低い評価が付いた口コミの画面を開いたまま、書きかけては消す。言い返しているように見えるのも嫌だし、黙っているのも放置しているように見える。手が止まるのは、返信を投稿者への返事だと考えているからです。
返信は、投稿した人だけが読むものではありません。施設ページを開いた人が、口コミのすぐ下に並んでいるのを読みます。返信はこれから予約を検討する人に向けて、自分の名前で出す文章です。ここを先に決めてしまうと、書ける材料の範囲がはっきりします。
投稿されたあとにできることは3つあります。返信する、事実に反する記載の訂正を依頼する、自社サイトなどへ引用する。この3つは、かかってくる決まりが別々です。返信は自分の名前で出す以上、広告であることを隠した表示にはなりません。一方、訂正の依頼と引用には、消費者庁が定めた告示の線がはっきり入ります。そして返信に書ける材料は、宿泊者名簿と個人情報の利用目的が先に決めています。
先に断っておきます。返信をした施設としない施設で予約がどう違うか、返信率の目安がいくつかを示した公的な集計は、今回の調査では見つけられませんでした。そのため、この記事に「返信すると予約が何%増える」といった数値はありません。返信の文例も作りません。書ける材料が物件ごとの事情で変わるためで、このサイトが案内文の文例を載せないのと同じ理由です。なお、口コミを集める側、つまり投稿を依頼するときの扱いは民泊の集客方法で扱っているので、ここでは繰り返しません。
投稿されたあとにできることは、三つに分かれる
口コミ対策という言葉でひとくくりにすると、性質の違う行為が混ざります。分けるときの基準は、誰が書いた文章に手を触れるかです。自分の文章を新しく書くのか、相手の文章を変えてもらうのか、相手の文章を自分の場所へ運ぶのか。この3つで、関わってくる決まりが変わります。
| できること | 実際にやること | 先に確かめるもの | 出てくる根拠 |
|---|---|---|---|
| 返す | 施設の名前で返信を書き、公開の場に出す | 返信に書いてよい材料の範囲 | 宿泊者名簿の記載事項、個人情報の利用目的 |
| 訂正を依頼する | 投稿者に、記載を改めるよう頼む | 対象が事実の誤りか、感想か | 消費者庁のQ&AのQ9 |
| 自社サイトで使う | 投稿やアンケートの回答を引用して載せる | 抽出の仕方と、内容を変えていないか | 同Q10・Q16 |
| 運営へ回す | 指摘された点を設備や案内の見直しに使う | 説明すべき事項に関わるか | 観光庁「事業者の業務[1]」 |
4行目の「運営へ回す」は、外に文章を出さないため決まりの話がほとんど出てきません。それでもここに並べたのは、3つの行為のどれを選ぶかを決める前に、そもそも運営を直せば済む話かどうかを見るためです。設備の不足や案内の不足を指摘された口コミに、言葉だけで返しても同じ指摘が続きます。
この記事は、上の3行を順に見ていきます。返信を書く前に読むのは2番目と3番目の節、訂正の依頼を考えているなら5番目、自社サイトへの掲載を考えているなら6番目です。
返信そのものは、隠れた広告にはならない
最初に、心配しなくてよいところを片づけます。宿の名前で書いた返信が、いわゆるステルスマーケティングとして問題になることは、通常はありません。
消費者庁は、令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となると説明しています。規制されるのは「広告であって、一般消費者が広告であることを分からないもの」です。指定された告示の名称は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」で、消費者庁は同じ名称の運用基準とあわせて2023年3月28日に公表しています。施設の管理者アカウントから、施設名を出して返信している文章は、誰が書いたものかが画面の上で分かります。判別が困難な表示には当たりません。
同じページには、広告には企業がインフルエンサー等の第三者に依頼・指示するものも含まれること、一方で依頼を受けた第三者の側は規制の対象とはならないことが書かれています。責任は依頼した事業者の側にあるという整理です。返信は自分が自分の名前で書くので、この依頼の構図そのものが発生しません。
