「何日前までなら無料、それ以降は何割」。キャンセル規定を作ろうとすると、この一行をどう書くかで手が止まります。他の施設の規定を写してくれば形にはなりますが、その数字が自分の施設で成り立つ理由までは写せません。求められたときに説明できないものを、規定として置くことになります。
結論を先に書きます。キャンセル規定で自分が決められるのは、三つの枠に囲まれた内側だけです。いちばん外側に消費者契約法が置いた上限があり、その内側に予約を受ける経路ごとの決まりがあり、残った範囲が自分の判断になります。順番を逆にして数字から決めようとすると、その数字がどの根拠にも接続しません。
この記事は、住宅宿泊事業法の届出または特区民泊の認定で営業している運営者に向けて、三つの枠を条文と公式ページから並べ、自分の規定を組み立てる順序までを示します。先に、確認できなかったことを書きます。民泊のキャンセル料の相場を集計した公的な統計を確認できませんでした。そのため、この記事には「何日前なら何割」という金額も率も出てきません。出てくるのは、その数字を自分で決めるための基準と、決めた数字を説明できる形にしておく方法です。
キャンセル規定は、三つの枠の内側で決める
枠を外側から見ていきます。いちばん外にあるのは消費者契約法です。これは相手が消費者である契約すべてにかかるもので、宿泊の契約も例外ではありません。次に来るのが、予約を受ける経路です。仲介サイトを通して受けるのか、自分のサイトで直接受けるのかで、適用される条文が変わります。両方の経路で受けているなら、両方とも当てはまります。
この二つを通り抜けたあとに残るのが、自分で決める部分です。何日前で区切るか、区切りごとにどの費目を請求するか、同じ日程に別の予約が入ったときに扱いを変えるか。残るのは狭い範囲ですが、ここだけは誰も決めてくれません。逆に言えば、狭いからこそ一つひとつに理由を付けられます。
上限を決めているのは、金額ではなく「平均的な損害」という基準
消費者契約法第九条第一項第一号は、解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項について、こう置いています。合算した額が「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えるとき、その超える部分は無効になります。
読み方で大事なのは、ここに金額も率も書かれていないことです。法が置いたのは上限の決め方であって、上限の値ではありません。だから「宿泊業なら何割まで」という一律の答えは、条文からは出てきません。同じ理由で、他の施設の規定をそのまま写しても自分の上限の根拠にはなりません。平均的な損害は、同種の契約ごとに決まるものだからです。
同じ第九条第一項には第二号があり、こちらは支払が遅れたときの話です。支払期日までに金銭が支払われない場合の損害賠償の額の予定または違約金について、年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超える部分を無効としています。キャンセル料そのものの上限ではなく、キャンセル料の支払いが遅れたときに加える遅延損害金の上限だと読むと、位置がはっきりします。
もうひとつ、第十条があります。法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比べて消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項のうち、民法第一条第二項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とする規定です。第九条が額の話なのに対して、第十条は条項の作り方そのものを見ます。解除の意思表示の方法を極端に狭めるような書き方は、額の問題とは別に検討の対象になります。
| 条文 | 定めていること | キャンセル規定への効き方 |
|---|---|---|
| 消費者契約法 第九条第一項第一号 | 解除に伴う損害賠償の額の予定と違約金の合算のうち、同種の契約の解除で事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は無効 | 区切りごとの金額や率の上限が、施設ごとに決まる |
| 消費者契約法 第九条第一項第二号 | 支払期日までに支払われない場合の損害賠償と違約金のうち、年十四・六パーセントを超える部分は無効 | 支払いが遅れたときに加える遅延損害金の上限になる |
| 消費者契約法 第九条第二項 | 消費者から説明を求められたとき、算定の根拠の概要を説明するよう努めなければならない | 決めた数字を、説明できる形で残す必要が生じる |
