インバウンド集客を考えるとき、最初に開くのはたいてい全国の統計です。訪日外客数が何万人だった、外国人宿泊者の上位はどこだった、という数字を眺めて、そこから対象の国を決めようとします。ただ、その進め方には最初から無理があります。全国の統計が答えているのは「日本に来た人はどこの国の人が多かったか」であって、「自分の届出住宅に泊まっているのは誰か」ではないからです。
先に結論を書きます。集客の対象を絞る材料は、すでに自分の手元にあります。住宅宿泊事業者が2か月ごとに都道府県知事等へ出している定期報告には、国籍別の宿泊者数の内訳が含まれています。つまり全事業者が、自分の宿の国籍別の構成を、義務として年6回作っていることになります。全国値はその構成を読むときの物差しとして使い、対象そのものは手元の数字で決める。この順番にすると、判断の根拠が自分の物件に紐づきます。
この記事では、全国の公表値が何に答えているか、全国の構成と自分の宿の構成がどこでずれるか、手元の報告と宿泊者名簿から構成を出す手順、名簿を集客の判断に使う前に個人情報保護法の側で決めておくこと、そして絞り込んだ結果をどこに効かせるかを順に見ていきます。言語を増やすと何が増えるかまで含めて扱いますが、どの国に向けると予約が何件増えるかという数値は、今回参照した公表資料には見当たりませんでした。効果の大小は扱いません。
全国の公表値が答えている問いは三つに分かれる
インバウンドの話でよく引かれる数字は、大きく三つの系統に分かれます。日本政府観光局が毎月発表する訪日外客数、観光庁が民泊制度ポータルサイトで公表している住宅宿泊事業法の施行状況、そして事業者が自分で出している定期報告です。それぞれ答えている問いが違います。
訪日外客数は、日本に入国した人の数です。2026年8月推計値は3,098,900人で、前年同月比9.6%減と発表されています。同じ発表の中で、8月として過去最高となった市場が14あるとも書かれており、韓国、台湾、香港、マレーシア、インドネシア、インド、米国、メキシコ、フランス、イタリア、スペイン、ロシア、北欧地域、中東地域が挙げられています。イタリアとスペインは単月として過去最高です。ここから読めるのは、全体の増減と、個々の市場の増減が同じ向きとは限らないということです。総数が減った月でも、伸びている市場は同時に存在します。
施行状況のほうは、届出住宅に泊まった人の数です。令和8年4月1日から5月31日分として、宿泊者数626,765人のうち日本国籍が235,591人で37.6%、外国人が391,174人で62.4%と示されています。外国人の上位5か国・地域は米国、韓国、台湾、中国、オーストラリアで、この5つで外国人宿泊者数の47.0%です。地域別では東アジアが31.5%、北米が18.2%、欧州が14.7%と書かれています。この数字の性格についてはインバウンド民泊の準備で扱っているので、ここでは物差しとしてだけ使います。
| 数字 | 数えているもの | 公表の粒度 | 更新の間隔 | 集客の判断で使えること |
|---|---|---|---|---|
| 訪日外客数(日本政府観光局) | 日本に入国した人 | 全国・市場別 | 毎月 | 市場ごとの向きをつかむ |
| 住宅宿泊事業法の施行状況(観光庁) | 届出住宅に泊まった人 | 全国と都道府県別 | 2か月ごと | 自分の構成を比べる物差しにする |
| 自分が出した定期報告 | 自分の届出住宅に泊まった人 | 届出住宅ごと | 年6回 | 対象そのものを決める |
表の三行目だけが、自分の物件の話をしています。ほかの二つは、自分の宿が全国の中でどのあたりにいるかを知るための背景です。入国者数と宿泊者数の関係をもう少し細かく見たいときは、国籍別の訪日客数はどの統計で見るかに整理があります。
全国の構成と自分の宿の構成がずれる三つの理由
では、全国の構成をそのまま自分の宿に当てはめて何が悪いのか。ずれる理由は三つあります。
ひとつ目は母集団です。62.4%という割合は、報告のあった届出住宅を全部合計してから割った値です。施行状況には、届出住宅数が令和8年7月15日時点で42,070件、報告件数が34,902件で報告率84.7%と書かれています。全国値は4万件あまりを均した平均であって、そのうちの1件である自分の宿の値ではありません。しかも報告していない住宅の宿泊者は、この合計にも国籍別の内訳にも入っていません。
ふたつ目は地域です。施行状況は都道府県別の宿泊実績も示しており、地域によって数字が大きく違うことが分かります。全国値はその差を平らにした結果なので、特定の都道府県で運営している事業者にとっては、自分の地域の傾向が薄まった数字ということになります。地域ごとの見方は都道府県別の宿泊者数はどこで調べるかにまとめてあります。
