宿泊料をオンラインで先に受け取る形に変えると、到着時の現金のやり取りが消えます。釣り銭を用意する必要がなくなり、受け取りのために人を張り付けておく場面も減ります。ところが、消えるのは現場の手間だけです。前払いという形を選んだことで、代わりに自分の側へ増えるものがあります。
先に結論を書きます。前払いにすると増えるのは三つ、そして減らないものが一つあります。増えるのは、申込みを承諾したかどうかを宿泊者へ知らせる通知、カード決済を自分の画面で受けるときに加盟店として求められる措置、そして宿泊税のように条例で決まる収受の扱いです。減らないのは本人確認で、代金が入っていることでは代えられません。
この記事が扱うのは、受け取り方を決めるときの判断だけです。申込み画面に表示する事項の全体は民泊の予約フォームの項目、サイト全体のページ構成は自社予約サイトの作り方、取り消しが起きたときの定めは民泊のキャンセルポリシーにあります。決済サービスの比較や選定は、ここでは扱いません。
確認できなかったことも先に書きます。決済代行サービスの料率、入金までの日数、導入にかかる費用を横断して集計した公的な資料は見つけられませんでした。手数料の相場を示す統計もありません。さらに、代金の収受だけを決済代行へ任せることが、住宅宿泊事業法でいう契約の締結の代理または媒介に当たるのかどうかについて、判断を示した公表資料を確認できませんでした。そのためこの記事に、サービス名も料率も、その線引きの断定もありません。委託の形を先に決めてしまう前に、届出先の窓口へ確認してください。
受け取る場所が変われば、義務の付く相手も変わる
宿泊料の受け取り方は、大きく三つに分かれます。仲介サイトに掲載して募集ごと任せる形、自分のサイトで申込みを受けて前払いで受け取る形、そして到着時に現地で受け取る形です。
三つを並べると、入れ替わるのは二つだけだと分かります。代金が最初に誰のところへ入るかと、カード決済について求められる措置の区分です。契約を結ぶ相手は、仲介サイトを通しても自分のままです。宿泊者と宿泊の契約を結ぶのは住宅宿泊事業者であり、仲介業者はその契約の代理または媒介を引き受けている立場にあたります。
この表を先に作っておく意味は、話が混ざるのを防げることです。「決済をオンラインにする」という一語の中に、募集を誰に任せるかという話と、カード番号を自分の画面に通すかという話と、いつ現金が手元に入るかという話が同居しています。三つは別々に決められますし、別々に義務が付きます。
仲介を任せられる相手は、法律で決まっている
観光庁は、住宅宿泊事業者が仲介を委託する場合について、住宅宿泊事業法上の登録を受けた住宅宿泊仲介業者、または旅行業法上の登録を受けた旅行業者を利用しなければならないとしています。これは住宅宿泊事業法の第12条に規定されており、それ以外の者へ仲介を委託した場合は、住宅宿泊事業法違反として業務改善命令等の対象になるとともに、50万円以下の罰金が科される可能性があると説明されています。
仲介業者の側にも確認の手順があります。観光庁は、新規の物件を掲載する際に、住宅宿泊事業者から通知される商号・名称または氏名、物件の所在地、届出番号について照合が行われることを示しています。掲載の前に、届出の内容と突き合わせる仕組みがあるということです。
ここが決済の設計に効いてくるのは、代金が最初に誰のところへ入るかは、募集と契約の代理・媒介を誰に任せるかと一緒に動くからです。仲介サイトを通す経路を選ぶと、宿泊者からの入金はまず仲介業者が受け、自分の手元へ届く時期は仲介業者との契約で決まります。自社サイトで前払いを受ける経路なら、入金は宿泊日より前に自分の側へ入ります。同じ「前払い」でも、現金が動く時期が違います。
募集の委託そのものを始めるかどうかの区分は自社予約とはで扱っています。仲介サイトへ払う手数料を消費税でどう扱うかは民泊のOTA手数料と消費税にまとめてあります。
前払いにすると、承諾等の通知が間に入る
