もう一度来てほしい、と考えたときに最初に浮かぶのは、たいてい退室後の連絡です。前回の宿泊者へ案内を送る、特典を知らせる。ところがその経路は、送ってよいかどうかを先に決めないと動き出せません。手元に連絡先があることと、そこへ案内を送れることは別の話だからです。
民泊には、もう一段手前に固有の事情があります。再訪の希望が来ても、その日に営業していないことがあるという点です。年間に人を宿泊させられる日数には上限があり、区域や期間によってはさらに狭くなります。ホテルや旅館との一番大きな違いはここで、再訪を誘う前に受け入れられる時期が決まってしまいます。
先に結論を書きます。民泊で再訪の手がかりを新しく置ける場所は、滞在中と公開の場の二つだけです。そして滞在中にやることは、住宅宿泊事業者の業務として、すでに内容が決まっています。つまりリピーター集客の出発点は、新しい施策を足すことではなく、やらなければならないことが、次に思い出される形になっているかを見直すことになります。
断っておくことが一つあります。再訪率やリピーターの比率の目安を示した公的な集計は、今回の調査では見つけられませんでした。そのため「何割が再訪する」といった数値はこの記事に書いていません。また、退室後に連絡先を使って案内を送る手順そのものはリピーターの直接予約で扱っているため、ここでは繰り返しません。集客の経路全体の見取り図は民泊の集客方法にあります。
再訪の接点は、三つの層に分かれる
再訪の話を始める前に、そもそも接点を置ける場所がどこにあるのかを数えます。分け方は好みではなく、その接点を誰が見られるかで決まります。
一つめは滞在中です。届出住宅の中で渡すもの、掲示するもの、説明するものがここに入ります。相手は目の前にいるので、送ってよいかという問題が起きません。二つめは公開の場です。届出住宅に掲示する標識、仲介サイトの施設ページ、自社サイト、SNSの投稿。ここは誰でも見られる代わりに、前回の宿泊者だけを選んで何かを出すことができません。三つめが退室後の個別の連絡で、ここだけが、記録をどの目的で取得したか、案内を送る承諾があるかによって、できることが変わります。
三つを並べると、リピーター集客が新規の集客と違ってくる理由が見えます。新規の人に届く場所は二層目しかありませんが、一度泊まった人には一層目が開いている。しかも一層目は、こちらから働きかけなくても必ず通る場所です。ここを使わずに三層目から手を付けるのは、開いている扉を通らずに鍵のかかった扉を叩いているようなものです。
滞在中にやることは、すでに決まっている
一層目に何を置けるかは、ほとんど考える必要がありません。観光庁は住宅宿泊事業者の業務として、宿泊者の衛生の確保、宿泊者の安全の確保、外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保、宿泊者名簿の備付け等、周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明、苦情等への対応などを挙げています。これらは義務であって、集客の施策ではありません。
ただし、義務だから集客と関係ない、とは言えません。宿泊者の側から見ると、この三つはどれも滞在の印象そのものです。衛生の確保について同庁は、各居室の床面積を宿泊者1人当たり3.3平方メートル以上確保するとともに、定期的な清掃、換気及びその他の必要な措置を講じる必要があるとし、寝具は宿泊者が入れ替わるごとに洗濯したものと取り替えること、循環式浴槽の湯は抜き、加湿器の水は交換することを挙げています。宿泊者はこれを法令の話として読みませんが、部屋に入った瞬間の判断としては受け取ります。
| 事業者の業務 | 観光庁が示している内容 | 宿泊者の側から見える形 |
|---|---|---|
| 宿泊者の衛生の確保 | 各居室の床面積を宿泊者1人当たり3.3平方メートル以上確保し、定期的な清掃、換気その他必要な措置を講じる。寝具は入れ替わるごとに洗濯したものと取り替える | 入室した瞬間の部屋の状態と、寝具や水まわりの手触り |
| 宿泊者の安全の確保 | 非常用照明器具の設置、避難経路の表示、火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置 | 到着直後に目に入る掲示と器具。不安を打ち消す材料 |