ただし、隠れた広告にならないことと、何を書いてもよいことは別です。返信は自分の商品について自分で行う表示ですから、景品表示法の表示規制そのものは当然にかかります。消費者庁は優良誤認表示を、内容について実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示、または事実に相違して競争業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示と説明しています。有利誤認表示は、取引条件について実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示です。
低い評価に反論したい気持ちで、実際には備えていない設備や、条件付きでしか使えないサービスを「できます」と書いてしまうと、ここに触れます。返信の中で施設の内容や料金の条件に踏み込むときは、施設ページに載せている表記と同じ言い方にそろえるのが安全です。掲載する写真と実際の部屋の関係についても同じ考え方で、民泊の写真掲載で扱っています。
返信に書ける材料は、名簿と利用目的が先に決めている
反論したくなる口コミには、たいてい「相手にも事情があった」という言い分があります。到着が遅れた、人数が申告と違った、退室のときにこうだった。これらを返信に書けるかどうかを、感覚で決めないでください。手元にある情報の多くは、返信のために集めたものではないからです。
観光庁は、住宅宿泊事業者の業務として宿泊者名簿の備付け等を挙げ、記載事項を宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日、国内に住所を有しない外国人であるときはその国籍及び旅券番号としています。名簿は3年間保存し、備付け場所は届出住宅か、住宅宿泊事業者の営業所又は事務所のいずれかです。記載事項と保存の詳細は民泊の宿泊者名簿にまとめています。ここで押さえておきたいのは、名簿が法令で備え付けを求められている記録であって、公開の場で使うために作ったものではないという点です。
個人情報保護委員会のガイドラインは、法第17条第1項として「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。」を、法第18条第1項として「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」を示しています。自分が個人情報取扱事業者に当たるかどうかを含め、判断がつかないときは個人情報保護委員会の相談窓口に確認してください。
この2つを並べると、返信に使える材料の輪郭が出てきます。
実務としては、投稿に書かれている範囲と、施設ページで公開している範囲を足した中だけで返信を組み立てるのが分かりやすい線です。相手が自分で書いた出来事に応答し、公開している設備やハウスルールを引いて説明し、これから直すことを述べる。この3つで足りないと感じるときは、反論したい内容が事実の訂正ではなく、感想への反発になっている可能性があります。
口コミに書かれた苦情と、周辺住民からの苦情は別の経路
口コミに騒音やごみのことが書かれると、法令で対応が義務づけられた苦情を受け取ったように感じます。ここは正確に分けておく必要があります。
観光庁が挙げている苦情等への対応は、「届出住宅の周辺地域の住民からの苦情及び問い合わせについては、適切かつ迅速にこれに対応する」ことで、深夜早朝を問わず、常時、応答又は電話により対応する必要があるとされています。対象として書かれているのは周辺地域の住民です。宿泊者が予約サイトへ投稿した口コミは、この条文の指す苦情とは経路が違います。
一方で、内容が重なることはあります。観光庁は、周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項の説明として、騒音の防止のために配慮すべき事項、ごみの処理に関し配慮すべき事項、火災の防止のために配慮すべき事項、その他届出住宅の周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関し必要な事項を挙げ、書面の備付けその他の適切な方法で行うこと、外国人観光旅客である宿泊者には外国語で説明することを求めています。宿泊者の口コミに「ごみの出し方が分からなかった」と書かれていたなら、それは返信で答える話であると同時に、説明の方法が届いていなかったという話でもあります。
| 口コミに書かれた内容 | 返信で扱う部分 | 返信とは別に見直す部分 |
