訪日外客数の月次発表を追っていると、前年同月を下回る月に行き当たります。日本政府観光局の発表によると、2026年8月は3,098,900人で前年同月比9.6%減、9月は3,103,700人で5.0%減でした。一方で、9月の発表には、9月までの累計が昨年に引き続き3,000万人を超えたことも書かれています。減ったという記述と、水準そのものは高いという記述が、同じ資料の中に並んでいます。
先に一つ外しておきます。発表本文に挙がっている増減の要因は、航空便の減便、中東情勢による航空券価格の上昇、台風による欠航、訪日需要が落ち着く時期といったもので、宿泊施設の側で動かせるものではありません。しかも、どの要因が何人ぶんの減少にあたるのかという寄与の数値は、発表に記載がありません。この要因で何%減ったと書けるだけの材料は、公表されていないということです。
この記事では、2026年7月から9月の訪日外客数と前年同月比、発表本文に書かれた要因の種類、宿泊の側の統計がどう動いたか、同じ四半期の旅行消費額、そして単月の減少を見たときに確かめる順番を、日本政府観光局と観光庁の公表資料の表記にそって整理します。公表されていない項目は、推測で埋めずに記載がないと書きます。
増えた月と減った月が隣り合っている
まず、三か月分を同じ形で並べます。前年同月比の相手は、それぞれ前年の同じ月です。
| 対象月 | 訪日外客数 | 前年同月比 | 発表日 | 発表本文に挙がった要因 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年7月 | 3,442,100人 | 0.1%増 | 2026年8月19日 | 夏季休暇に合わせた需要の高まり/東南アジアなど一部市場で需要が落ち着く時期 |
| 2026年8月 | 3,098,900人 | 9.6%減 | 2026年9月16日 | 航空便の減便/台風による欠航/東南アジアを中心に需要が落ち着く時期 |
| 2026年9月 | 3,103,700人 | 5.0%減 | 2026年10月21日 | 中東情勢による航空券価格の上昇/航空便の減便/台風による欠航 |
7月は前年同月比0.1%増で、7月として過去最高を記録したと示されています。台湾が単月過去最高となり、初めて70万人を超えたとも書かれています。伸びはわずかでも水準は過去でいちばん高い、という月です。この過去最高という言葉が三通りの意味で使われていることは訪日外国人数の推移をどう読むかで扱っているため、ここでは繰り返しません。
8月と9月は前年同月を下回りました。ただし市場ごとに見ると、8月として過去最高を記録した市場が14、9月として過去最高を記録した市場が7つあります。8月はイタリアとスペインが単月過去最高、9月は韓国、台湾、シンガポール、インド、メキシコ、ロシア、中東地域が9月として過去最高でした。全体が前年割れでも、記録を更新している市場はあるということです。
ここで止めておきたいのは、市場ごとの人数です。月次の発表本文に、国・地域ごとの人数を並べた表はありません。載っているのは総数と、記録を更新した市場の名前だけです。人数や順位を扱いたいときは、訪日外客統計の時系列ファイルへ移ることになります。入国側の数字をどの資料でどこまで分けられるかは訪日外客数と入国外国人数はなぜ一致しないかにまとめています。
要因は運賃・便数・天候・暦に集まっている
三か月分の発表を並べると、同じ言葉が繰り返し出てきます。航空便の減便は8月と9月の両方に、台風による欠航も8月と9月に挙がっています。9月にはこれに、中東情勢による航空券価格の上昇が加わりました。増加の側の説明も同じ構えで、7月と8月には、東アジアや欧米豪・中東を中心に夏季休暇や祝日に合わせた訪日需要の高まりがあったと書かれています。
東南アジアについては、7月と8月のどちらでも訪日需要が落ち着く時期と説明されています。市場ごとに繁忙の時期が違うということです。全国の総数だけを見ていると、ある市場の季節の谷と別の市場の山が打ち消し合った結果を見ていることになります。市場別の受け入れをどう整えるかは民泊の多言語対応の側の話になります。