自分のサイトで申込みを受けて代金を先に受け取る形は、通信販売のうち前払式と呼ばれる形に重なります。消費者庁は通信販売について、代金の全部または一部を先に受け取り、商品の引渡し(役務の提供)までに時間がかかる場合、承諾等の通知を行うこととしていると説明しています。根拠として示されているのは特定商取引法の第13条です。
通知に記載するものとして挙げられているのは、申込みを承諾するかどうか、事業者の名称・住所・電話番号、受け取った金銭の額と受領年月日、申込みを受けた商品や役務の内容、そして引渡しや提供の時期です。提供までに時間がかかる場合は、その期間または期限を明らかにすることとされています。
| 挙げられている事項 | 宿泊予約で何を指すか(この記事での整理) |
|---|---|
| 申込みの承諾の有無 | 予約が成立したのか、空室待ちなのかが読めるか |
| 事業者の名称・住所・電話番号 | 送信元の表示が、届出をしている事業者の名義になっているか |
| 受領した金銭の額と受領年月日 | 決済が完了した金額と、その日付 |
| 申込みを受けた内容 | 泊数、部屋、人数、宿泊日 |
| 提供の時期 | 宿泊日と、チェックインできる時刻 |
右の列は自分の自動返信を点検するための整理であり、法令の文言ではありません。自分の取引がこの定めに当たるかどうかの判断は、消費者庁の窓口や専門家に確認してください。
実務で見落としやすいのは、宿泊の予約は申込みから提供まで日数が空くのが普通だという点です。物を売る取引では、入金から発送まで数日という前提で語られる場面が多いのですが、宿泊では数週間から数か月あくことも珍しくありません。入金の直後に出す自動返信が、金額と日付を書いた領収の知らせだけで終わっていないかを確かめてください。
広告の段階にも、前払いに関わる定めがあります。消費者庁は、通信販売の広告で表示する事項として代金の支払時期と方法を挙げており、省略できる場合を示しながらも、前払いの場合は支払時期を省略できないとしています。料金ページに「現地払いも可」と書いたまま前払いへ切り替えると、表示と運用がずれます。
カードを自分の画面で受けるなら、加盟店としての措置が要る
日本クレジット協会は、平成30年6月1日に施行された割賦販売法によって、クレジットカードを取扱う加盟店において、カード番号等の適切な管理や不正利用対策を講じることが義務付けられたと説明しています。宿泊料をカードで受け取るなら、自分はこの加盟店にあたります。
求められる内容は、対面の取引とEC(インターネット上の取引)で分かれています。同じ協会の説明から、挙げられているものを並べます。
| 区分 | カード情報の保護 | 不正利用への対策 |
|---|---|---|
| 対面の取引 | カード情報を保持しない非保持化(非保持と同等・相当を含む)、または保持する場合はPCI DSSに準拠する | IC取引を可能とするため、設置する決済端末の全てをIC対応にする |
| EC加盟店 | カード情報を保持しない非保持化、または保持する場合はPCI DSSに準拠する。あわせてシステムおよびWebサイトの脆弱性対策を講じる | 適切な不正ログイン対策、EMV 3-Dセキュアの導入 |
この表で判断が分かれるのは、カード番号が自分の側を通るかどうかです。入力の画面を決済代行へ渡し、番号が自分のサイトやサーバーに残らない形にすれば、非保持化の側で設計できます。見た目を揃えたくて自分のフォームで番号を受け、それを自分の仕組みを経由して送る形にすると、保持する側に回り、PCI DSSへの準拠が必要になる区分へ移ります。デザインの都合で決める話ではありません。
脆弱性対策と不正ログイン対策が、カード情報の保護とは別に挙げられている点も見落とさないでください。予約サイトに管理画面があるなら、そこへのログインも対策の範囲に入ってきます。
事前決済は、本人確認の代わりにならない
