株式会社アズマ四国は2026年9月4日、徳島県那賀郡那賀町の鷲敷(わじき)地区で、空き家を再生して地域のにぎわいをつくる「わじき・にぎわい再生プロジェクト」を始動したと発表しました。第1号物件となる空き家「和食庵(わじきあん)」を2026年8月下旬に着工し、11月22日にオープンする予定だとしています。和食庵には民泊が入ります。
発表元は徳島県阿南市に本社を置く建築リフォーム会社で、事業内容として建築リフォーム、空き家管理サービス、水廻りメンテナンス、浄化槽保守点検を挙げています。空き家の改修や管理を本業にしてきた会社が、自分たちで宿泊施設を運営する側にも回るという形です。空き家を買う、あるいは借りて民泊にしようと考えている人にとっては、改修する人と運営する人が同じ場合に何をどう組み立てるのかが読み取れる発表になっています。
この記事は、同社が配信したプレスリリースと、そこに名前が出ている徳島県の事業の公募情報にもとづいています。発表に書かれていない項目は推測で埋めず、書かれていないことをそのまま示します。とくに、この施設がどの法令にもとづく営業になるのかは発表に記載がないため、当サイトも断定しません。宿泊料金や投資額も、この発表には含まれていません。
空き家1軒に民泊・洋菓子店・サウナを重ねると説明しています
発表によると、和食庵は木造2階建てで、民泊客室4室、店舗スペース、インスタントサウナ、駐車場5台という構成です。民泊は自社運営で、最大10名が宿泊できるとされています。敷地内に置くインスタントサウナは、宿泊体験の価値を高めるためのものだと書かれています。
店舗スペースには、三好市池田町に本店を構える「パール洋菓子店」(運営:株式会社SUGAR FIX)の県内2号店を誘致するとしています。発表は、地域住民に加えて県内外からのファンやツーリング客を呼び込み、「通過型観光」から「立ち寄り・消費型観光」への転換をはかると説明しています。さらに、地域の基幹産業である柚子やすだちの収穫期には、短期従事者向けの住宅としても使うと記載されています。
つまり1軒の建物に、旅行者向けの宿泊、地域内外の人が立ち寄る物販、そして季節労働者向けの短期賃貸という三つの使い道を重ねる計画です。宿泊の需要が年間を通じて平らではない地域で、建物を空けたままにしない組み立て方だと読めます。ただし、それぞれの用途からどれだけの収入を見込んでいるのか、どの時期にどの用途を優先するのかについて、発表に記載はありません。
用途を重ねると、確認する法令も増えます。住宅として届け出て民泊にするのか、旅館業法の許可を取るのかで、必要な手続きも、同じ建物に店舗や賃貸を置くときの扱いも変わります。分かれ目の考え方は簡易宿所と民泊の違いに整理しています。空き家を選ぶ段階でどこまで確かめるかは民泊の物件の選び方にまとめました。
| 項目 | 発表の記載 |
|---|---|
| プロジェクト名 | わじき・にぎわい再生プロジェクト |
| 第1号物件 | 和食庵(わじきあん) |
| 所在地 | 徳島県那賀郡那賀町和食字町52番地 |
| 構造・施設 | 木造2階建て(民泊客室4室、店舗スペース、インスタントサウナ設置、駐車場5台完備) |
| 民泊 | 自社運営。最大10名宿泊 |
| 到着時の対応 | スマートロックやオンライン本人確認による「非対面チェックイン・無人運営システム」を導入 |
| 併設 | パール洋菓子店の県内2号店(運営:株式会社SUGAR FIX) |
| 別の使い道 | 柚子・すだちの収穫期に短期従事者用住宅として活用 |
| オープン | 2026年11月22日(予定) |
「官民金学」で体制を組んだと説明しています
発表は、那賀町役場、株式会社阿波銀行、那賀町観光協会、徳島県立那賀高等学校を連携機関として挙げ、事業パートナーに株式会社SUGAR FIXを挙げています。同社はこれを「官民金学」一体の体制と呼び、一過性ではない持続可能なまちづくりを目指すと説明しています。
高校との連携は、普通科の「総合的な探究の時間」との連携です。生徒が空き家改修のプロセスやイベント企画、地域マップ作成等に参画することで、若者の視点を取り入れた地域課題への取組と、将来的なUターン・地元定着へのきっかけをつくるとされています。発表には、施工前の現場見学会に生徒が参加した様子も記載されています。