|---|---|---|
| ごみの出し方が分からなかった | 現在の案内の置き場所と出し方 | 書面の備付けと、外国語での説明が届いているか |
| 夜に注意された、気を使った | 静かに過ごしてもらう理由の説明 | 騒音の防止のために配慮すべき事項の伝え方 |
| 火災報知器や避難経路が分からない | 部屋のどこに表示があるか | 火災の防止に関する説明と表示の位置 |
| 近所の人と行き違いがあった | 施設として把握している事実の範囲 | 周辺住民からの苦情の受け口が機能しているか |
右の列は、返信文をどれだけ丁寧に書いても片づきません。逆に、右の列を直せば同じ口コミが減ります。公開の場に文章を出す前に、右の列に該当があるかどうかを先に見てください。ハウスルールとして書いておく範囲と、法令で説明が求められる範囲の切り分けは民泊のハウスルールで扱っています。
事実に反する口コミに、訂正を依頼できるか
投稿の中に、事実として明らかに違うことが書かれることがあります。備えていない設備が「壊れていた」と書かれる、行っていない対応が「断られた」と書かれる。この場合に、投稿者へ記載を改めるよう頼んでよいのか。
消費者庁のQ&AのQ9が、この問いをほぼそのまま扱っています。設問は、客観的な事実に反する内容を含んだレビュー投稿や、他社の名誉を毀損する内容を含んだレビュー投稿をした顧客に対して、当該記載を改めるよう依頼することが告示に違反するかというものです。
回答は、そうした依頼をしたとしても、そのことのみをもって、事業者が自己の供給する商品・サービスの品質、規格、その他の内容や価格等の取引条件について行う表示の内容の決定に関与していると評価することはできないため、「事業者の表示」に当たることはない、としています。ここまでは安心してよい範囲です。
続きが重要です。消費者庁は、これはあくまでも客観的な事実に反する内容が含まれている場合であるとしたうえで、顧客が購入商品を使用した感想(評価)を記載していることに対して、自社に都合の良い内容に改めるよう依頼すれば、当該依頼を受けて修正されたレビュー投稿は「事業者の表示」に当たると考えられる、と書いています。
宿泊施設で迷いやすいのは、この2つが1つの投稿に混ざっている場合です。「駅から近いと書いてあったのに実際はかなり歩いた。部屋も狭くて残念だった」という投稿なら、前半は距離という確かめられる事実、後半は感想です。依頼してよいのは前半だけで、ついでに後半も直してもらう、という頼み方をした時点で枝が変わります。頼むときは、どの記載のどこが事実と違うのかを具体的に示し、それ以外には触れないのが安全です。
なお、投稿を予約サイト側に削除してもらえるかどうかは、各社が定める投稿の規約の話になります。この記事では各社の規約を確認していません。掲載している予約サイトの規約を、それぞれの公式ページで確かめてください。
良い口コミを自社サイトに載せるときの線
高い評価が付いた投稿を、自社サイトの「お客様の声」として載せたくなります。ここが、今回のなかで最も踏み外しやすい場所です。
消費者庁のQ&AのQ10は、顧客アンケートの回答の一部を引用(抜粋)し、「お客様の声」として自社ウェブサイト内に掲載する場合を扱っています。回答はまず、運用基準が、事業者が自社のウェブサイトの一部において第三者が行う表示を利用した表示を行う場合、当該第三者の表示を恣意的に抽出することなく、また、当該第三者の表示内容に変更を加えることなく、そのまま引用する場合は、当該利用部分は「事業者の表示」には当たらないことを示していると説明します。そのうえで、アンケートの回答の中から無作為に選んだ回答を引用して掲載する場合には「事業者の表示」に当たらないと考えられる、としています。
反対側も明記されています。商品について好意的な評価をしているものだけを選んで引用する場合や、商品の「良い点」・「悪い点」を挙げている回答の「良い点」の部分だけを引用する場合は、「事業者の表示」に当たると考えられ、このような場合には「事業者の表示」であることを明瞭にしなければ告示に違反する、というのが回答の結びです。
宿泊施設の自社サイトで「お客様の声」を置くとき、よい口コミだけを選ぶのはごく自然な発想です。だからこそ、自然にやると右側へ入ることを覚えておいてください。右側へ入ること自体が違反ではありません。違反になるのは、右側に立ちながら事業者の表示であることを明瞭にしなかったときです。選び方を変えて左に戻るか、選んで載せていることを画面上で分かるようにするか、どちらかを決める話になります。