| 消費者契約法 第十条 | 任意規定に比べて消費者の権利を制限し義務を加重する条項で、信義則に反して一方的に利益を害するものは無効 | 額ではなく、条項の書き方そのものが検討の対象になる |
決めた数字は、説明できる形にしておく
第九条第二項は、第一項とは別の方向から効いてきます。事業者は、消費者から説明を求められたときに、損害賠償の額の予定または違約金の算定の根拠の概要を説明するよう努めなければならないとされています。努力義務なので、説明できないことがただちに規定を無効にするわけではありません。ただ、説明を求められる場面が制度として想定されている以上、説明できない数字を置いておく意味は薄いということになります。
やっかいなのは、説明の材料が解除が起きたあとには作れないことです。そのキャンセルで実際に何が発生したのかは、発生した時点で記録するしかありません。同じ日程に別の予約が入ったかどうかも、空室として戻したあとでなければ分かりません。だから規定を作るときに、同時に記録の型を決めておきます。規定の文面と記録の型は、本来ひとそろいのものです。
記録する項目は、自分の施設で実際に起きたことだけです。他の施設の内訳を借りてきて埋めると、説明の材料にはなりません。清掃をどこまで自分で行っているか、リネンをどう回しているかは施設ごとに違い、その違いがそのまま実際の損害の違いになります。清掃の進め方は民泊の清掃、リネンの回し方は民泊のリネンで扱っています。
仲介サイトを通すと、解除の条件は契約の前に説明される
住宅宿泊事業法は、仲介する側に三つの義務を置いています。第五十五条は、宿泊者と締結する住宅宿泊仲介業務に関する契約について住宅宿泊仲介業約款を定め、その実施前に観光庁長官へ届け出ることを求めています。この約款には、料金その他の宿泊者との取引に係る金銭の収受および払戻しに関する事項が明確に定められていることが要り、宿泊者の正当な利益を害するおそれがあるときは変更命令の対象になります。
第五十六条は料金です。業務の開始前に、国土交通省令で定める基準に従って宿泊者と住宅宿泊事業者から収受する住宅宿泊仲介業務に関する料金を定め、公示することを求めたうえで、公示した料金を超えて収受してはならないとしています。第五十九条は、住宅宿泊仲介契約を締結するまでに書面を交付して説明する義務です。観光庁の民泊制度ポータルサイトは、その説明事項のひとつとして契約の変更・解除に関する事項を挙げています。
運営する側から見ると、これは二つのことを意味します。ひとつ、仲介サイト経由の予約では、解除の条件が契約の前に相手へ示される仕組みが法の側にあります。宿泊者が条件を知らないまま予約する状態は、制度としては想定されていません。ふたつ、その条件は仲介業者の約款の中にあるので、自分が決められるのは、その約款が用意している範囲の中だけです。仲介業者そのものの位置づけはOTAとは、掲載を始めるときに揃えるものは民泊のOTA掲載方法にあります。
用意されている選択肢の幅を見る
実際にどのくらいの幅が用意されているのかは、仲介サイトのヘルプに書かれています。Airbnbのヘルプセンター「リスティングのキャンセルポリシー」は、27連泊以下の短期滞在向けとして柔軟、普通、限定、やや厳格、厳格、かなり厳格30日、かなり厳格60日を挙げ、28連泊以上の長期滞在向けとしてやや厳格と厳格を挙げています。同じ名前が短期側と長期側の両方にあるため、どちらの滞在に当たるかで中身が変わる点には注意が要ります。
| ポリシー | ヘルプセンターに書かれている内容 |
|---|---|
| 柔軟 | ゲストがチェックインの24時間前までにキャンセルした場合、税金を含む全額がゲストに返金され、ホストへの支払いは行われません |
| 普通 | ゲストがチェックインの5日前までにキャンセルした場合、税金を含む全額がゲストに返金され、ホストへの支払いは行われません |
| 厳格 | ゲストがチェックインの7日前までにキャンセルし、24時間のキャンセル期間が過ぎている場合、ゲストには料金の50%および税金の全額が返金され、ホストには全泊分の料金の50%が支払われます |
三つを並べると、組み立て方が見えます。区切りを置くのはチェックインからの日数で、効き方は返金の割合です。そして、この日数も割合も、自分で任意の値を入れる形にはなっていません。用意された選択肢から選ぶ形です。つまり仲介サイト経由だけで受けている施設には、日数と割合を自分で設計する余地がほとんどありません。設計の余地が生まれるのは、自社サイトで直接受けるときです。手数料の構造とあわせて見るならAirbnbの手数料を参照してください。
ここで注意したいのは、選択肢を選んだ時点で説明の責任が消えるわけではないことです。宿泊の契約そのものは、施設と宿泊者の間に立ちます。仲介サイトが用意した文面を選んだという事実は、その内容が自分の施設にとって妥当であることの説明にはなりません。選べる範囲の中では、自分の記録から見て説明できるものを選ぶことになります。