9月には、増加の側の材料として、アジア競技大会が愛知県で開催され、選手や関係者による訪日があったことが挙げられています。地域と期間が限られる要因です。こうした大会や催事は、開催地の周辺にだけ、しかも短い期間だけ効きます。全国の数字の上下から自分の地域の需要を読み取れない理由の一つがこれです。
要因が複数同時に並んでいることも押さえてください。ある月の増減を単一の原因へ還元する書き方は、発表のどこにもありません。資料へ転記するときは、挙がっている要因をすべて書き写すか、一つも書かないかのどちらかにしてください。都合のよい一つだけを引くと、発表が言っていない因果になります。
宿泊の側は、人数より大きく下回っている
観光庁の宿泊旅行統計調査では、外国人延べ宿泊者数が2026年7月に1,331万人泊で前年同月比6.5%減(第2次速報)、8月が1,239万人泊で12.0%減(第2次速報)、9月が1,165万人泊で9.2%減(第1次速報)でした。入国の人数より下回り幅が大きい月が続いています。
| 統計(発行元) | 対象期間 | 公表されている値 | 前年(同期)比 | 公表の段階 |
|---|---|---|---|---|
| 訪日外客数(日本政府観光局) | 2026年9月 | 3,103,700人 | 5.0%減 | 推計値 |
| 外国人延べ宿泊者数(観光庁) | 2026年9月 | 1,165万人泊 | 9.2%減 | 第1次速報 |
| 外国人延べ宿泊者数(観光庁) | 2026年8月 | 1,239万人泊 | 12.0%減 | 第2次速報 |
| 訪日外国人旅行消費額(観光庁) | 2026年7-9月期 | 2兆2,076億円 | 3.2%増 | 1次速報 |
| 1人当たり旅行支出(観光庁) | 2026年7-9月期 | 23.4万円 | 6.1%増 | 1次速報 |
単位が違うことを忘れないでください。訪日外客数は入国手続きを受けるたびに1人と数えた人の数で、延べ宿泊者数は宿泊した人数に泊数をかけた人泊です。片方の増減率を、もう片方の数へ当てはめることはできません。宿泊側の集計区分と公表段階は宿泊旅行統計調査の見方にまとめています。
段階でも値が動きます。2026年8月の外国人延べ宿泊者数は、第1次速報では1,264万人泊で10.3%減でしたが、第2次速報では1,239万人泊で12.0%減になりました。符号は変わっていませんが、下回り幅は広がっています。転記するときに段階を書き残していないと、あとから見た人がどちらかを誤りと判断します。
9月の全体も見ておきます。延べ宿泊者数は5,282万人泊で2.6%減、うち日本人が4,117万人泊で0.6%減、外国人が1,165万人泊で9.2%減です。客室稼働率は7月が61.0%、8月が64.6%、9月が62.6%と示されています。外国人の減り方が全体より大きいぶん、同じ月でも、どの客層を受け入れている施設かによって影響は変わります。需要全体の向きは旅行需要の動向を月次データで確かめるで、稼働率の読み方はホテルの稼働率で扱っています。
なお、この統計に住宅宿泊事業の届出住宅の実績は入っていません。民泊側の数字は、事業者が提出する定期報告の集計として別に公表されています。
同じ四半期の消費額は増えている
観光庁のインバウンド消費動向調査では、2026年7-9月期の訪日外国人旅行消費額が2兆2,076億円で前年同期比3.2%増、1人当たり旅行支出(全目的)が23.4万円で6.1%増と示されています(1次速報)。消費額上位5か国・地域は、台湾、中国、韓国、米国、香港の順です。
人数と人泊が前年を下回った期間に、消費額と単価は増えています。どちらかが誤っているのではなく、測っているものが違うだけです。インバウンドが落ちていると一言で片付けると、この食い違いが見えなくなります。総額と単価の読み分けは訪日外国人の消費額はどこで確認するかに、単価の組み立て方は民泊の客室単価にあります。
