旅館・ホテル営業、簡易宿所営業および下宿営業の3種があるとしています。旅館・ホテル営業は、施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業および下宿営業以外のもの、と定義されています。
この記事では、旅館・ホテル営業を選んだ場合に何が変わるかを整理し、資金と運営体制で決めることまで扱います。「小規模ホテルの開業資金はいくらか」「経営をどう始めるか」という探し方をしている場合も、この記事が対象です。旅館業に当たるかどうかの判定そのものは民泊と旅館業法の関係にまとめています。
簡易宿所とどちらで取るか
民泊から発展して小規模な宿泊施設を考える場合、選択肢は旅館・ホテル営業と簡易宿所営業に分かれます。
簡易宿所営業は、厚生労働省の定義では宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものです。観光庁は、簡易宿所営業にあたる例としてペンションやユースホステルなどを挙げています。
観光庁は、住宅宿泊事業の届出をせずに民泊サービスを行う場合には簡易宿所営業で許可を取得するのが一般的だとしています。つまり、居室を個別に貸し出す形の小規模施設は、簡易宿所で取ることが多いということです。
一方で、独立した客室を用意し、共用を前提としない構成にするなら、旅館・ホテル営業に当たります。設計の段階で、どちらの種別で取るかが決まります。建ててから種別を選ぶことはできません。
規模の実感として、厚生労働省が公表している旅館業の営業許可施設数があります。令和6年3月末で営業許可施設数は9万3,475施設であり、うち旅館・ホテル営業数は5万1,038施設、簡易宿所数は4万1,909施設とされています。前年度より2,725施設の増加です。
許可の窓口と、審査されるもの
厚生労働省は、旅館業を経営する者は都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては市長または区長)の許可を受ける必要があるとしています。観光庁も、許可を得るためには施設の所在する都道府県(保健所を設置する市、特別区を含む)の保健所に申請する必要があるとしています。
審査の中心は施設です。厚生労働省は、旅館業の許可は旅館業法施行令で定める構造設備基準に従っていなければならないとしています。運営についても、都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔等の衛生基準に従わなければなりません。
ここが届出との決定的な違いです。書類が揃っているかではなく、施設が基準に適合しているかを行政庁が判断します。図面の段階で保健所へ相談を始めないと、工事のやり直しが起きます。手続きの詳細は民泊の許可の取り方にまとめています。
立地の制約も先に効きます。観光庁の制度比較では、旅館業法(簡易宿所)について住居専用地域での営業は不可とされています。旅館・ホテル営業も旅館業である以上、同じ用途の制約を受けます。候補地が住居専用地域なら、そこにホテルは建てられません。
開業資金は「相場」ではなく条件から組む
「小規模ホテルの開業資金はいくらか」という問いに、当サイトは金額で答えません。全国の相場を集計した公的な統計を確認できなかったためです。規模、立地、建物を建てるのか改装するのか、客室数、設備の水準で桁が変わります。一般的な金額を書くと、確認した事実のように読まれます。
代わりに、確認できる条件は挙げられます。日本政策金融公庫の新規開業資金は、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方を対象とし、事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金と運転資金に使えるとされています。融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金が20年以内(うち据置期間5年以内)、運転資金が10年以内(うち据置期間5年以内)です。担保・保証人については、希望を伺いながら相談する形が示されています。
実際の可否と利率は審査によります。窓口で確認してください。資金の積み上げ方と事業計画書の書き方は民泊開業に必要な資金で扱っており、考え方は小規模ホテルでも同じです。
小規模ホテルで民泊と違うのは、日数の上限がないぶん、収入の見積もりが稼働率と単価だけで決まることです。住宅宿泊事業のように年間提供日数180日以内という制度上の天井がありません。その代わり、施設の基準を満たすための工事費と、営業開始後の衛生管理の負担が乗ります。
営業開始後に続くもの
許可は取って終わりではありません。運営体制を決めるうえで、次の3つを前提にしてください。
宿泊を拒める場面が限られます。厚生労働省は、旅館業者は特定感染症の患者等や違法行為または風紀を乱す行為をするおそれのある者、営業者に対してカスタマーハラスメントに当たる特定の要求を行った者、宿泊施設に余裕がないとき等を除き、宿泊を拒むことはできないとしています。誰を泊めるかを自由に選べる前提で計画していると、想定と食い違います。
宿泊者名簿を備えなければなりません。厚生労働省は、宿泊者名簿は所定の省令に基づき電磁的記録による保存ができるとしています。紙で保管しなければならないという制約はありません。
監督が続きます。厚生労働省は、旅館業の施設が衛生基準に従って運営されているかどうかについて、都道府県知事(保健所設置市または特別区にあっては市長または区長)は報告を求め、立ち入り検査をすることができるとしています。この業務は環境衛生監視員が行います。構造設備基準または衛生基準に反するときは、改善命令、許可の取消または営業の停止を命ずることができるとされています。
つまり、経営とは基準を満たし続けることでもあります。開業時の工事費だけでなく、維持のための手間と費用を計画に入れてください。
運営体制で先に決めること
小規模ホテルの運営体制について、公的な資料で「こうすべき」と定めたものは確認できませんでした。ここでは、上に挙げた義務から必ず必要になることだけを挙げます。
宿泊者名簿を作る担当と方法。電磁的記録で保存できるため、どの仕組みで記録するかを開業前に決めます。衛生基準を守り続ける体制。基準は都道府県の条例で定められているため、地域の内容を確認したうえで、清掃と点検の頻度を決めます。立入検査に応じられる記録。報告を求められることがあるため、日々の記録を残す形にしておきます。宿泊を拒めない前提での受け入れ方針。断れる場面が限られるので、トラブル時の対応手順を先に決めておきます。
厚生労働省は、旅館業を究極の「人によるサービス業」であるとし、それは旅館であろうとホテルであろうと簡易宿所であろうと変わらないとしています。そのうえで、衛生面、安全面も含めて「宿泊客の苦情・感想」を受ける体制を整えておくべきであり、苦情等を放置すればいずれ事故につながる、としています。体制づくりの優先順位を決めるときの手がかりになります。
進める順序
小規模ホテルの開業は、次の順に確かめると手戻りが減ります。
候補地の用途地域を確かめる。住居専用地域なら旅館業の許可は取れません。ここで決まります。営業の種別を決める。客室を共用する構成か、独立した客室かで、簡易宿所営業か旅館・ホテル営業かが分かれます。図面を持って保健所に相談する。構造設備基準への適合を判断するのは行政庁です。消防署に相談する。必要な設備は建物の使い方と規模で変わります。
そのうえで、資金を積み上げる。工事の見積りが出てから、公庫などの条件に照らして調達を検討します。最後に、営業開始後の体制を決める。名簿、衛生管理、記録、苦情対応の4つは開業と同時に必要になります。
次に読むもの
許可の申請先と基準は民泊の許可の取り方、旅館業に当たるかどうかの判定は民泊と旅館業法の関係、資金の積み上げ方は民泊開業に必要な資金にあります。
構造設備基準と衛生基準は施行令と自治体の条例で定められており、運用も地域によって異なります。この記事は厚生労働省・観光庁・日本政策金融公庫が公表しているページの内容を整理したものです。設計や資金の相談を始める前に、施設の所在地を管轄する保健所へ確認してください。
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