小規模ホテルで予約システムを探すと、比較表に並ぶのは機能名です。カレンダーの連携、自動返信、セルフチェックイン、料金の自動変更。どれも似た顔で並ぶので、決め手になりません。
決め手は別の場所にあります。旅館業法の許可を受けて営業しているなら、合わせる先は製品の機能ではなく、旅館業法と、その施行令・施行規則が定めている記録と確認のしかたです。そして、いま世の中に出回っている宿泊の管理ツールの多くは、民泊、つまり住宅宿泊事業法の届出住宅を前提に作られています。二つの法律を条文で読み比べると、食い違いが4か所に集まります。宿泊者名簿の記載事項、名簿を作るときに求められる措置、玄関帳場に代わる設備、そして宿泊を拒める場合です。
この記事は、旅館・ホテル営業の許可で営業する施設を前提にします。簡易宿所営業は構造設備の基準が別に定められているため、ここでは扱いません。営業種別の選び方そのものは小規模ホテルの開業、旅館業に当たるかどうかの判定は民泊と旅館業法、簡易宿所との違いは簡易宿所と民泊の違いにあります。
先に、確認できなかったことを書きます。予約システム各社の料金や対応状況を横断して集計した公的な資料は確認できませんでした。導入費用の相場を示した公的な統計もありません。自治体ごとの宿泊税を横断して整理した資料も確認できていません。そのためこの記事に、製品名の入った比較表も、金額も、順位もありません。あるのは、条文で確かめた4つの食い違いと、それを自分の候補へ当てていくための確認項目です。
そもそも、合わせる先が別の法律になっている
旅館業法は、旅館業を旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業の三つとし、旅館業を営もうとする者は都道府県知事の許可を受けなければならないとしています。保健所を設置する市または特別区では、許可を出すのは市長または区長です。民泊の側は届出で、観光庁の比較では旅館業法が「許可」、国家戦略特区法の特区民泊が「認定」、住宅宿泊事業法が「届出」と並べられています。
営業できる日数も違います。同じ比較で、旅館業法は営業日数の制限が「制限なし」、住宅宿泊事業法は「年間提供日数180日以内」とされています。民泊向けのツールが力を入れている残り日数の管理は、旅館業の施設では出番がありません。そのかわり、年間を通して休みなく記録が積み上がります。
ここから先は、この「許可で営業している」前提で読んでください。届出住宅の運営を前提にした記事と混ぜて読むと、名簿の項目から合わなくなります。
一つ目:名簿の記載事項が入れ替わる
旅館業法第6条第1項は、営業者に、厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、連絡先その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があったときは提出することを求めています。この「その他」を定めているのが施行規則第4条の2第3項で、宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときはその国籍及び旅券番号、そしてその他都道府県知事が必要と認める事項が挙げられています。
一方、届出住宅の側は観光庁が記載事項を示しており、宿泊者の氏名、住所、職業及び宿泊日、宿泊者が国内に住所を有しない外国人であるときはその国籍及び旅券番号とされています。外国人の宿泊者については、旅券の呈示を求めるとともに、旅券の写しを宿泊者名簿とともに保存することとされています。
並べると、入れ替わっているのが見えます。
| 項目 | 旅館・ホテル営業(旅館業法) | 届出住宅(住宅宿泊事業法) |
|---|---|---|
| 氏名 | 記載する | 記載する |
| 住所 | 記載する | 記載する |
| 連絡先 | 記載する | 観光庁が示す記載事項に挙がっていない |
| 職業 | 規則の記載事項に挙がっていない | 記載する |
| 宿泊日 | 規則の記載事項に挙がっていない | 記載する |
| 国籍・旅券番号 | 日本国内に住所を有しない外国人のとき | 国内に住所を有しない外国人のとき |
| 増える可能性 | その他都道府県知事が必要と認める事項 | 観光庁の記載事項に同じ文言はない |
| 保存 | 作成の日から三年間 | 三年間 |
| 備える場所 | 旅館業の施設、または営業者の事務所 | 届出住宅、または営業所もしくは事務所 |
| 提出 | 都道府県知事の要求があったとき | 都道府県知事の要求があったとき |