みっつ目は受け入れ条件です。どの仲介サイトに載っているか、定員が何人か、案内を何語で用意しているか、チェックインを対面にしているか。こうした条件が違えば、そもそも予約できる相手が変わります。全国の構成は、条件の異なる4万件あまりを合わせたものなので、自分の条件に合う相手だけを抜き出した数字ではありません。
三つとも、全国値が間違っているという話ではありません。問いが違うだけです。全国値は「日本の民泊全体で何が起きているか」に答えており、集客の対象を決めるときに必要なのは「自分の宿に泊まれる人のうち、誰が実際に来ているか」への答えです。
自分の宿の国籍別内訳は、年6回すでに作っている
ここからが手元の話です。観光庁の「電子宿泊者名簿・定期報告方法」には、住宅宿泊事業者は2か月ごとに宿泊日数等を報告する必要があり、定期報告は民泊制度運営システムにログインして直接入力するか、定期報告データのCSVファイルをアップロードすることにより行うと説明されています。報告する項目には宿泊日数、宿泊者数、延べ人数と並んで、国籍別の内訳が入っています。
報告の時期は、観光庁の「事業者の業務[2]」に、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の15日までと示されています。年6回です。2か月ぶんをまとめて出す形なので、6回ぶんを並べれば12か月ぶんの推移になります。提出したら手元から消してしまう事業者が少なくないのですが、控えを残しておくだけで、自分の宿の国籍別の構成が季節ごとに追える資料になります。
国籍の区分は、日本、韓国、台湾、香港、中国、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ロシア、米国、カナダ、オーストラリア、その他の22です。報告する側と公表される側で粒度がどう変わるかは民泊の宿泊者数は何を数えた数字かで扱っています。ここで集客の側から見て重要なのは、21の国・地域に入らない国籍は、すべて「その他」にまとまるという点です。
「その他」が大きい宿では、報告データだけでは相手が分かりません。そのときに開くのが宿泊者名簿です。観光庁の「事業者の業務[1]」は、名簿の記載事項を宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日とし、宿泊者が国内に住所を有しない外国人であるときは、その国籍及び旅券番号を記載するとしています。旅券の写しを宿泊者名簿とともに保存することも求められており、写しの保存によって氏名、国籍及び旅券番号欄への記載を代替できるとも書かれています。名簿は届出住宅か、住宅宿泊事業者の営業所または事務所に備え付け、3年間保存します。名簿そのものの作り方は民泊の宿泊者名簿にまとめてあります。
なお、仲介業者の側も数字を出しています。観光庁の「仲介業者への委託について」には、仲介業者が仲介サイトを利用して人を宿泊させた日ごとに観光庁へ報告し、年間180日を超えていないかや報告内容の正確性が確認される仕組みが説明されています。自分の報告と突き合わせる相手が制度の中にいる、ということでもあります。日数の数え方そのものは民泊の180日で扱っています。
名簿を集客の判断に使う前に、利用目的を決める
ここで一度止まってください。宿泊者名簿は、住宅宿泊事業法にもとづいて備え付けている記録です。そこに書かれているのは、氏名、住所、職業、宿泊日、そして外国人については国籍と旅券番号という個人情報です。法令上の義務で集めた記録を、集客の分析へ回すのは別の話になります。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り具体的に特定しなければならないとしています。そのうえで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱う場合は、あらかじめ本人の同意を得なければならないとしています。さらに、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかにその利用目的を本人に通知し、または公表しなければならないとされています。
この三つを、集客の文脈に置き換えると次のようになります。
| ガイドラインが定めていること | 集客の分析に使う前に決めること |
|---|---|
| 利用目的をできる限り具体的に特定する | 名簿の情報を何にどう使うかを、法令上の備付けと分けて具体的に書き出す |
| 特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えるなら、あらかじめ本人の同意を得る | いま公表している利用目的に、集客のための分析が含まれているかを確かめる |
