民泊市場規模/データ

民泊の市場規模は金額で出せるか|公表されている数量と推計の境目

民泊の市場規模を金額で示した公的統計が見つからない理由を、観光庁の公表資料で確かめます。公表されているのは宿泊日数・宿泊者数・延べ宿泊者数という数量で、単価の全国値はありません。報告率84.7%という前提と、2か月分の実績を年換算できない理由、推計値の確かめ方を整理します。

事業計画書にも、融資の資料にも、たいてい「市場規模」を書く欄があります。民泊で埋めようとして統計を探すと、件数や人数はすぐ見つかるのに、金額だけがどこにも出てこないところで手が止まります。

その行き止まりは、探し方が悪いから起きているのではありません。確認した範囲では、住宅宿泊事業の市場規模を金額で示した公的統計は見つかりませんでした。観光庁が民泊制度ポータルサイトで公表している「住宅宿泊事業法の施行状況」に載っているのは、届出の件数と、宿泊日数・宿泊者数・延べ宿泊者数という数量です。金額の欄はありません。

一方で、旅行そのものの消費額なら円で公表されています。日本人の国内旅行も、訪日外国人の支出も、観光庁が四半期と年で発表しています。ただしどちらも、そのうち民泊に落ちた金額がいくらかという形には分かれていません。

この記事では、金額の市場規模という数字がどう組み立てられるのかをいったん分解し、公表値でどこまで埋まり、どこから先が誰かの推計になるのかを線引きします。そのうえで、外で見かけた「民泊の市場規模は◯億円」という数字を確かめる手順と、公表値だけで事業計画の欄をどう書くかを示します。公表されていない項目は、推測で補わずに空欄のままにします。

金額で出すには、数量と単価の両方が要る

金額の市場規模は、突き詰めると掛け算です。どれだけ利用されたか(数量)と、1回あたりいくら払われたか(単価)を掛けます。宿泊であれば、延べで何人泊あったかと、1人泊あたりの支払額です。

金額の市場規模を数量と単価の掛け算に分解した図。数量は延べ宿泊者数として観光庁の施行状況に1,745,359人泊が公表されているが、単価にあたる1人泊あたりの支払額は宿泊旅行統計調査の調査事項に含まれておらず公表がないため、掛け算の結果を確定できないことを示している
金額を出すのに要る二つの要素と、それぞれの公表状況です。数量は公表されていますが、単価にあたる項目は確認できませんでした。 出典:観光庁「住宅宿泊事業法の施行状況」観光庁「宿泊旅行統計調査」(確認日 2026-09-06)

数量の側には公表値があります。住宅宿泊事業の宿泊実績として、延べ宿泊者数が人泊という単位で発表されています。単価の側は、確認した範囲では見当たりませんでした。宿泊旅行統計調査で分かるのは、延べ宿泊者数、実宿泊者数、客室稼働率、国籍別の延べ宿泊者数です。料金や売上はこの調査の対象に入っていません。価格の統計をどこまで代わりに使えるかは民泊の客室単価はどこで調べるかにまとめました。

掛け算の片方が欠けている以上、金額は掛け算からは出てきません。世の中に出回っている民泊の市場規模は、単価の側を何らかの方法で埋めた結果です。埋め方が書かれていない数字は、読んだ側が根拠をたどれません。

数量として何が公表されているか

住宅宿泊事業の施行状況には、件数と実績が同じページに並んでいます。件数は令和8年7月15日時点、実績は令和8年4月1日から5月31日までのものとして公表されています。

項目 公表されている値 時点・対象期間
住宅宿泊事業の届出件数 65,837件 令和8年7月15日時点
うち事業廃止 23,767件 令和8年7月15日時点
届出住宅数 42,070件 令和8年7月15日時点
報告件数 34,902件 令和8年4月1日〜5月31日
報告率 84.7% 令和8年7月15日時点
宿泊日数 624,088日 令和8年4月1日〜5月31日
宿泊者数 626,765人 令和8年4月1日〜5月31日
延べ宿泊者数 1,745,359人泊 令和8年4月1日〜5月31日