| 外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保 | 外国語を用いて、設備の使用方法の案内、移動のための交通手段の情報提供、災害時の通報連絡先の案内を行う | 滞在中に何度も読み返す案内そのもの |
右の列は、どれも「印象」と書きたくなるところですが、あえて具体的に書いています。再訪するかどうかを決めるのは、抽象的な満足ではなく、滞在中に触れた個別のものだからです。
外国語の三つの案内は、滞在の中身そのものを決める
三つの業務のうち、再訪との距離が一番近いのが外国人観光旅客への案内です。観光庁が挙げている項目は三つで、外国語を用いて届出住宅の設備の使用方法に関する案内をすること、外国語を用いて移動のための交通手段に関する情報を提供すること、外国語を用いて火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内をすることです。
一つめと三つめは、困ったときに読むものです。ところが二つめの交通手段の情報だけは性質が違います。この案内は、その滞在で相手がどこへ行けるかを決めてしまうからです。最寄りの駅やバス停、そこからどの方向へ向かえるか、朝と夜に動ける時間帯。ここが薄いと、相手は近場で済ませて帰ることになります。逆にここが具体的だと、滞在の範囲が広がり、次に来る理由も一緒に増えます。
注意したいのは、この記事で案内の文例を示せないことです。交通手段も周辺の事情も、届出住宅の位置によって全部変わります。汎用の文面を作ると、その物件で成り立たない情報を配ることになります。外国語での案内の作り方そのものは民泊の多言語対応で扱っています。
もう一つ、案内の置き場所も滞在中の接点です。紙で置くのか、室内に掲示するのか、到着前に送るのか。どれを選んでも、外国語を用いることが業務として挙げられている点は変わりません。
苦情への対応は、再訪の芽を残す側の作業
一層目には、再訪を増やす側の業務だけでなく、再訪を消さないための業務も入っています。
観光庁は、周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明として、騒音の防止のために配慮すべき事項、ごみの処理に関し配慮すべき事項、火災の防止のために配慮すべき事項、その他届出住宅の周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項を挙げています。あわせて、届出住宅の周辺地域の住民からの苦情及び問い合わせについては適切かつ迅速に対応する必要があるとし、深夜早朝を問わず、常時、応答又は電話により対応する必要があるとしています。
ここで見落としやすいのが、説明の相手が宿泊者だという点です。周辺住民への配慮を求める説明は、受け取る側からすれば滞在の初めに渡される制約の一覧です。同じ内容でも、渡し方によって「気をつけて過ごせばよい宿」にも「注意ばかりされる宿」にもなります。ここが後者になっている宿は、衛生も設備も整えながら再訪されません。
ただし、この記事に文例は置きません。説明が求められているのは届出住宅とその周辺の生活環境に応じた内容であり、汎用の文面はその物件で成り立たないためです。決め方と、任意で決める部分との切り分けは民泊のハウスルールにあります。
苦情への対応のほうは、常時応答できる体制そのものが業務です。滞在中に起きた不具合へどれだけ早く返せるかは、そのまま滞在の記憶になります。
標識は、戻ってきた人が同じ宿だと確かめられる目印
二層目、つまり公開の場にも、民泊に固有のものが一つあります。標識です。
観光庁は、住宅宿泊事業者は届出住宅ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲示する必要があるとしています。掲示の位置についても具体的で、門扉、玄関等の、概ね地上1.2メートル以上1.8メートル以下で、公衆が認識しやすい位置と示されています。
集客の話としてここを取り上げる理由は、標識が、届出住宅ごとに掲示されるものだからです。屋号や部屋の呼び名は自分で変えられますが、届出は住宅に紐づきます。戻ってきた人が建物の前に立ったとき、ここが前回と同じ届出住宅かどうかを外から確かめられる手がかりは、実質これしかありません。掲示の高さが目線の範囲に定められているのも、公衆が認識しやすい位置という目的から来ています。
裏返すと、標識が見つけにくい場所にあれば、再訪した人は到着時に一度迷います。滞在の最初の数分は、案内が効く場面であると同時に、印象が決まる場面でもあります。掲示の位置は義務の話ですが、同時に再訪者が最初に触れる接点でもある、という二重の意味を持っています。