観光庁は、住宅宿泊事業者の業務として、宿泊者名簿に宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日を記載し、国内に住所を有しない外国人については国籍及び旅券番号も記載することを示しています。名簿は3年間保存し、都道府県知事から要求があったときは提出しなければなりません。備付け場所は届出住宅、または住宅宿泊事業者の営業所もしくは事務所です。
本人確認については、対面、または対面と同等の手段としてのICTによって行うこととされています。ICTを使う場合に挙げられているのは、宿泊者の顔及び旅券が画像により鮮明に確認できること、その画像が住宅宿泊事業者や住宅宿泊管理業者の営業所等、届出住宅内または届出住宅の近傍から発信されていることが確認できることです。
ここに決済は出てきません。カードの名義が予約者と一致していても、顔と旅券を確認したことにはなりません。事前決済を入れると到着時の作業が一つ減るため、確認そのものも軽くなったように感じられますが、残る作業の中身は変わっていません。手順の組み方は民泊の本人確認、名簿に書く項目と保存の実務は民泊の宿泊者名簿で扱っています。
事前決済に載せきれない金額がある
宿泊料金のほかに、宿泊者から受け取る金額が条例で決まっている地域があります。宿泊税です。京都市は、旅館業または住宅宿泊事業を営む方が特別徴収義務者になるとしており、課税の対象をホテル、旅館、簡易宿所等のほか、いわゆる違法民泊等への宿泊者も含めたすべての宿泊者と示しています。民泊が対象外になる地域だと思い込まないでください。
納入の手続きにも期限があります。京都市は、特別徴収義務者が原則として毎翌月末日までに、必要な事項を記載した納入申告書を市長に提出し、申告した納入金を納入するとしています。同市のページには現行と改正後の税率が並べて示され、改正の施行時期として令和8年3月1日が記載されています。つまり税率は条例で改まるもので、改定の前後をまたぐ予約が必ず出てきます。事前決済の金額に宿泊税を含める設計にしているなら、受け取った時点の税率と、泊まる時点の税率が違う組み合わせをどう扱うかを先に決めておいてください。
税額と対象の範囲は条例ごとに違い、全国の自治体を一覧にした公表資料は確認できませんでした。そのためこの記事には、京都市以外の金額も、導入している自治体の数もありません。自分の物件がある自治体のページを直接見て、宿泊税があるのか、いまの税率はいくらか、事前決済に含められるのか、含めない場合に到着時の収受が残るのかを確かめてください。ここを決めないまま前払いだけを導入すると、現金のやり取りを無くしたつもりで、税の分だけ現地に残ります。
決める順番
四つを順に決めると、後戻りが起きにくくなります。順番を入れ替えると、作った画面や結んだ契約を作り直すことになります。
一つめは、募集と契約の代理・媒介を誰に任せるかです。仲介業者へ委託するなら、相手は登録を受けた住宅宿泊仲介業者または旅行業者に限られます。代金の入る時期もここで決まります。
二つめは、カード番号を自分の側に通すかどうかです。通さない設計にできるなら、非保持化の区分で進められます。通す設計を選ぶなら、準拠の負担をどう負うかを決めてから画面を作ります。
三つめは、前払いにするかどうかです。前払いにするなら、広告での支払時期の表示を省略できず、承諾等の通知が入金と宿泊日の間に入ります。入金後の自動返信を、その通知として成り立つ内容にしておきます。
四つめは、宿泊税を事前決済に含めるかどうかです。自治体のページを見て、含めるなら改定の前後をまたぐ予約の扱いまで決めます。含めないなら、到着時の収受が残ることを運営の手順に書いておきます。
四つはどれも、決済サービスの機能では決まりません。誰と契約し、何を自分の側に通し、いつ受け取るかという選択です。選び終えてから、その選択に合う道具を探してください。
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