もう1つ、Q16が別の場面を扱っています。プロモーションのために依頼して投稿してもらったものを抜粋し、「お客様の声」として自社ウェブサイトへ掲載する場合です。消費者庁は、「お客様の声」という場合、通常、顧客の自主的な意思に基づく感想等が記載されていると理解されるため、「事業者の表示」に当たる投稿を「お客様の声」として自社のウェブサイト上に掲載することは適当ではないとし、掲載するなら自社の依頼した投稿であることが一般消費者にとって明瞭になる形で表示する必要があるとしています。招待して書いてもらった投稿と、自分で泊まって書かれた投稿を、同じ欄に混ぜないということです。
従業員や関係者が自分のアカウントで書く場合
小さな施設では、運営に関わっている人が自分のSNSで施設のことを書くことがあります。ここにも線があります。
消費者庁のQ&AのQ3は、従業員が自身のSNSアカウントを利用して自社の商品を使用した感想を投稿する場合を扱い、それだけで直ちに告示に違反すると判断されることはないとしています。ただし、当該従業員の事業者内における地位、立場、権限、担当業務、表示目的等の実態によっては、事業者が表示内容の決定に関与していると認められ、「事業者の表示」に当たると判断される場合があるとしています。例として、商品・役務の販売を促進することが必要とされる地位や立場にある者が、その販売を促進するための表示を行う場合が挙げられています。当該地位や立場にある者が他の者に指示をして表示を行わせる場合も同様とされ、「事業者の表示」に当たる場合には、投稿に「広告」等と分かりやすく記載するなど、事業者の表示であることを明瞭にしなければ告示に違反するとされています。
住宅宿泊事業者が自分の施設について書けば、当然に事業者の表示です。運営代行や清掃を委託している相手に頼んで書いてもらう場合も、指示をして表示を行わせる形に近づきます。委託先との業務の切り分けは民泊の運営代行で扱っていますが、口コミや投稿の依頼を業務に含めるなら、明瞭に表示する前提で契約に書いておくのが確実です。
返信の運用は、この順で決める
ここまでを、着手できる順に並べ直します。文例を配るのではなく、判断の順番を決めておくやり方です。
1つめは、返信するかどうかの基準を先に決めることです。すべてに返すのか、内容によって変えるのかを決め、その基準を運営に関わる人で共有します。基準が無いまま個別に判断すると、返信の有無そのものが恣意的に見えます。
2つめは、書いてよい材料の範囲を決めることです。投稿に書かれている範囲と、施設ページで公開している範囲。この2つの外に出るときは、名簿と利用目的の確認が入ることを、手順として残しておきます。
3つめは、事実の誤りを見つけたときの手順を決めることです。どの記載がどう事実と違うのかを1点だけ具体的に示して依頼する、感想の部分には触れない、という形にそろえます。依頼した記録を残しておくと、後から経緯を説明できます。
4つめは、自社サイトへ載せるかどうかを決めることです。載せるなら、無作為に選んでそのまま載せるのか、選んで載せていることを明示するのか、最初に決めます。ページの作りに関わるので、後から変えると手戻りが大きくなります。再訪してもらうための接点の作り方は民泊のリピーター集客で別に扱っています。
今回確認できなかったこと
返信率の目安、返信の有無と予約数の関係、返信までの日数の目安を示した公的な集計は、今回参照した資料の中では見つけられませんでした。そのため、この記事には効果の大小に関する数値がありません。
投稿の削除や非表示の基準も、各予約サイトの規約によります。この記事では確認していないため、掲載している予約サイトの公式ページで、投稿の規約と削除の申出の手順を確かめてください。規約は改定されるため、確認した日を控えておくことをおすすめします。
景品表示法の運用は、告示や運用基準の改定によって変わることがあります。ここに書いた内容は2026年9月28日に消費者庁のページで確認した範囲です。実際の判断に迷う場面では、消費者庁の窓口や、届出先の自治体の窓口に確認してください。
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