自社サイトで受けるときは、条件が表示事項になる
自分のサイトで予約を受ける場合、キャンセル条件は表示するものになります。特定商取引に関する法律第十一条は、通信販売について広告をするときに表示する事項を列挙していて、その第五号が「申込みの撤回又は解除に関する事項」です。消費者庁の特定商取引法ガイドは、通信販売を「販売業者又は役務提供事業者が郵便等によって売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品、権利の販売又は役務の提供」と説明しており、役務の提供も対象に含めています。同じガイドは、インターネット通販では最終確認画面での表示が必要だとしています。
ここで、物を買う場合との違いが出ます。特定商取引法第十五条の三は、広告に特約がないときに一定期間の申込みの撤回または解除を認める規定ですが、対象は商品または特定権利です。役務提供契約について同じ規定は置かれていません。つまり宿泊の予約には、法が自動的に与える解除権のようなものがありません。書いて表示した条件が、そのまま効きます。だから表示を省いたり曖昧にしたりすると、あとから主張する根拠を自分で失うことになります。
最終確認画面に並べる項目の全体像は、民泊の予約フォームの項目で扱いました。自社予約そのものの位置づけは自社予約とはにあります。なお、自分の取引が通信販売に当たるかどうかには適用除外の定めもあるため、判断に迷う場合は所管の窓口に確認してください。この記事は条文と公表資料の所在を示すところまでで、個別の取引への当てはめを断定するものではありません。
不泊と途中退室は、別の項目として書く
キャンセル規定を「何日前」の表だけで作ると、二つの場面が抜けます。予約した日に現れなかった場合と、滞在の途中で日程を短くした場合です。どちらも解除の連絡が無いか、連絡の時点ですでに宿泊が始まっている点で、前日までのキャンセルとは成り立ちが違います。日数の区切りをそのまま当てはめようとすると、どの行に該当するのかが読めなくなります。
この二つは、鍵の受け渡しや本人確認の方法と連動します。非対面で受け入れている施設では、現れなかったことをいつ確定できるかが、そのまま不泊の判定時刻になります。確定する手段を持たないまま不泊の条項だけを書くと、運用できません。チェックインの方法は民泊のチェックイン方法、本人確認の考え方は民泊の本人確認で扱っています。
あわせて、滞在中のルールとの線引きも決めておきます。騒音や人数超過を理由に滞在を終わらせる場合は、キャンセル規定ではなくハウスルールの側の話です。両方に書くと、どちらが適用されるのか読めなくなります。整理のしかたは民泊のハウスルールにあります。
組み立てる順序
ここまでを、着手の順に並べ直します。
- 予約を受けている経路を書き出す。仲介サイト経由だけか、自社サイトもあるか
- 経路ごとに、すでに決まっている部分を確認する。仲介サイトは約款と選べる選択肢、自社サイトは広告と最終確認画面の表示事項
- 残った範囲で、区切りと扱いを決める。日数の区切り、請求する費目、同じ日程に別の予約が入ったときの扱い、不泊と途中退室
- 決めた内容について、算定の根拠の概要を説明できる記録の型を用意する
- 表示する場所を決める。自社サイトは広告と最終確認画面、仲介サイトは選んだポリシーの表示
この順序の利点は、どの数字も「決まっているから」ではなく「自分で確かめたから」置かれることです。相場の表を写してくる方法と比べて手間はかかりますが、説明を求められたときに答えられる形になります。規定を変えるときも、どの記録が変わったから変えるのかをたどれます。
相場を書かなかった理由
この記事には、キャンセル料の金額も率も出てきません。民泊のキャンセル料の相場を集計した公的な統計を確認できなかったためです。条件によって変わる要素が多く、同じ日数の区切りでも、空室として戻したあとに売れる地域かどうか、清掃を委託しているかどうかで実際の損害は変わります。そして法が上限の基準に置いているのは、まさにその施設ごとの平均的な損害です。全国の平均値があったとしても、それが自分の施設の上限を示すことにはなりません。
数字が要るなら、自分の記録から出すのが唯一の道です。この記事で示した記録の型は、そのために置いています。届出事業者として続く業務の全体像は住宅宿泊事業者とは、キャンセルが収入に効く範囲は民泊の収支計画で扱っています。
このメディアの運営元について
myHotelsメディアは、民泊予約システムを提供する myHotels が運営しています。 記事は自社サービスの利用を前提にせずに書いており、料金や条件は下のページで確認できます。