受け入れられる日には、そもそも上限がある
ここまでが接点の話です。最後に、接点を作る前に決めておくことが残っています。
観光庁は、住宅宿泊事業について年間提供日数の上限は180日とし、人を宿泊させる日数が180日を超えないものと示しています。期間の計算も定められていて、1年間は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午まで、1日は正午から翌日の正午までです。さらに、地域の実情を反映する仕組みとして、条例による住宅宿泊事業の実施の制限が創設されています。数え方の細かい扱いは民泊の180日ルールにまとめています。
リピーター集客にとって、この枠は無視できません。再訪したいと言われた時期に、営業していない可能性があるからです。年間の枠をいつ使うかは自分で決められますが、決めたあとで前回の宿泊者から希望が来ても、枠を後から広げることはできません。
だから順番が逆になります。案内をどう出すかより先に、どの時期に再訪を受け入れるのかを決める。そのうえで、その時期に来られる人へ手がかりが届く形にする。決めていないまま働きかけると、応えられない希望を自分で作り出すことになります。
再訪を数える材料は、提出している報告の中にない
最後に、成果の測り方です。ここで多くの人がつまずきます。
住宅宿泊事業者は都道府県知事等へ定期報告を行います。観光庁は、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月の15日までに、それぞれの月の前2月における宿泊日数、宿泊者数、延べ宿泊者数、国籍別の内訳を報告するとしています。報告は民泊制度運営システムを利用して行うことが原則です。
数字を定期的に出しているのだから、そこから再訪率も出せそうに見えます。ところが報告している項目を並べると、そうならないことが分かります。
| 報告する項目 | そこから分かること | そこからは分からないこと |
|---|---|---|
| 宿泊日数 | 前2月のうち、人を宿泊させた日数 | そのうち何日が再訪の客だったか |
| 宿泊者数 | 受け入れた人数 | 同じ人が二度目以降だったかどうか |
| 延べ宿泊者数 | 宿泊者数とは別に報告する総量 | 一人あたりの来訪回数 |
| 国籍別の内訳 | 宿泊者の国籍の構成 | 前回と同じ人が含まれているか |
右の列がすべて空白になるのは、報告の項目に同じ人が再び泊まったかどうかを示すものが無いからです。宿泊者名簿も同じで、記載するのは宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日、外国人であるときはその国籍及び旅券番号で、再訪かどうかを持つ欄はありません。名簿の記載事項と保存については民泊の宿泊者名簿にまとめています。
つまり再訪を数えるなら、自分で数える仕組みを別に作るしかありません。そのときに最初に決めるのは集計方法ではなく、何をもって再訪と呼ぶかです。同じ人が同じ住宅に泊まった場合だけなのか、同行者として来た場合を含めるのか、間が何年空いても数えるのか。ここを決めずに数え始めると、月ごとに定義が揺れて、増えたのか減ったのかが読めなくなります。
なお、ほかの施設と比べるための再訪率の目安も、今回は公的な資料を確認できませんでした。外の数字と比べるのではなく、自分の施設の同じ定義での推移を見るほうが確実です。
手を付ける順番
整理すると、この順になります。
まず、年間の枠のどこで再訪を受け入れるかを決めます。これを決めないと、以降の作業が空振りになります。次に、滞在中の業務が次に思い出される形になっているかを見ます。衛生と安全は入室直後の判断に、外国語の三つの案内は滞在の範囲に、周辺への配慮の説明は滞在の空気に、それぞれ効いてきます。そのうえで公開の場を整えます。標識が公衆の見やすい場所にあるか、施設ページと自社サイトが前回と同じ宿だと分かる状態か。
退室後の個別の連絡は、ここまでを終えてからで遅くありません。手元の記録をどこまで使えるかという別の判定が必要で、その手順はリピーターの直接予約にあります。三層目だけを先に触っても、渡すものが薄ければ結果は変わらないからです。
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