空き家を宿泊施設にするとき、必要になるものは会社の中だけでは揃いません。物件の情報と地域での調整、改修と開業の資金、旅行者への案内、そして現場を回す人手が、それぞれ別のところから来ます。この発表が体制の特徴として先に並べているのは、その相手方です。誰と組むかを着工前に決めて公表している点が、同じ規模の案件を考える人には参考になります。もっとも、費用を誰がどれだけ負担するのか、契約がどういう形なのかについては、発表に記載がありません。連携機関に名前が挙がっていることと、資金や運営の責任を分け合っていることは別の話です。
工程についても、着工前から完成後までをオープンにしたイベントを展開するとしています。公表されている予定は次のとおりです。
| 時期 | 発表に書かれている予定 |
|---|---|
| 2026年8月中旬 | 施工前現場見学会(開催済み) |
| 2026年8月下旬 | 第1号物件「和食庵」着工 |
| 2026年10月中旬 | 地域連携イベント参加予定 |
| 2026年11月20日・21日 | プレオープン予定(民泊・洋菓子店) |
| 2026年11月22日 | オープン予定 |
発表は、今後の状況により内容やスケジュールが変更となる場合があると断っています。将来の構想として、地元企業や観光資源と連携した体験型コンテンツ(SUP・カヌー体験等)の提供、施設清掃をはじめとした地域雇用の創出にも触れていますが、これらは時期が示されていない構想です。
徳島県の「空き家5戦略事業」で先導事例を発信する
発表は末尾に、本事業が徳島県「空き家5(ファイブ)戦略事業利活用モデル業務」であると記載しています。この業務については、徳島県が公募型プロポーザル方式で実施事業者を募集した公募情報を県のサイトに掲載しています。
県の公募情報は業務の目的を、観光振興や交流・定住人口の拡大のため、徳島県内の地域に眠る空き家及び空き建築物が資源として利活用されるよう、先導事例を発信して利活用を促進することだと説明しています。選ばれた民間事業者は、モデル的な空き家等の利活用を実施したうえで、物件の選定方法、周辺地域に与える具体的な事業効果、改修方法、利活用における課題、施設運営方法の工夫等を分かりやすく取りまとめて発信することとされています。県が求めているのは建物の改修そのものだけではなく、どうやって使えるようにしたかを他の人が真似できる形で残すことだと読めます。
背景として県が挙げているのは空き家の比率です。公募情報には、徳島県の空き家率が21.3%であり、全国の13.8%を上回ることが示されています。業務料の限度額は1,000千円/棟(消費税及び地方消費税相当額を含む)、業務期間は契約締結日から令和9年3月15日までと書かれています。
読み取るときに気をつける点が二つあります。一つは、県のサイトで確認できるこの公募情報が令和8年度の募集についてのものであり、和食庵がどの回で採択されたのかは、発表からも公募情報からも確認できないことです。もう一つは、限度額や業務期間はあくまで制度側の条件であって、この物件に実際にいくら支払われたかを示すものではないことです。発表にも、受け取る金額の記載はありません。空き家を安く手当てできるかどうかは制度で決まらず、物件ごとの条件で決まります。
「非対面チェックイン」を掲げるなら、要件は営業の種別で決まる
発表は、和食庵の民泊にスマートロックやオンライン本人確認による「非対面チェックイン・無人運営システム」を導入すると書いています。運営は自社で行うとされています。同じ形を検討している人がいちばん参考にしたくなる部分ですが、ここで先に確かめておくことがあります。この施設がどの法令にもとづく営業になるかが、発表に書かれていないという点です。営業の種別が決まらなければ、満たすべき要件も決まりません。
住宅宿泊事業法の届出住宅として運営する場合を例に取ります。観光庁は、宿泊者名簿を届出住宅または住宅宿泊事業者の営業所もしくは事務所に備え付け、3年間保存し、都道府県知事から求められたときは提出することを示しています。本人確認をICTで行う場合の条件も具体的に示されており、宿泊者の顔及び旅券が画像により鮮明に確認できること、その画像が住宅宿泊事業者や住宅宿泊管理業者の営業所等、届出住宅内又は届出住宅の近傍から発信されていることが確認できること、という二つを両立させる必要があるとされています。想定される方法としては、届出住宅等に備え付けたテレビ電話やタブレット端末等による方法が挙げられています。