差は二つです。ひとつは「連絡先」が旅館業の側にだけ条文で挙がっていること。もうひとつは「職業」と「宿泊日」が旅館業法施行規則の記載事項には挙がっていないことです。民泊向けのツールが名簿の入力欄を職業と宿泊日で固定していると、連絡先の置き場所が備考欄になります。逆に職業を必須入力にしている作りだと、旅館業の施設では規則に挙がっていない項目を宿泊者に書かせることになります。
もうひとつ効くのが「その他都道府県知事が必要と認める事項」です。項目が条文で閉じておらず、施設の所在地によって増えることがあります。入力項目を自分で足せない製品は、ここで行き止まりになります。候補を絞る段で、項目を追加できるか、追加した項目が印刷や書き出しの結果にも載るかを確かめてください。届出住宅側の名簿の実務は民泊の宿泊者名簿で扱っています。
二つ目:名簿は「正確な記載を確保するための措置」を講じた上で作る
施行規則第4条の2第1項は、宿泊者名簿を、当該宿泊者名簿の正確な記載を確保するための措置を講じた上で作成し、その作成の日から三年間保存するものとしています。保存する場所は同条第2項により、旅館業の施設または営業者の事務所です。
この一文が、予約システムの作りに直接効きます。予約の申込みフォームに入力された文字列は、申込者の自己申告です。自己申告をそのまま名簿として確定させるだけでは、正確な記載を確保するための措置を講じたと説明しにくくなります。到着時に何と突き合わせるのか、突き合わせた事実をどこへ残すのかを、仕組みの側で決めておくことになります。非対面で確かめる場合の考え方は民泊の本人確認で整理しています。
提出の求めは、周期で来るわけではありません。条文は「都道府県知事の要求があつたときは、これを提出しなければならない」としています。いつ求められるかが決まっていないので、常に出せる状態にしておく形になります。
二か月ごとの定期報告は、住宅宿泊事業法にもとづく届出住宅の義務です。観光庁は、人を宿泊させた日数・宿泊者数・延べ宿泊者数・国籍別の宿泊者数の内訳を、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月の15日までに、それぞれの月の前2月について報告するとしています。旅館業法の条文には、同じ周期で宿泊実績を報告する規定は見当たりません。つまり、民泊向けツールの売りである「定期報告データを作る機能」は旅館業の施設では使う場面がなく、かわりに求められた日に名簿そのものを出せることが要ります。周期の違いを含む比較の軸は民泊の予約システム比較にも入れてあります。
三つ目:無人のチェックインは、設備の二つの号で決まる
旅館業法施行令第1条第1項第2号は、旅館・ホテル営業の構造設備の基準として、宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有することを挙げています。この厚生労働省令が施行規則第4条の3で、二つの号のいずれにも該当することを求めています。
第1号は、事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備です。第2号は、宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し、及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備です。
読み替えると、チェックインの端末を1台置けば玄関帳場の代わりになる、という形にはなっていません。第2号に並ぶ三つのうち、予約システムが受け持てるのは名簿の記載と、鍵の受渡しの一部です。宿泊者以外の出入りの状況の確認は、予約の画面の外にあります。第1号の緊急時の対応も、設備と人の体制の話です。
| 施行規則第4条の3の号 | 求められている設備 | 予約システムで埋まるか |
|---|---|---|
| 第1号 | 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備 | 埋まらない。駆けつけの体制と通報の経路で用意する |
| 第2号のうち、宿泊者名簿の正確な記載 | 記載を正確に保てる設備 | 埋まりうる。入力項目と突き合わせの記録で見る |
| 第2号のうち、客室の鍵の適切な受渡し | 鍵を適切に渡せる設備 | 一部が埋まる。鍵の機器側と組み合わせる |
| 第2号のうち、宿泊者以外の出入りの状況の確認 | 出入りの状況を確認できる設備 | 埋まらない。予約の画面の外で用意する |
このため、無人の受付を前提に製品を選ぶなら、予約システムに「できること」を数えるのではなく、二つの号を満たす組み合わせのうち、どこを予約システムが埋めるのかを先に決めます。残りは別の設備と体制で埋めることになります。基準に合うかどうかの最終的な判断は、許可を出す窓口に確認してください。鍵を渡す順序の考え方は民泊の鍵の受け渡し、対面と非対面の分かれ目は民泊のチェックイン方法で扱っています。