単価が全国で上がっていることは、自分の宿の単価を上げられる根拠にはなりません。この調査が測っているのは訪日外国人の旅行支出全体で、宿泊費はその一部です。地域も施設の種類も限定されていません。報道発表のページに載っているのは消費額、1人当たり旅行支出、上位5か国・地域の三項目で、宿泊費だけを取り出した値はこのページには記載がありません。
単月の減少を見たときに確かめる順番
一つめは、どの統計の数字かを決めることです。入国の人数なのか、宿泊の人泊なのか、消費の金額なのかで、増減の向きが同じ月でも変わります。この記事で見たとおり、2026年7-9月は入国と宿泊が前年を下回り、消費は上回りました。
二つめは、対象月と公表段階を書き写すことです。訪日外客数は推計値、暫定値、確定値の順に置き換わり、宿泊旅行統計調査は第1次速報、第2次速報、確定値の順に進みます。段階を落とした数字は、半年後に自分でも確かめられなくなります。
三つめは、前年同月比の相手を確かめることです。比べているのは前年の同じ月で、連休や曜日の並びはその年ごとに違います。単月の増減だけを根拠に料金を動かすと、翌月に戻す判断を繰り返すことになります。数か月分を並べて、向きが続いているかどうかで見てください。
四つめは、発表本文に要因の記載があるかを見ることです。記載があれば、挙がっているものをすべて書き写します。記載がなければ、理由を書きません。報道や解説で見た説明を足すと、公表資料が言っていないことを当サイトの判断として示すことになります。
五つめは、自分の宿の予約と突き合わせることです。全国の統計は、自分が置いた前提が市場の動きから外れていないかを点検する道具です。増減の向きが自分の予約状況と合わないときは、立地、客層、料金、掲載している経路のどれが効いているのかを自分のデータで見ます。収入の組み立て方は民泊の売上予測にまとめています。
民泊の判断に持ち込めること、持ち込めないこと
持ち込めるのは、前提の点検です。入国も宿泊も前年を下回る月が続いているという事実は、来年も同じ伸びが続くという前提で収支を組んでいないかを見直す材料になります。要因として挙がっているものが運賃や便数、天候、暦であることも、同じ向きの月が続きやすいか、単発で戻るかを考える手がかりになります。
持ち込めないのは、自分の物件の需要そのものです。訪日外客数は国境で数えた全国の値で、地域別の内訳も施設タイプ別の内訳もありません。宿泊側の統計には届出住宅が入っていません。どちらも、自分の地域で自分の物件がどれだけ埋まるかを示す数字ではありません。
やってはいけない使い方を一つ挙げておきます。全国の減少率を自分の売上見込みへそのまま掛けることです。掛け算の相手が違います。減少率は入国した人の数、または宿泊施設全体の人泊の変化で、自分の宿の予約の変化ではありません。数字を使うなら、自分の予約データで前年同月を比べ、全国の向きと合っているかを確かめる順にしてください。
次に数字が動く日を先に決めておく
公表の間隔は統計ごとに違います。訪日外客数は対象月の翌月に推計値が発表されます。宿泊旅行統計調査は、2026年8月分の第1次速報が2026年9月30日、9月分の第1次速報が2026年10月30日に公表されました。インバウンド消費動向調査は四半期ごとで、2026年7-9月期の1次速報は2026年10月21日です。次の公表日は、観光庁の公表予定日のページで確かめられます。
この記事に載せた数値は、いずれも確認日時点で公表されていた値です。月が替われば新しい月の分が出て、同じ月の値も段階が進んで置き換わります。社内の資料であれば、見直しの日を公表の間隔に合わせて決めておくと、置き換わった数字に気づけます。入国と宿泊は月ごと、消費は四半期ごとです。
最後に、減少という言葉の扱いだけ確認しておきます。前年同月を下回ったという事実と、需要が縮んだという判断は別のものです。前者は公表値から言えます。後者は、どの範囲の需要をどの期間で見るかを決めない限り言えません。公表資料をそのまま引くときは、言えるところで止めてください。
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