| 取得したら、あらかじめ公表している場合を除き、速やかに利用目的を通知または公表する | 施設ページや予約時の案内で、利用目的をどこにどう示すかを決める |
実務としては、区分ごとの人数を数えるところまでを定期報告のデータで行い、名簿そのものは「その他」の中身を確かめるときだけ開く、という切り分けが取りやすい形になります。個人を識別できる状態のまま分析用の表を作り足すほど、扱いの手当てが増えるからです。ただし、どこまでが利用目的の範囲内かという判断は個別の事情で変わります。最終的な判断は、個人情報保護委員会の窓口や専門家に確かめてください。この記事は条文とガイドラインの記述を並べたもので、個別の可否を示すものではありません。
絞り込んだ結果は、言語・掲載先・受け入れ条件の順に効かせる
対象が決まったら、次は打ち手です。ここで先に押さえておきたいのが、言語を増やすという判断が、集客だけの話では終わらないという点です。
観光庁の「事業者の業務[1]」は、外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保として、外国語を用いた届出住宅の設備の使用方法の案内、移動のための交通手段に関する情報提供、火災、地震その他の災害が発生した場合の通報連絡先の案内を挙げています。そして、ここでいう外国語とは、宿泊予約の時点で日本語以外の言語として提示したものをいうと説明しています。その時点で外国人宿泊者が日本語を指定した場合は、外国語での案内は不要とされています。周辺地域の生活環境への悪影響の防止に関する説明についても、外国人に対しては外国語を用いることが求められています。
つまり、掲載の言語を1つ足すという判断は、その言語で案内と説明を用意する側に回るという判断でもあります。何語を用意するかの考え方は民泊の英語対応はどこまで必要かに、複数言語を扱うときの整理は民泊の多言語対応にあります。
掲載先も自由には選べません。観光庁の「仲介業者への委託について」は、住宅宿泊事業者が仲介を委託できる相手を、住宅宿泊事業法上の登録を受けた住宅宿泊仲介業者または旅行業法上の登録を受けた旅行業者に限っています。無登録の業者へ委託すると業務改善命令等の対象になるとともに、50万円以下の罰金が科される可能性があるとも書かれています。委託するときは、都道府県等から送付された届出番号等の記載されたメールの情報、または標識のコピーに記載されている情報を正確に通知することが求められます。経路の全体像は民泊の集客方法に整理があります。
受け入れ条件は最後です。定員、チェックインの方法、滞在中の連絡手段といった条件は、対象を決めてから見直したほうが順番として自然です。外国語で出す施設ページに何を書くかは外国人向けの民泊施設ページに何を書くかで扱っています。
公表資料で確かめられなかったこと
今回の確認では、次の項目について公表された資料を見つけられませんでした。書けないものは空けておきます。
外国人宿泊者が、どの経路で民泊を予約したかの割合は、観光庁の施行状況にも定期報告の項目にもありません。報告事項に予約経路が含まれていないため、この統計からは出てきません。国籍別に予約経路が違うかどうかも同じです。
民泊の国籍別内訳を都道府県で分けた集計も、施行状況の本文には見当たりませんでした。全国の国籍別と、都道府県別の宿泊者数はそれぞれ示されていますが、両者を掛け合わせた表は掲載がありません。自分の地域にどの国籍が多いかは、公表資料からは読めないことになります。
掲載の言語を増やしたときに予約がどれだけ増えるか、という効果の数値も確認できませんでした。言語を増やす判断は、集客の見込みではなく、用意できる案内の範囲と、自分の宿にすでに来ている相手の構成から決めるほうが、裏の取れる根拠になります。
見直しは、三つの間隔に合わせる
最後に更新の間隔を整理しておきます。訪日外客数は毎月、施行状況は2か月ごと、自分の定期報告は年6回です。いちばん早く動くのは自分の数字ではなく、全国の数字のほうです。全国値を見て慌てて打ち手を変えるより、自分の報告が1回増えるたびに区分ごとの並びを確かめ、順位が動いた区分だけを見るほうが、判断が振れません。
この記事の数値は2026年9月23日に確認したもので、施行状況は令和8年4月1日から5月31日分、訪日外客数は2026年8月推計値です。いずれも次の公表で置き換わります。引用するときは、対象期間と確認日を一緒に残してください。
このメディアの運営元について
myHotelsメディアは、民泊予約システムを提供する myHotels が運営しています。 記事は自社サービスの利用を前提にせずに書いており、料金や条件は下のページで確認できます。