市場の広がりを語るときに使えるのは、いちばん下の延べ宿泊者数です。人数に泊数を掛けた単位なので、供給された宿泊の総量にいちばん近い形をしています。件数と実績の読み分けそのものは民泊の統計はどこで確認するかで扱っているので、ここでは市場規模として引用するときに効いてくる制約だけを見ます。

制約は三つあります。一つ目が報告率です。実績は届出住宅数41,207件に対して報告件数34,902件、報告率84.7%と明記されています。報告のなかった住宅の宿泊は、この合計に入っていません。全数を数えた値ではないという注記が、公表資料の側にはっきり書かれています。

二つ目が対象期間です。公表されているのは2か月ぶんで、年間の合計は同じページに出てきません。三つ目が範囲です。この実績は住宅宿泊事業法にもとづく届出住宅のものだけで、特区民泊も、旅館業法の許可を受けて営業しているものも入っていません。

公表されている宿泊実績が覆う範囲を示した帯グラフ。住宅宿泊事業の届出住宅のうち報告のあった34,902件ぶん、報告率84.7%だけが集計に入り、報告のなかった分は入らない。特区民泊と旅館業法の営業は、この実績値には含まれないことを破線の帯で示している
公表実績が覆っているのは、住宅宿泊事業の届出住宅のうち報告のあった分だけです。制度の違う二つは、そもそも別のところが集計しています。 出典:観光庁「住宅宿泊事業法の施行状況」内閣府「旅館業法の特例(特区民泊)について」(確認日 2026-09-06)

特区民泊は内閣府の地方創生推進事務局が所管していて、実績は同事務局のページに置かれた資料にまとめられています。制度そのものの中身は特区民泊とは何かにあります。つまり「民泊の市場」と一言でいっても、数字を出しているところが最初から分かれています。合算した全国値を作りたいなら、それぞれの出典と基準日を並べて示す以外に方法がありません。

2か月ぶんの実績を、そのまま年へ引き伸ばさない

年間の市場規模がほしいとき、いちばんやりたくなるのが、公表されている2か月ぶんを単純に六倍することです。これは避けてください。理由が二つあります。

一つ目は、季節による偏りです。公表資料に月ごとの内訳はなく、4月と5月の水準が年間を通した平均に近いのかどうかを確かめる材料がありません。前年同期比は宿泊日数が138.6%、宿泊者数が130.1%、延べ宿泊者数が133.0%と示されていますが、これは前年の同じ2か月と比べた値であって、年間の伸びを表すものではありません。

二つ目は、営業できる日数に上限があることです。住宅宿泊事業では年間提供日数の上限が180日と定められ、算定期間は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までとされています。公表されている実績の対象期間は、ちょうどこの算定期間が始まった直後にあたります。年度の後半になるほど、上限に達して営業できなくなる住宅が出てきます。上限のある制度で、期間の頭にある2か月を年へ引き伸ばすと、実態より上振れる方向に働きます。数え方の細かい部分は民泊の180日をどう数えるかにまとめました。

引用する側にできるのは、対象期間をそのまま書くことです。2か月ぶんの値だと明示したうえで使えば、読んだ相手が同じページで裏を取れます。年に直した数字を出したいなら、直し方を自分で書き添える必要があり、それはもう公表値ではなく自分の推計になります。

旅行全体の金額からは、民泊の分を切り出せない

では、金額のほうはまったく無いのかというと、旅行の消費額であれば公表されています。観光庁は日本人の国内旅行と訪日外国人の支出を、それぞれ別の調査で発表しています。

調査 公表されている金額 対象
旅行・観光消費動向調査 国内旅行消費額 26兆7,746億円 日本国内に居住する人の旅行
旅行・観光消費動向調査 国内旅行単価 48,359円 1人1回あたり
インバウンド消費動向調査 訪日外国人旅行消費額 9兆4,559億円 訪日外国人の日本滞在中の支出
インバウンド消費動向調査 1人当たり旅行支出 22.9万円 訪日外国人1人あたり

いずれも2025年の年間値として公表されているものです。金額そのものはここにありますが、宿泊費のうち民泊に払われた分がいくらかという区分は、確認した報道発表資料には見当たりませんでした。旅行・観光消費動向調査は、住民基本台帳から無作為に抽出した回答者に旅行の有無と消費の内訳を尋ねる調査で、宿泊施設の種類ごとに金額を割り振る作りにはなっていません。統計ごとの対象と単位の違いは旅行市場の規模は何を合計した数字かで整理しています。