四つ目:予約を自動で断る設計にはできない
旅館業法第5条第1項は、営業者は次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならないとしています。挙げられているのは四つです。宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき。賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき。営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。そして、宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるときです。
同条第2項は、旅館業の公共性を踏まえ、宿泊しようとする者の状況等に配慮して、みだりに宿泊を拒むことがないようにするとともに、拒む場合には各号のいずれかに該当するかどうかを客観的な事実に基づいて判断し、宿泊しようとする者からの求めに応じてその理由を丁寧に説明することができるようにするものとしています。
三つ目の号にある要求の中身は、施行規則第5条の6が定めています。宿泊料の減額その他のその内容の実現が容易でない事項の要求と、粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であって、その者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるものです。どちらにも除外の括弧書きが付いており、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律に規定する社会的障壁の除去を求める場合などは、この要求に当たらないとされています。特定感染症の中身は旅館業法第2条で定義されており、感染症法の一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、政令で準用する指定感染症、新感染症が挙げられています。
予約システムの設計に戻すと、線がはっきりします。在庫が無いから受け付けない、という判定は仕組みに載せて構いません。四つ目の号に「宿泊施設に余裕がないとき」が入っているためです。一方で、過去にやりとりのあった連絡先を自動で弾く、という作りは、各号に当たるかどうかを客観的な事実に基づいて判断したことにはなりません。断った理由を丁寧に説明できる形にもなりません。
つまり、予約システムに求めるのは断る判定を自動化する力ではなく、断った事実とその根拠を残せることです。誰がいつ、どの号に当たると判断し、どの事実にもとづいたのかが残っていれば、求めがあったときに説明できます。自動で弾いた記録だけが残る作りでは、説明の材料がありません。
候補を絞るときの確認の順序
4点を、確認の順序に直します。製品の機能一覧から始めないのが要点です。
- 自分の施設が旅館・ホテル営業か簡易宿所営業かを確定する。構造設備の基準が別に定められています
- 名簿の入力項目を、氏名・住所・連絡先を軸にした形へ変えられるか。項目を自分で追加できるか
- 申込み時の自己申告を、到着時に何と突き合わせて記載を確定するか。その記録がどこに残るか
- 名簿を、作成の日から三年間、施設または営業者の事務所で保存できるか。求められた日に出せるか
- 玄関帳場に代わる設備の二つの号のうち、どこを予約システムが埋め、どこを別の設備と体制で埋めるか
- 断る判定を自動化していないか。断った事実と根拠を残せるか
この6つは、どれも製品の紹介ページだけでは判定できません。実際に名簿の入力画面と書き出しの結果を見せてもらい、自分の施設の項目で埋められるかを確かめる段になります。そして基準に適合するかどうかの最終的な判断は、許可を出す窓口が行います。都道府県知事、または保健所を設置する市か特別区では市長か区長です。候補を2つか3つに絞ったところで、名簿の様式と無人受付の構成を持って相談するのが早い順序です。
民泊の届出住宅と小規模ホテルを同じ運営体で持っている場合は、名簿の項目と報告の周期が二系統になります。片方の形に寄せると、もう片方で項目が足りなくなります。系統を分けたまま運用するか、両方の項目を満たす形で1つにまとめるかを、先に決めてください。どこまでを仕組みに載せ、どこから人が持つかという切り分けは民泊の業務効率化でも扱っています。
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