管理業務の委託についても枠組みがあります。観光庁は、届出住宅の居室の数が5を超える場合と、人を宿泊させる間に住宅宿泊事業者が不在となる場合には、住宅宿泊管理業者への委託が必要だとしています。不在の判定では、日常生活を営む上で通常行われる行為に要する時間の範囲内の不在は除かれ、その目安として1時間が示されています。委託が要らない例外として、事業者の生活の本拠と届出住宅が同一の建築物・敷地内にあるか隣接していること、かつ自ら管理する居室数の合計が5以下であることの両方を満たす場合が挙げられています。
和食庵は民泊客室4室と書かれていますが、届出上の「居室」をどう数えるのか、宿泊させている間に事業者が不在になるのかは、発表からは判断できません。したがって、委託が必要かどうかもここでは決められませんし、決めるべきでもありません。鍵を機械にしたことと、法令上の義務が減ることは別です。非対面にしても残る仕事は民泊のチェックイン方法に、離れた場所から運営する場合の体制は民泊の遠隔運営に整理しています。委託する場合に相手側へ課される業務は民泊の運営代行で扱いました。
| 住宅宿泊事業法で運営する場合に確認する項目 | 観光庁が示している内容 |
|---|---|
| 宿泊者名簿の備付け場所 | 届出住宅、または住宅宿泊事業者の営業所もしくは事務所 |
| 保存期間 | 3年間。都道府県知事から求められたときは提出 |
| ICTで本人確認する条件 | 顔及び旅券が画像により鮮明に確認できること |
| 同上 | その画像が営業所等、届出住宅内又は近傍から発信されていることが確認できること |
| 委託が必要になる場合 | 居室の数が5を超えるとき/宿泊させる間に不在となるとき |
| 委託が不要になる例外 | 生活の本拠が同一建築物・敷地内または隣接し、かつ自ら管理する居室数の合計が5以下 |
この発表に記載がないこと
空き家を民泊にするかどうかを判断するときに知りたくなる項目のうち、この発表に書かれていないものを並べます。埋めずにそのまま示します。
| 知りたくなる項目 | この発表での扱い |
|---|---|
| 営業の種別(住宅宿泊事業法の届出/旅館業法の許可など) | 記載がありません |
| 届出・許可の状況と時期 | 記載がありません |
| 物件の取得・賃借の形と条件 | 記載がありません |
| 改修にかかった費用と資金の内訳 | 記載がありません |
| 宿泊料金と稼働の見込み | 記載がありません |
| 管理業務を委託するかどうか | 記載がありません |
| 連携機関それぞれの費用負担・契約の形 | 記載がありません |
書かれていない項目が多いのは、この発表がプロジェクトの始動を知らせるものであり、開業までの経過報告ではないためです。数字が出るとすれば、県の業務として利活用の内容を取りまとめて発信する段階か、開業後の報告になります。当サイトも、その資料が公表されるまでは金額や稼働の数字を扱いません。
この発表から持ち帰れること
自分の空き家や、これから探す物件に当てはめて考えられるのは、次の三点です。
一つめは、用途を重ねて建物を埋める考え方です。宿泊だけで年間を通した収入を組み立てにくい地域では、店舗や短期賃貸を同じ建物に置くという選び方があり得ます。ただし用途が増えるほど、確認する法令と、日々の手間は増えます。
二つめは、連携先を着工前に決めて公表していることです。行政、金融機関、観光協会、学校という組み合わせは、どの地域にもある相手です。誰に何を頼むのかを先に整理しておくと、物件が決まってからの動きが速くなります。
三つめは、制度の判定は物件ごとに行うほかないということです。この発表からは、営業の種別も、委託の要否も読み取れません。同じ形をつくりたい場合、設備や仕組みを先に決めるのではなく、どの法令にもとづく営業にするかを先に決めることになります。物件の条件によって答えが変わるため、最終的な判断は所管の窓口で確かめてください。
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