つまり、金額の統計には民泊が独立した項目として現れず、民泊の統計には金額の項目が無い、という形で二つがすれ違っています。どちらか一方だけを見ても、民泊の市場規模は金額になりません。両方をつなぐには単価が要り、その単価が公表されていない、というのが最初の節に戻ってくる結論です。

観光庁の報道発表「旅行・観光消費動向調査 2025年年間値(速報)及び2025年10-12月期(1次速報)」のファーストビュー
引用キャプチャ 日本人の国内旅行の消費額が円で公表されている報道発表です。宿泊費のうち民泊に払われた分という区分は、この資料には掲載がありません。 出典:旅行・観光消費動向調査 2025年年間値(速報)及び2025年10-12月期(1次速報)(観光庁 報道発表)(確認日 2026-09-06/表示のファーストビュー)

「民泊の市場規模は◯億円」を見たときに確かめること

外で金額を見かけたときに、そのまま資料へ引き写すかどうかを決める手順を置いておきます。推計そのものが悪いわけではありません。前提が書かれていない推計を、公表値のように扱うことが問題です

外で見た民泊の市場規模の金額を確かめる五つの問いを並べたチェックリスト。対象の制度、数量の出どころと報告率84.7%、単価の根拠、2か月ぶんを年へ直した方法、出典と確認日の有無を順に確かめ、一つでも答えられなければ金額を引かず数量の公表値を引用すると示している
金額の推計を引用してよいかを判定する順序です。84.7%は観光庁の施行状況に公表されている報告率で、推計の前提として書かれているかどうかを見る目印になります。 出典:観光庁「住宅宿泊事業法の施行状況」(確認日 2026-09-06)

最初に確かめるのは、どの制度までを数えた金額かです。住宅宿泊事業だけなのか、特区民泊や旅館業法の営業まで足しているのかで、対象がまったく変わります。次に数量の出どころです。観光庁の公表値を使っているなら、対象期間と報告率が添えられているはずです。三つ目が単価で、公的統計に該当する項目が無い以上、誰がどうやって決めた値かが必ずどこかに書かれていなければなりません。

四つ目が期間の合わせ方です。2か月ぶんの実績を年に直したのであれば、直し方が書かれているかを見ます。最後が出典と確認日で、同じページを開いた読者が同じ数字にたどり着けるかどうかです。一つでも答えられない項目があれば、金額を引くのをやめて、数量の公表値をそのまま引用するほうが安全です。数量なら出典のページで誰でも突き合わせられます。

事業計画の「市場規模」欄には何を書くか

金額が無いからといって、欄を空けたまま出す必要はありません。金額の代わりに、数量と条件を書きます

書けるのは三つです。一つ目が、制度全体の広がりです。届出件数65,837件、うち事業廃止23,767件、届出住宅数42,070件という三つを並べれば、参入と撤退の両方を含んだ市場の姿になります。二つ目が、利用の総量です。令和8年4月1日から5月31日までの延べ宿泊者数1,745,359人泊を、対象期間と報告率84.7%を添えて引きます。三つ目が、需要の性格です。同じ期間の宿泊者数626,765人のうち、日本国籍が235,591人で37.6%、外国人が391,174人で62.4%と公表されています。外国人の比率が高いという事実は、集客の設計に直接効いてきます。国籍の内訳がどう報告されているかは民泊の宿泊者数は何を数えた数字かで扱いました。

自分の物件の売上見込みは、この市場の数字からは出てきません。営業できる日数の上限、定員、自分で設定する価格から組み立てるものです。組み立ての手順は民泊の収支計画の立て方にあります。市場規模の欄は、その物件が置かれている場所の広さを示すためのもので、売上の根拠にはなりません。

最後に、この記事の数値はすべて2026年9月6日に確認したものです。施行状況のページは報告の周期に合わせて更新されるので、次に使うときは記憶や手元のメモではなく、出典のページを開き直してください。金額の推計を見つけたときも、まずこの五つの問いを通してから資料へ入れることをおすすめします。

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